本記事は、9月29日の 「人気記事ジャズ ランキング」 で 第1位となりました。
皆さまのおかげです、これからも 何卒よろしくお願い申し上げます。


Getz Children Of The World (CBSソニー 25AP-1696 ) スケルツォ倶楽部 ⇒ 全記事 一覧は こちら
午後のジャズ喫茶 「カフェ ソッ・ピーナ」から
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村上春樹セレクト
「スタン・ゲッツ、ベスト・コレクション」

雨の中を歩く by Charles M.Schulz
 こんにちは、スケルツォ倶楽部“発起人” 妻 のコーナー です。
 長かった夏ともようやくお別れ。昨日の朝は 台風接近の影響による強い風雨の音を戸外に聞きながら目覚めました。つい数日前まで真夏の灼熱に焼かれていた 猫の額ほどのわが家の庭にとっては、待望の恵みの雨です。
 夫は 月末に催事があるとのことで、準備のため 早起きして出勤して行きました。ご苦労さまデス。わたしはジャージのままでお見送り、いってらっしゃーい。 玄関ドアはしっかり施錠して ・・・よし、もうひと眠りしようっと(忍び笑)、亭主は元気で留守がいい。

AM 10:00。
快適に、再び目覚めたわたし。
村治佳織 (Victor VICC-60104 ) 
村治佳織さんの爽やかな 「サンバースト Sunburst 」を CDでリプレイさせながら ひとり サニーサイドアップクロワッサンコーヒーでブランチを済ませます。

▲ もし 若い頃のパット・メセニーが アコースティック・ギターでソロ演奏をしたら、きっと こんな感じになったんじゃないかしら。うーん、カッコいい!

 すっかり涼しくなって 気分も良いので 雨ニモ負ケズ 風ニモ負ケズ、近所の市立図書館まで歩いて出かけました。
 そこで・・・見つけてしまったのが、これです。
村上春樹さんの「意味がなければスイングはない」(文藝春秋2005年)。
 小説作品ではなく、作者の好きな音楽について 自由に綴られた十章から成る文章。おもしろそう。
意味がなければスイングはない(村上春樹・著)
 
 意味がなければスイングはない  ―  初めてタイトルを口に出して読んでみた時、思わず噴き出しました。実にウィットに富んだ表題です。
 ジャズ好き の人ならば すぐピンとくるでしょうが、デューク・エリントンの名曲「スイングしなければ意味がない It Don’t Mean A Thing, If It Ain’t Got That Swing 」のパロディでしょう。ひっくり返して置くだけで こんなにニュアンスが変わってしまうんだなあって、ただ感心。でも そこにはもちろん この個性的なライターによる深い含みがあったのです。
 この場合の「スイング」とは、村上氏の文章を引用させて頂けば、「どんな音楽にも通じるグルーヴ、あるいはうねりのようなものと考えていただいていい。それはクラシック音楽にもあるし、ジャズにもあるし、ロック音楽にもあるし、ブルーズにもある。優れた本物の音楽を、優れた本物の音楽として成り立たせているそのような『何か』= Something else のことである。僕としては、その『何か』を、僕なりの言葉を使って、能力の許す限り追いつめてみたかったのだ村上春樹「意味がなければスイングはない」P.282より) 」。
 ここに収録された十章の音楽ジャンル(とタイトル)は、

ジャズ
   「シダー・ウォルトン 強靱な文体を持ったマイナー・ポエト 」、
   「スタン・ゲッツの闇の時代 1953-1954 」、
   「ウィントン・マルサリスの音楽はなぜ(どのように )退屈なのか? 」、
クラシック音楽
   「シューベルト『ピアノ・ソナタ第17番ニ長調 D.850 』ソフトな混沌の今日性 」、
   「ゼルキンとルービンシュタイン 二人のピアニスト 」、
   「日曜日の朝のフランシス・プーランク 」、
その他
   「ブライアン・ウィルソン 南カリフォルニア神話の喪失と再生 」、
   「ブルース・スプリングスティーンと彼のアメリカ 」、
   「スガシカオの柔らかなカオス 」、
   「国民詩人としてのウディー・ガスリー

  ・・・と、多岐に渡っており、どれも 興味深いタイトルです。
 特に スタン・ゲッツについて書かれた文章があることに気づいたわたしは、やはりじっくりと読んでみたくなり、早速 本を受付カウンターに持って行ってこれを借りる手続きをしたわけです。

 さてと、この本をどこで読もうかな。 
 ・・・わたしのお気に入りの場所、ジャズ喫茶「ソッ・ピーナ 」がいいな、やっぱり。
 と、雨の中 ピンク色の傘をさして図書館の裏手にぶらぶら回れば、そこは公園です。歩いて抜ければ いつもの喫茶店の建物が見えてきます。 
 ベナツキー「白馬亭 」 を連想しつつ、入口に吊ってあるカウベルをがらんがらんと鳴らしながら喫茶店に入ると、雨のせいか( ・・・降っても晴れても 実は同じなんですが)、今日もまた12席のテーブルには 一人のお客さんの影もありません。
 店内にかかっているCDは、わたしを歓迎するかのように、スタン・ゲッツが 静かに、熱く、吹きまくっています。
「people time 」(日本フォノグラムPHCE-2021~22 )
 ・・・ゲッツが その生涯の最後に好んで共演者として迎えた 堅実な名手ケニー・バロンによるピアノと 自身のテナー・サックスだけによる二重奏のライヴ・アルバム「ピープル・タイム people time 」(日本フォノグラムPHCE-2021~22 )から「イースト・オヴ・ザ・サン East Of The Sun 」、音の隅々まで血の通ったような見事な演奏。

「いらっしゃいませ。おや、奥さんが お昼前にいらっしゃるのって、めずらしいですね 」
と、カウンターテーブルをせっせと拭きながら忙しそうなふりをする 独身の二代目マスターに、わたしは 図書館の本を見せびらかします。
「ほら マスター村上春樹さんの本 みつけたんだよ。『意味がなければスイングはない 』。ゲッツについて書かれた一章もあるの。ここで ゆっくり読もうと思って。」
「あ、それなら ちょっと待ってください。それに目を通す前に、先日来 お約束のとおり、村上春樹セレクトによる『スタン・ゲッツ、ベスト・コレクション 』を ご紹介させてくださいよ。本は その後で読むほうが 絶対に楽しめますから 」
Getz Children Of The World (CBSソニー 25AP-1696 ) ・・・またも登場

「あー、そう言えば 6月19日のブログに LP『スヌーピーのゲッツ(CBS-SONY ) 』の、村上春樹さんが書いたライナー・ノートを引用した時に、間違いなくそんな約束をしたわよね。じゃ、今日は まず それを先にしましょう 」

 ・・・村上氏は、ゲッツが活動した5つの時期を 的確に分類され、それぞれのセクション毎に「聴く人が見れば 誰しも納得」と言える名盤を挙げておられます(以下、青字村上春樹氏の文章からの引用となります )。


 ・・・ 彼(スタン・ゲッツ )の30年に及ぶ演奏生活をその表面上のスタイルの変化によって幾つかの時期に分けることはできるだろう。
 1.クール・ゲッツ、 2.ホット・ゲッツ、 3.ウォーム・ゲッツ、 4.ボサ・ノヴァ・ゲッツ、5.(幾漠かの皮肉をこめて)リッチ・ゲッツ、だ。
 僕は ボサ・ノヴァ・ゲッツの時期に(LPでいえば「ゲッツ/ジルベルト 」によって )スタン・ゲッツにめぐり会ったという世代に属する。そしておそらくはゲッツから直接のインパクトを受けた最後の世代となるかもしれない。
事実、寂しいことだが、僕より年下の年代のジャズ・ファンと話していて、私はスタン・ゲッツのファンで、という人に会ったことは一度もない。(中略)

◆ スタン・ゲッツ・ベスト・コレクション
 ・・・僕なりにスタン・ゲッツの理想的なレコード・コレクションと思えるものを記しておく。先にも述べたように 5つの時期に便宜上区分してみた。


1.クール・ゲッツ
「コンプリート・ルースト」(Roost)

ザ・コンプリート・セッションVol.1 ザ・コンプリート・セッションVol.1:
● ゲッツ(テナーサックス)、
アル・ヘイグ(ピアノ)、
トミー・ポッター(ベース)、
ロイ・ヘインズ(ドラムス)
収録曲:オン・ジ・アラモ、風とともに去りぬ、イエスタデイズ、スイーティ・パイ、ユー・ゴー・トゥ・マイ・ヘッド、ハーシェイ・バー
    録音:1950年3月17日
● ゲッツ(テナーサックス)、
ホレス・シルヴァー(ピアノ)、
ジョー・キャロウェイ(ベース)、
ウォルター・ボールデン(ドラムス)
収録曲:トゥーツィー・ロール、ストライク・アップ・ザ・バンド、イマジネイション、フォー・ストンパーズ・オンリー、ネイヴィー・ブルー、アウト・オブ・ノーホエア、ス’ワンダフル
    録音:1950年12月10日


ザ・コンプリート・セッションVol.2 ザ・コンプリート・セッションVol.2:
● ゲッツ(テナーサックス)、
ホレス・シルヴァー(ピアノ)、
ジョー・キャロウェイ(ベース)、
ウォルター・ボールデン(ドラムス)
収録曲:ペニー、スプリット・キック、春の如く、ザ・ベスト・シングス・フォー・ユー
    録音:1951年3月1日
● ゲッツ(テナーサックス)
ホレス・シルヴァー(ピアノ)、
ジミー・レイニー(ギター)、
レナード・ガスキン(ベース)、
ロイ・ヘインズ(ドラムス)
収録曲:メロディ・エキスプレス、イヴェット、ポッターズ・ラック、ザ・ソング・イズ・ユー、ワイルドウッド
    録音:1951年8月15日
● ゲッツ(テナーサックス)、
デューク・ジョーダン(ピアノ)、
ジミー・レイニー(ギター)、
ビル・クロウ(ベース)、
フランク・イソラ(ドラムス)
収録曲:バードランドの子守唄、枯葉、フールズ・ラッシュ・イン、ジーズ・フーリッシュ・シングス
    録音:1952年12月19日


「アット・ストーリーヴィル」(Roost)
ゲッツ ( テナー・サックス )
ジミー・レイニー ( エレクトリック・ギター )
アル・ヘイグ ( ピアノ )
テディ・コティック ( ベース )
タイニー・カーン ( ドラムス )
 
Stan Getz At Storyville Vol.1(ROOST) アット・ストーリーヴィルVol.1
収録曲:ゾー・スウェル、ザ・ソング・イズ・ユー、モスキート・ニーズ、ペニーズ・フロム・ヘヴン、ムーヴ、パーカー51


Stan Getz At Storyville Vol.2(ROOST) アット・ストーリーヴィルVol.2
収録曲:ハーシェイ・バー、ラバーネック、シグナル、エヴリシング・ハプンズ・トゥ・ミー、ジャンピング・ウィズ・シンフォニー・シッド、イエスタデイズ、バド

    ライヴ録音:Vol.1 & 2 いずれも1951年10月28日

( ↓ 村上春樹「意味がなければスイングはない」P.87より)。
・・・1951年10月にボストンのジャズ・クラブ〈ストーリーヴィル〉でライブ録音された二枚のLP「アット・ストーリーヴィル」を聴くとき、我々はその音楽に質の高さと、優れたスポンティニエティー(自生的自然さ)と、その両者がからまりあった奇跡的なまでの臨場感に心を打たれるわけだが、それがヘロインの力を借りた達成であったことを知るとき、そこにはまた別種の感慨が生まれることになる。芸術のため創作のため、という名目で人々はしばしば麻薬を服用する。実際にはそれは、恐怖心と自己懐疑をどこかに押しやるための、パッシヴな逃避の手段に過ぎないのだけれど。しかしそれにもかかわらず、このライブ録音の演奏の完成度は驚くべきものだ。

ロング・アイランド・サウンド」(Prestige) 「ロング・アイランド・サウンド」(Prestige)
● ゲッツ(テナーサックス)、
アル・ヘイグ(ピアノ)、
ジーン・レイミー(ベース)、
スタン・リーヴィ(ドラムス)
収録曲:ロング・アイランド・サウンド、インディアン・サマー、マーシャ、クレイジー・コーズ
    録音:1949年6月21日
● ゲッツ(テナーサックス)、
トニー・アレス(ピアノ)、
トミー・ポッター(ベース)、
ロイ・ヘインズ(ドラムス)
収録曲:ゼアズ・ア・スモール・ホテル、アイヴ・ガット・ユー・アンダー・マイ・スキン、ホワッツ・ニュー、トゥー・マーヴェラス・フォー・ワーズ
    録音:1950年1月6日
● ゲッツ(テナーサックス)、
トニー・アレス(ピアノ)、
パーシー・ヒース(ベース)、
ドン・ラモン(ドラムス)
収録曲:ユー・ステップド・アウト・オヴ・ア・ドリーム、マイ・オールド・フレイム、ザ・レディ・イン・レッド、苦しみを夢に隠して
    録音:1950年4月14日


2.ホット・ゲッツ
「ディズ・アンド・ゲッツ」(Verve) 「ディズ・アンド・ゲッツ」(Verve)
ゲッツ(テナーサックス)、
ディジー・ガレスピー(トランペット)、
オスカー・ピーターソン(ピアノ)、
ハーブ・エリス(ギター)、
レイ・ブラウン(ベース)、
マックス・ローチ(ドラムス)
収録曲:スイングがなければ意味はない、歌を忘れて、イグザクトリー・ライク・ユー、町の噂、インプロンプチュ、ワン・アローン、ガール・オヴ・マイ・ドリームズ、シボニーPart 1 & 2
    録音:1953年12月9日

( ↓ 村上春樹「意味がなければスイングはない」P.88より)
・・・12月、スタン・ゲッツはノーマン・グランツのために「ディズ・アンド・ゲッツ」という録音セッションをおこなっている。クール派白人テナー奏者として売り出したゲッツと、ワイルドな黒人バップ・トランペッター、ガレスピーとはまったく肌が合わないという印象があるのだが、グランツ氏の慧眼を称えるべきなのだろう。結果的にはこの顔合わせは素晴らしい結果を生んだ。デューク・エリントンの名曲「スイングがなければ意味はない」は、これ以上速いテンポでは演奏できないような猛スピードに設定されている。それはいわゆるshowdown(雌雄を決する対決)だった。ガレスピーが猛烈に挑みかかり、ゲッツは正面からそれを受けて一歩も譲らない。緊迫した目の覚めるようなソロの応酬が続く。「あれ以上速く吹くことは、いくらなんでもできなかったと思う」と彼は後に述懐しているが、その火傷しそうなホットなセッションは、ゲッツがただの青白いジャズ青年ではないという事実を広く世界に証明することになった。

For Musicians Only (Verve) 「フォー・ミュージシャンズ・オンリー」(Verve)
ゲッツ(テナーサックス)、
ディジー・ガレスピー(トランペット)、
ソニー・スティット(アルトサックス)、
ジョン・ルイス(ピアノ)、
ハーブ・エリス(ギター)、
レイ・ブラウン(ベース)、
スタン・リーヴィ(ドラムス)
収録曲:ビー・バップ、ダーク・アイズ、ウィー(アレン’ズ・アレイ)、ラヴァー・カム・バック・トゥー・ミー
    録音:1956年10月16日


「ゲッツ & J.J. アット・オペラハウス」(Verve)
ゲッツ(テナーサックス)、
J.J.ジョンソン(トロンボーン)、
オスカー・ピーターソン(ピアノ)、
ハーブ・エリス(ギター)、
レイ・ブラウン(ベース)、
コニー・ケイ(ドラムス)
 
 
スタン・ゲッツアット・ジ・オペラ・ハウス ● 同ステレオ・ヴァージョン
収録曲:ビリーズ・バウンス、マイ・ファニー・ヴァレンタイン、クレイジー・リズム、ブルース・イン・ザ・クローゼット
    ライヴ録音:1957年9月29日 シカゴ、シヴィック・オペラハウス


ゲッツ & J.J. オペラハウス モノラルヴァージョン ● 同モノラル・ヴァージョン
収録曲:ビリーズ・バウンス、マイ・ファニー・ヴァレンタイン、クレイジー・リズム、イエスタデイズ、イット・ネヴァー・エンタード・マイ・マインド、ブルース・イン・ザ・クローゼット
    ライヴ録音:1957年10月7日 LA、シュライン・オーディトリアム

 ・・・「ゲッツ & J.J. アット・オペラハウス」は、ステレオ、モノラルの両ヴァージョンを 現CDでは 一枚に収録されています。
 
3.ウォーム・ゲッツ
「イン・ストックホルム」(Verve) 「イン・ストックホルム」(Verve)
ゲッツ(テナーサックス)、
ベンクト・ハルベルイ(ピアノ)、
グナー・ヨンソン(ベース)、
アンドリュー・バーマン(ドラムス)
収録曲:インディアナ、ウィズアウト・ア・ソング、ゴースト・オブ・ア・チャンス、恋のため息、エヴリシング・ハプンズ・トゥ・ミー、オヴァー・ザ・レインボウ(虹の彼方に)、ゲット・ハッピー、ジーパーズ・クリーパーズ
    録音:1955年12月16日


「アット・ザ・シュライン」(Verve) Stan Getz Portrait (by Phil Stern) 「アット・ザ・シュライン」(Verve)
ゲッツ(テナーサックス)、
ボブ・ブルックマイヤー(ヴァルブ・トロンボーン)、
ジョン・ウィリアムス(ピアノ)、
ビル・アンソニー(ベース)、
アート・マーディガン(ドラムス)
    ↓ ライヴ録音:1954年11月8日
収録曲:フラミンゴ、ラヴァー・マン、パーノド、テイスティ・プディング、四月の想い出、ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームズ、オープン・カントリー、スイングしなければ意味がない、
    ↓ ライヴ録音:1954年11月9日(ドラムス奏者が フランク・イソラに交替)
収録曲:ウィール・ビー・トゥゲザー・アゲイン、フェザー・マーチャント

( ↓ 村上春樹「意味がなければスイングはない」P.95~96より)
 ゲッツはボブ・ブルックマイヤーとのグループを復活させ、(中略)ノーマン・グランツの主催する巡業コンサート『モダン・ジャズ・コンサート』に参加した。11月8日、ロスアンジェルスのシュライン・オーディトリアムでおこなわれた巡業最後のステージは録音され、『アット・ザ・シュライン』というアルバムになっている。ここでは、スタン・ゲッツの比較的長いアナウンスメントを冒頭に聴くことができる。このときの〈シュライン〉の入場者数は約七千人。それだけの大観衆を前にして、ゲッツの声もさすがに堅くなっている。(中略)
 そこに集まった聴衆の大半は、ゲッツが(麻薬常用の罪で)刑務所に服役して、出てきたばかりであることを知っていた(略)。人々は彼のホーンから出てくる独特の美しいサウンドを愛していたし、そのためにはたいていの欠点に目をつぶることができた。人々は赦しを与え、ミュージシャンは赦しを受けた。そしてゲッツは能力の許す限り、人々の期待に応えようとした。この〈シュライン〉の実況録音盤にはステージと客席のそのような心の交流を聴きとることができる(以下 略)。 

「アワード・ウィナー」(Verve) 「アワード・ウィナー」(Verve)
ゲッツ(テナーサックス)、
ルー・レヴィ(ピアノ)、
ルロイ・ヴィネガー(ベース)、
スタン・リーヴィ(ドラムス)
収録曲:ホエア・オア・ホエン、ウディン・ユー、スマイルズ、スリー・リトル・ワーズ、タイム・アフター・タイム、ディス・キャント・ビー・ラヴ
    録音:1957年8月2日


4.ボサ・ノヴァ・ゲッツ 
「ゲッツ/ジルベルト」(Verve) 「ゲッツ/ジルベルト」(Verve)
ゲッツ(テナーサックス)、
ジョアン・ジルベルト(ギター、ヴォーカル)、
アストラッド・ジルベルト (ヴォーカル)
アントニオ・カルロス・ジョビン(ピアノ)、
トミー・ウィリアムス(ベース)
ミルトン・バナナ(ドラムス)
収録曲:イパネマの娘、ドラリセ、プラ・マシュカー・メウ・コラソン、ヂサフィナード、コルコヴァード、ソ・ダンソ・サンバ、オ・グランジ・アモール、ヴィヴォ・ソニャンド
    録音:1963年3月10、19日


「ゲッツ・オー・ゴーゴー」(Verve) 「ゲッツ・オー・ゴーゴー」の演奏風景(Verve) 「ゲッツ・オー・ゴーゴー」(Verve)
ゲッツ(テナーサックス)、
ゲイリー・バートン(ヴィブラフォーン)、
ケニー・バレル(ギター)、
ジーン・チェリコ(ベース)、
チャック・イスラエル(ベース)、
ジョー・ハント(ドラムス)、
アストラッド・ジルベルト (ヴォーカル
)、
収録曲:コルコヴァード
※、春の如く ※、エウ・イ・ヴォセ ※、サマータイム、オンリー・トラスト・ユア・ハート ※、ザ・シンギング・ソング、ザ・テレフォン・ソング ※、ワン・ノート・サンバ ※、ヒア’ズ・ザット・レイニー・デイ、シックス・ニックス・ビックス・クリックス
    ライヴ録音:1964年8月19日 カフェ・オー・ゴーゴー


5.リッチ・ゲッツ 
「スウィート・レイン」(Verve) 「スウィート・レイン」(Verve)
ゲッツ(テナーサックス)、
チック・コリア(ピアノ)、
ロン・カーター(ベース)、
グラディ・テイト(ドラムス)
収録曲:リザ、オ・グランジ・アモール、スウィート・レイン、コン・アルマ、ウィンドウズ
    録音:1967年3月30日


「アット・モンマルトル」(Steeple Chase) 「アット・モンマルトル」(Steeple Chase)
ゲッツ(テナーサックス)、
ジョアン・ブラッキーン(ピアノ、ローズ・エレクトリック・ピアノ)、
ニールス・ヘニング・エルステッド・ペデルセン(ベース)、
ビリー・ハート(ドラムス)
収録曲:モーニング・スター、レディー・シングス・ザ・ブルース、カンカオ・ド・ソル、ラッシュ・ライフ、スタン’ズ・ブルース、ラ・フィエスタ、インファント・アイズ、レスター・レフト・タウン、アイダーダウン、ブルース・フォー・ドーテ、コン・アルマ

    ライヴ録音:1977年1月27~29日 コペンハーゲン、モンマルトル
 
 1.クール・ゲッツ 2.ホット・ゲッツ の時期に関しては既に定評のあるところだし、その美しいバラード・プレイや軽快な一撃は今日の耳で聞き返してみても新鮮にさえ思える。ただ個人的には 3.ウォーム・ゲッツ におけるゲッツの限りなくインティメイトな世界に強い愛着を感じる。僕の夢はこのリストに 6.ニュー・ゲッツ、という一項を加えることである。この一世を風靡した稀代のスタイリストをこのままに終わらせてしまうのはいかにも惜しいと思うのだが・・・。
以上、「永遠のアメリカン・ドリーマー/スタン・ゲッツ(村上春樹)」より抜粋

 ・・・いかがでしたでしょう、さすがに優れた見識ではないですか。
 なお 念のため補足しますと、このレコード 『チルドレン・オヴ・ザ・ワールド』のライナーノーツを村上氏が書かれたのは1979年のことですから、コンコード以降のゲッツ作品については、当然ながら 触れられておりません。
 文章中 村上春樹氏がおっしゃる「夢」の一項「6.ニュー・ゲッツ」とは、この稀代のインプロヴァイザー最晩年の黄金の収穫期 ケニー・バロンらとのヨーロッパでの活動時期が それに該当するに違いないと、わたしは確信していました。

 ・・・ 本日 わたしが図書館から借りてきた本「意味がなければスイングはない」の スタン・ゲッツについての章を村上春樹さんがお書きになったのは、上記ライナーの記事からさらに20年以上経った2003年頃(本の出版は2005年)になります。
 村上春樹さんご自身がお感じになっておられる、スタン・ゲッツの生涯と音楽を概観するような深い想いも、ここには確かな耳をもった素晴らしい文章で書かれています。引用は、一部とはいっても 少し長くなってしまい、申し訳ありません。

 ・・・ 彼は時代ごとに新しいサウンドと、新しい音楽の展開を求めた。しかし彼のナチュラルで天国的なメロディーラインは基本的には、どこにも移動しなかった。それはスタン・ゲッツという音楽家の永遠のシグネチャーだった。ひとつのフレーズを耳にしただけで、僕らはそれをスタン・ゲッツのサウンドであるとすぐに認知することができた。彼はそのシグネチャーをより有効に生かしてくれる新しい、刺激的な音楽的環境を、本能的に摸索し続けていただけなのだ。癌に身体を深くむしばまれても、その音楽的ひたむきさは失われなかったし、テクニックの衰えもほとんどうかがわれなかった。その音色も、最後の最後まで瑞々しさを失わなかった。
( 村上春樹「意味がなければスイングはない」P.101より )


 村上さんは かつて「夢」だと ご自分でおっしゃった「6.ニュー・ゲッツ」を、その後のゲッツ晩年の演奏から 聴きとることはできたのでしょうか。

 ・・・僕としては、晩年のスタン・ゲッツの演奏を聴くのは、正直なところいささかつらい。そこに滲みだしてくる諦観的な響きの中に、ある種の息苦しさを感じないわけにはいかないからだ。音楽は美しく、深い。とくに最後のケニー・バロン(ピアノ)とのデュオの緊迫感には、一種鬼気迫るものがある。音楽としてみれば、素晴らしい達成であると思う。彼はしっかりと地面に足をつけて、その音楽を作り出している。しかし、なんと言えばいいのだろう、その音楽はあまりにも多くのことを語ろうとしているように、僕には感じられる。その文体はあまりにもフルであり、そのヴォイスはあまりにも緊密である。あるいはいつか、そのようなゲッツの晩年の音楽を、僕は自分の音楽として愛好するようになるかもしれない。でも今のところはまだだめだ。それは僕の耳にはあまりにも生々しく響く。
( 村上春樹「意味がなければスイングはない」P.101より )


 それでは、現在(これを執筆されていた時点での)村上さんが好んでお聴きになるスタン・ゲッツの録音盤とは、いつの時代に録音されたディスクになるのでしょうか。
 尤も ある程度の予想はつきますけれどね。

 ・・・ 僕としては、西も東もわからないまま、一本のテナーサックスだけを頼りに、姿の見えぬ悪魔と闇の中で切りむすび、虹の根本を追い求め続けた若き日のスタン・ゲッツの姿を、あとしばらく見つめていたいような気がする。彼の素早い指の動きと、繊細なブレスが奇跡的に紡ぎだす天国的な音楽に、何も言わず、ある時には何も思わず、ただ耳を傾けていたいのだ。そこでは彼の音楽があらゆるものを ― もちろん彼自身をも含めて ― 遥かに、理不尽に凌駕していた。(略)そのような理由で僕は、スタン・ゲッツといえば だいたいいつも、古いルースト Roost盤やヴァーヴ Verve盤をとりだして、ターンテーブルに載せることになる。彼の当時の音楽には、予期しないときに、とんでもないところから、よその世界の空気がすっと吹きこんでくるような、枠組みを超えた自由さがあった。彼は軽々と世界の敷居を超えることができた。(以下、略)
( 村上春樹「意味がなければスイングはない」P.102より )


Stan Getz _Another World
 すっかり長居してしまい、午後2時を過ぎた頃 喫茶店から外へ出てみると・・・
 アラ、台風一過で すっかり晴天に。
 抜けるような青い空、白い雲が東の空へ次々と吹き飛んでいきます。大気が洗われて、涼しい。
 アーリー・オータム Early Autumn  ・・・秋の到来です。
 気持ち良い、土曜日のソッピーナの午後
 そして 耳に残る、スタン・ゲッツのテナーサックスから 吐息がもれる音・・・


次回は ちょっと気楽な話題を選ぼうかな - なんて 考えてます。

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