本記事は、9月12日「 人気記事ランキング クラシック音楽鑑賞 」で 第1位 となりました。
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スケルツォ倶楽部 Club Scherzo
「アフター・シュトラウス & “ バイ・シュトラウス ” 」
After-Strauss & “By Strauss”
  もくじ Index は ⇒ こちら

(15 )1930年 ベナツキー 
  喜歌劇「白馬亭にて Im weißen Rößl 」

アンドレ・リュウPhilips(ポリグラムPHCP-11129) ヴォルフガング湖を眺める晩年のベナツキー(白馬亭にて )
(左 )アンドレ・リュウ盤の表紙、(右 )白馬亭から湖を眺める 晩年のベナツキー

ベナツキー:喜歌劇 「白馬亭にて 」 メドレー/A.リュウ編曲
アンドレ・リュウ(指揮 & ヴァイオリン )Andre Rieu
ヨハン・シュトラウス・オーケストラJohann Strauss Orchestra
録音:1994年 Wijngracht Theater、Kerkrade on Eurosound Mobile
Philips(ポリグラムPHCP-11129 )


Wolfgangsee_vom_Plombergstein_St_Gilgen[1]
ヴォルフガング湖 (Wikipedia )

 ベナツキーのオペレッタ「白馬亭にて」は、スイスに近い風光明媚なヴォルフガング湖畔の観光名所、実在する有名な高級リゾートホテルを舞台にした、若く美しい女主人と給仕長とのコミカルなラヴ・ストーリーです。
 「白馬亭 」の給仕長レオポルドのキャラクターは、仕事が出来て機転も利くけど おっちょこちょいで愛敬もある、それはモーツァルトロッシーニの 「フィガロ 」 に どことなく 似通ったイメージ(? ) です。
「白馬亭 」でレオポルド役を演じる ラインハルト・フェンドリヒ_ニホンモニター=ドリームライフ(DLVC-1195 )
▲ DVD版 メルビッシュ音楽祭レオポルド役 を演じるラインハルト・フェンドリヒ
 
 彼がひそかに恋い焦がれている「白馬亭 」 の若き女主人ヨゼッファは、3年前 夫に先立たれた未亡人( こちらは「メリー・ウイドウ 」 のイメージにも重なります )。 彼女は、女手一本で 大勢の使用人を束ねなければと 常に気を張っています。だから この3年間で5人も給仕長をクビにしたのは、「使用人の分をわきまえぬ感情 」 を抱いて5人とも わたしに言い寄ったからなのよ、アナタも 6人目にならないよう 注意することね、などとレオポルドに釘をさしています。しかし 向上心の高いヨゼッファは、実は 心ひそかに 今の自分より身分も教養もある美男の弁護士 - 「白馬亭 」 の常連客でもある オットー・ジードラー博士にだけは 憧れの気持ちを抱いているのでした。そんな 無茶苦茶ハードルが高い、しかも雇用主である 女主人に まともに告白したら、間違いなく クビを切られるに決まってる、そんな 「トゥーランドット 」 のような過酷な環境で、さあ レオポルドは 心に秘めた 女主人ヨゼッファへの想いを遂げることができるでしょうか・・・。
「白馬亭にて 」ニホンモニター=ドリームライフ(DLVC-1195 ) (8 )
▲ DVD版 メルビッシュ音楽祭ヨゼッファを演じるザビーネ・カプフィンガー

 明るいワルツ と その全曲が親しみやすいヒット曲満載、ミュージカルへの橋渡しをするオペレッタの傑作 「白馬亭にて 」 から、チロルのレントラー風 「ザルツカンマーグートにて 」、ハリウッド・ミュージカル調の 「雲ひとつない青空」、レオポルドが片想いの辛(つら )さを独白する名曲「貴女に愛されたら、きっと素敵に違いない 」、最も有名な「ワルツが私の愛の歌 」、そして オペレッタの主題曲である 「ヴォルフガング湖畔の白馬亭には幸福が待っている 」 という曲順で、耳あたりの良い名旋律を 次から次へとメドレーで繰り出す、才人アンドレ・リュウの手腕によって 7分23秒 に手際よくまとめられた編曲バージョンと、彼が率いるポップス・オーケストラによる躍動的な演奏、光を放つように鮮烈です。

「白馬亭にて 」・・・
その人気は 「レハールをさえ凌駕した 」 と言われた

 財団法人 日本オペレッタ協会の情報に拠りますと、この 「白馬亭にて」が初演されたベルリンでは5,000人も収容できる大劇場で 「7年間ロングランで4,000回以上、ロンドンで600回、パリでは4年間、ニューヨークでは、ベルリンと同じ5,000人の劇場で1年間に昼夜2回公演で300万人の観客が訪れた 」 そうですから、大変なヒット・オペレッタです。今でもドイツ語圏では上演回数の最も多い作品のひとつだそうです。

■「白馬亭にて 」は、
ベナツキー + 当時の最高の才能が集まった 珠玉の結晶

 ラルフ・ベナツキー(1884~1957 Rudolf František Josef Benacký)は、チェコのモラヴィア出身。ベルリンでオペレッタ作曲家として成功し、1940年以降はアメリカに渡り、代表的なハリウッド作曲家とカテゴライズされるコルンゴルトと同様、映画音楽も手掛けました。
 美しい歌曲「グリンツィングへもう一度(1915 ) 」も かなりポピュラーですが・・・


フリッツ・ヴンダーリヒの歌唱による 「グリンツィングへもう一度 」Ich muß wieder einmal in Grinzing sein !
 
 やはり 「白馬亭にて 」 が 彼の最もよく知られた代表作と言えるものでしょう。
 実は このオペレッタ、ベナツキー自身が「全曲」手掛けたオリジナル作品というわけではなく、劇中とっておきの名曲「ワルツが私の愛の歌 」 と 「雲ひとつない青空 」 は 名匠ロベルト・シュトルツ Robert Stolzの作曲、主人公の給仕長レオポルドの失恋の唄 「とても見ちゃいられない 」 は ブルーノ・グラニッヒシュテーテン Bruno Granichstaedtenによる作曲、登場人物のひとり 富豪の若者ジギスムント・シュルツハイマーが歌うコミカルな「ジギスムントのせいじゃない 」 は ブルーノートを多用したロベルト・ギルベルト Robert Gilbertの作曲・・・というように、当時のオペレッタ界の代表的なヒット・メーカーが、プロデュースと台本を担当したエリック・シャレル( 映画「会議は踊る 」 の監督として有名 ) によって 多くの才能が一同に集められ、主要曲を競った結果なのです。もちろん 中心になったのは ベナツキー作品であることに間違いなく、彼は オペレッタの重要なテーマ・ソング 「ヴォルフガング湖畔の白馬亭には幸福が待っている 」 をはじめ、残りの主要ナンバーの殆どを担当、ドラマに統一感を与えています。

■ 「白馬亭にて 」新旧の全曲盤を聴く。 
 このオペレッタには、過去のワーグナーヴェルディの歌劇作品のような 作曲家自身によって厳格に定められたオリジナル総譜(スコア )は存在しません。やがて進化・発展してゆくことになる アメリカのミュージカル作品と同様、複数の音盤を聴き比べてみれば、いずれも全く異なった楽器編成と編曲を 楽しむことができます。
 基本的に小編成のオーケストラ編成ですが、これにオーストリアの代表的な民族楽器ツィターアコーディオン、エレキ・ベース、ドラムス・セットが並び、アレンジによっては もはやクラシカル作品とは思えぬような スウィング・ジャズ風だったり ロック’ン・ロールのエイト・ビートを刻むような演奏も 普通にあるのです。 ジングシュピール 「白馬亭 」が 後世のブロードウェイ・ミュージカルへとつながる 過渡期のオペレッタであった、ということを 裏付けていますよね。

『白馬亭にて』ハイライト アレクサンダー、ハルシュタイン、ショック、ケート、フェーリンク指揮
▲ たとえば この ヨハネス・フェーリング Johannes Fehring 盤 ( – eurodisc/Sony/BMG 1971年録音 ) などに聴くことができる、エレクトリック楽器を含む 現代的な楽器編成が その典型です - ただし、このレコーディングが、チロルの民族楽器ツィターの代わりに ハープシコードを使用しているという 見識にだけは いささか興ざめでしたが。 ペーター・アレクサンダー(レオポルド )の個性的なキャラクター、インゲボルク・ハルシュタイン(ヨゼッファ )、ルドルフ・ショック(ジードラー博士 )、エリカ・ケート(オッティーリエ ) など、居並ぶ名歌手の顔ぶれは さすがです。

Benatzky_LAuberge du Cheval blanc_EMI
▲ 早くから その大人気が国際的だったことを示す、ちょっとめずらしいフランス語版上演のディスク (Félix Nuvolone 指揮、パリ音楽院管弦楽団、ルネ・デュクロ合唱団 / EMI 7243 5 74070 2 ) です。 仏題は L'Auberge du Cheval blanc — と、そのまま。 なにしろ レオポルドが登場するなり 「アー、ミダン・ミモザレル・ミッシュー (? ) 」 などとフランス語でしゃべりだすのが 物凄い新鮮 (大笑 )。 仏語台本はルシアン・ベナールルネ·ドリン、1932年にパリ初演、もう最初から大成功で、シャトレ座では 1948年から1968年までに 1,700公演もの 超ロング・ラン記録があるそうです。

 さて、それでは 国内でも比較的 入手が容易な 「白馬亭にて 」全曲盤から、“スケルツォ倶楽部”発起人 おススメのディスクを 以下、 2種類ほど ご紹介しましょう。 
 
ウィリー・マッテス指揮/ミュンヘン放送管弦楽団(EMI) 『白馬亭にて』全曲 マッテス&ミュンヘン放送管、ローテンベルガー、ミニヒ、他(1978 ステレオ) EMI
ベナツキー:喜歌劇「白馬亭にて 」(全曲 )
ウィリー・マッテス指揮/ミュンヘン放送管弦楽団、バイエルン放送合唱団、
  ヨゼッファ(白馬亭の女主人 ):アンネリーゼ・ローテンベルガー
  レオポルト(白馬亭の給仕長 ):ペーター・ミニヒ
  ギーゼッケ(企業家 ):ベンノ・ホフマン
  オッティーリエ(ギーゼッケの娘 ):グリット・ヴァン・ユーテン
  ジードラー博士(若い弁護士 ):ノルベルト・オルス
  ジギスムント(富裕な実業家の息子 ):ペーター・クラウス
  皇帝フランツ・ヨーゼフ2世:ハンス・ピュッツ
  EMI( 7243 5 66581 2 7 )
  録音:1978年6月2~5日、バイエルン
 
 基本的な台詞はすべて最小限に入っており、CD1枚に全曲を収めた EMIのオペレッタ・ディスクらしい 大変まとまりの良い名盤です。臨場感も満点で、レオポルトヨゼッファとの恋仇と信じるジードラー博士オッティーリエに結びつけてしまえ と 二人の逢引の場所として無理やり牛小屋を手配する場面では 牛たちのモーモー鳴く声や カウベルの音などがスピーカーの左右から聞こえてくる中、ツィターアコーディオンの醸し出す長閑(のどか )な雰囲気も最高です。第1幕最後の雷鳴と どしゃ降りの雨のシーンでも サウンド・エフェクト(効果音 )は 盛大に鳴らされています。
 給仕長レオポルドを 長年持ち役としてきたペーター・ミニヒは さすがにベテランの上手さ、喜怒哀楽すべての表現に たいへん手慣れた印象を持ちます。
 繊維工場のギーゼッケ社長を演じるベンノ・ホフマンは、決して「歌 」わないことが特徴ですが - 正確には 音楽のリズムに巧みに乗せながら常に台詞を「語 」るのです。それは、まるでミュージカル映画「マイ・フェア・レディ 」 に登場するレックス・ハリソンのよう・・・と言ったら 判って頂けるでしょうか、愛娘オッティーリエを 若い二枚目弁護士ジードラー博士に奪われて自棄(やけ)になってワインをがぶ飲みし、「ザルツカンマーグートにて 」では 血管も切れそうになるほど コミカルな「歌唱 」、素晴らしいです。
 アンネリーゼ・ローテンベルガーの歌唱は 確かなテクニックで見事ですが、その発声には多少古さを感じてしまいます。尤も 代わりにヴァン・ユーテンエルケ・シャリー(クラールヒェン )など 若手の女声の瑞々しい歌唱との互いに個性が引き立っているので、やはり意図的なキャスティングなのでしょうね。
 皇帝フランツ・ヨーゼフ二世が、ツィターソロ・ヴァイオリンの二重奏だけで 白馬亭の女主人ヨゼッファに語りかける「人生とはこういうものだ 」 - この郷愁あふれる情感は 見事です。

CD_ルドルフ・ビーブル指揮/メルビッシュ音楽祭 DVD版_ルドルフ・ビーブル指揮/メルビッシュ音楽祭 CDとDVD(右 )の表紙
ベナツキー:喜歌劇「白馬亭にて 」(全曲 )
ルドルフ・ビーブル指揮/メルビッシュ音楽祭管弦楽団、祝祭合唱団 
  ヨゼッファ(白馬亭の女主人 ):インゲボルク・ショップフ(CD )
                    :ザビーネ・カプフィンガー(DVD )
  レオポルト(白馬亭の給仕長 ):マティアス・ハウスマン(CD )
                     :ラインハルト・フェンドリヒ(DVD )
                     (マット・デニス そっくり 笑 )
  ギーゼッケ(企業家 ):クラウス=ディーター・レルヒェ
  オッティーリエ(ギーゼッケの娘 ):アニャ=カタリーナ・ヴィッガー
  ジードラー博士(若い弁護士 ):マルコ・イェンチュ
  ジギスムント(富裕な実業家の息子 ):セルジュ・ファルク(CD )
                        :クラウス・エバーハルティンガー(DVD )
  皇帝フランツ・ヨーゼフ2世:アルベルト・ループレヒト(CD )
                   :ハラルド・セラフィン(DVD )
  語り(CD ):ハラルド・セラフィン
  CD:OEHMS( OC-715 )
  録音:2008年3月、アイゼンシュタット
  DVD:ニホンモニター=ドリームライフ(DLVC-1195 )
  収録:2008年、メルビッシュ音楽祭 湖上ライヴ

Harald Serafin_ハラルド・セラフィン_OEHMS( OC-715 )より 「白馬亭にて 」ニホンモニター=ドリームライフ(DLVC-1195 ) (12)
メルビッシュ音楽祭の音楽監督を務める ハラルド・セラフィン Harald Serafin は 1931年( オペレッタ「白馬亭にて」初演の翌年!)生まれ 、1970年代にはウィーン・フォルクスオーパーで活躍していました。その渋い声で 一曲毎に丁寧なナレーションを語り、台詞は一切カットというのが CD版の特徴です。
 セラフィンは、このメルビッシュ音楽祭の湖上ライヴ・ステージでは 足腰が心配ながら フランツ・ヨーゼフ二世役までも演じており、ライヴDVD版の映像で その演技を観ると、高齢と貫録ゆえか ぴったりのキャスティング、その登場シーンでは観衆から盛大な喝采を浴びています。

「白馬亭にて 」ニホンモニター=ドリームライフ(DLVC-1195 ) (7)
▲ 登場人物の中では、ジードラー博士を演じるマルコ・イェンチュが 朗々とよく透る美声です。彼はDVDにも共通の役で出演していますが、ヴィジュアル的には 少々太めながら アンドレ・リュウ似の(?)甘いマスクで ステージに自転車に乗って登場する場面など、なかなか身軽で凛々しい二枚目を演じています。ヨゼッファが心惹かれる、という設定にも十分説得力があります。

「白馬亭にて 」ニホンモニター=ドリームライフ(DLVC-1195 ) (10)
▲ DVD版で 女主人ヨゼッファを演じているザビーネ・カプフィンガーは、第2幕の「ザルツカンマーグートで」の場面(曲順の入替は 演出によって かなり自由に行われています)で、オーストリア=チロル民謡の名曲「ヨハン大公のヨーデル」で、自慢のヨーデルを披露してくれます。チロル地方出身のカプフィンガーは、実は ヨーデル歌手でもあり、ファルセットと地声とを うぐいすの谷渡りのように 交互に発声して聴かせる独特の唱法には、その美しい容姿とともに感銘深いです。
 但し、歌唱の平均点に関しては、 CD版の インゲボルク・ショップフ の方が 安定感の高さ という理由で 軍配を挙げたいです。
 CD,DVDともに 現在リリースされているオペレッタ「白馬亭にて」の視聴覚資料の中で これらは最も新しいものでしょう。特に 映像は かなり珍しいのではないでしょうか。国内盤DVDは 歌詞対訳もたいへん重宝します。

「白馬亭にて 」ニホンモニター=ドリームライフ(DLVC-1195 ) (5)
▲ たとえば DVDで初めて このオペレッタを 通して観た私は、 ヒンツェルマン教授の娘クラールヒェンが、なぜ ジギスムントに心を許したのか、これによって 初めて納得したような次第です。
 
「白馬亭にて 」ニホンモニター=ドリームライフ(DLVC-1195 ) (4)
▲ また 第1幕 牛小屋の場面で 牝牛たちが着ぐるみで登場し、カウベルを鳴らしながら元気に踊る場面が気に入って、飽きずに 9回以上も繰り返し観てしまいました。音質も まるで曇りを拭き取ったかのように鮮明、大好きな「白馬亭にて」をヴィジュアルで楽しめるのは、実に嬉しいものです。

■「白馬亭 」のキー・パーソンは、
皇帝フランツ・ヨーゼフ「二世(?)」

 オペレッタ白馬亭にて 」第3幕、恋に頑(かたく )なな白馬亭の女主人ヨゼッファに「人生について 」を 柔和に語り聞かせ、彼女の考え方を変えてしまう 重要な役割を演じることになるのが、ザルツカンマーグートへお忍びでやってきて 白馬亭に宿泊するフランツ・ヨーゼフ「二世 」と称する老皇帝 です。

「白馬亭にて 」ニホンモニター=ドリームライフ(DLVC-1195 )
▲ ドラマの中で この老皇帝ヨゼッファに乞われるまま芳名録に記すことになる 含蓄ある言葉は 以下のとおり。
(・・・引用は、ドリームライフ盤DVDの対訳に拠ります )

 人生とは こういうものだ
 誰もが皆 同じ思いをしている
 どうしても欲しいものは いつまでも遠いまま!
 永遠に達成できぬほどのものが、今もし すべて手に入り
 簡単に探し出せたとしたら それはどんなに楽なことだろう、
 だが 貴女にも徐々に解ってくるだろうが、
 決して欲張ってはいけないよ
 黙って満足し、微笑んで従いなさい!
 人生とは そういうものだ、
 誰しも皆 同じ思いをしているのだ
 特に 一番 美しい夢は 泡のままだ!


 さて、ここで登場するフランツ・ヨーゼフ帝が、わざわざ「二世 」とされていることに 私は拘(こだわ)ってみたいと思います。
 なぜなら ハンス・ミュラー=エリック・シャレルの台本どおり もしドラマの時代設定が 「1910年頃 」であれば、まだフランツ・ヨーゼフ「一世 」の治世である筈だからです。ドラマの「二世 」とは、初演の時点では「架空の皇帝 」 だった筈なのです 。※
 けれども 言うまでもなく、この役は 明らかにオーストリア帝国( 正確には オーストリア=ハンガリー帝国 )最後の皇帝で 68年間もの長期在位を誇った帝国の「国父 」と称される フランツ・ヨーゼフ一世 Franz Joseph I. 1830 ~ 1916 )がモデルであったことに間違いありません。オペレッタの上演写真を複数確認する限り 架空の皇帝「二世 」の扮装は、豊かな口髭と頬髭をたくわえた軍服の老人という、まさしく 現実の皇帝「一世 」そのままの姿なのですから。
フランツ・ヨーゼフ一世(Wikipedia) 「白馬亭にて 」ニホンモニター=ドリームライフ(DLVC-1195 ) (6)
▲ (左 )フランツ・ヨーゼフ一世 (右 )セラフィン演じるフランツ・ヨーゼフ「二世 」
 
 歴史的には フランツ・ヨーゼフ一世が亡くなったのは1916年 - それは「白馬亭にて」初演(1930年)より14年も前のことで、皇帝崩御の翌1917年には それまで続いていた第一次世界大戦オーストリア側の敗北という形で終息、同時に 帝国ハプスブルク王朝も その終焉を迎えています。 ・・・そうなんです。しつこく繰り返すようですが、オペレッタ「白馬亭にて」が初演された時、その物語の背景には ハプスブルク帝国の存在が 大きく影を映しているにもかかわらず、すでにオーストリア帝国自体は 滅亡していたのです。
 劇場の観衆は、ステージ上で主人公に優しく語りかける 架空の皇帝の姿をとおして、亡きフランツ・ヨーゼフ「一世 」帝の 生前の姿を きっと そこに認めたことでしょう。また同時に「もし皇帝が生きておられて、今も わがオーストリア帝国が平和で安泰だったら・・・」という、旧き良き時代を懐かしみながら、彼らは 束の間 ワルツのリズムが流れる舞台上に 蘇った軍服と髭が象徴する過去への追憶と郷愁に向けて、盛大な拍手喝采を送ったに違いないのです。 それは、ひょっとして 今でも?

※ なお、混同を避けるため 書き添えておきますと、「白馬亭にて」の初演から さらに 8年後(1938年 )、オーストリアフラウエンタール城主 リヒテンシュタイン侯爵(1906~1989)が、フランツ・ヨーゼフ「二世 」 として(! )即位しています。が、もちろんオペレッタに登場する皇帝とは関係ありませんので、ここは注意が必要です。
 ・・・ それでも おもしろいのは、このリヒテンシュタイン侯爵が出生時(1906年 )、その名づけ親となったのが 奇しくも フランツ・ヨーゼフ一世 その人だったという事実です。浅からぬ縁があったのでしょうね。



▲ いつまで観れるのか わかりませんが、You Tube で メルビッシュ音楽祭版 全幕
  試聴可能です ( 驚 )。


1931年 オーストリア中央銀行のクレジット・アンシュタルト破産。
     国際金融恐慌が全欧に波及する。
     満州事変。
     エリック・シャレル監督、映画「会議は踊る」
     ラヴェル、「ピアノ協奏曲 ト長調」
     同、ヴィトゲンシュタインの依頼による「左手のためのピアノ協奏曲」初演
     トスカニーニ、ファシスト党歌の指揮を拒否、ムッソリーニと衝突
     アンナ・パブロワ、エジソン、アルトゥール・シュニッツラー 没

1932年 国際連盟のリットン調査団、満州に派遣
      満州国建国、溥儀 執政に就任
      ドイツ、最初のアウトバーン(ボン - ケルン)建設
      シェーンベルク、「モーゼとアロン 」
      デューク・エリントン、「スイングしなければ意味がない 」
      スーザ 没

1933年  ヒトラー首相になる、3月には独裁体制。
      日本、国際連盟を脱退。
      ナチスとローマ法王庁との政教協約(コンコルダート)
      ウィリー・フォルスト監督、映画「未完成交響楽 」
      トスカニーニ、ナチスの芸術家抑圧に抗議し バイロイトでの指揮契約を破棄
      バルトーク、「ピアノ協奏曲第2番 」
      ロベルト・シュトルツ、「2人のハートをワルツに乗せて」 に続く・・・


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