本記事は、8月11日の「人気記事ジャズ ランキング」で 第1位となりました。
皆さまのおかげです、これからも 何卒よろしくお願い申し上げます。


Getz Children Of The World (CBSソニー 25AP-1696 ) スケルツォ倶楽部 ⇒ 全記事 一覧は こちら
午後のジャズ喫茶 「カフェ ソッ・ピーナ」から
  ⇒ メニュー画面は こちら

村上春樹 「1973年のピンボール 」と、
スタン・ゲッツの
「ジャンピング・ウィズ・シンフォニー・シッド 」


 こんにちは、スケルツォ倶楽部“発起人” 妻 のコーナー です。
 ジャズ喫茶「ソッ・ピーナ」は、わたしのお気に入りの場所。でも、さすがに この炎天下の中、喫茶店のある公園まで15分も歩いたら 絶対 日焼けしちゃうんだから、それがイヤで ずーっと サボっていたのでした。
 当然 このコーナー「午後のジャズ喫茶 ソッピーナ」のブログ更新も滞りまくり、楽しみにしてくださっている( ? )スケルツォ倶楽部 会員の皆さまには 潔くお詫びしたいです、スミマセン。

 日焼け止め、大きな帽子に日傘と。完全防備した上で、やっと お店に辿り着いたぞと。入口にぶららんと吊ってある カウベルを いつものように(マーラー6番を連想しつつ)がららんと鳴らしながら入店すると、ふふん、あんのじょう 今日も 12席あるテーブル席は すべて 閑散としちゃって・・・。
 しかし、そんな店内で1951年の若きスタン・ゲッツは ひたすらクールに、取り憑かれたようにテナー・サックスを 吹きまくっています。これは、かの名盤「(ライヴ・)アット・ストーリーヴィル」(ルースト盤)。

スタン・ゲッツ Stan Getz
「 アット・ストーリーヴィル At Storyville Vol.1 & Vol.2 」
 
( 現在のCDは、2 in One の お徳用 )
Stan Getz At Storyville Vol.1(ROOST)  Stan Getz At Storyville Vol.2(ROOST)
スタン・ゲッツ Stan Getz ( テナー・サックス )
ジミー・レイニー Jimmy Raney ( エレクトリック・ギター )
アル・ヘイグ Al Haig ( ピアノ )
テディ・コティック Teddy Kotick ( ベース )
タイニー・カーン Norman “Tiny” Kahn ( ドラムス )
  録音:1951年10月28日 ストーリーヴィル、ボストン
  ROOST-2209、2225(東芝EMI / TOCJ-6241 )


1 ゾー・スウェル Thou Swell(04:29)
2 ザ・ソング・イズ・ユー The Song Is You(07:16)
3 モスキート・ニーズ Mosquito knees(05:30)
4 ペニーズ・フロム・ヘヴン Pennies From Heaven (05:13)
5 ムーヴ Move(06:09)
6 パーカー51 Parker 51(06:16)
7 ハーシェイ・バー Hershey Bar (03:36)
8 ラバーネック Rubberneck (04:32)
9 シグナル Signal (06:00)
10 エヴリシング・ハプンズ・トゥ・ミー Everything Happens To Me (03:26)
11 ジャンピング・ウィズ・シンフォニー・シッド Jumping With Symphony Sid (07:35)
12 イエスタデイズ Yesterdays (03:04)
13 ブドー Budo(05:18)

この優れたライヴ盤は、LP時代 2枚に分かれてリリースされてました。
L.P.のVol.1に収録( 1 ~ 6 )
L.P.のVol.2に収録( 7 ~ 13 )

 うーむ、閑古鳥が鳴く「ソッ・ピーナ」じゃ 白熱のゲッツのテナーにさえ耳を傾ける人がいない ということなのか ・・・ なんだか とても もったいないことだなー。
しかも「ソッ・ピーナ」の 音楽オタクで独身の二代目マスターったら、わたしの「ご来店」の合図であるカウベルの音さえ あきらかに聞こえなかったらしく、カウンターの中で スツールに腰掛け 何やら読書に耽(ふけ)っているではありませんか・・・。むむむ、いよいよもって これはイカン。
「(耳元に近づいて 大声で) おい コラ、マスター、お客さんだよ!

マスター「え? い、いらっしゃいまぁ・・・ 」
 慌てて文庫本から顔を上げたマスター、大きくバランスを崩し、素っ頓狂な声とともに 座っていたスツールと一緒にぐるりんと回転、カウンターの中で派手に転倒。フロアの床に投げ出された時、自分の後頭部をテーブルの角で激しく殴打。
☆痛Σ£%悲#!
その瞬間。デンジル・ベストの名曲「ムーヴ」で ゲッツとの4ヴァース交換を終えた 夭折のドラマー タイニー・カーン (1924-1953) による ソリッドなドラムス・ソロに熱狂した聴衆からの「イヤッホー! 」という歓声が、大音量の店内JBLスピーカーから ドンピシャのタイミングで飛び出しました。まさにそれはマスターの痛ましい回転着地(失敗)に向けられた喝采にしか聞こえず、これには わたしも笑いを堪(こら)えることなく お腹をかかえてしまったのでした。
マスター「くーっ、酷いですよ 奥さん・・・。他人(ひと)を驚かしておいて しかも 思いきり嘲笑(わら)うなんて 」
両手で頭をかかえ、二つ折りになって 痛がるマスターを見下ろしながら、
わたし 「( 爆笑止まらず )ゴメンなさい。だって だって このCDったら、あんまりにもタイムリーに“イヤッホー”なんて言うんだもん・・・ 」

 さて、マスター ようやく立ち上がりながら 気を取り直し、落とした文庫本を拾いあげます。
わたし 「・・・ ところで 熱心に 何の本を読んでいたの?」
マスター村上春樹の『1973年のピンボール(講談社) 』です、1980年出版。これが出た頃、奥さん、おいくつでした?」
わたし 「また年齢(とし)を話題にするか(ぷんすか)。実は、わたし 村上春樹さんの本って “ノルウェイの森” と “ さよならバードランドビル・クロウの著作の翻訳書 )”しか読んだことないの、自慢にならないわよね。他には 国内盤L.P.『スヌーピーのゲッツ』ライナー・ノーツ だけは 読んだんだけどさ 」
Getz Children Of The World (CBSソニー 25AP-1696 ) ⇒ それは、前回の「ソッ・ピーナ」を ご参照のこと

マスター「 ボク もうじき読み終わりますから、この文庫本 貸してあげますよ」
わたし 「アラ、男性から本を借りるなんて 学校を卒業して以来 初めてだわ」

1973年のピンボール(講談社)
 ・・・ マスターの説明によると、この作品「1973年のピンボール」は、村上春樹氏のデビュー作「風の歌を聴け」から9ヵ月後、文芸誌「群像」1980年3月号に発表された 作者の第2作目にあたる長編小説で、これは 第83回芥川賞の候補にもなったのだそうです。

マスター「まさに村上春樹ワールド、彼独特の不思議な文体が味わえます。この本の中で、スタン・ゲッツの名盤『アット・ストーリーヴィル』の演奏に触れたくだりがあるんですけど、実は、そこを読んでいたら もう無性にゲッツの演奏をね、聴きたくなっちゃった、というわけです 」
わたし 「それでこのCDがかかっているわけね。そういうのって、わかる気がするな」
 ・・・店内に流れているゲッツと 彼のバンド - ヘッド・シェイキング・アンド・フット・タッピング・リズム・セクション村上氏による命名? )は、いつのまにか 快適にスイングする「ジャンピング・ウィズ・シンフォニー・シッド」を 演奏し始めています。
マスター「あ、これこれ! ちょうど 今 始まった、この曲ですよ」

引用 「1973年のピンボール」(講談社文庫)71ページから
・・・ 三日ばかり風邪で休んだおかげで仕事は山のようにたまっていた。口の中はザラザラするし、体じゅうに紙やすりをかけられたような気分だ。( 略 )
僕は片手で( 中略 )コーヒーを飲み、紙ねんどのような味のするロールパンを一個だけ食べた。頭は幾分すっきりし始めていたが、手足の先にはまだ熱のしびれが残っていた。僕は引き出しから登山ナイフを取り出し、長い時間をかけてFの鉛筆を六本丁寧に削り、それからおもむろに仕事に取り組んだ。
カセットテープで古いスタン・ゲッツを聴きながら昼まで働いた。スタン・ゲッツ、アル・ヘイグ、ジミー・レイニー、テディ・コティック、タイニー・カーン、最高のバンドだ。「ジャンピング・ウィズ・シンフォニー・シッド」のゲッツのソロをテープにあわせて全部口笛で吹いてしまうと 気分はずっと良くなった。 ・・・


 「1973年のピンボール」の ものがたりは1973年秋、主人公である「」は、実在感の乏しい不思議な存在 - 双子の女の子たち - と一緒に、郊外のアパートで暮らしています。「」は、外国語の文章を和訳する翻訳業の事務所で仕事をしており、上記に引用した部分は、病み上がりで体調が良くないのに仕事を片付けるため事務所にやってきた「」が、「至急」というゴム印が押された大量の英文の翻訳に取り組む場面の描写でした。やはり独特の雰囲気がありますね。
 この魅力的な曲「ジャンピング・ウィズ・シンフォニー・シッド」は、物語のかなり最後に近い場面で もう一度 登場します。それは、ストーリーの核心部分に当たるシーンでもあります。
」は「」の心を捉え続けたピンボール・マシーン - スリー・フリッパーのピンボール台「スペースシップ」 - に呼ばれ続けた末、「彼女」を 捜すことを決めます。紆余曲折あるものの、短い探索の末、「」は 東京郊外の「世界の果てみたい」な空地のまん中「象の墓場のような」元養鶏場の冷凍倉庫の中で、他の77台のピンボール・マシーンと一緒に並んでいる「彼女」と やっと再会するのでした。
 真っ暗な冷たい倉庫の中で、「」が蛍光灯のスイッチに行き着いて、そこに並んでいる合計78台ものピンボール台に 一斉に光が当たり、その姿を照らされる場面の映像的な 村上氏の筆力・描写力には、大いに想像力が刺激されます。

引用 「1973年のピンボール」(講談社文庫)151ページから
 ・・・ 僕は 腰を下ろしたまま「ジャンピング・ウィズ・シンフォニー・シッド」のはじめの四小節を口笛で吹いてみた。スタン・ゲッツとヘッド・シェイキング・アンド・フット・タッピング・リズム・セクション・・・・・・。遮るものひとつないガランとした冷凍倉庫に、口笛は素晴らしく綺麗に鳴り響いた。僕は少し気を良くして次の四小節を吹いた。そしてまた四小節。あらゆるものが聴き耳を立てているような気がした。もちろん誰も首を振らないし、誰も足を踏みならさない。それでも僕の口笛は倉庫の隅々に吸い込まれるように消えていった。


■  「ジャンピング・ウィズ・シンフォニー・シッド 」(ゲッツ盤 )の不思議  
 店内では、スタン・ゲッツとバンドのメンバーは 快適なブルースを演奏し終え、次の静かなバラード「イエスタデイズ」を始めましたが、わたしは、ある重大なことに気づいてしまいました・・・。
わたし 「ね、マスター?」
マスター「はい、何ですか」
わたし 「もう一度 聴きたいの。曲をひとつ前の“ ジャンピング・ウィズ・シンフォニー・シッド ”に戻してくださる? 」
マスター「お安いご用です」
 マスターが リモコン・スイッチをデッキに向けると、再び アル・ヘイグによるピアノのイントロダクションが8小節 店内を跳ねまわり、ゲッツと ギターのジミー・レイニーが二人で 付点リズムの ぐるぐる旋回するようなメロディを演奏し始めました。
楽譜 Stans Blues
 
 ・・・なぐり書きでスミマセン、
これを“ぐるぐる旋回メロディー”と呼びます(仮称)。

わたし 「これ! このメロディーは“ ジャンピング・ウィズ・シンフォニー・シッド ”じゃないよ。マスター
マスター「え? でも この曲、CD“アット・ストーリーヴィル”11曲目のプログラムで間違いないですけど・・・」
と、言って、マスター ジャケット裏の曲順と、CDデッキの電光掲示が「11」曲目になっているのを わたしに示します。大丈夫、もちろん曲順が合っていることは 判ってます。
 まもなく“ ぐるぐる旋回メロディー ”に続いて、もうひとつ別の旋律ゲッツのテナー・サックスとジミー・レイニーのギターのユニゾンによって 澱みなく流れ出しました。それは、シンコペーションの切り方もおもしろい、単純なリフを繰り返すだけの力強い旋律です。
楽譜 Jumping With Symphony Sid 
わたし 「ほら、これ。このメロディこそが 本物のジャンピング・ウィズ・シンフォニー・シッド ”! 」
マスター「ああ・・・そう言われれば、そうですね 。よし、念のため 確かめてみましょう!」

 なにかを マスターも 気づいたらしく、走って厨房へ入ると その奥にあるCDの棚から1組のディスクを探し当て、戻ってきました。
マスター「原曲を作ったレスター・ヤング自身が演奏したCDを 見つけましたよ」
     
Lester Young_The Complete Aladdin Sessions
レスター・ヤング
「ジャンピング・ウィズ・シンフォニー・シッド 」Jumpin' With Symphony Sid
 レスター・ヤング Lester Young (テナー・サックス)
 ショーティ・マッコーネル Shorty McConnell (トランペット)
 アーゴン・ソーントン Argonne Thornton (ピアノ)
 フレッド・レイシー Fred Lacey (ギター)
 ロドニー・リチャードソン Rodney Richardson (ベース)
 リンデル・マーシャル Lyndell Marshall (ドラムス)
 録音:1946年10月、シカゴ
 「コンプリート・アラジン・セッションズ」 (The Complete Aladdin Sessions)
から
 Definitive Records DRCD-11385
併録曲
CD-1:
1.Indiana 2.I Can't Get Started 3.Tea For Two 4.Body And Soul 5.D.B.Blues 6.Lester Blows Again 7.These Foolish Things 8.Jumpin' At Mesner's 9.It's Only A Paper Moon 10.After You've Gone 11.Lover Come Back To Me 12.Jammin' With Lester 13.You're Driving Me Crazy 14.New Lester Leaps In 15.Lester's Be Bop Boogie 16.She's Funny That Way 17.Sunday 18.S.M. Blues 19. Jumpin' With Symphony Sid 20.No Eyes Blues 21.Sax-O-Be-Bop 22.On The Sunny Side Of The Street 23.One O'Clock Jump 24.Jumpin' At The Woodside
CD-2:
1.Movin' With Lester 2.Easy Does It 3.Easy Does It(alternative take) 4.I'm Confessin' 5.Lester Smooths I t Out 6.Just Cooling 7.Tea For Two 8.East Of The Sun 9.The Sheik Of Araby 10.Something To Remember You By 11.Untitled Instrumental 12.Please Let Me Forget 13.He Don't Love Me Anymore 14.Pleasing Man Blues 15.See See Rider 16.It's Better To Give Than Receive (bonus track → ) 17.Back To The Land 18.I Cover The Waterfront 19.Somebody Loves Me 20.I've Found A New Baby 21.The Man I Love 22.Peg O'My Heart 23.I Want To Be Happy 24.Mean To Me
 
 この2枚組セットでは 「ジャンピング・ウィズ ~」で明記した共演メンバー以外にも、下記のような 錚々たるミュージシャンらが レスター・ヤングをバックアップしています。
ヴィック・ディッケンソン Vic Dickenson(tb)、ドド・マーマローサ Dodo Marmarosa(p)、レッド・カレンダー Red Callender(b)、ヘンリー・タッカー・グリーン Henry Tucker Green(ds)、ハワード・マギー Howard McGhee(tp)、ウィル・スミス Willie Smith(as)、ウェズリー・ジョーンズ Wesley Jones(p)、カーティス・カウンス Curtis Counce(b)、ジョニー・オーティス Johnny Otis(ds)、ナット・キング・コール Nat King Cole(p)、ヘレン・ヒューム Helen Humes(vo)
録音:1942年~1947年 シカゴ、LA、ニューヨーク(The Complete Aladdin Sessions
 “ ジャンピング・ウィズ・シンフォニー・シッド ”の作曲者が、レスター・ヤング Lester Young(1909~1959)です。 言うまでもなく、彼は1930~40年代に活躍した 名テナー・サックス奏者 (50年代の演奏は 今ひとつ精彩に欠けるので、どうしても古い録音で語られることが多いのですが。 ) で、カウント・ベイシー楽団のソリスト、カンサス・シティ・セヴン、自己のカルテットなどでの仕事が、次世代となるモダン・ジャズへの極めて重要な架け橋 - 特に チャーリー・パーカーはもちろん、スタン・ゲッツへの影響も計り知れないほど - でしたが、当時のジャズ・ミュージシャンに蔓延していた麻薬による中毒と、人種差別や貧困・徴兵など過度のストレスによって体調を壊し、その若い晩年は たいへん不遇でした。
 マスターが持ってきた お店のCDで、レスター・ヤング自身が演奏する“ ジャンピング・ウィズ・シンフォニー・シッド ”の演奏を 早速、聴いて 確かめてみると・・・。

マスターゲッツ盤では魅力的だった“ ぐるぐる旋回メロディー ”、レスター・ヤングの録音からは 欠片(かけら)も聴こえてはきませんでしたね」
わたし 「それって マスター、どういうことなのかしら」
マスター「ボク、今 突然 思い出しましたよ。コレを 聴いてみてくださいよ」
・・・そう言って 次にマスターが 持ってきたのは、ゲッツ晩年のヨーロッパで録音された名盤「アニヴァーサリー anniversary」です。 

スタン・ゲッツ Stan Getz
「 アニヴァーサリー anniversary 」日本フォノグラム(EJD-1023)

Stan Getz_anniversary_1987.7.6. Stan Getz_Anniversary_1987(裏ジャケット)
1. El Cahon (12:20)
2. I Can't Get Started (11:00)
3. Stella By Starlight (12:24)
4. Stan's Blues (10:12)
5. I Thought About You (08:03)
6. What Is This Thing Called Love ? (09:25)
7. Blood Count (04:03)
 スタン・ゲッツ Stan Getz (テナー・サックス)
 ケニー・バロン Kenny Baron(ピアノ)
 ルーファス・リード Rufus Reed(ベース)
 ビクター・ルイス Victor Lewis(ドラムス)
 録音:1987年 7月6日 コペンハーゲンのカフェ・モンマルトルにおけるライヴ
 

 1987年の録音。“ I Left My Heart In Copenhagen ”という感動的な挨拶で有名な ( ・・・ もっとも ゲッツは、これに続けて “ えーと、実は 同じ台詞を 昨晩も ストックホルムで言ったんですが ・・・ ” と白状して、その飾り気のない人柄に、聴衆からは さらに盛大な拍手が送られています )、晩年のスタン・ゲッツ  黄金色に輝く 生涯の収穫期に生まれた、最高のライヴ・レコーディング。インプロヴィゼーションの素材として ゲッツが厳選したスタンダード中心の選曲は、その殆どが ゲッツの若き頃から演奏してきた自家薬籠中のナンバーばかり。静かに澄みきった湖の水面を思わせるようなゲッツ達観した演奏が いずれも音楽に対峙する彼の心構えを表しているようです。ゲッツが亡くなるのは この録音から 約4年後のこと。
 マスターが かけてくれたのは、4曲目「スタン‘ズ・ブルース Stan's Blues」。
マスター「ほーら、よく耳を傾けて聴いてくださいよ」
 ルーファス・リードの重たいベースの響きを伴って、ゲッツが吹きだした旋律は、あの“ ぐるぐる旋回メロディー ”そのものではありませんか! 思わず、カウンターの向こうにいる マスターと わたし、顔を見合わせて にっこりしてしまいました。

「スタン‘ズ・ブルース 」 と「ジャンピング・ウィズ・シンフォニー・シッド 」の真相?
 “ぐるぐる旋回メロディー”の 正しい名前「スタン‘ズ・ブルース Stan's Blues 」は、アルト・サックス奏者だった ジジ・グライス Gigi Gryce(1925-1983)の作曲である、とクレジットされています。
 これは、グライスが 50年代当時 親しい関係だったゲッツのために、本来の「ジャンピング・ウィズ・ ~ 」原曲のコード進行に乗せて書き足した旋律( ジャズの世界では 頻繁にやる行為なのです )で、ゲッツ自身が、この新しいブルース・メロディーを、レスター・ヤング作曲のスタンダード・ブルースと組み合わせて演奏を試み、その優れたアレンジによって 録音までされてしまったため、その後、混同して認識されるような誤解も 招いたものではないでしょうか。
 ライヴ・アルバム「アニヴァーサリー」における“スケルツォ”のような存在である一曲 -「スタン’ズ・ブルース」- は、 かつて ストーリーヴィルにおける 遠く若き日のクールな自分の姿を ゲッツ自身が 感慨深げに回想を籠めながら 演奏しているようにさえ わたしには聴こえるのでした。
 
 さて、結局 わたしは マスターから 文庫本を借りて帰り、今 自宅で 村上春樹氏「1973年のピンボール」を楽しく読んでいます。必ずしも長くはないので、半日あれば 読み終えてしまいそうです。
読書するルーシー Charles M. Schulz 
 ところで この物語の中で、主人公「」が 冷たい倉庫の中、口笛で吹いたメロディーは、果たして レスター・ヤングによるオリジナルのブルース・リフのほうだったのでしょうか(こちらのほうが絶対に口笛でなら 吹きやすい・・・)、それとも( やはりレコードのとおり ) ジジ・グライスの作曲した 「スタン・ゲッツのブルース」から始めて、レスター・ヤングのメロディまで キチンと吹いたのでしょうか・・・ 村上氏は どちらを意図していたのかな - などと考えてみるのも とても楽しいです。
 ソッ・ピーナマスター、今日も ありがとうございました!

補足:タイトルの「“シンフォニー”シッド」・・・って誰?
 ジャンピング・ウィズ・「 “シンフォニー”シッド Symphony Sid 」の写真、やっと見つけましたよー(ライズナー著、片岡義男=訳 晶文社チャーリーパーカーの伝説」より )。はい、この人が“シンフォニー”シッド です! これを捜していたために 今回 ブログの更新が遅れたようなものです(暑くて ソッピーナに行けなかったことだけが 理由では なかったのでした )
“シンフォニー”シッド と チャーリー・パーカー(左) 晶文社
チャーリー・パーカー(左)と “シンフォニー”シッド 晶文社

 “シンフォニー”シッドシドニー・トーリン Sidney Thorin 1909-1984 )は、1937年 ブロンクスのラジオ局WBNKでの仕事に就いて以来、一貫してジャズ・ミュージシャンを放送媒体から紹介し続けた草創期からのジャズのディスク・ジョッキーでした。
 彼自身が名づけた「シンフォニー(クラシック音楽の交響曲 )」というニックネームは、常に「最高の出来栄えのモダン・ジャズ・サウンドと同義語にすることに力を注いできた(ライズナー)」シッドの 音楽に対する誠意の表われだったのです。
 ※ 脱線話ですが、Symphony に 「交響曲」 という 優れた訳語をあてた日本人は、ドイツに留学していた 文豪 森鴎外(!) だったそうですね。 
 もとい。 チャーリー・パーカーディジー・ガレスピーらの 全く新しい音楽スタイルとムーヴメントを 評価して「ビー・バップ Be-Bop 」と名付けて 広く周知したのも、この “シンフォニー”シッドでした。
 また、レコードだけでなく、彼は バップシティバードランドから オールナイトのジャズ・ライヴ中継を敢行していました。現存する1948年9月4日から1949年3月12日までの ロイヤル・ルーストにおける マイルス、アル・ヘイグ、マックス・ローチらを含む 絶好調時期のチャーリー・パーカー・グループの放送音源には、もちろん 番組進行を務める“シンフォニー”シッドの声も - パーカーにインタヴューをしながら 駄洒落を飛ばしたりするMCまで - すべて収録されていて、この稀代の D.J.の リラックスした語りくちが聴けることでも 価値が高いと思います。
Bird at The Roost Charlie Parker(1948~1949)SAVOY  コンプリート・ロイヤル・ルースト・ライブ・レコーディングス・オン・サヴォイ・イヤーズ  
(左)「チャーリー・パーカー、オン・サヴォイ~ライヴ版/ロイヤル・ルースト編(キングレコードK-30Y-6241~42)」現在廃盤
(右)おそらく同内容と思われる廉価盤のジャケット写真 こちらは入手も容易

 まるで1948年にタイム・スリップして、ラジオを聴いているような錯覚を楽しめる臨場感です。国内盤で出たときには“シンフォニー”シッドの すべての語りに日本語対訳まで付いていて、重宝したものです。特に1948年12月25日、クリスマスの夜の リラックスした放送録音では、チャーリー・パーカーが「ジャンピング・ウィズ“シンフォニー”シッド」と「ジングル・ベル」を 同時に演奏して聴かせたり、「ホワイト・クリスマス」まで 演(や)ってくれたり、というサービス振りでも満点で、実に楽しい聴き所も満載の音源でした。
 白人でありながらもジャズを愛し、レスター・ヤングチャーリー・パーカーなど 同時代のジャズマンの多くからも愛された“シンフォニー”シッドを偲んで、再び 若き日のスタン・ゲッツの名演 - 「アット・ストーリーヴィル」 - を聴きながら、今夜は 筆を置こうと思います。
 
 さて、次回は 以前にも お約束していた、村上春樹氏のセレクトされた 絶妙なる「スタン・ゲッツ・ベスト・コレクション」を 喫茶 ソッピーナから 実際に聴き比べながら ご紹介しようかな - なーんて 考えてます。 次回は こちら・・・
 ・・・ では、また! 今日も 長文 スミマセンでしたー。

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コメント

木曽のあばら屋さま

木曽のあばら屋さま には 2回目の良スレ、歓迎します!
でも 実は 村上作品の熱心な読者だった と知って、
発起人(妻) 緊張して 冷汗でーす ・・・v-12
ちゃんと話題についていけるよう、この次は
まだ読んでない「中国行きのスローボート」 捜しておこうかなーって・・・。
で、また お越し頂けるように、がんばって更新します!

木曽のあばら屋さまの 「音楽と本の感想小屋 ( ...Oh、さすが!)」
http://www.h2.dion.ne.jp/~kisohiro/
にも 発起人、おじゃまさせて頂きます。

URL | “スケルツォ倶楽部” 発起人 ID:-

なるほど~!

こんにちは。
「1973年のピンボール」は、「中国行きのスローボート」と並んで
村上春樹氏の小説の中で私が最も愛する作品でありまして、
「ノルウェイの森」より「1Q84」よりずっと読みごたえがあると思うのです。
ゲッツのストーリーヴィルも、2in1のCDを持ってますが、
こちらはそれほど聴きこんでいません。
それにしても「Junmping with Symphony Sid」がそういうことだったなんて、
はじめて知りました。ありがとうございます。
今日もまたひとつ賢くなってしまった私です。

URL | 木曽のあばら屋 ID:GHYvW2h6[ 編集 ]

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