バーンスタインのヘンデル「聖セシリアの祝日のための頌歌」をネット注文したら、レプリカCD-Rが届いた(オン・デマンドのArkiv Music )
スケルツォ倶楽部 Club Scherzo
「空中に消えた音楽を つかまえることは、誰にもできない 」

こんなことは できないのだ
“When you hear music,after it's over,it's gone in the air.
You can never capture it again. “ ( by Eric Dolphy )
音楽は 聴きおわった後、 空中へ消えてしまうので、
再び つかまえることは 誰にも できないのだ (エリック・ドルフィー )
バーンスタインのヘンデル
「聖セシリアの祝日のための頌歌」を ネット注文したら、
レプリカ CD-Rが届いた(オン・デマンドの Arkiv Music盤 )

“スケルツォ倶楽部”発起人です。
今宵は、1963年 4月に シュローダーが買ってきた 三枚のレコードが 何だったかを予想した 前回 の続きとなります。まあ、経緯(いきさつ )など知らなくても 全然大丈夫ですが、もしお時間がおありでしたら、やはり お目通し頂けると 多少は楽しんで頂けるものかと思います。
未読のかたは、こちらから ⇒ シュローダーが買った三枚のレコード
で、その1枚目.メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲 ホ短調

その2枚目.ブラームスのピアノ協奏曲第2番 変ロ長調


そして 3枚目.ヘンデルの「聖セシリアの祝日のための頌歌(オード)」


シュローダーの「3枚目のレコード」が、この レナード・バーンスタイン/ニューヨーク・フィルハーモニック(CBSコロムビア)盤だったのであろう、というところまでは 絞り込めたものの・・・ 実は 私 発起人、この楽曲自体を 今まで聴いたことがなく、レコードはもちろん 手元にCDさえ持っておりませんでした。
やはり聴かないことには、記事の続きを 書くことができません。
調べてみると、オリジナル・ジャケットで 一枚のディスクに復刻されたCD盤は見当たらず。但し、バーンスタイン100枚組/CBS全集 の中には含まれていましたが、これは さすがに予算オーバーです。
オリジナル・ジャケットでなくてもいいや、と早々にあきらめて Amazonで検索していたら、見つけることができました。
それは、あの懐かしい“バーンスタイン・センチュリー”シリーズ特有のジャケット(1998年前/後にソニー・クラシカルから海外リリースされた、バーンスタイン/ニューヨーク・フィル-CBS音源83タイトル以上におよぶ規模の再発CDシリーズ)と同じ、素朴なデザイン・・・。

当時、首都圏の輸入盤店 石丸電気やタワーレコード、HMV などに 同シリーズのディスクが並んでいたのを よく手にとって眺めたものです。そのうち何枚かは 入手し、今も手元にあります。一枚1,200~1,600円前後だったでしょうか、廉価帯のシールが貼られていた記憶も鮮明。手軽で重宝したものです。
けれど・・・

この機会に買っておかないと、もう入手できないかもしれない、などと考え、コンディション:新品 という表示にも背中を押され、結局 注文したわけです。
私 発起人が、ネット注文したのは 2022年11月23日。
アメリカからの国際プライオリティ便で発送され「12月5日までにお届け」される、と書かれていました。
・・・ けれど、到着予定日を過ぎても 届きません。
CDの出品者は Rarewaves-USA という米国の会社、代表者は Bradley Aspess という人、評価を眺めると、配送に遅延が多いものの 85% という まあまあの良い評価です。
さらに一週間経ちました。
すでに出品者の手元から「発送済み」とされる「注文の詳細」を確め、ははあ、どうやら途中で紛失されてしまったに違いない- と考え、「調査依頼」メールを送ってみると、12月13日付で代理店から回答が届きました -
「ウクライナ情勢により 航空輸送はロシア領空の飛行ができなくなった影響で、商品輸送は 迂回ルートを選んでいる。このため通常より時間を要している旨を 理解してほしい」 とのこと。
まあ 今ならそういうこともあろう、とある程度は 想定内の答えも理解しましたが、私のヘンデルは「20,000円以下の少額商品」のため「追跡番号付の発送となっておらず」、「調査対象外である」との説明には ムムッ・・・
それでも さらに一週間が経ちました。
さすがに「よし、返金手続きだ」 - と、決意した 12月26日のこと、そんな こちらの気勢を削ぐかのように、待望の荷物が 国際便で ポロッと届きました。
その小包を開けたら、予想どおり あの“Bernstein Centry”シリーズのCDが。それは柔らかい素材のビニールでラップされた“未開封”新品に「見え」ます。
・・・しかし、何か 変なのです。
私が 最初に違和感をおぼえたのが、CDのクリア・ケースを緩(ゆる)めにラップしている 透明な柔らかいビニール素材でした。かつて輸入盤店で購入したなじみのCDは もっと硬いセロファン素材で殆ど隙間なくラッピングされていたものでした。
まあ、いいや。
と、大らかな私は ディスクのパッケージを開け ブックレットを出します。
写真の画像では 光沢や質感までは伝わりにくいのですが・・・

これは、絶対におかしい。
で、ディスクを トレイから出してみます

これです。
判りにくいと思いますが、ディスク表面の光沢が不自然なのです。
ふと思いついて、他に保有している“Bernstein Century”シリーズの別の一枚と並べ 見比べてみます。

▲ 左 が疑惑の到着品、 ▲ 右 が 真正品です。
これは 明らかにカラープリンタしたレーベルを切って貼ったものでしょう。ディスクの周囲は凸凹しており、真円ではありません。指先で表面に触れると感触も違います、真正品が ツルツルなのに比べ、ザラザラしています。
さらに、ジャケット(ブックレット)も不自然ですから

紙の質が明らかに違います。
写真では 識別しづらいと思いますが、「疑惑の到着品」は真正品に比べると 紙の質にツヤ(光の反射)がありません。カラーコピー並みの品質です。
内側の写真も比べてみましょう。

実物と比べると、違和感いっぱいです。
「疑惑の到着品」ジャケット内側に掲載された写真画質は もはや 一目で コピーそのもの。
そして決定的なのが、ディスクの裏側です。

真正品は、もちろん銀色のプレスCDですが「疑惑の到着品」は“裏青” なのです !
さらに“疑惑”ディスクの青い裏側の レーベル中央を拡大してみましょう。

見えます?
はっきりと CD-R 80 CWLHT-2144 という文字が読めるでしょ。
「音楽用CD-R 80分 インクジェットプリンタ対応」という意味です。
・・・すでに「答え」は 出ています。
これ、絶対に ソニー・クラシカルCDの真正品では ないでしょう!
私 「っかー、あり得ねぇ(怒 ) 」
そこへ 発起人(妻のほう)が、コーヒーカップを片手に 登場・・・。

妻 「あら、アナタ、機嫌がわるいようね 」
私 「まあ 聞いてくれよ (これこれ しかじか ) 」
妻 「CD-Rでも音楽は 再生できてるんでしょ。念のため 確かめてみたら? 」
私 「(やってみる )できた 」
妻 「ちゃんと ヘンデルだった?」
私 「うん。音源も この年代のバーンスタインの演奏で 間違いなさそう 」
妻 「では、少なくとも、詐欺商法の類ではないわね 」
私 「まあ、たしかに。カラー・コピーとは言え、よく見れば そこそこ丁寧な工作だ 」
妻 「(商品を手にとって 眺め )レプリカね、これは 」
私 「CDの? 」
妻 「ケースの裏表紙を見てご覧なさいよ。“真正品”だったら プリントされることの無いマークがあることに気づいた?」

私 「ええと、これか・・・ Arkiv Music ? 見なれないロゴマークだなあ 」

妻 「Arkiv Music - この会社は 米テネシー州に2002年創立された クラシック音楽専門の CD/DVDオンライン小売事業者」

私 「 ? 」
妻 「カタログに掲載されなくなった廃盤CDの複製(レプリカ)を オン・デマンドで作ってくれるの 」
私 「アートワークは こんなカラー・コピーで、中身も こんなCD-Rで? 」
妻 「そのようね、わたしも Arkiv Music のレプリカ実物を見るのは、正直 これが初めて。当然 元の著作権を保有するオリジナル・メーカーに許諾を得た上でやっているはず。このバーンスタインのヘンデルの場合で言えば、CBSコロムビア(OS-254/1961年)から音源の権利を引き継いだ ソニー・ミュージック・エンタテインメント(SMK-60731/1999年)から 更にライセンスを得て作られたレプリカ - ということね 」
私 「1999年以降 音楽CD業界は先細りの一途で、大手メーカーも合併/縮小、大型小売店も閉店したり破産したり。一般に売れ筋なポップスや流行歌と違って、廃盤になってしまったクラシックCDの中でも価値の高い貴重な稀少音源は、サブスクリプション・サービスからは漏れ落ちて 入手困難になっているソースが多いからなあ 」
妻 「連想するのは、古(いにしえ)のローマ帝国時代の史実ね。すでに失われたギリシア時代の彫刻作品の複製品を生産する職人業が当時 繁栄をきわめたという伝承があるのよ。そもそも原作が失われてしまった場合、古代ローマ時代にはレプリカこそが学術的にも芸術的にも価値を有したわけよ 」
私 「クラシック音楽CDをオン・デマンドで 一枚一枚複製を作るなんて、手間のかかりそうな仕事だが、果たして商売として成立するものかな 」
妻 「やっぱり大変だったみたい。Arkiv Music は2008年スタインウェイに買収されたけど うまく行かず、さらに2015年には ナクソス NAXOS に買収され、現在の会社名は Arkiv Music, Inc. だそうよ 」
私 「そうだろうなー (ト、つくづく裏青CD-Rのバーンスタイン盤を眺める ) 」
妻 「わが国でも 日本コロムビア(株)が、受注生産型オン・デマンドCDを 2008年11月から製造していたそうよ 」
私 「えー、全然 知らなかったなー 」
妻 「廃盤となった入手困難CDを 一枚単位で受注生産するというサービス。顧客はCDショップで希望する楽曲をオーダー。同社はオリジナル音源を、通常CDと同じ音質でCD-Rに書き込み、米リマージュのデュプリケータとプリンタを使用して製造していたそうだけど - 」
私 「おっ、文章が過去形になった、ということは・・・ 」
妻 「2020年 1月末をもって、すべての受注を停止したそうよ 」
私 「(タメイキ )音楽を タダにしてしまった動画サイトの世界的な普及が みんなイケないんだ 」
妻 「そこは アナタの独り言よね。だって毎晩ネット検索しては 喜んで聴いてるくせに(笑 ) 」

私 「話題を最初に戻すけど、オレは Amazon に CD-R を注文した覚えはない わけ。耐久寿命も短い 薄っぺらなCD-Rの複製品に、相場より高額の値をつける神経が理解できない。オレは、バーンスタインのニューヨーク・フィル時代の録音を 復刻した“CD”を、それも 新品だって書かれていたから、たとえジャケットがオリジナル・デザインじゃなくても、高い値段に納得して 発注したんだよ 」
妻 「それは 出品者(Amazon)の不注意ね、意図的に隠したのでなければ。これが たとえば トヨタ・エアバッグの模造品だったら、大変なことでしょ 」
私 「相変わらず 比較するたとえが極端だな 」
妻 「でも 実際のところ、正しく品質を明記してさえあれば、この場合は 堂々と はい、これ Arkiv Musicの コピーCD-R ですよ - で OKと思うのよ。消費者をダマすような小細工なんかせず、 はっきりと “これは レプリカです”と断っておいてさ。そして “それでもいいよ”っていう購買者が対象であれば、何の問題もないと思う。CDが稀少品になってしまう 近い将来は、なおさら そうあるべきだと思うな 」
私 「まあ勉強にはなったけれど、この先 ネットで中古CDを注文する時は 慎重にならざるを得ない。真正なCDだと信じて お金を払っても CD-R にコピーされたレプリカが届くようじゃ世も末・・・ 」
妻 「今 手もとにあるCDは 迂闊に手放さず、大事にすることね。いつの日か“真正盤”CD と称して また価値が戻ってくる日が 到来するかもよ(笑 ) 」
この会話のつづきは こちら
⇒ Amazonに “新品CD”を注文したのに コピーCD-Rが届いた件を 問い合わせてみたら




ヘンデル作曲
「聖セシリアの祝日のための頌歌(オード)」を聴く
Ode for St. Cecilia's Day HWV-76


レナード・バーンスタイン指揮
ニューヨーク・フィルハーモニック
F.オースティン・ウォルター合唱指揮
ルットガース大学合唱団
録 音:1959年 5月 2日、カーネギーホール、NewYork
音 盤:海外盤CBS(OS-254)/ SONY(SMK-60731)


(左 )アデーレ・アディソン(ソプラノ)Adele Addison
(右 )ジョン・マッカラム(テノール)John McCollum
私 “スケルツォ倶楽部”発起人、シュローダーが“三枚のLPレコード”を携えて歩く画を、すでに小学校の頃から知っていたのにもかかわらず、不覚にも 今まで その中の一枚であるヘンデルの「聖セシリア~ 」を ずっと聴く機会を持たなかったのでした ・・・己の怠慢を 深く反省。
なぜなら、聴いてみて これほど魅力的な作品だったかと 初めて知って驚いたからです。
頌歌(オード)は、音楽の守護聖人とされる 聖セシリアを讃えるカンタータであると同時に、ひたすら「音楽」芸術への賛美に尽きる歌詩(ジョン・ドライデン作)は、宗教音楽としても特記すべき作品です。聖セシリアの悲劇的な殉教については、意外にも、一切触れられることなく、ひたすら人間の感情と宇宙の調和を形成する「音楽」こそが、全曲の明るい主役となっています。
バーンスタインは、遅めのテンポで 大地を堅く踏みしめるがごとく雄大に全曲を進めます。この当時のニューヨーク・フィルらしく、極めて若々しく雄弁な弦セクションの切れ味が快感です。
首席チェロ奏者ラズロ・ヴァルガによる素晴らしいチェロが 独唱と対等にオブリガートを奏でるアリア「音楽が情念を支配する」では アフリカ系ソプラノ歌手アデーレ・アディソンによる繊細な声の美しさを、ジョン・マッカラムのテノールと合唱による「トランペットの高鳴りに 」の中に顔を出す「ダブル・ダブル・ダブル・ビート ! 」という擬音のような効果的歌詞のオモシロさを、とことん味わいましょう。
大学コーラスの精度は、特にフィナーレのフガートなパートでは 残念ながら 今ひとつ及ばずな感ありですが(人数も少ないらしい )まあ 力一杯で活気にあふれ、必ずしも悪くはないなー とも思いました。
おまけ :
晩年のモーツァルトが「聖セシリア~ 」を編曲した版が聴ける
▲ モーツァルト版「聖セシリアの祝日のための頌歌(オード)」
リン・ドウソン(ソプラノ)Lynne Dawson
ジョン・マーク・エインスレー(テノール)John Mark Ainsley, tenor;
ウィリアム・シャープ(バリトン)William Sharp
クリストファー・ホグウッド(指揮)Christopher Hogwood
ヘンデル & ハイドン・ソサイエティ Handel & Haydn Society
たいへん興味深いことに、モーツァルトが(急逝する前年1790年 7月に )ウィーン宮廷で バロック音楽の崇拝者だったヴァン・スヴィーテン男爵の演奏会用に、ヘンデル原曲「聖セシリアの祝日のための頌歌(オード)」に、アレンジを施しています。
モーツァルトは、管弦楽の編成を大きくし、華やかに装飾面を強調するなど傾聴すべき改変の手を加えていますが、特にフィナーレに先立つ ソプラノのアリア「オルフェウスの竪琴より」とレシタティーヴォを(原曲では起用されない)男声バリトン独唱に替えたことが関心の的です。これは、続く終曲が ソプラノ独唱と合唱によって締め括られているため、聴感と編成全体のバランスを意図的に整えたものでしょう。
また、「モーツァルト事典」(東京書籍)の中で 解説の執筆者 永田美穂氏が「オルガンのアリアは これが上演された会場にオルガンがなかったため、グラス・ハーモニカ で代用された」という、これも興味深い逸話を紹介されています。
私たちは、晩年のモーツァルトの多忙な軌跡を知っているがゆえに、残り少なかった生涯の限られた時間に これほどの大曲を推敲した才能を心から惜しむものです。
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