クリスマスのプレイリスト“クラシカル編” CHRISTMAS“Classical” PLAYLIST
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クリスマスのプレイリスト“クラシカル編”
メリー・クリスマス、“スケルツォ倶楽部”発起人です。
コロナ禍に見舞われる前(2019年 )に編んでみた クリスマスのプレイリスト が思いの外(ほか)好評だったので、今回は その後 ”会員”の皆さまから 数多くリクエストを頂いた 専門の“クラシック音楽”ジャンル限定で セレクトしようと思います。
今回も 小一時間以内に収めるという時間制限を設けてみます。
よくある ありきたりな選曲は極力避けるようにし、クラシック音楽の愛好家の皆さまに楽しんで頂けるよう心がけますよ。

♪ 進呈 スケルツォ倶楽部 Club Scherzo
クリスマスのプレイリスト“クラシカル編”
CHRISTMAS“Classical” PLAYLIST (60min. )


1.プッチーニ作曲(03:16)
「小ワルツ 」(「ムゼッタのワルツ」原型 )
アルバム「プッチーニ、マスカーニ、ジョルダーノ・ピアノ曲全集」収録
録 音:1999年 8月 アンコーナ実験劇場、ボローニャ
音 盤:BON GIOVANNI(GB-5100-2)
クリスマスのプレイリスト、一曲目には さり気ないイントロダクション的なナンバーを置こうと変化球を選びました。
ご存知の方にはお判りのように、この知られざりし短いワルツは プッチーニの出世作となる歌劇「ボエーム」に登場する 可憐で個性的な脇役ムゼッタ嬢が歌う、官能的な小唄「わたしが街を歩けば」に 殆どそのまま転用されています。
「ボエーム」前半(第一幕と第二幕)は、クリスマス・イヴのパリの宵が舞台です。このワルツ自体は 必ずしもクリスマスをテーマにしているわけではありませんが、これから聖夜を迎えようとする庶民の(まだ宗教的な香りがしてくる前の)日常的な空気感から入っていければと考え、ここにセレクトしたものです。
・・・って 伝わりませんか? いいんです、私“発起人”の勝手なこだわり世界の中の些事ですからw


2.チャイコフスキー作曲(03:44)
バレエ「くるみ割り人形」
第一幕 情景「クリスマスツリーの飾りつけ 」
ヴァレリー・ゲルギエフ(指揮)
マリインスキー(キーロフ)劇場管弦楽団
録 音:1998年 8月 バーデン・バーデン祝祭劇場、ドイツ
有名な「小序曲」に続いてバレエの幕が上がり「クリスマス・ツリー」と名づけられた情景が。大きなクリスマスツリーに子どもたちがイルミネーションを飾っています。
この翌年急逝することとなるチャイコフスキーが書いた音楽は、弦の刻みと滑らかな付点レガートに木管も絡み、あたかも暖炉の炎が客間の壁に投影されたツリーの大きな影を暖かくゆらゆらと揺り動かしている様子までも表現する、優れた技巧です。
「花のワルツ」か「雪片のワルツ」、あるいは 同じチャイコフスキー作品でも「クリスマス週間」と題された組曲「四季」の“12月”を選曲しようかなどいろいろ考えましたが、やはり ここでもクリスマスに対し まだ宗教的な意義を理解する前の子どもたちの日常から入って行ければ - と、独りよがりな意図からセレクトしたもの。
数ある「くるみ割り~ 」の中から わざわざ この一枚を選んだ理由とは、 2022年 不幸な境涯となったゲルギエフ氏に (その才能に免じ )どうか悪を断ち切り 童心に回帰してほしいとの願いを込めて -


3.J.S.バッハ作曲(07:54)
クリスマス・オラトリオ BWV.248
第1部 第1曲「いざ祝え、この良き日を 」
シギスヴァルト・クイケン(指揮)
ラ・プティット・バンド(オーケストラ & 合唱団 )
エリーザベト・ショル(ソプラノ )
カテリーナ・カルヴィ(アルト )
クリストフ・プレガルディエン(テノール )
ウェルナー・ヴァン=メーヘレン(バス )
録 音:1997年12月16日 ブリュッセル、パレ・ドゥ・ボザール
音 盤:日本コロムビア / DENON Aliare (COCQ-83059~60 )
はい、ここから「スケルツォ倶楽部」“会員”の皆さまに 伝統的なヨーロッパのクリスマス音楽の世界へと 一気にワープして頂きましょう。J.S.バッハは、マルティン・ルターのドイツ・プロテスタントに端を発する教会音楽の流れを仕上げた偉大な存在。それは 同時に近代音楽の基礎となったわけですから、キリスト教圏の宗教音楽を語ろうとする時、バッハを避けて通ることなど 決して出来ません。
冒頭から思いきり弾(はじ)ける ティンパニの快さ、稀有なほど柔和な金管と木管の表情、擦過音のさざ波も美しいニュアンス豊かな合唱をとらえた優秀録音にも聴き返す度 圧倒されます。
詳しくは 過去記事 ⇒ クリスマスって、何を お祝いする日なんですか - J.S.バッハ「クリスマス・オラトリオ 」(クイケン盤 )を聴く。


4.カタルーニャ民謡/リョベート編(02:10)
「聖母の御子」
アルバム「ホセ・ルイスの至芸 - アルフォンシーナと海」収録
ホセ・ルイス・ゴンザレス(ギター)
音盤:ソニー(32DC-1031)
スペインのカタルーニャ地方は、南フランスと境を接する地域。アルベニス、グラナドゥス、カザルス、モンポウ、カバリエ、カレーラスなど、この地方からは数多くの著名な音楽家が輩出しています。
リョベートもこの地の出身で、故郷の民謡を数多くギターに編曲し紹介しています。タイトルの「聖母の御子」とは もちろんキリストのこと。幼児イエスが安らかに眠る、その静かな呼吸までをも感じさせる美しい楽曲です。
セゴヴィアの継承者として高い評価を得ていた名手ホセ・ルイス・ゴンザレス(1932-1998)が 来日した際の東京でのレコーディング。このような小曲にも 実に味わい深い語りくちです。



5.アイヴズ作曲(02:08)
歌曲「クリスマス・キャロル」
マーニ・ニクソン(ソプラノ)Marni Nixon
ジョン・マケイブ(ピアノ)John McCabe
録 音:1967年 7月、ロンドン
音 盤:EMI Compilation Album“American Classics”(2-06631-2 4)
複調、無調、引用、クラスター、コラージュetc. を大胆に採り入れた、新しい音響の先駆者チャールズ・アイヴズの作品とは、言われなければ絶対に判らない、極めて素朴で自然なクリスマス・ソングです。
その歌詞も 古(いにしえ)より歌い継がれてきたクリスマス祝祭歌詞を、ある意味、アイヴズが自由にコラージュしたものと考えることも出来ると思います。
「私たちの心の耳で 御声が聴けるでしょうか」、「天の父なる神の住まわれし所より、私たちのためにご自分のお命を捨て去る方がいらっしゃった」という部分には胸が熱くなりますし、末節に置かれたラテン語歌詞「ヴェニテ・アドレムス・ドミヌム Venite adoremus Dominum」は、いわゆる「いそぎゆきて拝まずや」です。
はじめディートリヒ・フィッシャー=ディースカウが英語で歌った、珍しいアイヴズ歌曲集(1976年 / DG盤)の中からリストアップするつもりでしたが、いろいろ物色しているうち ディースカウには もっとさらに興味深い録音をみつけてしまった(後述)ので、ここでは 知る人ぞ知る名歌手マーニ・ニクソンが「あの」魅力的な声で歌った貴重なレコーディングのほうをご紹介します。
過去記事 ⇒ 主役を歌っても無名の吹替歌手マーニ・ニクソン



6.フォーレ作曲(04:12)
「クリスマス」 ~ ソプラノ、ピアノ と オルガンのための
Noël op.43-1
シモーナ・サトゥローヴァ(ソプラノ)Simona Saturova
ラルフ・オットー(指揮)Ralf Otto
ペトラ・モラート=プジネッリ(オルガン)Petra Morath-Pusinelli
ブルクハルト・シェーファー(ピアノ)Burkhard Schaeffer
併録曲:サン=サーンス「クリスマス・オラトリオ」、同 モテット「どれほど愛されていることでしょう」、フランク「天使のパン」、同 詩編150番「主をほめたたえよ」、グノー「ノエル(クリスマス)」、J.S.バッハ/グノー「アヴェ・マリア」、フォーレ「ラシーヌの雅歌(1885年版)」
録 音:2008年 6月 ヴィースバーデン(ドイツ)聖キリアン教会
音 盤:ドイツ・ハルモニア・ムンディBVCD-31021
同じフォーレが残した「レクイエム」を連想させられる、一粒の宝石がごとき美しさに輝く「クリスマス」です。レコーディングされた会場が教会内であるためでしょう、演奏中に発せられし音のすべてが瞬時に高い天井を登っていくような、広い独特な音場を感じさせてくれる録音です。
泊まるべき宿もなく馬小屋に身を寄せ夜更けに出産する聖母マリア。無事に生まれた男の子を夫ヨセフが飼葉桶に寝かせた時、誰でしょう、戸外に物音が。それは東方から訪れた高貴な三賢者、彼らは不思議な星に導かれ何ヶ月も前に故郷を出発、正しくこの日/この場所にたどり着いた、神秘的な存在です。
- まさしく この馬小屋は神殿
- この幼子こそ あなたたちの王とならん !
DHM「近代フランスのクリスマス音楽」と題された、秀逸な企画盤の中に収められた一曲ですが、アルバム収録曲すべてがいずれも敬虔で静謐、何もなかったはずの聖なる一夜を想うに相応(ふさわ)しい・・・。
想えば、馬鹿騒ぎの「クリスマス」の愚に気づいたあなたは、この一枚のディスクを音量も控えめに流しつつ、独り静かに聖書を読みながらキリスト・イエスの生涯と向き合う時間のほうをきっと選ぶでしょう。



7.ラヴェル作曲(03:12)
歌曲「おもちゃのクリスマス」
フェリシティ・ロット(ソプラノ)
ダルトン・ボールドウィン(ピアノ)
録 音:1983年 3月
音 盤:EMI(東芝EMI / TOCE-11169~71)ラヴェル歌曲全集
キリスト生誕の馬小屋を再現するジオラマに置かれたおもちゃの動物たちを使って、救世主の到来を世界が喜ぶ有様を生き生きと描写します。その素晴らしい発想と歌詞もラヴェル自身による1905年の作。
ソナチネ(第2楽章)、「マ・メール・ロワ」、「子どもと魔法」など、多才なラヴェルの魅力的な作品たちの香りも ちらちらと見え(聴こえ)隠れします。これには何と、管弦楽伴奏版もあるらしい・・・ 発起人未聴。うーん、聴いてみたいなあ。
かくも素敵なスモール・ワールドに、果たしてどんな御開きが待っているんだろと思いながら最後まで聴いていると おもちゃの動物たちは一斉に、天に向かって ロ長調で叫びます「ノエール(聖夜)!」「ノエール(クリスマス)!」「ノエール!」と・・・ その効果たるや まるで祝祭ファンファーレのよう。
ラヴェルの音楽カテゴリーは こちら ⇒ アンラヴェル “ラヴェル” ラヴェルメント
“発起人”の拙いクリスマス小説 ⇒ サンタクロース物語 "it's a small world"



8.ヘンデル作曲(04:53)
オラトリオ「メサイア」
第11曲「ひとりの嬰児(みどりこ)が 私たちのために生まれる」
ニコラウス・アーノンクール(指揮)
ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
アルノルト・シェーンベルク合唱団 Arnold Schoenberg Choir
録 音:2004年12月18、19日 ウィーン、ムジークフェラインザール
音 盤:RCA = BMGジャパン ( BVCD-34030~31)
J.S.バッハの次に クリスマス週間に聴いておくべき必修のナンバーとして やはりヘンデルの「メサイヤ」も外せませんね。初めて聴いた時の衝撃が忘れがたいアーノンクール解釈による「ハレルヤ・コーラス」は また別の機会にとっておくことにして、ここでは 救世主の生誕を祝う合唱曲を聴きましょう。
少し脱線しますが、赤ちゃんのことを嬰児(みどりこ)と呼ぶのは、わが国では古く大宝令(701年)において三歳以下の幼児を「緑」と呼び慣らした規定に由来するものだそう。生まれたばかりの子は 新芽や若葉のように生命力に溢れていることから「新緑」にたとえられたのでしょうか。
後世ベートーヴェンが好むことになる 付点リズム「たーん、ととん」と同じ動機 で叫ぶ「ワーンダフォー!」「カゥンセラー!」に、キリスト生誕の歓喜も大爆発(笑)


9.バリオス作曲(03:17)
「クリスマス・キャロル」Villancico de navidad
ジョン・ウィリアムス(ギター)
収録曲:ワルツ第3番、前奏曲ハ短調、クエカ、マシーシャ、大聖堂、フリア・フロリダ、ワルツ第4番、最後のトレモロ、マズルカ・アパッショナータ、蜜蜂、古いメダル、哀愁のショーロ、サンバのしらべ、アコンキーハ、前奏曲ト短調、森に夢見る
録 音:1994年 6月 ロンドン
音 盤:SONY(SRCR-9763)
アグスティン・バリオス Agustín Pío Barrios(1885~1944 )は、南米パラグアイのギタリスト / 作曲家でした。「ギターのショパン」とか「旅を愛するロマンティックな流浪の詩人」と言われ、前半生を楽旅に費やしました。
パラグアイ国内はもちろん1910年以降は、アルゼンチン、ウルグアイ、ベネズエラ、コロンビア、パナマ、コスタリカ、エルサルバドル、ニカラグア、グアテマラ、メキシコ、キューバなど中南米(ラテンアメリカ)を、特にブラジルには15年間滞在してヴィラ=ロボスと親交を持つなど 幅広く演奏活動を続けました。1934年から1936年にはベルギー、ドイツ、スペイン(では爵位を授与された)などヨーロッパを訪問して名声を博してい(渡欧したのは1935年の一度だけ、との資料もあり)ます。晩年は、エルサルバドルで国立音楽院ギター科の教授を務め、その地で 59歳の生涯を閉じました。
その生涯に 300曲以上ものギター作品を書いたとされますが、書き上げたら手元に残すことなく、その場で友人や弟子の手に譜面ごと渡してしまうような無欲で大らかな性格だったため、殆どが散逸してしまったとされます。作品の価値を認め、遺された手稿を積極的に演奏会で採り上げるなど “バリオス復権”に尽力したのがジョン・ウィリアムスでした。バリオスの名前が一般に浸透するようになったのは、彼が1976年に録音した世界初のバリオス作品集をリリースしたという功績も大きいでしょう。
このプレイリストにアップした演奏は、バリオス没後50年という記念年に ウィリアムスが 再レコーディングを果たした新録音のほうから。名曲「大聖堂」や人気の「森に夢みる」などとともに、この小さな佳作「クリスマス・キャロル」も もちろん再演されていました。



10.アダン作曲(04:01)
「オー、ホーリー・ナイト」Cantique de Noël
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(バリトン)
イェルク・デムス(ピアノ)
コンピレーション・アルバム“Merry Christmas = Frohe Weihnachten”収録
録 音:1970年11月24~25日(LP未発表)イエス・キリスト教会、ベルリン
音 盤:Deutsche Grammophon (Universal Music) B-0005068-02
このアルバムは 2005年リリース。ジャケットの地味な装丁のせいで、実は 初めて輸入盤店で見かけた時は手にとることさえしませんでした(笑)。一度帰りかけてから、何となく気になって売場へ戻り、よくよく眺めたらディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ、カール・リヒター、ヘルマン・プライ・・・ という名前があるのを確かめ、初めてレジへ走ったものです。
帰宅してライナーを広げて見たら、古くは1950年から 新しくても1970年までにドイツ・グラモフォン・レーベルに残されたクリスマス関連のレコーディングを集めたCD二枚組という規模の貴重なコンピレーション・アルバムでした。
カール・リヒター指揮/ミュンヘン・バッハ管弦楽団によるJ.S.バッハ「マニフィカート ニ長調 BWV 243」(1961年)、フリッツ・ノイマイヤーが室内楽伴奏にアレンジを施したミヒャエル・プレトリウスのプロテスタントの讃美歌等を フリッツ・ヴンダーリヒとヘルマン・プライが歌ったレコーディング(1966年)、ヘルムート・ヴァルヒャが1947年から1952年にかけて取り組んだJ.S.バッハのオルガン作品全集(第一回録音)の中から BWV.733、BWV.734、BWV.769、BWV.590 の四曲(収録曲はいずれも1950年録音)、映画「菩提樹」やミュージカル「サウンド・オヴ・ミュージック」のモデルとなったトラップ・ファミリー合唱団によるクリスマス・メドレー(1951年録音)などなど・・・。
中でも 私 発起人が最も注目したのは、1970年フィッシャー=ディースカウとイェルク・デムス(ピアノ)によって録音された ライネッケ、レーヴェ、フンパーディンク、レーガーなどドイツ系作曲家によるクリスマス歌曲に混じって L.P.時代には未発表だったとされる アダン作曲 Canteique de Noël すなわち名曲「オー、ホーリー・ナイト」の存在でした。その驚嘆すべきバリトンの巧さ、美しさ ! それは まるでヴォータンが ヴァルハラ城を見上げて朗々と(フランス語で ! )歌うような・・・ 声量の豊かさ、その立派な歌唱には どなたもきっと心を揺さぶられると思います。珍品などと呼ぶには相応しくない、2005年までずっとお蔵入りされていたことが信じられない、素晴らしいレコーディングです。


11.オネゲル作曲(12:34)Excerpt
「クリスマス・カンタータ」抜粋(児童合唱-二回目の“Freu dich,Freu dich”以降から)
エルネスト・アンセルメ(指揮)
スイス・ロマンド管弦楽団
ピエール・モレ(バリトン)
ローザンヌ青年合唱団、放送合唱団、ヴィラモン学校少年合唱団
録 音:1961年11月 ジュネーヴ
音 盤:DECCA / ユニバーサル(UCCD-4129)
併録曲:ドビュッシー 神秘劇「聖セバスティアンの殉教 」
スイスの作曲家アルテュール・オネゲル(1892~1955)最後の作品、25分にも満たない短いカンタータですが とても魅力的な声楽作品の傑作です。
当初、スイスの小村セルツァッハで上演される「受難劇」として、1940年から詩人アルクスの台本とオネゲルの音楽とによって構想されていました。パリが第二次世界大戦の占領下にあった時期も含め、9年間に渡って作品は少しずつ書き進められていたものの、1949年 アルクスの自決によって未完成となってしまいました。企画を惜しむ声が高まり、その一部分でも作品化することを親友パウル・ザッハーに委嘱されたオネゲルは、その時 すでに重い心疾患を患っていたものの、命を削るようにペンを進め、その死を目前にした1953年「クリスマス・カンタータ」として完成させたのです。ああ、よくぞ完成させてくださった(嬉し泣き)。
その初演は、同年12月バーゼルにおいて。オネゲルが亡くなるのは その翌々年のこと・・・。
カンタータ全体は三部構成ですが「キリスト降誕」を祝う第2部以降の敬虔な美しさは、どなたも一度聴いたら決して忘れられないでしょう。
“スケルツォ倶楽部”のクリスマス・プレイリストも、第1部の暗黒パートは割愛とさせて頂き、第2部の天使ら(児童合唱)が 二回目の“Freu dich,Freu dich”と 可愛らしく喜び歌う個所(09:45)からスタートすることにさせて頂きました。
これほどの名曲にもかかわらず なぜか良いレコーディングは少ないです。私 発起人の推薦盤は 上掲のアンセルメ(デッカ/ロンドン)盤 - この名曲の存在を 初めて教えてもらえたという、個人的な思い入れが加味されてのこととは自覚しています - さすがに録音には少々古さを感じるようになりましたが、新しいレコーディングで このアンセルメ盤を凌ぐほどの敬虔な潤いを豊かに感じたことはありません。たとえば マルティノン(EMI)盤などは せっかくの肝心なシーンで テンポが速すぎ、著しく情緒を欠いています。穏やかに進行する 後半の“聖歌タペストリー” 効果を アンセルメほど 素朴に美しく聴かせてくれる演奏に、未だ出会えていないのです。
キリスト到来を告げる重要な天使パートは バリトン・ソロ(ピエール・モレ)が務め、やがて フランス、ドイツ、オーストリア、イギリスなどの有名な賛美歌が、それぞれ世界の言語で同時に進行しながら 複雑な対位法による音楽的コラージュとも言える、夢のようなパートが訪れます。この場面に訪れる感動を、私ごときが拙い言葉で描き表わすことは出来ません。賛美歌「いざ歌え、いざ祝え」が、「きよしこの夜」が、グレゴリオ聖歌「主を讃えよ ラウダーテ・ドミヌス 」( バッハのカンタータ140番「目覚めよ、と呼ぶ声が聞こえ」に使用された あの コラール旋律部分 )が、一斉に、同時に聴こえてまいります・・・ ああ、何という素晴らしい名曲でしょうか。大好きです、もう手放しで絶賛したい。


12.J.S.バッハ作曲(03:29)
クリスマス・オラトリオ BWV.248
第6部 第64曲「今 お前たちの仇は討たれた 」
シギスヴァルト・クイケン(指揮)
ラ・プティット・バンド(オーケストラ & 合唱団 )
録 音:1997年12月16日 ブリュッセル、パレ・ドゥ・ボザール
音 盤:日本コロムビア / DENON Aliare (COCQ-83059~60 )
これは プレイリスト3 と同じ、J.S.バッハ「クリスマス・オラトリオ」から、最後のフィナーレです。バッハの終曲を置くことなく、無邪気にプレイリストを終わらせるわけにはまいりません。歓喜に沸き立つ器楽合奏に乗せて 合唱が歌うメロディ「マタイ受難曲」で聴かれるコラールの旋律が、そのままフラッシュバックするように目の前をよぎってゆきます。これはキリスト「降誕」の意義を成就させるものが、すなわち「受難」以外の何ものでもないことを明示しているのです。
詳しくは 過去記事 ⇒ クリスマスって、何を お祝いする日なんですか - J.S.バッハ「クリスマス・オラトリオ 」(クイケン盤 )を聴く。


13.モーツァルト作曲(03:47)
「アヴェ・ヴェルム・コルプス」K.618
ジョージ・ゲスト指揮
ケンブリッジ・セント・ジョン’ズ・カレッジ聖歌隊
(オルガン伴奏)
併録曲:ア・テンダー・シュート(ゴルトシュミット)、わが祈りを聴きたまえ(メンデルスゾーン)、主よ、人の望みの喜びよ(J.S.バッハ)、私は光を見て(シュタイナー)、このように あなた方にも今は(ブラームス)、第一旋法のソナタ(リドン)
録 音:1958年
音 盤:Argo/LONDON-DECCA “Hear My Prayer”収録
本プレイリストのエピローグには、敢えてモーツァルトを選びました。
そのケンブリッジ大学聖歌隊セント・ジョン'ズ・カレッジは、1670年以来 英国国教会の大聖堂の伝統に従った礼拝における役目を担ってきた歴史的な団体です。伝統的に同大付属小学校に属する16人のボーイ・ソプラノを担う少年聖歌隊員(トレブル)と 4人の見習い生、および低声部を受け持つ16名の男子大学生、そしてアルト(カウンターテナー)、テノール、バスを歌う男子学生(は、英国全土および海外から聖歌隊奨学生として選抜されたカレッジの学部生)によって構成されています。
その豊かな男声と 濁りのないボーイ・ソプラノ/ アルトによる 素晴らしい歌声には 耳が清められる想いさえします。決して女声が良くないとかいうつもりで申し上げているのではありませんが、この歴史ある男声アンサンブルの素晴らしさは 別格の価値です。たとえば 子音の発声が微妙に不揃いであるにもかかわらず、まるで さざ波が立つような擦過音のウェーヴを聴くようで 少しも不快ではなく、むしろ人間が無心に声を揃えるという行いの尊さに気づく、まさに一つの学びでしょう。
さて、ザルツブルク時代には相当な量の教会音楽を手がけていたモーツァルトでしたが、今回あらためて調べてみたところ、純粋にクリスマスを祝す機会音楽は残されていませんでした。作られた大半の宗教音楽は 略式ミサであり、若きモーツァルトには 専ら祝祭日を除く 平生の日曜日にあげる日常的なミサのための仕事ばかり割り当てられていたことが、その理由だったようです。残念ですね。
その代わり、モーツァルト最晩年の名曲「アヴェ・ヴェルム・コルプス」を、“スケルツォ倶楽部”発起人がセレクトした 今年のクリスマス・プレイリストの“エピローグ”とさせて頂きました。その理由とは、この短いモテットの歌詞が、まさにクリスマスを祝うことの意味を語っているからに他なりません。

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