本記事は 7月16日「 人気記事ランキング クラシック音楽鑑賞 」で 第1位 となりました。
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スケルツォ倶楽部
名優ゲアハルト・シュトルツェの演技を聴く
 オルフ「オイディプス王」(クーベリック)D.G.ゲルハルト・シュトルツェ(最小サイズの肖像写真)  目次は こちら

(11)オルフ「オイディプス王 」初演、
   タイトルロールを 務める

カール・オルフCarl Orff シュトルツェ、オイディプス王を演じる_Vienna 1961
(左 )作曲者カール・オルフ
(右 )初演の舞台写真(中央が タイトルロールのシュトルツェ ミュンヘン・オルフ・センター所収


 1959年は、戦後バイロイト音楽祭が再開されてから初めて「ニーベルングの指環」上演がお休みになった年でした。
 ゲアハルト(ゲルハルト )・シュトルツェも、エーリヒ・ラインスドルフ指揮による「マイスタージンガー」でダーヴィッド役を務めたのみで、これ以外には 特に端役の出演もありませんでした。
 この年は、シュトルツェは オルフの舞台作品「オイディプス王世界初演において タイトルロールを演じる、という大仕事が控えていたためか、ある程度 他の歌劇場等への出演を控えていたようにさえ思えます。
 このドラマに使われた台本は、演劇の歴史的革新者である存在 ソポクレスの悲劇「オイディプス」を、フリードリヒ・ヘルダーリンがドイツ語訳した戯曲で、これにオルフは 殆んど そのまま作曲しています。
 シュトルツェが主役を演じた「オイディプス王初演のライヴ録音(1959年12月)が存在します。そのディスクの紹介と試聴感想 次回 にさせて頂きますが、今回は このギリシャ悲劇史上 最高峰とも言い得る 秀逸なストーリーについてを、( 私自身への覚え書き という目的もあって )以下、簡単にまとめさせて頂きました。どうぞ お付き合いください。

■ 本当に傑作! 「オイディプス 」のストーリーと構成 
 Archeologico_firenze2C_bronzi_della_Meloria2C_sofocle[1]  アングル 「スフィンクスの謎を解くオイディプス」1808年 
(左 )ソポクレスの胸像、(右 )アングルスフィンクスの謎を解くオイディプス

 この古典原作の比類なき素晴らしさを何にたとえたらよいでしょう。それは、多くの識者も指摘しておられるとおり、あたかも近現代の推理小説のように「事件が起こってしまった時点から主人公(オイディプス)が自分自身の過去を辿り、真実を追求してゆく松岡正剛氏 )」という画期的なストーリー構成緊迫した劇的プロセスにあるのです。

■ 先王ライオスを殺した犯人は 誰だったのか? 
 ドラマは、テーバイを治めている王で明君オイディプスが、疫病に襲われた国の惨状に心を痛め「 これほどの神の怒りの原因は 一体どこにあるのか 」という問いの答えを、予言の主神アポロンに求めるため 神殿へ遣わしたクレオンオイディプスの王妃イオカステの弟)が、授けられた神託を携え テーバイに帰還してくるところから始まります。
 そのアポロン神のお告げとは、「先王ライオスの殺害者を探せ」という意外なものでした。
 現王であるオイディプステーバイの王位に就く前まで この国を治めていた先王ライオス( 今はオイディプスの后になっているイオカステの前夫でした )は、すでに亡くなっています。しかもその最期は悲惨なものでした。外出中、山賊とみられる者(たち)の手によって山中で殺害され、その犯人は 行方不明のままであるというのです。
 ライオス王の死後にテーバイへやってきたオイディプスは、ライオスの顔さえ知りませんでしたが、このアポロンの神託を聞くや否や、かつて自国を治めていた王にして 愛する王妃の前夫でもあったライオスへの敬意から、直ちに先王を亡き者にした真犯人の探索を命じるのでした。
 これを受け、過去を知る関係者・目撃者や、真実を知る預言者、そして状況を覆す他国からの使者などが 次々と舞台に現れ、やがて隠されていた予期せぬ真相が徐々に明らかになるにつれ、舞台の観衆はオイディプスと共に、一気にカタストロフィーへと叩き込まれてしまうのです。

≪ もし まだストーリーをご存知ないという幸運な方は、以下 ネタバレにご注意。≫

■ 物語における事件の真相とは 
 驚くべきことに オイディプス王は、若き日の先王ライオスと少女だった妃イオカステとの間に出生した王子その人だったのです。しかし、誕生直後 父王ライオスによって死を望まれ、生まれてすぐに両足をピンで刺されたまま山中に捨てられた、という境遇から語り起こされます。・・・なぜ そんな酷いことをされたのか。それは、やはり神託によって「生まれたこの子は、やがて実父を殺すであろう」という恐ろしいお告げをライオス王が聞いたためだったのです。
 その後 九死に一生を得、無事に他国コリントで成長したオイディプスは、自分の出生についての秘密は何ひとつ知らされず、実子として育ててくれたコリントの王族を真の親であると信じて、成人しています。しかし、再び神託によって「お前はやがて父親を殺し、母親と子をもうけるであろう」という恐ろしい預言を受けたオイディプスは、自分が育った国コリント母国と信じるばかりに そこを飛び出し、放浪の旅へ出るのでした。
 足の向く方角が真実の故郷であることさえ知らずに テーバイへと進んでいたオイディプスは、山中で「道を譲れ」「譲らぬ」といった些細なことから紛争に巻き込まれ、その時、半ば正当防衛から 実父とも王とも知らずに 老ライオスを殺してしまっていたのでした。この時、ライオスにとっても また オイディプスにとっても 不幸だったことは、王がお忍びの外出中だったため 護衛の人数も少なかったことです。
 衝撃の事実は、それだけではありません。その後、当時テーバイに危機をもたらしていた怪物スフィンクス退治といった 大いなる功績により、救国の英雄として迎え入れられたオイディプスは、奇しくも この国の王として戴冠することとなり、(先王ライオスの妻だった)イオカステ実母と知らずに后にし、子供までもうけていたことを知らされるのでした。
 関係者の証言から、逸早く真実に気づいた后のイオカステは、真相が明るみに出る前に ひとり自害して果ててしまいます。そして、ことの全てが明らかになった時・・・オイディプス王は嘆きの極致に達し、亡き母にして妃であったイオカステが身に着けていた衣装からブローチを引き抜き、そのピンで自分自身の両眼に深く突き刺すのでした。
 己が手で盲目となることを選んだオイディプスは、王位をイオカステの弟クレオンに譲ってテーバイを去り、新たに放浪の旅へ出るところで この壮烈なる悲劇は幕となります(その後、アテナイ近郊コロノスの森で亡くなるまで、まるで リア王に従うコーディーリアのように 父オイディプスに付き添う娘が、前述のアンティゴネーです)。
 Oedipus Norbert Schmittberg; Staatstheater Darmstadt 2006  テッシェンドルフ 「盲目の父オイディプスに従うアンティゴネー」 
(左 )ノーベルト・シュミットベルク Norbert Schmittberg 演じる オイディプスダルムシュタット歌劇場2006公演より)、
(右 )テッシェンドルフ盲目の父オイディプスに従うアンティゴネー


 ここで、 松岡正剛氏が記した ソポクレスの原作「オイディプス」についての鋭い考察を 以下、敬意を込めて 引用(青字の部分)させて頂きたいと思います。素晴らしい考察です。出典を明記しましたので こちらもどうぞご参照ください。 ⇒ 松岡正剛の千夜千冊 http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0657.html 

「・・・こんなに重い物語はなく、こんなに緊張を強いられる舞台は、ほかにない。(中略 ) しかし、あらためてふりかえってみると、この戯曲は奇怪な仕上がりになっているとも言える。なんと舞台上では、まったく事件がおこっていなかったのである。事件の経緯の一切は、神託か、回顧か、使者の説明か、後の祭りばかりなのである。イオカステの自害も舞台では見えないし、むろんいっさいの王(父 )殺しも、わが子の放棄も見えてはこない。主人公のオイディプス王が、自身の出自と犯罪とを探索しただけなのだ。 / すなわちこの悲劇は、実のところは、悲劇の発見のための悲劇だったのである。もっとわかりやすくいえば、オイディプス王は世界史上最初の探偵であって、同時に、世界史上最悪の、最も悲劇的な犯罪者だったのである。 / くだいていうなら、ソポクレス以降、こんなに恐ろしい推理小説を描けた者はいなかったのだ。もし 似たような作品があったとしても(いくつもあるのだが )、それらはすべてソポクレスの『オイディプス王 』の踏襲に過ぎないのだ 」

次回 (12)オルフ「オイディプス王 」二つの録音を聴く に続く・・・

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