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ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made
ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made
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40. ミンガス Mingus (ジョニ・ミッチェル )
160×160 ジョニ・ミッチェル ミンガス ジョニ・ミッチェル ミンガス(中ジャケ)1979 Joni Mirchell Jazz Singer

 ジョニ・ミッチェルと、一年以上ぶりに ジャコは ハリウッドA&Mスタジオで再会した。
 お互いに顔を会わせるなり ジョニの瞳からは 大粒の涙が溢れた。彼女は ミンガスの訃報にショックを隠せない様子だった。
「もう、忙しいジャコなんか嫌い ! 」

 どんな顔をして彼女に会えばよいか、ジャコには言葉もなかった。
 もう取り返しがつかない・・・ レコーディングを前にして 亡くなってしまった御大ミンガスの難病が それほど深刻に進行していたことにさえ想いを巡らせなかった自身を、そんな自分を信じて待っていたジョニの期待に応えられなかったことを、ジャコは 不甲斐なく感じた。

 二人はレコーディング・スタジオの隣に設けられた応接室へ向かい、ゆったりとした革張りのソファへ 差向いに腰を下ろした。
「もし最初から貴方(ジャコ )が そばにいてくれたなら、チャーリーとわたしのアルバムは、間違いなく 今ごろ完成していたわ・・・ 」
と、心底悔しそうにジョニは呟くと 両手に自分の顔を埋めた。

「その・・・ どこまで、進んでいたんですか? レコーディングは?」
ようやく話しかける気になったジャコが、口を開いて訊ねた。
ジョニも ようやく落ち着きを取り戻していた。
「チャーリー翁から 去年の春先に 病状の深刻さを告げる手紙と一緒に、 6つほど新曲のメロディをプレゼントされたの、どれも素晴らしいのよ。それらに歌詞を付けてほしいって頼まれて - 」
ジャコは 顔を上げた。
「約束どおりアナタを連れて、会いに行くつもりだった。だから アナタには 何度も手紙で報せたわけ、でも ウェザー・リポートのワールドツアーで 日豪欧に 飛んでいたんじゃ 所詮 無理よね・・・ 連絡つくはずがなかったんだわ 」

ミンガス翁とジョニ・ミッチェル(1) ミンガス翁とジョニ・ミッチェル (2) ミンガス翁とジョニ・ミッチェル (3)
ジョニは 話を続ける。
「チャーリーは すでに死期を悟っていたって感じだったわ。でも創作欲は全然衰えていなかった。彼の音楽性、人間性、生い立ちと人生を知れば知るほど、わたしは チャーリーの“最期のポートレイト”を 忠実に描くという重責に夢中になったの・・・
「渡された新曲のメロディから 3曲に、チャーリー・ミンガスその人の喜びや怒り、彼の同胞が嘗めてきた厳しさ、苛酷な苦しみを 詩的な歌詞にして心を込めて書き、いかなる姿勢で歌うべきかが明白に見えてきた・・・。
「途中、曲想を具体的にするべく、今 ワーナーに出向しているデヴィッド・ゲフィン に相談して レーベル契約を交わしているジャズ系ミュージシャンを何人か揃えてもらったの。
「アナタがいないから 代わりに エディ・ゴメス(ベース )や スタンリー・クラーク(ベース )が、さらにはトニー・ウィリアムス(ドラムス )とか ジェリー・マリガン(バリトン・サックス )とかフィル・ウッズ(アルト・サックス )、そしてヤン・ハマー(シンセサイザー)まで・・・、何の脈絡もなく大物プレイヤーばかりが呼ばれちゃって、そうしたら本当は音頭を取るべき わたしのほうが逆に緊張してきちゃってさ、スタジオでは 何も上手く伝えられなくなって・・・ 」
「ええと、結局どうなったんですか?」
「そうね、要するに もうどこを聴いても わたしのアルバムじゃなくなっちゃったのよ。いえ、決して悪い演奏ではなかったのよ、むしろ 聴く人が聴けば いいね ! って、評価してもらえそうな出来ではあった・・・ それはそうよ、凄腕のジャズ・ミュージシャンが揃ったんだもん。でも、ただのジャズ・セッションになっちゃったってわけ。だからゴメンナサイ、帰ってくださいと、先生方のご参加は やっぱり無かったことにしてくださいって - 」
そう言うと 少し脱力したように 彼女は笑った、が その微笑みには 自虐の影が差している。そんなジョニ・ミッチェルは 軽く頭を振ると、ジャコに 向き直って言った。
「チャーリーとの共作アルバムは ようやく楽曲も揃い、構成も決まり、何とか完成の目途がついたところ。翁が生前から好んで演奏していた名曲『グッドバイ・ポークパイ・ハット 』にも、わたし、新しく歌詞をつけてみたのよ。
「さらにスー=グレアム(ミンガス夫人)は、チャーリーの肉声が入った生録テープを親切にも提供してくれたの、何らかの形で これは使いたいものだわ 」
これを聞いたジャコは 即座に思いついて言った。
「贈られたミンガス翁の音声を、アルバムの中で 楽曲と楽曲の間に ドキュメンタリー風に挿入してみるというのは、どうでしょう? 」
ジャコのアイディアを聞くと、ジョニは 我が意を得たりという表情で微笑んだ。
「ああ、そういう提案がホント嬉しいんだな。やっぱり 今のわたしには アナタがいないと ダメなんだわ・・・」

 話を続けながらジョニは、傍らのカセット・レコーダーに 一本のデモ・テープをセットすると、チャーリー・ミンガスの新曲「デ・モインのおしゃれ賭博師」"The Dry Cleaner from Des Moines" を聴かせてくれた。その瞬間、ジャコの脳裏には あの夜のミンガス翁の声が 幻聴のように甦った。

「 - 私の代わりに ビッグバンドを演(や)ってくれ、ジャコ・パストリアス
ジョニ・ミッチェル ミンガス(肖像画 中ジャケ) 1979 チャールス・ミンガス

 ジャコの誠意と義侠心に 火が点いた。
 そうだ、そもそも この企画を実行するために オレはジョニさんに、いや、ミンガス翁に見出されたのだ。ここで 力になれずにいて 一体 どうする?
 同時に、彼の頭の中では「デ・モイン~ 」に付けるべきホーン・アレンジメントのアイディアが むくむくと猛烈に湧きあがってきた。

「任せてください、ジョニ。ぼくが 貴女の側(そば)にいますからね、もう全面的なサポート体制で ! 」
「はー、最初から そう言って欲しかったのよね。ホント去年は 一人で心細かったんだから もう 」
ショーターとアースキン ジャコとハービー・ハンコック
「約束しますよ。このレコーディングには、ボクの尊敬する ハービー・ハンコックを呼びましょう、それからウェイン・ショーターも。きっとピーター・アースキンも 駈けつけてくれます。持てる力をフルに傾けて 必ず素晴らしい作品に仕上げますよ 」
「(感動して )頼んだわよー、ジャコ・パストリアス


ジョニ・ミッチェル Joni Mitchell
アルバム「ミンガス」Mingus

ジョニ・ミッチェル ミンガス 1979 ジョニ・ミッチェル ミンガス(裏表紙) 1979
Side A
1. ミンガスの声 "Happy Birthday 1975" (00:57)
2. ゴッド・マスト・ビー・ア・ブギーマン(ジョニ・ミッチェル/作詩 作曲)
 "God Must Be a Boogie Man" (04:35)
3. ミンガスの声 "Funeral"  (01:07)
4. ア・チェア・イン・ザ・スカイ(ジョニ・ミッチェル/作詞、ミンガス/作曲)
 "A Chair in the Sky" (06:42)
5. ザ・ウルフ・ザット・リヴズ・イン・リンジー(ジョニ・ミッチェル/作詩 作曲)
 "The Wolf That Lives in Lindsey" (06:35)

Side B
1. ミンガスの声 "It's a Muggin'" (00:07)
2. スウィート・サッカー・ダンス(ジョニ・ミッチェル/作詞、ミンガス/作曲)
 "Sweet Sucker Dance" (08:04)
3. ミンガスの声 "Coin in the Pocket" (00:11)
4. デ・モインのおしゃれ賭博師(ジョニ・ミッチェル/作詞、ミンガス/作曲)
 "The Dry Cleaner from Des Moines" (03:21)
5. ミンガスの声 "Lucky" (00:03)
6. グッドバイ、ポークパイ・ハット(ジョニ・ミッチェル/作詞、ミンガス/作曲)
 "Goodbye Pork Pie Hat" (05:37)

演   奏:ジョニ・ミッチェル(ヴォーカル、ギター)
      ジャコ・パストリアス(エレクトリック・ベース)
      ウェイン・ショーター(ソプラノ・サックス)
      ハービー・ハンコック(エレクトリック・ピアノ)
      ピーター・アースキン(ドラムス)
      ドン・アライアス(コンガ)
      エミル・リチャーズ(パーカッション)

録   音:1978–1979 、A&M (ハリウッド)、エレクトリック・レディ(ニューヨーク )
全 米 発 売:1979年 6月13日
音   盤:Asylum


 偉大なジャズ・ベーシストで作曲家でもあった チャールズ・ミンガスが遺したオリジナル・メロディ 3曲とミンガス・スタンダード「グッドバイ、ポークパイ・ハット」に、それぞれジョニ・ミッチェルが オリジナル歌詞を付けて完成させた 4曲と、ジョニ自身の新作 2曲を加えた(特に「ゴッド・マスト・ビー・ア・ブギーマン」の歌詞は、ミンガスの自伝からインスピレーションを受けたという)全 6曲が、ジョニ・ミッチェルによって多面的に描かれた チャールズ・ミンガスの追悼ポートレートとなっている。
 「(それまでミンガスともジャズ畑のミュージシャンとも縁が薄かった)ジョニが決定打を放ってしまったことは、ジャズ・サイドにとっては痛恨の極みだったのではないか」(杉田宏樹氏)、あるいは「人種差別と長年闘い続けた黒人ジャズマンが自分の声として最後に選んだのが、ジャズ・ミュージシャンですらない 一人の白人女性だったという皮肉な状況に、硬派なミンガス・ファンやジャズ・ファンから(発売当初 )指摘されたのは、ミンガスの音楽らしさが少ない、とりわけ(ジャズの命たる )即興演奏のスペースの少なさは 彼の音楽ではない という意見だった(五十嵐正氏)」などと伝えられるとおり、本アルバムを ミンガスの遺作とみなす見解が 明らかに間違っていることは、今日では もはや常識になっている。
 然り、本アルバム「ミンガス」は、紛れもなく ジョニ・ミッチェル のオリジナルな作品であり、言うまでもなく ジャコ抜きには 決して到達し得なかったレヴェルの名盤なのだ。


▲ デ・モインのおしゃれ賭博師 "The Dry Cleaner from Des Moines" (ホーンアレンジ:ジャコ・パストリアス

 
ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made
⇒ 次回に続く

♪ 事実に基づいたストーリーですが、登場人物らの会話は “発起人”の創作で 架空のものです。

参考文献
「ジョニ・ミッチェル」アルバム・ガイド&アーカイヴス(五十嵐正)シンコーミュージック・エンタテイメント
「ジャコ・パストリアスの肖像」ビル・ミルコウスキー(湯浅恵子/訳)リットー・ミュージック
「ワード・オブ・マウス / ジャコ・パストリアス 魂の言葉」(松下佳男)立東舎文庫
季刊ジャズ批評118号「特集ジャコ・パストリアス」ジャズ批評社
ジャズベース・プレイヤー Vol.4「オール・アバウト・ジャコ・パストリアス」シンコーミュージック・エンタテイメント
「NO BEETHOVEN ウェザー・リポート&ジャコ・パストリアスと過ごした日々」ピーター・アースキン(川嶋文丸/訳、松下佳男/監修)アルトゥス・ミュージック
「ALL ABOUT WEATHER REPORT」シンコーミュージック・エンタテイメント
「ザヴィヌル ウェザー・リポートを創った男」ブライアン・グラサー(小野木博子/訳)音楽之友社
「ジャズ魂(スピリッツ) 厳選ジャズ・アルバム250名盤」(杉田宏樹)プリズム

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