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ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made
ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made
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39. “一つの奥義への三つの景観
ジャコ・パストリアス

 夜明け前、寝室の電話のベルが鳴っていることに ジャコは気づいた。

 1979年の新年も明けた - 常夏の地フロリダでも さすがに 1月の寒気が募る夜明け前・・・ 中断されたおそろしい夢の続きを名残惜しく思いながら ジャコは、初めて耳にする初老の男の声を 半ば夢うつつの状態で聴いていた。

「お前が ジャコ・パストリアスだな 」

 夢の中で、ジャコは 自分がゆっくりと頷いた気がした。

「貴方は - どなたですか - ?」

 男の声は、ジャコのすぐ耳元で聴こえた。

「私は・・・ チャーリー・ミンガス だ 」

チャールス・ミンガス アップ

 ジャコは驚いたが、なぜか目を開くことが出来ず、身体の向きを変えて仰向けになると 漆黒の天井に顔を向けながら返事をした。まるで暗闇に向けて撃つように。

「貴方が・・・ あのミンガスさん? 」

「そうだ。実は 私には、君と会ったときに どうしても教えておかねばならぬ 大事な秘密があったのだ・・・ 」

 ミンガスの許を訪ねようという ジョニ・ミッチェルとの約束を思い出し、ジャコは叫んだ。
「すみません、お待たせして - ワールド・ツアーも ようやく終了したので、すぐ貴方に会いに参ります。ジョニと お見舞いに・・・ ! 」

 だが、暗闇から聞こえてくる“ミンガス”の声は、
「いや、私には もうあまり時間がないのだよ、ジャコ・パストリアス
と、もはや期待していない様子である。

「す、すみません、ずっとウェザー・リポートが忙しくて・・・ その - 」

 夢うつつなジャコの弁解を遮って “ミンガス”は 力強く語った。

「君が 何者であるか、私は 知っている。

「私には、君と出会ったら 伝えるべき 一つの重要な奥義 A Secret が あった -

「だが、もはや手遅れなのだ・・・

「しかし、ヒントとなる 三つの景観 Three Views を 君に与えることは許されておる・・・

 偉大な先人の言葉を書きとめなければと ジャコが目を閉じたまま 枕もとで必死にボールペンを探す様子でも見えたのか、“ミンガス” が 鼻先で笑う声が聞こえた。

「よいか、一度しか言わぬぞ。記憶せよ。ジャコ・パストリアス

「一つ。私の代わりに ビッグバンドを演(や)れ

ジャコは 真剣に頷いていた。

「一つ。トレイシーと 離婚してはならん

ジャコは 額から冷汗を流しながら 唸った。

「最後にもう一つ。キューバへ 行ってはならん

 意外さに ジャコは首を捻った。それは、一体どういう意味かと・・・

 だが次の瞬間、“ミンガス” の気配は消えた。

 まさに 雲散霧消という表現もぴったりな立ち去り方だった。



 ・・・気づいたら ベッドサイドの電話器は まだ鳴り続けていた。

 え? では、今の “ミンガス”の声は 電話を通して聞いていたわけではなかったのか・・・

 初めて目が冴え、受話器をとって耳に当てるジャコ
 
「ハロー、やっと連絡がとれたわね。朝早くごめんなさい、ジャコ。急用よ 」

 ジョニ・ミッチェルの、ただならぬ上ずった声だった。

チャーリーがね、チャーリー・ミンガス翁が・・・

 思わずジャコは、受話器を 堅く握り締めると、衝撃を全身で受けとめようと身構えた。

さっき亡くなった・・・って、滞在先のメキシコで - 」

ジャコ・パストリアス ジョニ・ミッチェル チャールス・ミンガス


ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made
⇒ 次回に続く


♪ 事実に基づいたストーリーですが、登場人物らの会話は “発起人”の創作で 架空のものです。

参考文献
「ジョニ・ミッチェル」アルバム・ガイド&アーカイヴス(五十嵐正)シンコーミュージック・エンタテイメント
「ジャコ・パストリアスの肖像」ビル・ミルコウスキー(湯浅恵子/訳)リットー・ミュージック
「ワード・オブ・マウス / ジャコ・パストリアス 魂の言葉」(松下佳男)立東舎文庫
季刊ジャズ批評118号「特集ジャコ・パストリアス」ジャズ批評社
ジャズベース・プレイヤー Vol.4「オール・アバウト・ジャコ・パストリアス」シンコーミュージック・エンタテイメント
「NO BEETHOVEN ウェザー・リポート&ジャコ・パストリアスと過ごした日々」ピーター・アースキン(川嶋文丸/訳、松下佳男/監修)アルトゥス・ミュージック
「ALL ABOUT WEATHER REPORT」シンコーミュージック・エンタテイメント
「ザヴィヌル ウェザー・リポートを創った男」ブライアン・グラサー(小野木博子/訳)音楽之友社

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