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ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made
ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made
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38. 「ライヴ盤の一枚目
B面の演奏が、消去されました


 メンバーが揃うまでの待ち時間の合間、ジャコにドラムスを叩かせつつ 新しい楽器ヴォコーダーの調子を試しながら 思いきり音を鳴らしていたザヴィヌルだったが、最後にショーター到着との知らせを聞くと 演奏もそこそこに“にわかドラマー”を伴ってスタジオから出てきた。

 ほぼ一年近くに渡る大規模なワールド・ツアーに明け暮れ、多忙を極めた1978年もようやく終わろうというクリスマス休暇の直前、デヴォンシャー・スタジオに、ジャコは、ウェザー・リポートの他のメンバー - ウェイン・ショータージョー・ザヴィヌルピーター・アースキン - らとともに、顔を合わせた。

 彼らは、ワールド・ツアー終盤の約8週間にも渡るアメリカ国内で録り貯めた秀逸なステージ音源の中から 選ばれ、最終的なミックス・ダウンを終えたばかりの マスター・テープの試聴に集まったのだった。
 ライヴ盤に収録されるべき楽曲は レコード四面/L.P. 二枚組のヴォリュームである。完成すれば、配列は 以下のような曲順となる予定だ。

1978年 Weather Report Eight-Thirty CBS
1978年アメリカ・ツアーからのライヴ・アルバム

L.P.レコード 一枚目
sideA

1. ブラック・マーケット
2. スカーレット・ウーマン


sideB
1. ヤング・アンド・ファイン
2. 貴婦人の追跡
3. リヴァー・ピープル
4. ミスター・ゴーン


L.P.レコード 二枚目
sideA

1. ティーン・タウン
2. ア・リマーク・ユー・メイド
3. スラング(ジャコのベース・ソロ)
4. イン・ナ・サイレント・ウェイ(ウェインとザヴィヌルのデュオ)


sideB
1. バードランド
2. サンクス・フォー・ザ・メモリー(ウェインのテナー・ソロ)
3. バディア / ブギ・ウギ・ワルツ(メドレー)


 プレイバックを聴かせるスタジオ内のリスニング・ルームへと案内されたジャコと 3人のメンバーは、しかしマスターテープの音が いつまでも流れて来ないことに不信に思った。
「おい、早く音を聴かせてくれんか 」
と、気の短いザヴィヌルが 操作ルームに繋げてある内線の電話を通して、声を荒げた。

 やがてエンジニアの若いアシスタントが部屋を訪れた。
「すみません・・・ 実は、その・・・ 」
「何かあったの? 」
「テクニカルな問題でも? 」
ジャコアースキンが 問い詰める。
アシスタントの若者は、今にも消え入りそうな声で言った。
「実は・・・ その・・・ 機材の不具合で、マスターテープから 皆さんの演奏の一部が消去されてしまいました 」
「な、何? 」
「おい、もう一度 言ってみろ 」
エンジニア助手は、目を閉じたまま 同じ報告を繰り返す。
ジャコは アシスタントに詰め寄った。
「君らがスタジオに入っていた時、君の上司の男が 無頓着にレコーダーの消去ボタンを押してただろう、そうしたら一部のキーボードのチャンネルだけでなく コンソール全体にライトが点いていたよな。あの瞬間、全部のトラックを消してしまったんだろう、人為的なミスだよな、そういうことなんだろ? 」
と、思わず興奮してエンジニアの襟首をつかもうとするジャコの手を止めたのは、アースキンだった。
「まあまあ、ジャコさん・・・」
「二晩かけて編集した、唯一の使えるライヴ・ヴァージョンだったのに・・・」
「オー、マイ ゴッド 」
ショーターは 肩をすくめると 小さくタメイキをついた。

 これには さぞやザヴィヌルも 激昂してくれるだろう、と、ジャコジョーがメンバーを代表して 大いに抗議してくれることを 内心ひそかに期待しつつ、横目でリーダーの様子を眺めた。が、ザヴィヌルの言葉は 意外なものだった。
「まあ 仕方ないさ、過ちは。空気中に消えてしまった音楽は、どうしようもない じゃろが 」
(ええっ? )
ジャコは 耳を疑い、思わずアースキンと二人、顔を見合わせた。
ジャコとピーター・アースキン (2)
 意に介さず、ザヴィヌルは 語り続けた。
「わしらウェザー・リポートの新作アルバム『ミスター・ゴーン』の世評が、実は とても気になっていた。あの『ダウンビート』誌で、何と“一つ星”という低評価だったこと、諸君らも知っているじゃろう 」
Weather Report_Mr.Gone(CBS)1978

 ウェザー・リポートが 興業的に成功すればするほど いつのまにか芸術評価のハードルも高くなり、評論家筋からは 足をすくわれるような批判を受けるようになっていた。前作「ヘヴィ・ウェザー」が最高の“五つ星”だったのに、今年リリースした新譜『ミスター・ゴーン』への低評価は 急降下とも言える、手のひら返し的なものだった。 
 このアルバムに収録されている楽曲の大部分を手がけていたザヴィヌルは、ジャーナルの評価に責任を感じたのか これを非常に気に病んでいた。
「あのレヴューには言いたいことは山ほどある。だが、今は 差し迫った目前の問題を片づけねば。
「エンジニアに一部を消去されてしまった楽曲が何だったか、実は さっきスタッフに事故の被害状況を詳しく訊ねたら - 」
ザヴィヌルが すでに 他のメンバーより先に アクシデント報告を受けていたことを ジャコは知った。
「・・・ライヴ盤の一枚目B面に収められる予定の 4曲だったんじゃ。すなわち『ヤング・アンド・ファイン』、『貴婦人の追跡』、『リヴァー・ピープル』、そして『ミスター・ゴーン』・・・ 」
消去された4曲のタイトルを聞いて、思わずジャコは 声を上げた。
「あ、4曲ともアルバム『ミスター・ゴーン』に収録されているナンバーでは! 」
「そう。そのとおりなんじゃ、偶然(たまたま)な - 」
と、ジャコのほうを向いてザヴィヌルは 真剣な顔で頷いた。
「失われた音源を 他の日のライヴ・テープに差し替えることも まあ できなくはない。
「じゃが、これは 間違いなく 神の声じゃ。不評だったアルバム『ミスター・ゴーン』中のナンバーは、ライヴ盤から全部外すことにしよう。いや、わしは そうすることに決めたんじゃ 」
ジャコは リーダーに訊ねた。
「わかりました・・・ でも レコード一枚目のBサイドを 潰してしまったら、この面(スペース)には 代わりに何を入れるんですか、ザヴィヌルさん 」
「よい質問 Good Question じゃ・・・ 一面ずつ席を詰めていき、最終的に空いてしまうことになる 二枚目のB面に 新しくスタジオ録音する新曲を、そう、ウェインが用意したナンバー(サイトシーイング)を 中心に据える、という案は どうかな 」
そのアイディアには驚きつつも ショーター、まんざらでもなさそうな表情だ。
「悪くないんじゃないかな 」

アースキンも思いついて 口をはさんだ。
「さっき ザヴィヌルさんが、ヴォコーダーを使って ジャコさんと スタジオで合わせていた即興ナンバー( 8:30 )ですが、あれ、少し手を加えれば 立派に使えますよ ! 」
それを聞いてザヴィヌルも 面白がっていた。
「おお、さっきの演奏、テープを回してくれていたのか。よくやったぞ、ピーター
アースキン、ほめられて思わず うれしそうに 口ひげを掻く。
さらに、ショーターも 意見を述べた。
ジョー、きみの『オルファン 』も このサイドの収録用に、短くまとめてみてはどうかな。児童合唱を加えて? 」
ジャコは ベースを手にとって言った。
「さ、そうと決まれば 早速ショーターさんの新曲から 急ぎ リハに入りましょう。さあ皆さん レコーディング・スタジオへ!」
と、いきなり空いてしまったレコードのラスト・サイドのスペースも メンバーらの溢れる才能によって あっという間に埋まりそうな勢いだった。

ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made
⇒ 次回に続く

♪ 事実に基づいたストーリーですが、登場人物らの会話は “発起人”の創作で 架空のものです。

参考文献
「ジャコ・パストリアスの肖像」ビル・ミルコウスキー(湯浅恵子/訳)リットー・ミュージック
「ワード・オブ・マウス / ジャコ・パストリアス 魂の言葉」(松下佳男)立東舎文庫
季刊ジャズ批評118号「特集ジャコ・パストリアス」ジャズ批評社
ジャズベース・プレイヤー Vol.4「オール・アバウト・ジャコ・パストリアス」シンコーミュージック・エンタテイメント
「NO BEETHOVEN ウェザー・リポート&ジャコ・パストリアスと過ごした日々」ピーター・アースキン(川嶋文丸/訳、松下佳男/監修)アルトゥス・ミュージック
「ALL ABOUT WEATHER REPORT」シンコーミュージック・エンタテイメント
「ザヴィヌル ウェザー・リポートを創った男」ブライアン・グラサー(小野木博子/訳)音楽之友社

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