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「気分がふさいでいるときは、いつも 新しいレコードを何枚か買うことにしてるんだよ 」 

チェリビダッケ/ミュンヘンPo.
幻のリスボン・ライヴブルックナー第8番、1994年)
正規盤」が 初リリース !


タワーレコード渋谷店 Twitterより拝借
タワーレコード渋谷店 Twitter より拝借


 “スケルツォ倶楽部発起人です。
 今さらですが、チェリビダッケ/ミュンヘン・フィルの、いわゆる「リスボン・ライヴ」 ― 素晴らしい名演として知られていながら これまでずっと“正規盤”リリースは ありませんでした。
 尤も 「チェリビダッケの正規盤」という言葉自体、実は かなり矛盾を背負った撞着語法であります。

 チェリビダッケを語るとき 付いてまわる情報とは、チェリビダッケ本人が 自分のコンサート録音の商業的販売を生涯許さなかった、稀にみる頑固一徹な人物だった、ということ。
 生前、この異能の巨人が創りだす芸術世界に触れたいと思えば、コンサート・ホールに出向いて生演奏を聴くか、それが無理なら チェリビダッケ自身が嫌悪した“非正規盤”を 闇ルートで探してくるしか方法はなかったのです。

 そんな ある意味「不便な」状況が終わりを告げたのは 皮肉にも1996年 6月・・・ 自己の信念と美意識を貫いた御大が亡くなってからです。
 チェリビダッケの遺族らは 複数の大手レコード会社に、放送局が保管する音源を莫大な契約金と引換えに拡販することを許可します。歓迎すると同時に、あまりにも“あっさりな”というタメイキと“予想どおり”という冷ややかな感情が相半ばする複雑な想いも胸中に湧きました。長男セルジュ・イオアンの語る表向き立派な理由は、「劣悪な質の海賊盤の横行を止めるため」という、これまた矛盾に満ちた言い訳のようにしか聞こえませんでしたが。

 それでも 私たちの多くは善意の音楽愛好家です。喜んでお金を払って、当時DGやEMIから“正規”リリースを果たした「CDを プレイヤーに乗せるまでのほんの一瞬、自分たちが生きている世界が 今 何を必要としているか」考えながら、聴き直したものです(って、ココ 判る人にしか 判らないだろうなw )
 
 しかし、そんな中 何故か 頑固に“正規”リリースされる気配も無い 超一級の名演が 一つ残っていたのです・・・
 それこそが、この「リスボン・ライヴ」でした。

リスボンの風景 Lisboa
 スペインの向こう、ポルトガルの美しい首都リスボンでのコンサート・プログラムは、彼らが得意とする指折りのレパートリー、ブルックナー交響曲第8番ハ短調でした。この実況録音盤が、チェリビダッケの代表的「名盤」の筆頭として君臨してきたわけです。

 私 発起人が所蔵していた音盤は AUDIORなる「自称」USマイナーレーベルの二枚組。少なくとも“裏青”盤などではなく、ちゃんとしたプレスCDで裏面も銀色です。
 一部のマニアには知られた存在 RE! DISCOVER からも推定2000/2001年頃、同じ音源を転用した(と思われる)違法CD-Rコピー盤が(RED-39)出ており、こちらもかなり売れたようです。

 それほどまで熱烈に求められていた名演が、なんと20年以上も経った2022年になって 突然“正規”リリースとのニュースが・・・。
 以下、発売/販売元である東武ランドシステムの宣伝文を引用(青字)させて頂きましょう。

― セルジュ・チェリビダッケの最高傑作どころか ブルックナー演奏の頂点とまで賞賛された伝説のライヴ「チェリビダッケ、リスボン・ライヴ」が正規盤として遂に初登場。極限の超スローテンポで全曲を貫徹、あらゆるエレメントが点描のように彫琢されます。演奏時間は100分を超え 崇高な神々しさには ひれ伏すばかり。
センセーションを巻き起こしたマイナー(AUDIOR)盤は 即刻完売で、今は入手困難、ネットオークションでも高値を記録した幻の演奏でした。(中略)音源発掘も困難を極め、ポルトガル大使館の協力を得てついに発見。遺族セルジュ・イオアン・チェリビダキ氏と、ミュンヘン・フィルの承認も得た「正規盤」です。


以上、(発売/販売元 東武ランドシステム)提供資料より 一部手を加え引用(青字


ブルックナー 160×チェリビダッケ リスボンのブル8 正規音源 
ブルックナー
交響曲第8番 ハ短調
セルジュ・チェリビダッケ 指揮
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
録 音:1994年4月23日 リスボン・コロシアム
音 盤:ANTENA2/東武ランドシステム(TBRQ-9009-2)


 今やすっかり その数も減ってしまった貴重なクラシックCD専門店の店頭に掲げられた(熱心な店員さんのペンによるらしい )手描きPOPと、山積みされたイチ推し商品の陳列、さらにネット情報や販売元の宣伝文句によって、思いきり高く上げられたハードル。過剰な期待を抱いて衝動的に購入、初めて聴くことになった人(アナタ)は、ちょうど 今 ディスクを開封されたところでしょうか。
 ご安心ください。そのご期待を裏切られることは 決してないでしょう。
 従来のAUDIOR盤(以下、従来盤と呼ぼう)を保有する私も この東武ランドシステムHQ盤(以下、新盤と呼ぼう)を入手し、比較しながら聴き直しましたが、やはり 素晴らしい演奏、録音も合格点です。
ブルックナー 交響曲第8番 ハ短調 チェリビダッケ ミュンヘンPO.
 ・・・と言っても すみません、私のような素人の耳による判断ですので 確証はありませんが、じっくりと時間をかけて何度も聴き比べた結果、新盤従来盤のソース(出所)は、まず間違いなく 同じ放送局のものでしょう。かなり良い機材で録られたものらしく、オーケストラのライヴ録音としては 個性的なクセはあっても 超一級の完成度と思います。
 ゆえに、両者の音質は 同一ソースゆえ 大きくは変わらぬように感じます。強いて申せば、新盤のほうは イコライザーで意図的に手が加えられており、それも気にならぬほどですが、高音が多少補整されているように聴こえます。

 新盤従来盤とで、最もわかりやすい差異は、従来盤が 楽章と楽章の間の休止中の会場音まで すべて収録されていたのに対し、新盤では それがほぼカットされていること。新旧の収録時間のタイミングが、従来盤のほうが最大一分以上も長くなっているのは、それが理由です。逆に、第4楽章のみ 終演後の熱烈な拍手が 両者とも 30秒ほど入っているので、これだけ新旧 ほぼ同じタイミングであるのは そういう理由(わけ)です。
 従来盤の楽章間では 聴衆の咳やざわめきの音とともに弦楽器奏者が チューニングしたり オーボエ奏者が準備している音などもリアルに聴こえていました。静かに目を閉じつつ 想像力を逞しくしていると まるでコンサートホールに座っているほどの臨場感でした。

 この稀有な記録を 多くの聴者が 一種特別な記念として好み 一段高い価値に置き続けてきた理由とは、素晴らしい演奏と一緒に封じ込められた、独特な「」の雰囲気、すなわち豊かな臨場感と適度な残響が潤う ホール・トーンにもあるのではないかと思えてきます。
リスボンのコロセウム ホール
 なぜなら、チェリビダッケ/ミュンヘン・フィルによる 80年代後半~90年代のブルックナー第8番の演奏には この偉大な指揮者の「晩年様式」時代に確立されていた “深長遠大”傾向とも呼べる「」がすでにあり、それらは同時期に残された複数のライヴ録音(ガスタイク・ザールムジークフェライン・ザールサントリー・ホールetc.)盤と聴き比べても 必ずしも 劇的に異なる演奏というわけではないからです。
 では 何が違うのか - と言えば、実は 演奏された会場全体の、個性的な「」のホール・トーンが、そこで演奏されていた音楽と絶妙にブレンドされ、さらに これが稀有なレコーディングによって、いわば真空パックされた結果だったのではないでしょうか。それは チェリビダッケ御大でさえ 手の届かぬほど遠くへ到達した、もはや実体とは別次元の鮮烈な体験として、これを聴く者に印象づけます。

 このように 録音会場の個性的な雰囲気が 演奏に加味された、印象的な音盤を 思いつくまま挙げてみれば、たとえば ワーグナーバイロイト祝祭劇場のライヴ・レコーディング、特に60年代のフィリップス録音に顕著な、あの独特な乾いたサウンドとか。
カール・ベーム 指環 PHILIPS タンホイザー サヴァリッシュ PHILIPS パルジファル クナッパーツブッシュ PHILIPS

 リヒテルJ.S.バッハ平均律クラヴィーア曲集 第一巻 」、1970年頃 ザルツブルクのクレスハイム宮殿、まるで教会のように豊かな残響の中でレコーディングされた遠き祈りを聴くような名演(メロディア/BMG)・・・。
J.S.バッハ 平均律クラヴィーア曲集 リヒテル

 イェルク・デムス(ハンマーフリューゲル)、ハンス・ダインツァー(クラリネット)らによる スケルツォ倶楽部 心の名盤「シューベルティアーデ」(1965年、ドイツ・ハルモニア・ムンディは、ドイツのシュヴァーベン地方キルヒハイムにあるフッガー城/糸杉の間での自然なエコーが、エリー・アーメリンク(ソプラノ)の伸びやかな歌声をさらに美しく魅力的にしていました。
Schubertiade Ameling, DemusHarmonia Mundi Schubertiade,Harmonia Mundi (左から アーメリング、デムス、ダインツァー )

 そして チェリビダッケミュンヘン・フィルのライヴ・レコーディング会場だったリスボン・コロシアムというホールについては全然知りませんが、もしかしたら 他の西欧諸国のコンサート・ホールとはどこか異なる条件を備えていたかもしれません、憶測ですが。
 今 あらためて、この 他では聴けないような独特のホール・トーンと 不思議な空気感を突き抜けて聳(そび)え立つ 圧倒的なスケールの巨大な建築物に 心打たれるレコーディングであるとの想いを新たにしました。もはや演奏時間の差とか テンポとか版の違いとか、そんな些末なことを ちまちま比較する行為すべてが根こそぎ無意味に思えてくるほど、人が純粋に感動する心を音楽が呼び覚まさせてくれる、ハッピーな体験でした。

チェリビダッケミュンヘンPo. 幻のリスボン・ライヴ(ブルックナー第8番、1994年)「正規盤」初リリース !
 最後に 脱線しますが、第3楽章のクライマックスのところまで来ると いつも 私は マーラー第6番 終楽章 に登場する「あの」強烈なハンマーが ああ、ここにも落ちればいいのにな - って、勝手に想像してしまいます、 って どうでもよいはなしでしたw


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