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ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made
ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made
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36. 「サイトシーイング
Sightseeing(ウェザー・リポート)


ジャコとウェイン・ショーター
 ウェザー・リポートの、次にリリースされる新譜は L.P. 2枚組のライヴ・アルバムとなることが決まっていた。
 その音源は、大規模なワールド・ツアーに費やされた1978年の、ほぼ一年を通して敢行された多忙なコンサート・ライヴの大詰めとも言える 後半のアメリカ公演の膨大な録音の中から厳選されることになった。
 その年12月 9日、ようやく世界楽旅を果たし終えるウェザー・リポート最後の訪問地こそ、ジャコとその家族が住むフロリダ州だった。しかも そのコンサート会場は、奇しくも ジャコが初めてザヴィヌルと接触した、思い出のガスマン・シアター大ホール - ジャコにとっては感慨もひとしおだった。

「いやー、それにしても 物凄い一年だった 」
「ホント、ご苦労さん 」
終演後、肩をたたき合うメンバーとスタッフたち。
すでにホリデイ・モードに入りかけていたジャコピーター・アースキンのそばへ リーダーのジョー・ザヴィヌルが近づくと 言った。
「クリスマス休暇に入る前に、あと年内 もう一日だけ デヴォンシャー・スタジオに集まってくれんか 」
えェ、もう一日・・・? 一気に疲労感と倦怠に襲われたジャコは、さすがに同じような表情を浮かべているアースキンと顔を見合わせた。
「まあ、聞けよ。あのケチなARC/コロムビアが、メンバーにボーナスを支給してくれるそうだ 」
と、彼らの後ろに立っていたウェイン・ショーターの目が笑っている。
「本当ですか?」
若い二人は、正直 驚いた。そんな厚遇を受けるのはバンドに加入して初めてのことだった。それほど今年のツアーは大成功だったのだ。そのステージ音源の編集段階となったライヴ・アルバムへの期待値も、また大きかったということなのだ。
「来週のどこかで、一日だけ時間を割いてくれるな 」
と、若い二人に念を押すようなザヴィヌルの顔。
「はい、喜んで」
と、内心タメイキをつきながら アースキンのほうは 承諾の返事をする。
「でもその日は、何をするんです?」
と、ジャコは長い髪をかきながら 二人の年輩ジャズ・ジャイアンツにたずねた。
「一つは、今 製作中のライヴ・アルバム二枚/四面の収録楽曲を どう配置するか話し合うこと - 」
と、答えるザヴィヌル
「その日までにミックスダウンされたところまで仕上がりを聴けるかもしれんぞ 」
「で、もう一つは - 」
と、今度は ショーターが 口を開く。
「実は、みんなに試してもらおうと 私が温めている一曲があるんだ 」
「え、新曲ですか 」
「そうだ。まだ少し先の話だが、製作中であるライヴ盤の、さらに次に 私たちがリリースすることになる、スタジオ・アルバム用の新しいナンバーだ 」
「今から用意周到なことですね」
これにショーターは、真面目な表情になって 説明を続けた。
「うむ。今日 私たちはツアーを終えて一息ついた。ライヴ・アルバムのリリースは 年が明けて遅くも夏頃になるだろう。それまで(秋口頃まで)は各自の調整期間となる 」
これを聞いて、メンバーは それぞれ心の中で 思い浮かべた - ジャコの脳裏には チャールス・ミンガスとのコラボレイトを企画するジョニ・ミッチェルの思案する顔が浮かんでいた。ザヴィヌルは 念願のソロ・ワークとして自作のシンフォニーの作曲を、また謙虚なアースキンは 技術的な研鑽を積むことを考えてた。しかしショーターは、
「来年 - 1979年秋以降には 私たち四人、揃って再びステージに立つことになるわけだが、その時ウェザー・リポートとして 何を演(や)るかだ 」
「・・・ 」
その先の構想は まだ誰しも具体的には持っていなかった、ザヴィヌルでさえ -。

「さあ、80年代 私たちのジャズはどうなる?」
そう問うショーターの目が光った。
ザヴィヌルがゆっくりと口を開いた。
「10年サイクルで過去を振り返ってみるのも 考察する上で参考になるじゃろう、たとえば一気に20年前まで顧みよう - 」
アースキンが計算して、西暦を答えた。
「1959年 - 」
すぐにザヴィヌルが指摘した。
「それは、マイルスが名盤『カインド・オヴ・ブルーKind of Blue を録音し、CBSからリリースした年だ 」
おお・・・ と、声にならぬ どよめきが周囲から上がった。
「では、その10年後、あるいは 今から10年前は? 」
「1969年か - 」
マイルスが 問題作『ビッチズ・ブルーBitches Brew をレコーディングした年だ。尤もリリースされたのは その翌年1970年だったが - 」
と、今度はショーターが思い出すように語る。
 そう、アルバム「ビッチズ・ブルー」の製作現場には かつてウェイン・ショーターも、前作「イン・ナ・サイレント・ウェイ」から加わったジョー・ザヴィヌルも、マイルス・グループのサイドメンとして参画、スタジオに集結し 二人とも楽曲提供まで行っていたのだった。

kind of Blue (CBS) Kind of Blue セッションにおける マイルスとビル・エヴァンス(右 ) マイルス、キャノンボール、コルトレーン
▲ マイルスが 同時代のジャズ・シーンに与えた影響は たいへん大きく、「カインド・オヴ・ブルー」が、当時行き詰まり気味だったハード・バップを乗り越えた先にある手法 すなわちスケールに基づく即興演奏を行う いわゆる “モード・ジャズ” というアイディアを明示した功績があるとすれば、

 Bitches Brew_ビッチズ・ブルー
▲ 「ビッチズ・ブルー」は、当時のジャズでは まだタブーだったロック・ビートやファンク色の強いリズム的な要素、エレクトリック楽器などを導入した新しいサウンド面での要素を採り入れることで 大胆に多様性を広げた功績が指摘される。いずれも10年先まで未来のジャズ演奏/表現のスタイルを予見した名盤だったのだ。

「そして来年 - 1979年 - また10年目が巡ってくる。しかし今 ジャズ・シーンに マイルスの姿はない・・・ 」
盟友マイルスと活動を共にしていたウェイン・ショーターは、寂しげに呟く。ジャズを変革し続けた偉大なマイルス・デイヴィスが健康面の問題で音楽シーンから姿を消してから すでに 4年もの歳月が経とうとしていた。
「来るべき10年先のジャズの未来へ、何らかの指針を、マイルスに代わって、私たちが示さなければならない、と思う 」
ショーターは顔を上げた。ザヴィヌルも頷いた。
ウェザー・リポートが、ライヴ・アルバムの次に 世に問うべき作品こそ、80年代ジャズの未来を展望する作品としなければならぬ 」
「そこで - 」
と、ショーターは 三人を前に、話題を最初に戻した。
「思うところあって、私の新しいアイディアのデモ・テープを、休暇に入ってしまう前に 録っておきたいんだ。だから ちょうど良い機会をコロムビアが設けてくれたと思っている(笑 ) 」
ここ数年来 グループの主要ナンバーの作曲をほぼ一任されてきた状態のザヴィヌルにとっても ショーターの この提案は意外だったらしく、興味深げに訊ねた。
「どんな曲を 構想しているんだい、ウェイン? 」
「いや、まだ発想段階の未完成作品なのだが、ここ最近 温めてきたスタイルなんだ。ハービー・ハンコックらとのV.S.O.P.ツアーの経験を通して、世界中の聴衆が 今 再び熱烈にジャズを求めていることを肌で感じたんだ 」
「・・・ 」
「このピーターがウェザー・リポートに加わって 最初にスタジオで 私の旧作『ピノキオ』をレコーディングしたことがあっただろう? 」
「かつてマイルス時代に 君が作曲したナンバーだな 」
マイルス:ネフェルティティ(CBS ) Weather Report_Mr.Gone(CBS)1978
「実は、あの時の演奏に 私はインスピレーションを得たんだ。速い 4ビートだが、ハード・バップ時代から鼓動し続けてきたジャズの伝統的なビートを踏まえていること。ビッグ・バンド出身でテクニカル的にも高度な技術を備えたピーター・アースキンが加わったこと、これが大きな原動力となるぞ 」
ショーターの高い評価に、アースキンは 思わず照れて 頭をかいた。
ピーター・アースキン (2)

「リズム・セクションの要となる現代エレクトリック・ベースが、速い4ビートをメカニカルに刻むテクニックと感性、即興的な判断力を有する、これはもう稀少な人材を得ない限り絶対に実現不可能なエレメントだ。もはやロン・カーターではないのだ、ジャコしかいない 」
ジャコも恐縮して思わず頭を下げた。ツアーが終わる解放感と尊敬する偉大なプレイヤーからの嬉しい言葉に、歓喜の爆発を抑えるのに ジャコは必死になった。
ジャコ・パストリアス

「そしてジョー、私が演奏しようとするメロディは 君のセンスで自由に解体してもオリジナルのまま活かしてもらっても構わない。君の多様なエレクトリック・キーボードの音色でモダンなハーモニーをペイントして 私のアコースティックなテナー・サックスをユニゾンで駆け上がる動きで支えてもらいたい 」
そして言い添えた。
君を 全面的に信頼しているよ
ショーターの言葉に、ザヴィヌルも感動しながら 力強く頷いた。
「今や わしらウェザー・リポートは世界最強だ。しかも進むべき道には光が指しているぞ。ウェイン、“未完成”だってかまわん。さあ、君の新曲の楽譜を 途中でもよい、預けてくれ。来週デヴォンシャー・スタジオで、すぐにデモが録れるよう それまでに 曲のアレンジをわしに任せておくれ 」
ウェイン・ショーターとジョー・ザヴィヌル


ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made
⇒ 次回に続く

♪ 事実に基づいたストーリーですが、登場人物らの会話は “発起人”の創作で 架空のものです。

参考文献
「ジャコ・パストリアスの肖像」ビル・ミルコウスキー(湯浅恵子/訳)リットー・ミュージック
「ワード・オブ・マウス / ジャコ・パストリアス 魂の言葉」(松下佳男)立東舎文庫
季刊ジャズ批評118号「特集ジャコ・パストリアス」ジャズ批評社
ジャズベース・プレイヤー Vol.4「オール・アバウト・ジャコ・パストリアス」シンコーミュージック・エンタテイメント
「NO BEETHOVEN ウェザー・リポート&ジャコ・パストリアスと過ごした日々」ピーター・アースキン(川嶋文丸/訳、松下佳男/監修)アルトゥス・ミュージック
「ALL ABOUT WEATHER REPORT」シンコーミュージック・エンタテイメント
「ザヴィヌル ウェザー・リポートを創った男」ブライアン・グラサー(小野木博子/訳)音楽之友社

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