演奏会感想 - 新垣 隆:ピアノ協奏曲「新生」(令和 3年 6月27日 / 千葉県八千代市民文化会館 )
スケルツォ倶楽部
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演奏会感想 - 新垣 隆:ピアノ協奏曲「新生」
(令和 3年 6月27日 / 千葉県八千代市民文化会館 )
今晩は、私 “スケルツォ倶楽部”発起人、実は 現在 千葉県佐倉市に居住しております。
先月、本業を通して 親しくさせて頂いた顧客のご家族Iさんよりご紹介を賜り、佐倉市のお隣り 八千代市の市民オーケストラのコンサートにご招待を頂きました。
市民オケのステージには、私にとっては意外に思えるソリスト - 新垣 隆さん - が出演され、自作のピアノ協奏曲を披露される予定であると聞き及ぶに至り、これは聴いてみたいという気持ちを抑えられなくなったものです。
新垣 隆が 八千代市の市民オケに客演するのは なぜ?
新垣さんと八千代交響楽団との経緯(いきさつ)を聞いて 初めて知ったことは、1985年まで遡(さかのぼ)ります。
中三(15歳)だった新垣さんは、斎藤秀雄の高弟だった高階正光氏から指揮法のレッスンを千葉市の幕張で受けていましたが、当時 高階氏は八千代交響楽団の音楽監督でもあり、指揮のレッスン後 しばしば新垣さんを連れオーケストラの練習場を訪れ、その指導とリハーサルの様子を見学させたり、後には打楽器パートに加えて練習に参加させることまであったのでした。
そして高校 2年の12月に 若き新垣さんが 初めて書き上げたオーケストラ曲 を自身指揮し、実際に鳴らしたのも八千代交響楽団でした。
そういった縁で 2005年から3年間、今度は指揮者として、八千代交響楽団 および 楽団メンバーや団員が指導する生徒らとも広く関わりをもっていた新垣さんが、その延長線上で、同楽団のステージで 自作曲を演奏することは、至極自然なことだったのでした。

さて、私 発起人が コロナ疫禍以来 コンサート会場に足を運ぶのは、本当に久しぶりのこと・・・。客席は全席指定、それは一つ置きにゆったり座れるソーシャル・ディスタンスでしたが、その範囲では ほぼ満席の大盛況でした。

八千代交響楽団 ‐ 第90回市民コンサート
指 揮:直井 大輔
日 時:2021年 6月27日(日)14:00開演
場 所:八千代市市民会館大ホール

演 目:
ボロディン 中央アジアの草原にて
ドヴォルザーク 交響曲第9番「新世界より」
- 休憩 -
新垣 隆 ピアノ協奏曲「新生」 Vita Nuova
(ピアノ:新垣 隆 )
新垣 隆さんの「ピアノ協奏曲」を その日 ホールの客席(後方中央、ソリストの手元と鍵盤が真横から見下ろせる絶好の位置 )に座って 初めて聴きながら、私 発起人、膝上でメモした覚書をもとに 以下 感想として まとめます。
この曲は、あの残念な “佐村河内守のゴーストライター騒動”(2014年)後に 桐朋学園の講師を依願退職(2018年に復職 )した翌年10月に発表された、「作曲活動の再出発となる作品」だったそうです。
標題の「新生 」とは ダンテの Vita Nuova と同じタイトル。新垣さんが意図されたところではないでしょうが、このコロナ疫禍下にあっては、「新たな日常」とも読めます。
第一楽章 冒頭、暗い闇の中に沈むゆく音列をピアノが提示、その深い奥から徐々に霧が晴れゆくと、溜めていたエネルギーがティンパニの一閃とともに放出。ピアニストが見得を切るがごとき印象的に登場する場面は、ラヴェルの「左手のための協奏曲」を連想させます。
上昇する信号風な主旋律(?)は ベートーヴェンの「悲愴」(第三楽章のテーマ )へのオマージュのよう、そんなピアノによるパーカッシヴな奏法は バルトークのそれのよう。弦が一貫してリズムを刻む 激しい情熱の余韻を残しつつ、やがて柔らかな第二主題(?)がピアノ・ソロで奏される瞬間は たいへん美しく、親しみやすいこの旋律が木管からホルンへ引き継がれ、さらにソロ・チェロも加えて 印象的に繰り返されるところなど、純粋に美しい画を描ける新垣さんの高い職人芸的な筆致に聴き手は浸ることができます。
この後 再び 激しいピアノによるメカニカルな打鍵と 弦セクションによるリズミカルな拍動をエンジンにしたオーケストラ主体のアレグロ・ヴィーヴォ ~ アレグロ・アジタードへと移行。もう一荒れ来るなと 客席のひじ掛けにつかまって身構えましたが 嵐は徐々に治まり、切れ目なく第二楽章へと場面転換します。
第二楽章 静寂のアンダンテは ソロ・ピアノによる ラヴェルの「マ・メール・ロワ」を思わせる束の間の平安、内奥に秘めた情熱を抑えるように進行してゆき、一瞬 息を止めた隙間から静かに繊細な弦が入ってくる風景など たいへんに美しい瞬間です。その弦セクションと交互に語り合うがごときピアノ・パートの素晴らしさを味わう暇(いとま)もなく、ピアニストの激しい 同音連打 から始まる 第三楽章 は、ソリストにパーカッション楽器としての役割も与えているようです。管、弦それぞれが口々に信号風なテーマを散発的に放つオーケストレーションの冴え。ピアノがリズミカルにエンジンを駆動させつつ、そんなオーケストラと一つになってゆく風景は、思わず手に汗を握ります。新垣さんは ご自分で譜面をバンバンめくりながらの熱演です。コーダ近くで 半音階下降的にピアノが舞い降りてゆく素晴らしいパッセージが印象的。あの動きは、もしや第一楽章の冒頭で提示された音列の再現でしょうか(・・・いえ、未確認 )。
必ずしもソリストにピアニスティックな技巧を披露させる種類のエンターテインメント性の協奏曲ではありませんでしたが、オケと交互に語り合うがごときピアノの立場は十分に雄弁でした。
楽曲の感想は、私 発起人が 当日コンサート会場で買い求めた音盤(Company East EC-3002 )を 後日 聴き直した上、初聴の印象に加筆/上書きしたものであります。

▲ 新垣 隆 : ピアノ協奏曲(Company East EC-3002)
楽曲の比較的小さな規模から、このコンチェルトは 新垣さんにとっては 実はまだ習作なのではないか、と感じました。
ここまで 楽曲の魅力を伝えるため、私 発起人が 上記の文章の中で「ラヴェルのよう」「バルトークのよう」あるいは「ベートーヴェンのよう」などと 比較連想的な表現を用いたことは、おそらく新垣さんには 不本意な聴かれ方であったかも知れません。申し訳ありません。
しかし 偉大なケージやライヒのように、いつの日か オリジナルな新垣隆の楽曲スタイルを確立されることを 今や 心より祈念し 応援したい気持ちになりました。なぜなら、現代の令和日本で、かくも純粋にクラシカルな書法でピアノ協奏曲を創作するという高いハードルをご自分に課した 新垣さんの、今後のご活躍に期待を寄せる気になったことは、偽らざる私の心情であるからです。

さて、この日の新垣さんの謙虚なステージ・マナーは好感度高く、大きな拍手に何度も呼び戻された末、驚いたことに 一曲アンコールを弾いてくださいました。
それは私の知らない曲 - とても美しい ヘ長調のメロディで、おそらく新垣さんのオリジナル曲か、あるいはその場での即興だったのかも知れません。曲はまもなく へ調から変ニ長調へと転調し、続いてハ長調に転じると、何とこの日のコンサート前半プログラムで 八千代交響楽団が演奏したボロディンのメロディを さり気なく引用して ハッとさせる・・・ そんな素敵なウィットで 最後に 聴衆を驚かせてくださいました。
おまけ

▲ 新垣 隆さんの ジェニーハイ でのご活躍にも注目してます
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今晩は、私 “スケルツォ倶楽部”発起人、実は 現在 千葉県佐倉市に居住しております。
先月、本業を通して 親しくさせて頂いた顧客のご家族Iさんよりご紹介を賜り、佐倉市のお隣り 八千代市の市民オーケストラのコンサートにご招待を頂きました。
市民オケのステージには、私にとっては意外に思えるソリスト - 新垣 隆さん - が出演され、自作のピアノ協奏曲を披露される予定であると聞き及ぶに至り、これは聴いてみたいという気持ちを抑えられなくなったものです。
新垣 隆が 八千代市の市民オケに客演するのは なぜ?
新垣さんと八千代交響楽団との経緯(いきさつ)を聞いて 初めて知ったことは、1985年まで遡(さかのぼ)ります。
中三(15歳)だった新垣さんは、斎藤秀雄の高弟だった高階正光氏から指揮法のレッスンを千葉市の幕張で受けていましたが、当時 高階氏は八千代交響楽団の音楽監督でもあり、指揮のレッスン後 しばしば新垣さんを連れオーケストラの練習場を訪れ、その指導とリハーサルの様子を見学させたり、後には打楽器パートに加えて練習に参加させることまであったのでした。
そして高校 2年の12月に 若き新垣さんが 初めて書き上げたオーケストラ曲 を自身指揮し、実際に鳴らしたのも八千代交響楽団でした。
そういった縁で 2005年から3年間、今度は指揮者として、八千代交響楽団 および 楽団メンバーや団員が指導する生徒らとも広く関わりをもっていた新垣さんが、その延長線上で、同楽団のステージで 自作曲を演奏することは、至極自然なことだったのでした。

さて、私 発起人が コロナ疫禍以来 コンサート会場に足を運ぶのは、本当に久しぶりのこと・・・。客席は全席指定、それは一つ置きにゆったり座れるソーシャル・ディスタンスでしたが、その範囲では ほぼ満席の大盛況でした。


八千代交響楽団 ‐ 第90回市民コンサート
指 揮:直井 大輔
日 時:2021年 6月27日(日)14:00開演
場 所:八千代市市民会館大ホール


演 目:
ボロディン 中央アジアの草原にて
ドヴォルザーク 交響曲第9番「新世界より」
- 休憩 -
新垣 隆 ピアノ協奏曲「新生」 Vita Nuova
(ピアノ:新垣 隆 )
新垣 隆さんの「ピアノ協奏曲」を その日 ホールの客席(後方中央、ソリストの手元と鍵盤が真横から見下ろせる絶好の位置 )に座って 初めて聴きながら、私 発起人、膝上でメモした覚書をもとに 以下 感想として まとめます。
この曲は、あの残念な “佐村河内守のゴーストライター騒動”(2014年)後に 桐朋学園の講師を依願退職(2018年に復職 )した翌年10月に発表された、「作曲活動の再出発となる作品」だったそうです。
標題の「新生 」とは ダンテの Vita Nuova と同じタイトル。新垣さんが意図されたところではないでしょうが、このコロナ疫禍下にあっては、「新たな日常」とも読めます。
第一楽章 冒頭、暗い闇の中に沈むゆく音列をピアノが提示、その深い奥から徐々に霧が晴れゆくと、溜めていたエネルギーがティンパニの一閃とともに放出。ピアニストが見得を切るがごとき印象的に登場する場面は、ラヴェルの「左手のための協奏曲」を連想させます。
上昇する信号風な主旋律(?)は ベートーヴェンの「悲愴」(第三楽章のテーマ )へのオマージュのよう、そんなピアノによるパーカッシヴな奏法は バルトークのそれのよう。弦が一貫してリズムを刻む 激しい情熱の余韻を残しつつ、やがて柔らかな第二主題(?)がピアノ・ソロで奏される瞬間は たいへん美しく、親しみやすいこの旋律が木管からホルンへ引き継がれ、さらにソロ・チェロも加えて 印象的に繰り返されるところなど、純粋に美しい画を描ける新垣さんの高い職人芸的な筆致に聴き手は浸ることができます。
この後 再び 激しいピアノによるメカニカルな打鍵と 弦セクションによるリズミカルな拍動をエンジンにしたオーケストラ主体のアレグロ・ヴィーヴォ ~ アレグロ・アジタードへと移行。もう一荒れ来るなと 客席のひじ掛けにつかまって身構えましたが 嵐は徐々に治まり、切れ目なく第二楽章へと場面転換します。
第二楽章 静寂のアンダンテは ソロ・ピアノによる ラヴェルの「マ・メール・ロワ」を思わせる束の間の平安、内奥に秘めた情熱を抑えるように進行してゆき、一瞬 息を止めた隙間から静かに繊細な弦が入ってくる風景など たいへんに美しい瞬間です。その弦セクションと交互に語り合うがごときピアノ・パートの素晴らしさを味わう暇(いとま)もなく、ピアニストの激しい 同音連打 から始まる 第三楽章 は、ソリストにパーカッション楽器としての役割も与えているようです。管、弦それぞれが口々に信号風なテーマを散発的に放つオーケストレーションの冴え。ピアノがリズミカルにエンジンを駆動させつつ、そんなオーケストラと一つになってゆく風景は、思わず手に汗を握ります。新垣さんは ご自分で譜面をバンバンめくりながらの熱演です。コーダ近くで 半音階下降的にピアノが舞い降りてゆく素晴らしいパッセージが印象的。あの動きは、もしや第一楽章の冒頭で提示された音列の再現でしょうか(・・・いえ、未確認 )。
必ずしもソリストにピアニスティックな技巧を披露させる種類のエンターテインメント性の協奏曲ではありませんでしたが、オケと交互に語り合うがごときピアノの立場は十分に雄弁でした。
楽曲の感想は、私 発起人が 当日コンサート会場で買い求めた音盤(Company East EC-3002 )を 後日 聴き直した上、初聴の印象に加筆/上書きしたものであります。

▲ 新垣 隆 : ピアノ協奏曲(Company East EC-3002)
楽曲の比較的小さな規模から、このコンチェルトは 新垣さんにとっては 実はまだ習作なのではないか、と感じました。
ここまで 楽曲の魅力を伝えるため、私 発起人が 上記の文章の中で「ラヴェルのよう」「バルトークのよう」あるいは「ベートーヴェンのよう」などと 比較連想的な表現を用いたことは、おそらく新垣さんには 不本意な聴かれ方であったかも知れません。申し訳ありません。
しかし 偉大なケージやライヒのように、いつの日か オリジナルな新垣隆の楽曲スタイルを確立されることを 今や 心より祈念し 応援したい気持ちになりました。なぜなら、現代の令和日本で、かくも純粋にクラシカルな書法でピアノ協奏曲を創作するという高いハードルをご自分に課した 新垣さんの、今後のご活躍に期待を寄せる気になったことは、偽らざる私の心情であるからです。

さて、この日の新垣さんの謙虚なステージ・マナーは好感度高く、大きな拍手に何度も呼び戻された末、驚いたことに 一曲アンコールを弾いてくださいました。
それは私の知らない曲 - とても美しい ヘ長調のメロディで、おそらく新垣さんのオリジナル曲か、あるいはその場での即興だったのかも知れません。曲はまもなく へ調から変ニ長調へと転調し、続いてハ長調に転じると、何とこの日のコンサート前半プログラムで 八千代交響楽団が演奏したボロディンのメロディを さり気なく引用して ハッとさせる・・・ そんな素敵なウィットで 最後に 聴衆を驚かせてくださいました。
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