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スケルツォ倶楽部
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♪ 名曲の名演を 一つだけ残すとしたら
第三回 
シューベルト
ピアノ五重奏曲 イ長調 Op.114 「ます 」



 今晩は、“スケルツォ倶楽部発起人です。
 30年来の旧友(栃木の友 )と、久しぶりに電話で 大学時代の 佐治晴夫先生の思い出 など 語り合った末 ようやく受話器を置いてから 思いまとめたことがあります。

夜の星座 スケルツォ倶楽部
 いて座、おうし座、てんびん座・・・ 夜空の星座につけられた多彩な呼び名は、古(いにしえ)の人々が 天球上に散らばっている たくさんの星と星を線で結んで、そこから素朴に連想した動物などの名前で呼んだものとされていますが、少なくとも古代ギリシア以後は そうではなく、実は すでに星座の名とされる対象が先にあって、その形に合った星の配置を探して「星座」を決めたのだそうです。
 それが、歴史上 初めて集大成されたギリシアプトレマイオス48星座 - 著書の中に命名された星座には、それぞれ神話の「物語」が紐づけられています。

 果たして どなたかに読んで頂けているのかどうかさえ わからない、私 発起人が“スケルツォ倶楽部”で せっせ自慰的に書いている 音楽についての創作ノヴェル - 「タイタニックのサロンにおけるマーラー追悼演奏会 」にしても、未完の「モーツァルト 最期の年 」や「ジャコ・パストリアス 」にしても - 私(あるいは、一般的に 私たち )が「物語」を紡ぐ場合は、エピソードをつないで ストーリーに仕立てますが、本当は 先に「物語」が在って これに相応(ふさわ)しいエピソードを収集しているという、そういう面もあるかもしれません。
タイタニック 水の底のミュージシャン モーツァルト 最期の年 (小)Jaco Pastorius Epic

 音楽を聴いて感動した記憶は 点・・・。
 記憶の点と点を結んだ線が やがて脳の中で交差して ネットワークを編んだ時、遠き日の感動の記憶が「物語」として意識の上に昇ってくるのでしょう、それは、一つの星の瞬きをきっかけに、星座と紐づけられた「物語」が紡ぎ出されるように。

レコードをかけるスヌーピー

 さて、ここまでは 全部 前置きです。
 ここからは、私 発起人が 毎回一曲セレクトするクラシカル名曲のレコーディングの中から、その決定盤を「一枚だけ」しか選べないとしたら、さあ誰の演奏を残すかを 考え込むコーナーです。

 本日 第三回は、前回に引き続き シューベルトの作品です。
 どなたも知る 名曲 - ピアノ五重奏曲「ます」 を セレクトしました。

 ピアノ五重奏曲 イ長調 D667, Op.114ます」 Die Forelle その第4楽章が 歌曲「ます」D550 の旋律を用いた変奏曲だったため 同じ 川魚のタイトルで呼ばれます。
 この名曲は、私が意識して クラシック名曲を聴くようになって かなり最初の頃 - 小学 3年生の秋 - 幸運にも出会えた作品でした。

発起人 はじめまして クラシック
「ハルサイとか聴いてるヤバい奴は クラスで俺だけ 」 でした。

はじめは ベートーヴェンから

 もはや いかなる経緯で レコードを入手したのか、そこの記憶は定かではありませんが、ある日 突然「ます」のL.P.レコードが 幼かった私の手元に届きました。親切な親類の誰かが「自分では聴かないから」といって譲ってくれた、そんなところでしょう。感謝に堪えません。
 そのレコードは、真夏のスタジオ内の様子を撮ったスナップ写真でしょうか、上着を脱いで 白いワイシャツの五人の演奏家たちが 譜面を眺めながら打合せしている 印象的なジャケットでした。
シューベルト(モノクロ)「ます」ゼルキン CBS 
 これは 私の 初めて聴いた室内楽でもあります。
 ピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、そしてコントラバス - 全合奏による 最初の輝くようなイ長調の明るい和音、その充実した力強い響きに、私は 一瞬で鷲づかみにされた気がしました。
 ステレオのスピーカーのすぐそばで、五人の演奏家が 並んでいる気配までをも感じます。
 その乾いた弦が爽やかにリズムを刻む 生き生きとした動きは、同じ年の夏に 年上の従兄たちに連れられ 軽井沢の渓流釣りへと出かけた先で 見事に釣り上げたニジマスの ピチピチと跳ね回る様子を 間近で眺めたときの記憶と紐づきました。
 渓流の冷たい水飛沫(しぶき )は、小さな虹を描きつつ ピアノの美しく弾(はじ )けるアルペジオとなって飛び散り、その水際で演奏していた弦楽器奏者らのズボンの裾を しとどに濡らしますが、彼らは まったく意に介することなく 大きく横揺れに リズムを刻み続けます。

 それは、音楽を聴くことの喜びを 初めて感じた瞬間でした。
 喜びは、新鮮そのものでした。
 私が 小学 3年生だった当時、まだ少なかった名曲鑑賞の体験 - 「運命」や「未完成」を聴いても、正直 この種の愉悦感を 得ることはありませんでした。
 しかし「ます」には、最初から 深い満足感に しかも楽しく浸ることができ、文字どおり 擦り切れるほど このシューベルトのレコードに 私は 繰り返し 針を下ろしたものです。

 「ます」は、全楽章 素晴らしい作品です。
 中でも、第4楽章(変奏曲)の主題として タイトルの由来ともなったオリジナル歌曲「ます」を、私の場合 先に 五重奏曲のほうを体験し、後になってから フィッシャー=ディースカウの歌唱で聴くこととなったわけですが、歌曲「ます」のメロディの背後できらきら流れている伴奏ピアノの特徴的な三連符の渓流が、五重奏曲第4楽章 - 第5変奏(最後の変奏 )で聴きおぼえがあった川のせせらぎの音と同じであることに気づいた瞬間、子ども心にも 背すじに寒さを感じるほどの感動をおぼえたものです。
シューベルト シューベルト歌曲全集 ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(EMI)

 そして、誠に幸運なことに、私の手元にやってきた 一枚の「ます」のレコードは、実に素晴らしい名盤でした。

シューベルト Franz Schubert シューベルト(小)「ます」ゼルキン CBS
シューベルト
ピアノ五重奏曲 イ長調Op.114 「ます」

ルドルフ・ゼルキン(ピアノ )Rudolf Serkin
ハイメ・ラレード(ヴァイオリン )Jaime Laredo
フィリップ・ネーゲル(ヴィオラ )Philipp Naegele
レスリー・パーナス(チェロ )Leslie Parnas
ジュリアス・レヴァイン(コントラバス )Julius Levine
録音:1967年 8月15日 ヴァーモント州 マールボロ
音盤:Columbia(CBSソニー )


 幼時から記憶の中に刷り込まれたおかげで(笑)、忘れられぬお気に入りの一枚です。
 最初に出会ったレコードの価値の大きさを 私は 徐々に実感するようになりました。なぜなら その後も 他の名演奏家によるレコードを何枚も入手して 聴き比べをしましたが、ゼルキン盤を凌ぐディスクが(私にとっては )現われなかったためです。

 デムス(ハンマーフリューゲル)+コレギウム・アウレウム合奏団のメンバー(DHM)盤、ギレリス+アマデウスSQ(DG)盤、ブレンデル+クリーヴランドSQ(PHILIPS)盤、リヒテル+ボロディンSQ(EMI)盤、レオンスカヤ+アルバン・ベルクSQ(EMI)盤、さらにはインマゼール+ラ'ルキブデッリ(ソニー)盤、いずれも皆 素晴らしい瞬間を収めた不朽の名盤ではありますが、私の耳には - 録音にこそ 多少古さを感じるようになりましたが - このゼルキン+マールボロ盤以上に 覇気を感じさせてくれるレコードには出会えませんでした。

ルドルフ・ゼルキン Rudolf Serkinハイメ・ラレードフィリップ・ネーゲル Philipp Naegeleレスリー・パルナス Leslie Parnasジュリアス・レヴァイン Julius Levine
 これは、有名な夏の音楽祭の合間に、名ピアニスト、ルドルフ・ゼルキン(1903~1991)と 親しいメンバーが選抜され、演奏/レコーディングされたものと思しき記録です。
 ヴァイオリンのハイメ・ラレード(1941~ )はボリビア出身、グレン・グールドとの共演(辛抱立役 ! )で知られるJ.S.バッハ:ヴァイオリン・ソナタ(CBS)の録音が最も有名でしょう。
 ここではヴィオラを奏でるフィリップ・ネーゲル(1928~2011)は シュトゥットガルト出身のヴァイオリニスト、マールボロ音楽祭の発足メンバーでした。
 セントルイス出身のチェリスト、レスリー・パーナス(1931~ )は 1962年のチャイコフスキー国際コンクールで第2位の実力者。主に米国内でソリストとして知られます。
 ジュリアス・レヴァイン(1921~2003)は、ブルックリン出身の著名なコントラバス奏者。

 卓越した技巧のミュージシャンが少人数で 顔を合わせ シューベルトの音楽を作り上げる喜び、その愉悦感の振幅といったら半端なく、全曲の随所で聴ける 鋭い付点音符の切り方の魅力、終楽章で刻まれる若々しいリズムが徐々に溢れてゆく幸福感、ああ、もう叫びたくなってしまうほどです。いえ、一人で運転している車の中などでは 実際に本気で歓声を上げ、思わずヴォリュームを上げてしまいます。

 そうそう、ボリュームを上げると言えば・・・ 
 80年代まで 専らL.P.レコードで愛聴し続けてきた この名盤も 遂にCDで再リリースされた当時のこと。大喜びで買い求め、オーディオで鳴らしてみたところ、期待どおりの音質向上、思わず初心に還って 大音量で聴き入っていたら、ある個所で 初めて気づいたことが・・・。それは、第2楽章、第4楽章(とりわけ)休止部分で、おそらくスタジオ屋外から入ってくる、マールボロに生息する夏の虫の声が その背後から明瞭に聞こえてきたことです。音媒体がCDでなければ、聴き取ることは不可能だったでしょう。
 マールボロ、1967年 8月15日 - 旧盆の真っ最中だったレコーディングは そんなドキュメント的な記録でもありました。

 さて、シューベルトピアノ五重奏曲「ます」は、この一枚さえあれば 他はもう イラナイと・・・ 言えますか?  はい、言えます ! 


 されど、この演奏に迫るほどの素晴らしい演奏風景が、ドキュメンタリー・フィルム映像で残されていたのです。
 1969年 8月に ロンドンのニュー・クイーン・エリザベス・ホールに集まった、若き俊英たちの記録です - バレンボイム(ピアノ)、パールマン(ヴァイオリン)、ズーカーマン(ヴィオラ)、ジャクリーヌ・デュ・プレ(チェロ)という目を瞠(みは)る組み合わせ、さらに 当時 すでに ロス・アンジェルス・フィルの常任指揮者になっていたズービン・メータが コントラバスで加わる( ! )という珍しい特典付きw
ダニエル・バレンボイムイツァーク・パールマンピンカス・ズーカーマンジャクリーヌ・デュ・プレ (2)ズービン・メータ

おまけ
音楽映画
1969年、バレンボイム、パールマン、ズーカーマン、デュ=プレ & メータによる『ます 』 」を 推薦する。


▲ ちゃんと見れるので 大丈夫です、どうぞ You Tube で見る を クリックしてください。

シューベルト
ピアノ五重奏曲 イ長調Op.114 「ます」

 ダニエル・バレンボイム(ピアノ)
 イツァーク・パールマン(ヴァイオリン)
 ピンカス・ズーカーマン(ヴィオラ)
 ジャクリーヌ・デュ・プレ(チェロ)
 ズービン・メータ(コントラバス)
収 録 : 1969年8月30日
場 所 : ロンドン、ニュー・クイーン・エリザベス・ホール


 私 発起人が知る限り、この貴重な記録は レーザー・ディスクでしか聴けない サウス・バンク音楽祭に向けたリハーサル風景+ライヴ演奏でした。当時としては、最新鋭な軽小カメラを5台も動員して撮られています。
 何より本番の全曲演奏は、覇気に満ちた素晴らしいものでした。若き日の(・・・といっても、私 発起人がイメージする 彼らの年齢は、常に この撮影当時のものですが )名演奏家の共演風景は、実に楽しいの一言に尽きます。
パールマン、バレンボイム、デュ・プレ、メータ ジャクリーヌ・デュ・プレ
 私たちは その後の悲劇的な後半生を知っているがゆえに、ジャクリーヌ・デュ・プレの美しく元気な姿には思わず目頭を熱くします。そんな彼女が、師カザルスの顔真似をして 笑い転げる天真爛漫な瞬間の映像ったら、貴重品でしょう。いや、あんな顔は 見たくなかった? (笑)
 パールマンのお道化ぶりも凄まじく ヴァイオリンのポジションで 巧みにチェロを奏でてみせたり、メータに弓を持たせると 二人羽織で(笑 )メンデルスゾーンを演奏してみせたりするシーンには目を疑います。
 若さゆえ度を越す騒ぎに陥りがちな、そんな仲間を引き締める役回りを務めているのが、ひとり冷静なリーダー、ダニエル・バレンボイムだったことに 妙に納得したり・・・。
バレンボイム_スケルツォ倶楽部 シューベルト ます パールマン、ジャクリーヌ・デュ=プレ、バレンボイム
 権利関係が解消されないのでしょうね、これほどの貴重な映像記録が DVDで再発されることなく、コンサートの音だけCD化されるようなようなこともなく、再生機器を手放してしまったら もはやレーザー・ディスク(Teldec )だけでは再生するすべもありません。しかし、今なら You Tube で観れるのです、しかも 数年前から 日本語対訳まで付けてくださった方までいらっしゃって・・・。ありがたいことですね。


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