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スケルツォ倶楽部
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ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made
ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made
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29.グッド・クエスチョン Good Question

 ジャコ・パストリアスが、アイアートの妻フローラ・プリムのアルバムに提供した自作「ラス・オラス 」一曲のレコーディングに際し ハービー・ハンコックに参加を要請したことがきっかけになって、この時期 ジャコは ハンコックとも 再び接近することとなった。

 それは1977年 2月のこと。ハンコックが、彼の手兵ザ・ヘッド・ハンターズのメンバーを率い 彼の故郷シカゴで予定されていた三回の公演(16日‐アイヴァンホー・シアター、20日‐イリノイ大学ホール、翌21日‐カラマズー )の直前になって、ヨーロッパで仕事をしていたベーシストのポール・ジャクソンが搭乗を予定していた航空機が 寒波の影響で飛ばず、コンサートに間に合わないことが決定的となった。
 本番まで あと三日・・・。
 米国内から会場まで移動できて、尚且つ ぶっつけで ファンクもジャズも弾けるエレクトリック・ベーシストと言ったら・・・? 

 真っ先にハンコックの頭に浮かんだのはジャコの顔だった。つい数か月前に「ラス・オラス 」で共演したばかりの・・・。さあ、今度はハンコックがジャコに電話する番だった。

 電話器の向こうから恩人の用件を聞くなり、ジャコは 力強く即答した。
「貴方には ちょっとやそっとじゃお返しできないほどの借りがたくさんありますからね。すぐ行きますよ。いえ、連絡くださって 本当に嬉しいです、ハンコックさん 」
ジャコの言葉に、ハンコックは感激した。
「ありがとう、ジャコ ! シカゴでは 私のことを気安く “ハービー”と呼んでくれ 」

ジャコとハンコック
 ベースだけを携え、ナショナル・エアラインズで 無事シカゴに到着したジャコには幸いなことに、アイヴァンホー劇場内のスタジオを借り切って、半日だけだったが ハンコックとバンド・メンバーらとリハーサルする時間があった。
 ジャコはハンコックから、バンドのメンバー、ベニー・モウピン(サックス )、ジェイムス・リーヴァイ(ドラムス )の二人を紹介された。ぶっつけ本番だけは避けられ、彼らもホッとしている。

「それでも時間が足りないから、キメや約束ごとが複雑な楽曲は避け、シンプルなナンバーとジャコの弾ける楽曲とに絞ろう 」
そう言うなり ハンコックは ジャコにウィンクした。
「では、この機会に 貴方の 名曲“メイデン・ヴォヤージ”を ぜひ 一緒に演(や)らせてください 」
「サンキュー 」

 リハーサル合間の休憩中に、ジャコは ハンコックを ぐるりと囲んでいるエレクトリック・キーボード群を眺め回した。
ハービー・ハンコック サンライト裏表紙(CBS)1978
 エレクトリック・フェンダーローズをはじめ、オルガン、クラヴィネット、アープ・オデッセイ、オバーハイム・シンセサイザー、ミニ・ムーグ・シンセサイザー、プロフェット、ヤマハCP-30、フェアライト・・・
「これは 壮観ですね、ハンコックさん? 」
「おいおい、私のことは “ハービー”と呼べって、言ったろ? 」
フェンダー・ローズのキーボード上を踊らせていた右手を 一瞬の休符に合わせ、ハンコックは 彼の鼻の下に落ちてくるメガネを その人差し指で 素早く ずり上げてみせた。
ウェザー・リポートジョー・ザヴィヌルのところでさえ まだ見たことがない、新しい楽器がありますよ ・・・ハービー? 」
「ふふん、実は 今、作成中のニュー・アルバムの中で、誰しも あっと驚くような新しい楽器を仕掛けてるんだ 」
ジャコはもちろん興味を抱いた。
「あっと驚くような楽器、それは? 」
「これさ 」
と、言うなり ハンコックは 卓上鍵盤を押さえながらキーボードに接続されたマイクロフォンに口を近づけながら一節(ひとふし)歌った。同時にPAのスピーカーからは、ハンコックが鍵盤で押さえた音程どおりに 器械を通して合成された不思議なヴォーカルとして流れてきた。
「うわ、オモシロい楽器ですね、ハービー 」
ヴォコーダー VSM-201 だよ。これのおかげで 私も一人前にリード・ヴォーカルがとれるというわけ 」
と笑いながら、彼は スタジオのモニターに繋げたマスター・テープを回した。
「・・・まだラフ・ミックスの段階だけど、ヴォコーダーを使った 私の新曲を聴かせてあげよう。“I Thought It Was You”というチューンだよ 」

Herbie Hancock : I Thought It Was You

 それは、恩師ハンコックの 従来のイメージからは 著しくかけ離れた ポップにスキップするナンバー、それもロボットのような不思議なヴォーカルだった。
 ジャコのかたわらに来て、ハンコックは うれしそうに 楽器の解説を添えた。
「このヴォコーダーという器械はね、驚くべきことに、メロディを歌うだけでなく、和音も出せる。つまり鍵盤を押さえるだけで、多声のコーラスも再現できるんだ。今作成中のニュー・アルバムは こんな調子で、すべてのナンバーを歌うことになっているんだよ 」

これを聞いて、ジャコは、控えめに異を唱えた。
ヴォコーダーのリード・ヴォーカルだけで アルバム一枚やるという発想は いかがなものでしょうね、ハービー? 」
「うん? 君の意見を聞こうじゃないか、ジャコ 」
「新しい楽器に“弾かされる”のではなく、ご自分の音楽世界の、あくまで一つの駒として エロクトロニクスも活用している、という姿勢を示すことで、音楽家ハービー・ハンコックとしての器の広さを 聴者に印象づけることも大事なのでは? 」
Good Question 良い質問だ・・・ 続けてくれ 」
促されて、ジャコは 考えるところを述べた。
「ハービー、あなたの住む音楽世界は もっとずっと幅広い。たしかにヘッド・ハンターズの成功によって 新しく獲得した ファンクを好む大衆への配慮も必要でしょうが、ここまでの あなたを培ってきた土壌(ルーツ ) - マイルスから伝承されたアコースティックなモダン・ジャズ・ピアニストとしての腕前 - を理解し、これを熱烈に求めている聴衆もまた いることを忘れるべきではないと思いますよ。何と言っても VSOP への大反響が、それを証明しています 」
「・・・ 」
ハービー・ハンコックほどのミュージシャンが 一枚のアルバムを世に出す以上、その多面的な才能を 総合的に表現し得る作品として、選曲や構成も慎重にすべきだと思います 」
「なるほど・・・ ありがとうジャコ。実は 私も内心では そう考えていたのだが、今の君の言葉 A Remark You Madeで 目が覚めた気がする、危ない所だった 」
「本当ですか 」
「うん、実は マネジャーのデイヴィッドからは強く反対されているんだが、一曲 野心的なナンバーをアルバムのラストに置きたいと考えていた。だが、それをやると、一般には 唐突に思われるから レコード売上の足を引っ張るんじゃないかって言われてね。正直 迷っていた 」
「それは どんな?」
と、ジャコは興味津々で 身を乗り出した。
「シンセサイザーではなく、生のブラス・セクションを加えた、ポリフォニックで複雑なラテン系リズム・ナンバーの構想が あったんだ。ビッグ・バンド風なサウンド・カラーだが、もちろんスウィング時代のそれではない、フリーな新しい響きを追求する 」
「怒涛な音響の波裏をくぐって、ハービー、そこを あなたの生ピアノが 激しいソロをとるわけですね ! 」
「そうだ、もはや迷いは捨てるぞ。アルバムの最後の最後で、これだけは アコースティック・ピアノで弾かなければ。マイルスと共演していた頃から勝手知ったる名ドラマー、トニー・ウィリアムスに協力を依頼しよう。そして低音を支えるエレクトリック・ベースは・・・ 今 ひらめいたぞ。これはもう ジャコ・パストリアスに頼むしかあるまい ! 」
「え、このボクに? 光栄です、ハービー・・・ 」
「このシカゴのツアーが落ち着いたら、ぜひ サン・フランシスコのスタジオに来てもらいたいな 」


ハービー・ハンコック Herbie Hancock
サンライト Sunlight

ジャコ・パストリアスは、一曲 Good Question のみ参加 )

(小)ハービー・ハンコック サンライト CBS 1978 ジャコとハービー・ハンコック
Side A
1. I Thought It Was You ジャコ不参加
(Jeffrey Cohen / Herbie Hancock / Melvin “Wah Wah” Ragin ) 08:54
Herbie Hancock – vocals,keyboards, synthesizers
Byron Miller – bass
Raul Rekow – congas
Leon “Ndugu” Chancler – drums
Wah Wah Watson, Ray Parker Jr. – guitar

2.カム・ラニング・トゥ・ミー Come Running To Me ジャコ不参加
(Herbie Hancock / Allee Willis) 8:23
Herbie Hancock – vocals,keyboards, synthesizers
Paul Jackson – bass
Raul Rekow – congas
James Levi – drums
Bill Summers – percussion
Baba Duru – table

Side B
1. サンライト Sunlight
 ジャコ不参加
(Herbie Hancock) 07:09
Herbie Hancock – vocals,keyboards, synthesizers
Paul Jackson – bass
James Levi – drums
Ray Parker Jr. – guitar
Bill Summers – percussion
Bennie Maupin – soprano saxophone

2. ノー・ミーンズ・イエス No Means Yes ジャコ不参加
(Herbie Hancock) 06:18
Herbie Hancock – keyboards, synthesizers
Paul Jackson – bass
Raul Rekow – congas
Harvey Mason – drums
Bill Summers – percussion

3. グッド・クエスチョン Good Question
(Herbie Hancock) 08:31
Herbie Hancock – acoustic piano, keyboards, synthesizers
Jaco Pastorius – bass
Tony Williams – drums
Raul Rekow – congas
Bill Summers – percussion
Patrick Gleeson – additional synthesizers
Unknown – brass ensemble

録 音:1977~1978年、サン・フランシスコ オートマット・スタジオ
オヴァー・ダビング録音(ブラス・セクション)L.A. ヴィレッジ・レコーダー・スタジオ
音 盤:Columbia JC-34907




おまけ
ハービー・ハンコック with ジャコ・パストリアス
ライヴ・イン・シカゴ 1977

ハービー・ハンコック with ジャコ・パストリアス BS盤 ハービー・ハンコック with ジャコ・パストリアス HI-HAT盤
▲ 非正規盤(:BS Music BSCD-10085、:HI-HAT IACD-10430 )
  ハービー・ハンコック(キーボード )
  ジャコ・パストリアス(ベース )
  ベニー・モウピン(サックス )
  ジェイムス・リーヴァイ(ドラムス )

1. It Remains To Be Seen(誤表記 : Cantaloupe Island )
2. Hang Up Your Hang-Ups
3. Maiden Voyage
4. Jaco Bass Solo
5. People Music
6. Chameleon
録音:1977年 2月16日 シカゴ、アイヴァンホー・シアター

 一期一会的なめずらしい音源だが 残念なことに音質が悪く、肝心なベースのディテイルが聴こえてこない。輪郭が捕えられないと 聴き手の満足感も減退せざるを得ない。
 2. Hang Up Your Hang-Ups のベースフレーズの中に Cha-Chaインヴィテーションなどに登場する ジャコ特有な、あのパターンが顔を出すのが聴きとれる。
 3. Maiden Voyage は、ハンコックのエレクトリック・ピアノとジャコのフレットレス・ベースによる貴重なデュオ演奏だが、何か遠慮でもあるのか、ジャコのベースは 今ひとつ腰が引けているように聴こえる。どうしたことか、左手のテンポも正確でない上、後半で 明らかにハンコックジャコに華をもたせようと “パスを与え” ているのに、ベーシストは ゴールを目指さそうとせず(ソロを取らず )に テーマに戻ってしまうのは 理解できず、もどかしい。
 5. People Music は、ジャコのベースに Teen Town のフレーズが一瞬現れるのを聴ける楽しみがある。HI-HAT盤のほうは、冒頭 ピアノの音が欠けている。
 待ってました(?)の 6. Chameleon 有名なベース・パターンは シーケンサーによるものだと判るが、ジャコのベースは前半 ギターのように装飾的なフレーズを添えるにとどまり、後半になっても同じパターンをシーケンサーとユニゾンで奏でたり、せいぜいフィル・インを飾る程度のプレイで首を傾(かし)げる。本来のジャコであれば もっと広い音域で駆け上がるインプロヴィゼーションを披露してくれるはずなのに、この曲に限らず、ステージでは精彩を欠いているように聞こえる。
 演奏初日だったからなのか、You Tube で探せば聴ける 20日、21日の非公式録音での演奏は もう少し生き生きしているので、尚更不思議に感じる。
 尚、4 ※ (ジャコのベース・ソロ )は 演奏こそ素晴らしいものだが、これは お気づきのとおり、ウェザー・リポートの1978年 9月29日ドイツ、オッフェンバッハに於けるライヴ音源からの転用である (T_T) 残念でした。


⇒ 次回につづく

♪ 事実に基づいたストーリーですが、登場人物らの会話は “発起人”の創作で 架空のものです。

参考文献
「ジャコ・パストリアスの肖像」ビル・ミルコウスキー(湯浅恵子/訳)リットー・ミュージック
「ワード・オブ・マウス / ジャコ・パストリアス 魂の言葉」(松下佳男)立東舎文庫
季刊ジャズ批評118号「特集ジャコ・パストリアス」ジャズ批評社
ジャズベース・プレイヤー Vol.4「オール・アバウト・ジャコ・パストリアス」シンコーミュージック・エンタテイメント
「NO BEETHOVEN ウェザー・リポート&ジャコ・パストリアスと過ごした日々」ピーター・アースキン(川嶋文丸/訳、松下佳男/監修)アルトゥス・ミュージック
「ALL ABOUT WEATHER REPORT」シンコーミュージック・エンタテイメント
「ザヴィヌル ウェザー・リポートを創った男」ブライアン・グラサー(小野木博子/訳)音楽之友社

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