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ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made
ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made
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28. ラス・オラス Las Olas
 前回のジョニ・ミッチェル「ドン・ファンのじゃじゃ馬娘(1977、Asylum)」の録音スタジオで、歴代ウェザー・リポートのパーカッション奏者らを一堂に集めてしまったジャコの手腕に深く感心したアイアート・モレイラは、レコーディングを終えたばかりのジャコを休憩室に呼び出すと、今度は アイアートの愛妻フローラ・プリム Flora Purim が準備しているニュー・アルバムへの参加を「ぜひに 」と要請した。
 アイアートが ジャコの登板を懇願するには、実は理由があった。

アイアート・モレイラとフローラ・プリム 
 ブラジル出身のアイアートフローラ・プリム夫妻が、故郷リオ・デ=ジャネイロ を離れ、ニューヨークへと移ってきたのは1967年のこと。当時ブラジル軍事政府が芸術家に対し歌の歌詞を検閲するなど抑圧的な姿勢を強めていたため、これに抗議した彼らは ブラジルを離れる決心をしたのだった。
 渡米後、スタン・ゲッツのバンドやギル・エヴァンスのオーケストラに同行してヨーロッパをツアーした後、二人は1972年にチック・コリア最初のリターン・トゥ・フォーエヴァーに参加し、その大成功によって世界的な名声を得た。

フローラ・プリム (2)
 フローラは、RTFの翌年 マイルストーン・レーベルからのソロ第一作「バタフライ・ドリームス 」をリリース、ダウン・ビート誌のジャズ・シンガー部門で最優秀新人賞、および読者人気投票でも最優秀女性歌手に選ばれた。アメリカでの活動は順風満帆そのものに見えたが、その矢先 コカイン所持容疑で逮捕されてしまう。そしてLAの連邦矯正施設に1974年から1976年までの間、何と一年半も投獄されていたのだった。
 出所後、夫アイアートやキャノンボール・アダレイ、ジョージ・デュークやミロスラフ・ヴィトゥスらの支援によって、すぐ芸能活動に復帰することとなった。支援の手は、リヴァーサイドの創設者として知られるオリン・キープニュースからも差し伸べられた。彼の厚意によって 当局に逮捕される前から契約していたマイルストーンは彼女との契約を打ち切るようなことなく新しいレコーディング企画を次々と持ちかけてくれた。
 ニュー・アルバムは、世間にわかりやすいポップなフュージョン路線へ舵を切った前作「新生」Nothing Will Be As It Was...Tomorrowに続く作品となる。ミュージシャンが その演奏スタイルなどを変更した場合、聴衆の人気を定着させるためにも 二作目の中身のほうが重要である、と言われる。フローラの健全な復帰を世間に印象づけるためにも、新作は絶対に成功させなければならなかった。
 当時ウェザー・リポートやジョニ・ミッチェルとの仕事によって世間の注目を一身に集めていたジャコに、アイアートが白羽の矢を立てたのは、そういった背景があってのことだった。

ミシェル・コロンビエ
▲ ミシェル・コロンビエ Michel Colombier

 だがジャコは、ジョニ・ミッチェルとの前作「ドン・ファン~ 」のスタジオで知遇を得た、フランス人の作/編曲もこなす多才なマルチ・キーボード奏者ミシェル・コロンビエを アイアートとフローラ夫妻に紹介する代わりに、(当初アイアートが望んでいたと思われる )ジャコ自身が参加するナンバーは 僅か 4曲にとどめている。彼がアルバムの制作にまで関わらなかった理由は、ジョー・ザヴィヌルウェザー・リポートジョニに対しての遠慮があったためであろう。
 それでも このアルバムに耳を傾ければ、ジャコはアイアート夫妻に対し、とても誠意を尽くしているようにも聴こえる。それは、フレットレス・ベースの音色が印象的な「ザ・ホープ」における名演と、孤高のオリジナル曲「ラス・オラス 」の提供に在る、といっても過言ではない。

ラス・オラス海岸Las Olas Beach
 ラス・オラス海岸 Las Olas Beach は、大西洋に面した 常夏フロリダの美しいビーチである。
 海岸沿いに並ぶ有名ホテルやレストラン、カフェを眺めることなく、ビーチサイドの建物を左右に飛ばしながら ヤマハのバイクで走り抜けてゆく ジャコの頭の中は、今、フローラ・プリムの、いや、アイアート夫妻に提供すべき楽曲のアイディアを形にすることに集中していた。
バイカーのスヌーピー?

 ようやく ラス・オラスのビーチサイドにバイクを停めると、ジャコは この美しい景観に あらためて気づき、しばし眺めた。
 真っ白な砂浜がどこまでも続き、深い透明度を誇る海水・・・。長い海岸線に沿って植えられた椰子の木が潮風に揺られる、トロピカルな景観は 観光客にリゾート気分を満喫させる。
 フロリダの観光大使を勝手に自任していたジャコは、このラス・オラス・ビーチの他、デイニア・ビーチなど フロリダゆかりの地名をいくつか自作のタイトルに付けていた。
 海に沈む夕日を眺めながら ぼんやりと考えた、リオ・デ=ジャネイロの海岸も これほど美しいのだろうかと。
 ・・・そうだ! 旧作だが まだ正式にレコーディングしていなかった「ラス・オラス 」を アイアート夫妻に提供しよう。
 そう思いつくや否や ジャコの脳裏にはアイディアが一気に溢れていた。
ラス・オラス海岸Las Olas Beach (2)
 ジョー・ザヴィヌルウェザー・リポートで用いた、ミュジーク・コンクレートの手法を 使ってはどうだろう。楽曲の前後をフロリダの海岸に打ち寄せる波音で 挟んでみるというのは・・・?

 そして・・・ああ、この曲には どうしても全編にわたって ハービー・ハンコック師のアコースティック・ピアノを叩きまくるソロが欲しいなあ。果たしてハンコックさんは、これだけに参加してもらえるだろうか・・・?
ジャコ・パストリアスとハービー・ハンコック
「あたりまえじゃないか。遠慮する仲じゃないだろう? むしろ ジャコが いつ声をかけてくれるかなと、ずっと私は電話を待っていたくらいさ 」
勇気を奮って サン・フランシスコへかけてみた長距離電話の受信器に当てたジャコの耳元に、嬉しそうなハンコックの明るい声が 久しぶりに届いた。それは、一昨年 エピックのスタジオで - ジャコの初ソロ・アルバムの - レコーディング以来の邂逅だった。
 ジャコは、感激した。

 
フローラ・プリム Flora Purim
エヴリデイ、エヴリナイト Everyday Everynight

(小)フローラ・プリム Every Day、Every Night(Milestone) フローラ・プリム 
Side A
1.エヴリデイ、エヴリナイト
(04:55) ジャコ不参加
Everyday, Everynight (Michel Colombier / Moreira / Yana Purim)
 フローラ・プリム Flora Purim – vocals
 リー・リトナー Lee Ritenour – guitar
 ミシェル・コロンビエ Michel Colombier – fender rhodes
 アルフォンソ・ジョンソン Alphonso Johnson – bass
 ハーヴェイ・メイソン Harvey Mason – drums
 アイアート・モレイラ Airto Moreira – percussion
 ラウディール・ジ=オリヴェイラ Laudir DeOliveira – percussion
 Horn Solos: マイケル・ブレッカー Michael Brecker, ランディ・ブレッカー Randy Brecker, ラウル・ジ・ソウザ Raul de Souza, デイヴィッド・サンボーン David Sanborn

2.サンバ・ミシェル(04:08) ジャコ不参加
Samba Michel (Michel Colombier / Moreira / Yana Purim)
 フローラ・プリム Flora Purim – vocals
 ラウル・ジ・ソウザ Raul de Souza – trombone
 ジェイ・グレイドン Jay Graydon – guitar
 オスカー・ニーヴズ Oscar Neves – guitar, cavaco, background vocals
 ジョージ・デューク George Duke – electric piano, fender rhodes
 バイロン・ミラー Byron Miller – bass
 チェスター・トンプソン Chester Thompson – drums
 アイアート・モレイラ Airto Moreira – percussion, background vocals
 ラウディール・ジ=オリヴェイラ Laudir DeOliveira – percussion

3.ザ・ホープ(03:39) !ジャコのフレットレス・ベースがよく歌う、感動的な名演
The Hope (Michel Colombier / Airto Moreira / Yana Purim)
 フローラ・プリム Flora Purim – vocals
 デイヴィッド・サンボーン David Sanborn – alto saxophone
 リー・リトナー Lee Ritenour – guitar
 デイヴィッド・フォスター David Foster – fender rhodes
 ミシェル・コロンビエ Michel Colombier – piano
 ジャコ・パストリアス Jaco Pastorius – bass(melody)
 デニス・ベルフィールド Dennis Belfield – bass(rhythm)
 ハーヴェイ・メイソン Harvey Mason – drums
 アイアート・モレイラ Airto Moreira – percussion

4.ファイヴ・フォー(03:32)
Five-Four (Michel Colombier)
 フローラ・プリム Flora Purim – vocals
 リー・リトナー Lee Ritenour – guitar(rhythm)
 ジェイ・グレイドン Jay Graydon – guitar(effects)
 デイヴィッド・フォスター David Foster – piano
 ミシェル・コロンビエ Michel Colombier – fender rhodes
 ジャコ・パストリアス Jaco Pastorius – bass(melody)
 マイケル・ボディッカー Michael Boddicker – arp 2600, bass, effects
 ハーヴェイ・メイソン Harvey Mason – drums
 アイアート・モレイラ Airto Moreira – percussion


5.ウォーキング・アウェイ(04:55) ジャコ不参加
Walking Away (Michel Colombier)
 フローラ・プリム Flora Purim – vocals
 ランディ・ブレッカー Randy Brecker – trumpet
 マイケル・ブレッカー Michael Brecker – tenor saxophone
 リー・リトナー Lee Ritenour – guitar
 ミシェル・コロンビエ Michel Colombier – fender rhodes
 デニス・ベルフィールド Dennis Belfield – bass
 ハーヴェイ・メイソン Harvey Mason – drums
 アイアート・モレイラ Airto Moreira – percussion
 ラウディール・ジ=オリヴェイラ Laudir DeOliveira – percussion


Side B
1. アイ・ジャスト・ドン'ト・ノウ
(03:56) ジャコ不参加
Just Don’T Know (Michel Colombier / Moreira / Yana Purim)
 フローラ・プリム Flora Purim – vocals
 ジョージ・デューク George Duke – vocals
 リー・リトナー Lee Ritenour – guitar
 デイヴィッド・フォスター David Foster – piano
 ミシェル・コロンビエ Michel Colombier – fender rhodes, synthesizer, mini-moog, background vocals
 デニス・ベルフィールド Dennis Belfield – bass
 ハーヴェイ・メイソン Harvey Mason – drums
 アイアート・モレイラ Airto Moreira – percussion, background vocals
 マイケル・ボディッカー Michael Boddicker – mini-moog programming

2.イン・ブラジル(03:50) ジャコ不参加
In Brasil (George Sopuch)
 フローラ・プリム Flora Purim – vocals
 アイアート・モレイラ Airto Moreira – vocals
 ジョージ・ソプッチ George Sopuch – guitar
 オスカー・カストロ=ニーヴ Oscar Castro-Neves – guitar
 アル・シナー Al Ciner – guitar
 ジョージ・デューク George Duke – electric piano
 バイロン・ミラー Byron Miller – bass
 チェスター・トンプソン Chester Thompson – drums

3.ラス・オラス(04:23) !これを最後に 以後 再演されなかった名曲の名演
Las Olas (Jaco Pastorius)
 フローラ・プリム Flora Purim – vocals
 ハービー・ハンコック Herbie Hancock – piano, fender rhodes
 ジャコ・パストリアス Jaco Pastorius – bass
 アイアート・モレイラ Airto Moreira – drums

4.ブルース・バラッド(01:54)
Blues Ballad (Michel Colombier / Yana Purim)
 フローラ・プリム Flora Purim – vocals
 デイヴィッド・サンボーン David Sanborn – alto saxophone
 リー・リトナーLee Ritenour – guitar
 ハービー・ハンコック Herbie Hancock – piano
 ミシェル・コロンビエ Michel Colombier – fender rhodes
 ジャコ・パストリアス Jaco Pastorius – bass
 ハーヴェイ・メイソン Harvey Mason – drums
 アイアート・モレイラ Airto Moreira – percussion

5.オーヴァーチュア(02:56) ジャコ不参加
Overture (Michel Colombier / Jovino Santos Neto)
 フローラ・プリム Flora Purim – vocals
 リー・リトナー Lee Ritenour – guitar
 ミシェル・コロンビエ Michel Colombier – fender rhodes, synthesizer, overheim polyphonic
 マイケル・ボディッカー Michael Boddicker – mini-moog, arp 2600, overheim polyphonic programming
 デニス・ベルフィールド Dennis Belfield – bass
 アイアート・モレイラ Airto Moreira – drums, percussion, background vocals

6.ホワイ・アイ'ム・アローン(04:39) ジャコ不参加
Why I'm Alone (Jean Hancock)
 フローラ・プリム Flora Purim – vocals, percussion
 ディヴィッド・サンボーン David Sanborn – alto saxophone
 リー・リトナー Lee Ritenour – guitar
 ハービー・ハンコック Herbie Hancock – fender rhodes
 ミシェル・コロンビエ Michel Colombier – arp odyssey
 マイケル・ボディッカー Michael Boddicker – arp odyssey programming

音  盤:Milestone(ビクター・エンタテインメント SMJ-6244 )
録  音:1977年 ハリウッド(ホーン・セクションのオヴァーダブのみ ニューヨーク )
リリース:1978年

.

付記
 尚、フローラ・プリムのヴォーカルを「ラス・オラス 」に吹き込む録音プロセスに先立ち、ジャコはハービー・ハンコック、アイアート・モレイラと同ナンバーの(ヴォーカルパートを除く )リズム・セクションをレコーディングしている。
 それは フローラの代わりに、ジャコ自身がガイド的にメロディを控えめなスキャットで歌っている声が聴けるというもので、本録音の歌唱が被せられると同時に ジャコのヴォーカルのほうはテープから消されてしまったため、これはある意味で 貴重な録音である。
 2003年にリリースされた 二枚組 Portrait Of Jaco The Early Years 1968 – 1978 の巻末に収められている。
ポートレート・オブ・ジャコ Portrait of Jaco

⇒ 次回につづく

♪ 事実に基づいたストーリーですが、登場人物らの会話は “発起人”の創作で 架空のものです。

参考文献
「ジャコ・パストリアスの肖像」ビル・ミルコウスキー(湯浅恵子/訳)リットー・ミュージック
「ワード・オブ・マウス / ジャコ・パストリアス 魂の言葉」(松下佳男)立東舎文庫
季刊ジャズ批評118号「特集ジャコ・パストリアス」ジャズ批評社
ジャズベース・プレイヤー Vol.4「オール・アバウト・ジャコ・パストリアス」シンコーミュージック・エンタテイメント
「NO BEETHOVEN ウェザー・リポート&ジャコ・パストリアスと過ごした日々」ピーター・アースキン(川嶋文丸/訳、松下佳男/監修)アルトゥス・ミュージック
「ALL ABOUT WEATHER REPORT」シンコーミュージック・エンタテイメント
「ザヴィヌル ウェザー・リポートを創った男」ブライアン・グラサー(小野木博子/訳)音楽之友社

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