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スケルツォ倶楽部
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映画のスクリーンに貼りつけられた音楽 ⇒ Novel List   


映画「トリスタンとイゾルデ
- 楽劇が開幕する前の ドラマの経緯(いきさつ)に納得する。



 "スケルツォ倶楽部"発起人です。
 外出自粛を守った 今年のG.W. - ねこの額ほどの小さな庭の生垣の枝を払ったり、伸びた雑草を抜いたり、そんな合間に ゆっくりと映画鑑賞。
 近所のBOOK OFFに立ち寄り、 250円のシールが貼られた - そんな扱い、これもひとつの悲劇でしょう - 「トリスタンとイゾルデ」(ケヴィン・レイノルズ監督 / 2006年 ) を DVDセール・ワゴンの檻から救出w

 このアメリカ映画は、もちろん 発起人が愛好する ワーグナーの楽劇とは(題材こそ同じでも )別の創作物です。
 発祥は中世の騎士物語(1,500年前から伝わるケルト伝説 )ですが、ドラマの人間関係は「対立する二つの組織に属する恋人たちの葛藤を描く 」古典的構図が成立する、いわゆる「ロミオとジュリエット 」型の原点ともされますね。

 私“スケルツォ倶楽部発起人、「トリスタンとイゾルデ 」といえば、むしろ逆に ワーグナーしか知らない」ぞとw 自慢じゃないが そんな アンバランスな知識を誇る男。この機会に オリジナルな中世伝説の流れくらいは 勉強しておこうと、そう考えたのが動機です。
ワーグナー トリスタンとイゾルデ リヒャルト・ワーグナー ワーグナー トリスタンとイゾルデ カラヤン バイロイト
 なにしろ ワーグナー自身が書いた楽劇の台本ときたら (何をいまさらですが )明らかに 物語の「途中 」から始まっていますし - 譬えて言うなら「指環」を いきなり「神々の黄昏」から始めるような - そもそもストーリーを楽しみたいと考える人には ある意味 不向きな舞台芸術でした。

 というわけで、今回は 「音楽」の話題は どちらかといえば そっちのけで、「トリスタンとイゾルデ」 “伝説”を題材にしたハリウッド映画のストーリーを 追いかける趣向です。


小道具 “愛の妙薬

 「トリスタン~ 」といえば、ワーグナーの楽劇の中では 重要な役割を果たす「愛の妙薬」ですが、この映画の中では 登場しません。
 ワーグナーの場合、二人の恋人たちの間には もともと抑えられた潜在的な恋愛感情があって、それが二人とも死を覚悟して あおる薬(=毒薬 )によって初めて 意識の上に呼び覚まされた、という解釈が有名です。トーマス・マンが「このとき二人が飲む杯の中身は 水でもよかったのだ 」( ! )と述べたのは、とても興味深いですよね。

 単に媚薬の効果だった、というように 外部からの力によって仕向けられた愛に基づくストーリーでは あまりにも底が浅く 説得力が感じられない、ドラマとしても弱い、と考える意見にも同意するものです。
 現代的な解釈によって書かれたリアリティ溢れるケヴィン・レイノルズ監督版の映画も また同様に、媚薬という伝承の要素は 排除されていました。


映画「トリスタンとイゾルデ」 TRISTAN + ISOLDE
映画 トリスタンとイゾルデ オリジナル・ポスター

映画「トリスタンとイゾルデ」TRISTAN + ISOLDE

監 督:ケヴィン・レイノルズ
脚 本:ディーン・ジョーギャリス
製 作:リサ・エルジー、ジャンニーナ・ファシオ
総指揮:リドリー・スコット
音 楽:アン・ダドリー
配 給:20世紀FOX(2006年 1月公開 )

キャスト
トリスタン(マーク王に仕えるコーンウォールの若き騎士 ):ジェームズ・フランコ
イゾルデ(アイルランド王 ドナカーの娘 ):ソフィア・マイルズ

マーク(イギリス、コーンウォールの王 ):ルーファス・シーウェル
ドナカー(敵対するアイルランドの王 ):デヴィッド・パトリック・オ'ハラ
ウィトレット(イギリス同盟の反対勢力 ):マーク・ストロング
メロート(マーク王の甥 ):ヘンリー・カヴィル
ブラーニャ(イゾルデの乳母 ):ブロナー・ギャラガー
エディス(マーク王の妹、メロートの母 ):ルーシー・ラッセル
ボドキン(アイルランドの軍参謀 ):ロナン・ヴィバート
モーホルト(アイルランドの騎士 ):グラハム・ムリンズ
オリック(イギリス同盟の領主 ):デスクター・フレッチャー
クルゼヴァル(マーク王に仕える古参の廷臣 ):ハンス・マーティン=スタイアー
レオン(マーク王に仕える廷臣 ):J.B.ブランク
サイモン(トリスタンの友人 ):レオ・グレゴリー
アラゴン(トリスタンの父 ):リチャード・ディレーン


 300年前からブリテン島の大部分を支配してきたローマ帝国が撤退すると、イギリスは統一されぬまま 小国(ケルト、アングル、ジュート、ヨーク、ピクト、サクソンなど )が乱立してまとまらず、諸侯が互いに牽制し合う暗黒時代を迎えています。
 そんなイギリス諸国に脅威となる新たな存在が - 古代ローマ軍に代わって - 海に守られ無傷で栄えていた強大な隣国アイルランドでした。冷酷なアイルランド王ドナカーは、バラバラで劣勢にある小国を 事実上の支配下に置き、各国が相互に部族同盟を結ぶことを許さず、常に監視の目を光らせていました。

トリスタンの父アラゴン
 そんな閉塞した状況を打破しようと諸国の首長らがタンタロン城に集まり、起死回生のイギリス統一協定を立案します。
 その同盟の中心人物こそタンタロン城主にして 幼いトリスタンの父アラゴンと、その盟友でコーンウォールの若き領主マーク(マルケ)でした。
 が、企ては事前にアイルランド側の知るところとなり、同盟集会の場は 奇襲を受けます。攻撃を指揮していたのは アイルランド王ドナカーの忠実な家臣で歴戦の猛者モーホルト(モロルト)でした。イギリス諸国同盟は、容赦なく壊滅させられます。

戦場のモーホルト
 モーホルトの薙刀のような剣にアラゴンは一撃で討ち倒され、あろうことか その場で トリスタンは愛する母の命までをも奪われてしまうのでした。
 辛うじて幼いトリスタンが殺されずに済んだのは、父の盟友で統一同盟の盟主候補でもあった領主マークが窮地に飛びこんで その身を守ってくれたからでした。が、代わりにマークは アイルランド兵が振り下ろした剣によって右手首を失うのです。

 荒廃した国土の建て直しを決意した領主マークは、亡き親友の独り息子トリスタンを引きとって育てます。母親代わりとなるのは マークの妹エディスで、彼女もアイルランド兵に夫を殺されたばかりでした。エディスにはトリスタンと同い年の息子メロートがいて、二人の男の子は 兄弟のように育てられるのでした。

 隻腕となったマーク王が コーンウォールの再建を誓ってから 9年の歳月が流れました。
 たくましい若者に成長したトリスタンは、命の恩人にして親代わりでもある賢候マークに忠誠を尽くし、若くして実力で自衛軍の参謀的な役割を務めるほどに信頼を得ていました。
トリスタン コーンウォール王マルケ

 城は新しく強固に建て直され、ようやく人心も落ち着きをみせていました。が、その矢先 コーンウォールが再び国力をつけることに警戒心を抱いたアイルランド王ドナカーは、またもやモーホルトと鎮圧軍をイギリスに差し向けることを考えます。
 その出征前、王ドナカーは アイルランドをたびたび勝利へ導いた功績ある猛将モーホルトに 自分の娘イゾルデを妻として娶らせ、見事コーンウォールから凱旋した暁には 結婚式を執り行うことを約束します。むっつりと喜ぶモーホルト。
イゾルデとモーホルト
 出発する前、モーホルトから表敬訪問を受けるイゾルデ。
 粗暴なモーホルトを内心嫌悪するイゾルデは、父王の命令ひとつで自分の意志に関わりなく愛のない結婚を強いられる身であることに傷つき、深く思い悩みます。
 尚、この場面の二人の会話で イゾルデに薬草の知識が深いことが 私たち観客に示されます。

 多勢に攻め込まれたコーンウォールに危機が迫ります。
 しかしトリスタンが立案した戦略が功を奏し、自衛軍はアイルランド兵を森の中で待ち伏せ 奇襲攻撃を成功させます。トリスタンは 父の仇であるモーホルトを倒し、味方も勝利に導きます。が、その戦闘中 フグの猛毒が塗られた敵の剣で傷つけられていたことに気づかず、戦いが終わってから意識を失います。周囲は戦死したものとみなし・・・
トリスタン舟葬
 高貴な王族に対する弔いと同じ舟葬(亡くなった人を小さな舟に乗せ 海へ流す葬儀の風習 )に付し、海上沖まで流した舟を焼き祓(はら)うため 高台から火矢を射かけるのでした。

 伯父であるコーンウォール王マークの許へ戦勝報告に戻った甥メロートは、伯父が自分に 労(ねぎら)いの言葉ひとつかけることなく、明らかにトリスタンの戦死のほうにショックを受けている様子をみて、内心複雑な心境です。戦士として凡庸なメロートは、共に育てられた英雄トリスタンに対する屈折した感情を抑圧しています。
メロート

 一方、仮死状態のトリスタンを乗せた舟は アイルランドの海岸に漂着します。積まれていた薪の炎は 海上の強風で吹き消されたのでしょう。
 浜辺に打ち上げられた小舟と意識を失っているトリスタンを見つけたアイルランドの王女イゾルデは、この見知らぬ若い男が まだ生きていることに気づき、助けようと お付きの乳母ブラーニャ(ブランゲーネ)に手伝わせ、彼を海辺の漁師小屋まで運びます。
侍女ブラーニャ 漂着したトリスタンを助けるイゾルデ
 男の冷え切った身体を自身の肌で温め、応急処置を施すイゾルデ。その刀傷から毒薬の匂いを嗅ぎ取ると 薬草に通じた彼女は 解毒剤を調合して塗布します。翌日も親身に看病を続ける間、イゾルデは 自分でも理由は判らぬまま、いつのまにか敵であるイギリス人の若者への好意を深めています。
アイルランドのトリスタンとイゾルデ
 意識を取り戻し、自分を助けてくれた美しいイゾルデにトリスタンも懐(なつ)いてしまい お礼を言いたいからと彼女に名前を訊ねます。さすがに本名も素性も口に出来ない王女イゾルデは、咄嗟(とっさ)にお付きの乳母の名前「ブラーニャ」を名乗り、さらに王の侍女だとウソをつきます。

イゾルデとブラーニャ
ブラーニャ「姫さまがブラーニャなら、一体 わたしは何と名乗れば」
イゾルデ 「大丈夫、おまえには誰も訊かないから」w


 抱いていた好意が短い間に真剣な愛情へと変わり 激しく感情が高まった夜、若い二人は 遂にお互いの気持ちを確かめ合うのでした。
映画 トリスタンとイゾルデ (2)

 その翌日のこと、コーンウォールでの敗戦から ようやく生還したアイルランド軍の参謀ボドキンと僅かな生き残り兵の証言によって、最精鋭の軍が惨敗したこと、モーホルトも戦死したことなどが 王ドナカーに初めて伝えられ、アイルランドに衝撃が走ります。

 同じ頃、トリスタンの剣と 彼をアイルランドまで運んできた舟が浜辺で発見されてしまい、王ドナカーは 国内に敵兵が潜入していると判断、捜索を始めるよう家臣に指示します。それより先にイゾルデは いち早く新しい舟をトリスタンに与え、彼をイギリスへ逃がすことを決めるのでした。

トリスタンとイゾルデ 海岸での別れ
 その海辺で トリスタンは 衝動的に「一緒に行こう 」とイゾルデを誘うのですが、王女は 自分と結ばれる境遇などあり得ないトリスタンとは別れることを決意、 決してこの世では叶うことのない王女自身の夢や希望・自由を象徴するものがトリスタンという存在そのものであると信じ、沖へ離れてゆく彼の無事を心から祈りつつ遠く浜辺から小舟を見送るのでした。
 トリスタンは、最後までイゾルデの正体を知らぬまま アイルランドの地を 後にしました。
小舟のトリスタン

 精鋭の軍隊を壊滅させられ劣勢となったアイルランド軍を立て直す時間稼ぎに、王ドナカーは 策を練ります。
 それは、表向き友好を装った“武芸大会”の案内でした。
 試合に優勝した部族には 主催国たるアイルランドの王女(イゾルデのこと)を娶せ、褒美として新しい領地も与えることを約束する手紙を各国に届けます。イギリス領主らの団結を崩すことを意図した、巧妙な策略でした。
 勝てば土地がもらえる、あわよくば妃も・・・ と聞いて、早速グラストンベリーのウィトレットをはじめイギリス同盟への執着が浅い国から容易(たやす)く崩されていきます。

 そんな頃 トリスタンが コーンウォール城に単身戻ってきたため 城の内外は喜びに沸くような大騒ぎとなります。自ら城門まで迎えにきた王マークも 死から生還したトリスタンの無事を心から喜び、静かに彼の肩を抱くのでした。
トリスタンとマーク王

 帰国したトリスタンは、アイルランド主催の武芸大会について耳にすると、警戒して参加を渋っているマーク王を説得します。
「同盟のためにも参加しましょう、王よ。こちらが勝てば忠誠を誓う領主と褒美の土地は分け合う、そして負ければ勝者に従う、と宣言するのです 」
マーク王は、はじめ強く反論します。
「何を言う、トリスタン。勝てればよいが、もし負けたら 最悪な場合、抵抗勢力のウィトレットに従う、そんな危険な事態を招くんだぞ 」
「必ず勝ってみせます、王よ。出場するのは 私ですから 」
と、一度死んだ男は もの凄い自信です。そんなトリスタンですが、声のトーンを少し落とすと マーク王に自分の本音を語るのでした。
「実は、貴方には奥さんをプレゼントしたいんです。それはアイルランドとの事実上の同盟を意味するものですし、そうなれば血を流さずに平和が訪れます。貴方の古傷も癒えるかもしれない・・・」
 9年前、若きマーク王は 利き腕の右手首ばかりか、第一子を妊娠していた妃も同時に失くしていたのでした。その後、国土の再建に懸命だった隻腕の指導者は、自身の幸せは後回しにして 再婚もせず ひたすらイギリスの再興に尽くしてきたのでした。トリスタンの真意を知った以上、もはや王は反対しませんでした。


 停戦となり、安全を保障された期間アイルランドで行われる武芸大会には 多くの腕自慢が招かれ出場、大盛会となりました。
 「褒美の品」として素顔をヴェールに包み一段高い席に座していたイゾルデは 試合場に立つトリスタンの姿に気づくと 一瞬信じられないという表情を浮かべますが、試合が始まるや彼の勝利を祈るのでした。
 トリスタンは トーナメント戦を実力で勝ち進み、決勝でグラストンベリーのウィトレットと一騎打ちになります。
戦闘場のトリスタン ウィトレット
 ちなみに、映画の中で 敵役ウィトレットを演じるマーク・ストロングという俳優さん、狡賢く憎々しい演技で(巧いので尚更 )気の毒ですが、フェンシング経験も豊富な殺陣の名手だそうです。そんな手強い剣豪を倒して、遂にトリスタンは優勝を手にします。

 競技場の表彰式で アイルランド王ドナカーを見上げながら、トリスタンは胸を張って宣言します。
「コーンウォールを代表して、姫君をわれらがマーク王に捧げます、
イングランドの地は、一人の王の許に団結するでしょう 」
が、果たしてこれを聞いていなかったのか、それとも歓喜のあまり耳に入らなかったのか、満面の笑みでイゾルデは 自らヴェールを上げると
「わたしは貴方の物よ ! 」
と トリスタンに告げます。
 そんな「王女」の素顔を見て、愕然とするトリスタン。彼女「王の侍女ブラーニャ」じゃなかったの? しかも海岸でゴメンナサイされたというのに?
トリスタン、呆然とする イゾルデ 呆然とする
「まさか彼女が王女イゾルデだったとは 」という表情を浮かべると 唇を噛むのでした。イゾルデも わが身が トリスタンをスルーして 見知らぬ他の男に渡されると聞いて、淡い喜びも一瞬で消え「ウソでしょ」 もう半泣き。

アイルランド王と参謀 映画 トリスタンとイゾルデ ソフィア・マイルズ
 一方、もう どうでもいいと思ってるらしい アイルランド王ドナカーの内心の声が聞こえてきます ‐
「結婚式が終わり次第、適当な理由をつけて イゾルデとは親子の縁を切ってやるさ。そうすれば同盟もなかったことにできる 」

 ・・・って、そもそもコイツは 本当にイゾルデの父親なんでしょうか。映画の最初のほうで、幼いイゾルデの母である王妃の寂しい葬儀シーンが挿まれていましたが、たとえば 母后は 実は王ドナカーとは 愛なき政略結婚にあり、何らかの事情によって 不本意な「再婚」を強いられる以前に 彼女が産んだイゾルデの実父は 別の男性だった、という想像も ありかと思います。それほど このドナカーという人物は、ドラマトゥルギー的にみて、 本来のヒロインの父たるべき 人格や品位を あまりにも持ち合わせていないからです。

 もとい。トリスタンは 苦渋の想いで イゾルデを船に乗せ コーンウォール城のマーク王まで 送り届けるため海を渡ります。
 - はい。 ワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ 」は ここから開幕・・・。
船上のトリスタン
クルゼヴァル(クルヴェナル)「甲板の天幕から姫がお呼びですよ 」
・・・すっかりヤサグレた(?) トリスタン。

 船上での二人、もはやどうすることもできません。「トリスタン お願い、わたしをさらって 一緒に逃げてよ」「無理。運命を受け入れろ」という どこか痴話喧嘩もどきな会話に終始し、船は間もなく上陸してしまうのでした。
 冒頭でも触れたように、ワーグナーが 船の上で重要な小道具として扱った「愛の妙薬」は一切登場しません。

 コーンウォール城に到着すると、マーク王はイゾルデの不安な心情に配慮する優しい言葉で、紳士的に彼女を迎えるのでした。
 その晩、伝統衣装と幻想的な儀式進行で 二人の結婚挙式が執り行われます。少し離れた列から彼女を見守るトリスタンは、目に涙を溜めています。
マーク王とイゾルデの結婚式 うるうるするトリスタン
 
 マーク王と結婚するとイゾルデはコーンウォールの皇后となります。
 彼女の皇后戴冠式は 王との結婚から一か月も先の満月の夜に予定され、その間 ドナカーから賜った(と思われる)新しい領地は(ブリタニア内地らしいが詳細不明 )治安が不安定ゆえ マーク王はトリスタンを「次官」に任命し 統治を委譲させようと考えます。
 が、トリスタンは 次官の地位は重責ゆえ 王の血筋、甥のメロートに与えられるべき、自分では周囲が納得しないだろう、と固辞しようとします。マーク王はトリスタンへの信任の念があまりにも厚く、強いて地位を受け入れるべく説得を重ね、しまいには「早く妻を娶れ」などと「妃」イゾルデの前で説教を始める始末。

 その夜は満月で イギリスでは徹夜で狩をする伝統に従い、王は朝まで帰らないぞと言い残し、家臣らを率いて出かけて行きます。朝まで帰らない? 素早く目くばせを交わし合うトリスタンとイゾルデ・・・
トリスタンとイゾルデ 森の中
 深夜の森の中、静かに愛を交わす二人・・・。
 もはや恋人たちは 堰を切ったように お互いの身体を憚ることなく貪り合うようになり、この後 機会をみつけては 王の目を盗み、もう昼夜を問わず 城の内外を問わず、飽くことなく 危険な逢引を重ねるのでした。

トリスタンとイゾルデ 城の中で
 これを助けたのは、かつて古代ローマ人が掘ったと思しき、城の裏手に茂る森からコーンウォール城の真下に通じている秘密の地下通路でした。この抜け道を知る者は、トリスタンと友人サイモン(この時点で すでに戦死 )、そしてメロートの三人だけでした。

トリスタンとイゾルデ ローマ遺跡にて
 古代ローマ人が遺した 四阿(あずまや)の跡で・・・。
 映画の中では もはや「イヤイヤ、あり得ないだろ」「ヤバいよ ヤバいよ」という場面が再三続き、もう第二幕のブランゲーネでなくても警告を与えたくなるほど。

 善意のかたまりマーク王は、自身が気づかぬところで その「プライドは汚泥にまみれて 」いました。にも関わらずトリスタンの言葉を決して疑わず、妻イゾルデの様子が不自然だから 彼女の話を おまえ聴いてやってくれ、などと頼んでくるほど。

 トリスタンは もはや王の信頼を裏切っていることに耐えられなくなり、不倫関係を清算しようと イゾルデとの逢引の場だったローマ遺跡の四阿に火をかけるのでした。
トリスタン、ローマ遺跡の四阿を燃やす

 しかし 時はすでに遅く、最も知られてはマズい相手に 二人の秘密は目撃されていたのでした。その相手とは アイルランドの武芸大会でトリスタンに敗れて以来 彼を敵視していた、グラストンベリーのウィトレットです。
 マーク王が妃イゾルデを連れて街中を歩いていた時、その後ろから近寄って 彼女の手首にトリスタンが仲睦まじく腕輪を通した瞬間を、この狡猾な男に見られていたのでした。トリスタンの「腕輪」が象徴するものも この映画中で頻出する 一つのモティーフなのですが、ここでは深追いせずにおきましょう。
ウィトレット アイルランド王ドナカー (2)
 ウィトレットは、イギリス同盟に参加しながらマーク王の抵抗勢力でもありました。彼は、実は アイルランドの内通者だったのです。
 イゾルデ姫に愛人がいること、それが次官候補の側近トリスタンであること、この不名誉な醜聞が公にされれば マーク王は傷つくばかりか、周囲の国々の信頼を失い、同盟も瓦解するであろう、と王ドナカーに密告するのでした。
 その上で ウィトレットは、さらに恐るべき作戦を進言します。
「イゾルデ姫が皇后となられる戴冠式には、姫のお父上たるドナカー王もコーンウォールに招待されていますから、王を“護衛”する船団と称して、誰にも怪しまれずアイルランド軍を海岸に待機させておくことができる、そんな千載一遇のチャンスではありませんか。
「タイミングを見計らって、私がトリスタンを告発しましょう。“妃の愛人” トリスタンは、王を裏切った不忠の罪で懲罰対象、少なくとも牢に監禁されるでしょう。
「その間、私が自分の手持ちの軍と マークから離反させた者らで コーンウォール城を襲います。寄せ集めの軍隊でも 司令官(トリスタン)不在となった隙を突くのですから大丈夫、陥落させてみせますよ。海防の兵がいなくなるので、港に待機させていた アイルランド軍は 簡単にイギリスに上陸できるでしょう。そうしたら一挙にコーンウォールを攻め取れますよ・・・ 」
 そんな周到な企みに敵王ドナカー、陰謀を成功させた暁には ウィトレットに マークの王座を与えることを約束するのでした。
 さあ、トリスタンとマーク王、絶体絶命のピンチ。

イゾルデ マーク王とトリスタン
 イゾルデが皇后となる戴冠式の晩は、満月の夜 - 騎士たちが徹夜で狩をする伝統 - でした。白々しくウィトレットが これを提案してみせた その意図は、わざと トリスタンとイゾルデに 逢引の隙を与えることを計算してのことでした。
 一同は馬を駆って 一斉に城の外へ出てゆきます。

 正式に王妃となったイゾルデとの関係を終わらせることを目的に、トリスタンは 彼女と「いつもの 」森の城への抜け穴付近で 待ち合わせたのでした。密会も これで最後にしようと、必死に説得するトリスタン、でも別れには未練を残すイゾルデ・・・。

 そんな押し問答になっている恋人たちの許へ、まさにウィトレットに先導された騎士一同が 全員集まってしまうのでした。
 アイルランド王ドナカー、コーンウォール王マーク、その甥メロート、老僕クルゼヴァル、イギリス同盟の領主たち・・・ 騎馬上の全員から見下ろされる トリスタンとイゾルデ、もはや逃げも隠れも出来ません。
 二人を信じ切っていたがゆえに、最も驚いていたのが イゾルデの夫たるマーク王でした。が、次の瞬間 王は 二人がここにいる理由を ようやく察知するのでした。
  当惑の淵に沈み 混乱するマークに、容赦なく追い打ちをかけるドナカーは 「貴様、わしの娘を まるで娼婦のように家臣に与えるとは 何たる侮辱だ 」と、準備しておいた攻撃の言葉を 言い放つと 和平条約の破棄と宣戦まで布告します。さらに 娘であるイゾルデにも 冷たい勘当の言葉を投げつけるのでした。やっぱり 実の親子ではないのでは?
 昔から同盟に好意的だった領主らも 今は顔を伏せ、いたたまれず 黙ってその場から立ち去ってゆきます。
 
 剣を奪われ、後ろ手に縛られ 捕われの身となったトリスタンの顔にメロートは唾を吐き、伯父である王マークにも 離反を宣言します。これは、ウィトレットがメロートの立場を利用しようと、事前に彼を「マークの後継者」たる「逸材」であると持ち上げ、その気にさせたおいたのです。これで コーンウォールの兵力は二分されてしまいました。
 さらにウィトレットは、日和見な同盟領主らを ドナカーから預かった金貨で買収しようと画策さえするのでした。

 王ドナカーを「護衛する」と称して港に停泊していた 9隻ものアイルランド船団の兵らが上陸を開始します。彼らが目指すのは コーンウォール城です。
 事態が切迫する中にもかかわらず、マーク王は 後悔の涙に暮れるイゾルデから アイルランドでのトリスタンとの初めての出会いから ことの経緯と顛末を詳しく聞いた結果、何ということでしょう、真実を見きわめ、寛容にも 二人の恋人たちの罪を許すことに決めます。
 廷臣らに トリスタンの戒めを解かせ イゾルデとともに自由の身にして釈放するよう指示すると、マーク王自身は 残った少ない人数の兵とともに籠城、討ち死にを覚悟で おそらく最期の戦となるであろう防禦戦の準備に入るのでした。

 しかしトリスタンは、イゾルデとの解放/自由より 自身の名誉と マーク王への忠誠を 迷うことなく選ぶのです。
 もし今、イゾルデと このまま消えてしまうということは、故国が自分抜きで戦う、それは すなわちコーンウォールの敗北に繋がる、ということを トリスタンは知っていました。そうなってしまっては、自分とイゾルデの愛は“国を滅ぼした不名誉な記憶”として人々にずっと語り継がれてしまう・・・。それは二人のためにも、コーンウォールのためにも、絶対に避けねばなりません。  
 彼は 城へ戻って故国を勝利へ導く運命なのです。同時に、それこそがイゾルデとの愛を永遠に成就させることにも繋がるからです。

トリスタン 川岸での別れ
 迷うことなく、騒ぐイゾルデ(とブランゲーネ)を小舟に乗せると 川へ押し出し、トリスタンは 踵を返して居城へと駆け戻ります。

 今や 剣を携えたトリスタン、「秘密の地下道」を抜け、戦闘中の城内へと潜入します。すると、その暗闇の足元に 瀕死のメロートが倒れているのを発見します。
「おい メロート、何があったんだ 」
「天罰が下った。俺は愚かにもダマされ、敵のウィトレットに秘密の抜け穴を教えてしまったんだ 」
「って、なぜ・・・?」
「アイツが初めて俺の力を認めてくれたと思ったんだ、だが、バカだなあ・・・それは罠だった。御用済みとばかりに、後ろから斬られてしまった 」
「傷は浅いぞ、まだ挽回できる 」
「いや、俺はもうダメだ。だがトリスタン、お前は 必ず王を守ると誓ってくれ 」
「ああ、兄弟として誓う 」
メロートの死
 メロートは 安堵した表情で息を引き取ります。トリスタンは、その死に際で義兄弟メロートと和解したのでした。

 トリスタンが昇ろうとしている城塔の先にはウィトレットら敵兵らも進んでいる、さらにその上階には劣勢のマーク王らが必死に戦っている・・・ トリスタンは、自分が塔を昇ることによって 密かに忍び込んだと思っているウィトレットら敵を 味方の兵との間で挟み撃ちに出来ることに気づき、猛然と駆け上がります。
トリスタンとウィトレットの死闘
 凄まじい激闘の末、トリスタンはウィトレットを倒すことで 城の跳ね橋を下ろす絶妙なタイミングを制御し、ドナカー率いるアイルランド軍がコーンウォール城を落としていたかもしれない深刻な危機から、間一髪でマーク王と自軍を救うことに大きく貢献するのでした。

 が、戦闘で自身も致命傷を負い、マーク王と和解した後、川のせせらぎが聞こえる水辺で愛するイゾルデに その最期を看取られるのでした。

トリスタンとイゾルデ ラストシーン トリスタンとトイゾルデ ラストシーン トリスタンとイゾルデ ラストシーン 2

―  わたしの瞳にあなたが映り、
   あなたの瞳にあなたが映る
   そこに宿るのは 飾らない二人の心

   ここは夢に見た大地
   そこは寒い北も 沈む西もない
   通い合う心は 死を畏れない

   二人の愛が一つになり、心が離れなければ
   愛は決して朽ちることなく、死を超越する


 言い伝えによれば、その後 マーク王は勝利し 国を再建して 平和を築いた

 イゾルデは 古代ローマ遺跡の焼け跡に トリスタンのなきがらを 埋めた

 その墓に植えられた二本の柳は、からみ合い、朽ちることはなかったという


(文中 引用した台詞 ‐ 青字 - は、古田由紀子/翻訳 のDVD字幕に拠ります )


映画 トリスタンとイゾルデ サウンドトラック Varese Sarabande アン・ダドリー Ann Dudley
映画「トリスタンとイゾルデ」サウンド・トラック
音 楽:アン・ダドリー Anne Dudley
収録曲:トリスタンの幼年時代(02:59)、アイルランド軍の急襲(03:00)、アイルランド女王の葬儀(01:56)、異国の郷(01:18)、マーク王の嘆き(01:46)、イゾルデの夢(02:47)、愛の芽生え(01:05)、待ち伏せ(02:14)、王のしもべ トリスタン(02:29)、愛し合うふたり(01:33)、逢引き(02:09)、決勝戦(01:25)、マーク王とイゾルデの婚礼(02:06)、岸辺での別れ(01:48)、トリスタンの生還(02:52)、頬を寄せ合って(02:09)、トーナメント(02:18)、裏切り(01:35)、愛を夢見て(01:43)、愛なき生活(02:45)、コーンウォール城の死闘(01:52)、森の中の情事(03:14)、トリスタンの自己犠牲(01:51)、不滅の愛(03:20)
音 盤:Varese Sarabande(GNCE-3062)
発売年:2006年

 映画のオリジナル音楽は、意外にもアート・オブ・ノイズアン・ダドリーが担当しています。ケルティック旋法、アイルランドやスコットランドの民族音楽的な要素を使った耳当たりの良い、美しい映像にも相応しいBGMです。
 私にとっては 「トリスタン~ 」といえば 言うまでもなく リヒャルト・ワーグナーの楽劇ですが、映画の中では一切使われることなく、むしろ意識的に排除されているようでしたね。

映画 トリスタントとゾルデ Cast



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