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スケルツォ倶楽部
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全記事タイトル
ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made
ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made
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27.ドン・ファンのじゃじゃ馬娘 (ジョニ・ミッチェル)
Don Juan's Reckless Daughter / Joni Mitchell

男装のジョニ・ミッチェル ジャコ・パストリアス
 
 アルベルト・マンゲルスドルフとの共演ステージ を大成功の裡に終え、一週間ほどの西ドイツ滞在から帰国したジャコを待っていたのは、アンサリング・マシーン(留守番電話 )に吹き込まれた伝言だった。
 それは ビジネス上の連絡や大事なメッセージを逃してはイケナイ というジョー・ザヴィヌルの勧めで、ヨーロッパへ発つ前 電話機にセットした新しい機能だった。
 無意識に機械の再生ボタンを押す。
 小さなスピーカーから ザヴィヌルのメッセージ音声が流れてきた。
ザヴィヌル
「お帰り、ジャコよ ! ご苦労だったな。
「ヨアヒム・ベーレントから連絡をもらったが、素晴らしいステージだったそうではないか。向こうの関係者は皆 大絶賛だ。おかげで わしも鼻が高いよ。
「ライヴ・レコーディングされたテープが わしのところに届くそうだ。録音を聴くのを楽しみにしているぞ、また会おう ! 」

 郵便受けには ジョニ・ミッチェルからの手紙も入っていた。水色の封筒を 大急ぎで破り、レターを引っぱり出すと目を走らせる。
ジョニ・ミッチェル
― ハイ、ジャコ?
 貴方がヨーロッパに出かけている短い間、わたしの周りでは いろいろなことがありました。
 まず、わたしは 33歳のバースデイを迎えました(笑 )。

 それから、いつも夜中に “テレパシー”だけで 交信を重ねていた チャールズ・ミンガス本人から - 驚かないでね - 何と連絡を 貰いました( ! )。


 そこまで読んで、ジャコは びっくりして椅子から立ち上がった。気持ちを落ち着かせながら ジョニからの手紙の続きを読み進める・・・。

 ― 何と不思議なことでしょう。
 御大ミンガスとは初めて電話で話したわけですが、彼には 今まで わたしと交信を交わしていたという自覚は皆無で(・・・って、まあ当然かも )、ちょうど詩人T.S.エリオットの連詩「四つの四重奏」を基にした新作を作曲中であることや、それを彼自身のバンドが演奏する背景で わたしにエリオットの原詩を朗読してほしいだなんて、そんな興味深いことを頼まれてしまったのです( ! )。

 ― 御大のバンドは、間もなく世界楽旅(ツアー)に出る予定だそうですが、
 帰国したらニューヨークで会おう、と言ってくださいました。
 あ、その時は、ジャコ、貴方も一緒だからね。


 ジャコは、深く頷きながら ジョニの手紙を読み続ける・・・。

 ― いずれ御大と共演できる日のために、わたしも オリジナル楽曲を作り置きしておこうと、考えるようになりました。

 ― でも、それには ミンガス翁がずっと問題と感じてきた筈の アフリカ系アメリカ人男性としての意識を わたしも共有する姿勢が必要であるということに気づきました。これは避けて通れない意識改革です。そこで、熟慮した末に 思い切って わたしが試みたことがあります。


 そこから 手紙の文章は 少し調子を変えた。

 ― 今週は、ちょうどハロウィーン・パーティのシーズンでした。
 セッション・ミュージシャン、リーランド・スカラーのL.A.にある自宅で、ピーター・アッシャーやラス・カンケルなどを含むミュージシャンや音楽業界の仲間を集めて仮装パーティーが開催されました。
 わたしも 招かれていたので、その晩 出かけてみたのでした。

 ― そのパーティでの わたしのスナップ写真を 同封しました。見てね !


 ・・・と、そこまで読んだところで、突然 ジャコの玄関のドアが開けられ、妻トレイシーと幼い子どもたち、ジョンとメアリーが入ってきた。
「パパ、ドイツのお仕事から戻ってきてたんだね 」
「お帰りなさーい、お土産は? 」
と、うれしそうに飛びついてくる子どもたちとは対照的に、トレイシーは どこか余所余所(よそよそ)しく、冷めた視線を彼に投げてきた。
「仕事を優先させるからって、同じフロリダにいるというのに何よ、勝手に別居を始めてさ。しかも この一週間 何処へ行ってたのよ 」
「西ドイツのジャズ祭で 演奏旅行に出張だよ。たった今、帰ってきたところさ」
と、ジャコは 努めて落ち着きを装いながら 真実を 言う。
「ふふん、本当かしら? 」
トレイシーは 夫のトランクの荷物を広げると、中身を物色するかのように手にとった。
「おい、あまり勝手に触るなよ。それとも洗濯してくれるのかい? 」
それには答えず、彼女は自分の疑問を口にした。
「わたしとの約束は? ウェザー・リポートからは 足を洗ったのかしら? 」
「って、無茶を言うなよ・・・。約束なんかした覚えはないからな 」
妻トレイシーは、少し険しい顔つきになって ジャコに尋ねた。
「そう言えば、アナタ、ヨーロッパ旅行は カナダ出身の女性フォーク・シンガーと 一緒に行って来たんじゃないの? 」
「はあ? オイ、邪推もいい加減にしろよ 」
脇から 幼いジョンが、わけもわからずに口を挟む。
「え、パパ 浮気したの? ねえ、パパ ったら、他の女の人とデキちゃったの? 」
子どもの面白半分な反応が 母トレイシーの逆鱗に触れたようだ。
「その何とかミッチェルってシンガーは、スタジオで共演するミュージシャンと すぐデキちゃうような女だって、ジャーナルに書いてあったわよ 」
それはない、決してない、ジョニさんにも失礼な話だ、しかも子どもの前で。慌ててジャコは強く否定しようとした。
「じゃ、その写真は 何なの ? 見せなさいよ ! 」
ジャコが手にしていた、ジョニの手紙に同封されていたポラロイド写真は - まだジャコも開いて見る前だったが - ひったくられ、トレイシーの手に握られてしまった。
 ああ、きっとパーティ会場で ドレスアップした装いのジョニ自身のポートレイトか何かなのだろう。俺に そんな写真を送って寄こすなんて、ジョニさんったら 妻に要らぬ誤解を与えるじゃないか もう・・・ と ジャコは心の内で叫んだ。

 だが、トレイシーは夫から奪い取った写真を一瞥するなり、なぜか興味を失ったかのように床へ落とすと、気勢を削がれた表情になってしまった。
 母親の手から落ちた写真に駆け寄ると、拾い上げて眺めた 二人の子どもたちは、小鳥のように囀(さえず)った。
「なーんだ。知らない男の人の写真だよ、ママ 」
「よかったね、パパは浮気なんかしてなかったんだよ ! 」

 おそるおそる子どもたちの肩越しに ジャコも写真を覗き込む。そこには パーティ会場で 一人の若い痩身な「黒人男性」の姿を とらえた 二枚のスナップ写真があった・・・。
黒人男性に装したジョニ・ミッチェル (2) 黒人男性に装したジョニ・ミッチェル
「こ、これは・・・ ? 」
絶句したジャコが、そっと 後ろ手に丸めたジョニ・ミッチェルからの手紙には 続きがあった。

― このコスプレでパーティ会場に入って、自己紹介もせず、勝手にカナッペやブルスケッタをとって徘徊しても 誰もその正体がわたしだと気づかなかったんだから、誰一人もよ。J.D.サウザーでさえよ !

― それは ピーナッツ・コミックのスヌーピーが セーター着てサングラスして“ジョー・クール”になりきっても 周囲は気づかずに 無関心で いてくれるような感覚だったわ。
スヌーピー Joe Cool

― でも、テーブルから少し離れた場所に立っていた ひとりの白人男性から、明らかに わたし(の黒い外見 )を蔑視する鋭い眼差しが飛んできた・・・ その体験こそが わたしには重要だった。

― この日の冒険で会得した、もうひとつ大事なことは、身も心もブラック・ミュージックを理解しようと志向する いわば「もうひとりのわたし 」 - ユングが呼ぶペルソナ - を 身をもって体験してみることでした。

― わたしは 自分の音楽的志向が、もはや 転がり落ちる石のように ジャズ=ブラックミュージックへ傾倒してゆく衝動を抑えることができない。今のわたしには 貴方が必要なの、もちろん 音楽的なサポートで、という意味でよ。

― ああ、ジャコ、貴方は あの素晴らしいベースを演奏している時、その音楽が貴方自身の肉体的外見と一致しないことに、悩むことはないのかしら・・・ ?



ジョニ・ミッチェル Joni Mitchell
「ドン・ファンのじゃじゃ馬娘 」Don Juan's Reckless Daughter

ジョニ・ミッチェル(小)ドン・ファンのじゃじゃ馬娘
Side 1
1. オーヴァーチュア Overture ~ コットン・アヴェニュー Cotton Avenue(06:35)
ジョニ・ミッチェル Joni Mitchell – guitar & vocal
ジャコ・パストリアス Jaco Pastorius – bass
ジョン・ゲリン John Guerin – drums

2. トーク・トゥ・ミー Talk To Me(03:40)
ジョニ・ミッチェル Joni Mitchell – guitar & vocal
ジャコ・パストリアス Jaco Pastorius – bass

3. ジェリコ Jericho 3:25(03:25)
ジョニ・ミッチェル Joni Mitchell – guitar & vocal
ジャコ・パストリアス Jaco Pastorius – bass
ドン・アライアス Don Alias – bongos
ジョン・ゲリン John Guerin – drums
ウェイン・ショーター Wayne Shorter – soprano saxophone

Side 2
1. パプリカ・プレインズ Paprika Plains(16:19)
ジャコ・パストリアス Jaco Pastorius – bass
ジョニ・ミッチェル Joni Mitchell – piano & vocal
ウェイン・ショーター Wayne Shorter – soprano saxophone
マイケル・ギブス Michael Gibbs – orchestration, conductor

Side 3
1. オーティス & マレーナ Otis And Marlena(04:05)
ジョニ・ミッチェル Joni Mitchell – acoustic guitar & vocal
ジョン・ゲリン John Guerin – drums [snare drum]
ラリー・カールトン Larry Carlton – electric guitar
ミッシェル・コロンビエ Michel Colombier – piano

2. 第十世界 The Tenth World(06:45)
ジャコ・パストリアス Jaco Pastorius – bongos
ドン・アライアス Don Alias – congas, claves,vocals
アレックス・アクーニャ Alejandro Acuna – congas, cowbell,vocals
マノロ・バドレーナ Manolo Badrena – lead vocals, congas, percussion [coffe cans]
アイアート・モレイラ Airto – surdo [bass drum]
ジョニ・ミッチェル Joni Mitchell – Vocals
チャカ・カーン Chaka Khan – vocals

3. 夢の国 Dreamland(04:37)
マノロ・バドレーナ Manolo Badrena – congas
ジャコ・パストリアス Jaco Pastorius – cowbell
ドン・アライアス Don Alias – percussion [snaredrum and sandpaper blocks]
アレックス・アクーニャ Alejandro Acuna – shaker
アイアート・モレイラ Airto – surdo [bass drum]
ジョニ・ミッチェル Joni Mitchell – vocals
チャカ・カーン Chaka Khan – vocals

Side 4
1. ドン・ファンのじゃじゃ馬娘 Don Juan’s Reckless Daughter(06:40)
ジョニ・ミッチェル Joni Mitchell – guitar & vocal
ジャコ・パストリアス Jaco Pastorius – bass
アレックス・アクーニャ Alejandro Acuna – bells [ankle bells]
ボビー・ホール Bobbye Hall – other [in spirit]
マノロ・バドレーナ Manolo Badrena – other [in spirit]
エル・ボイド El Bwyd – other [the split tongued spirit]
ドン・アライアス Don Alias – shaker

2. オフ・ナイト・バックストリート Off Night Backstreet(03:22)
ジャコ・パストリアス Jaco Pastorius – bass
ジョン・ゲリン John Guerin – drums
ジョニ・ミッチェル Joni Mitchell – vocals
グレン・フライ Glenn Frey – vocals
J.D.サウザー J.D.Souther – vocals
マイケル・ギブス Michael Gibbs – orchestration

3. 絹のヴェール The Silky Veils Of Ardor(04:02)
ジョニ・ミッチェル Joni Mitchell – guitar & vocal

録音:A&Mスタジオ(ハリウッド )、オーケストラ部分は コロンビア・スタジオ(ニューヨーク )、その他 追加レコーディングはベイジン・ストリート・スタジオ(ロンドン )
音盤:Asylum(ワーナー/WPCR-75235 )


 意表を突く「男装姿で」ジャケットに収まったジョニ・ミッチェルの隠れ名盤。
 オリジナルL.P.リリースでは 意欲的な二枚組、いよいよジャコが全面的に参画することによって 楽曲の作/編曲にもサウンドにも色濃くその影響を与えていることが明瞭に聴き取れる。L.P.一枚目に並ぶ 3つのナンバーなど 殆どジョニとジャコ二人だけによる素晴らしいデュオ(含む多重録音)が、パフォーマンスの核にして基本型となっている。
 中でも名曲「トーク・トゥ・ミー」Talk To Me の簡潔さ/巧みさは一聴の価値あり、楽曲がスタートして間もなくジャコのベースに ストラヴィンスキー「春の祭典」冒頭のフレーズが引用されることに思わず頬が緩んでしまう。このフレーズを ジャコは かなり好んでいたらしく、そう言えばウェザー・リポートの印象的なナンバー「ハヴォナ」(アルバム『ヘヴィ・ウェザー』収録)のベース・ソロの途中にも姿を見せていた。

 ジャコの政治力(?)で、当時のウェザー・リポートのメンバーが(ザヴィヌルを除く )総動員されていることも注目に値する。
ウェイン・ショーター Steely Dan AJA
 とりわけ この時期を境にして、名手ウェイン・ショーターが、ロック/ポップスなど他ジャンルのレコーディングにゲスト・ソロイスト的な役割で参加する機会が少しずつ増えることになる。その最初期の録音となる重要なワークが、スティーリー・ダン「エイジャ」 と並んで このジョニ・ミッチェルの「ドン・ファン~ 」、そして次作「ミンガス」と、いずれも必聴の名作である。ジョニのアルバムには その後も 常にショーターのソプラノ・サックスの音は 無くてはならぬ存在となる。

 ウェザー・リポート歴代ドラムス/パーカッション奏者が一堂に会した「第十世界 」~「夢の国 」の豪華さにも目を瞠(みは)る。ジャコのベースとパーカッション・パートが融合する傾向のインストゥルメンタル楽曲は、このレコーディングに参加したアイアート・モレイラの「ネイティヴィティ」(アルバム『アイ'ム・ファイン、ハウ・アー・ユー』収録)、同じくマノロ・バドレーナの「ザ・ワン・シング 」(アルバム『マノロ』収録)の中でもその後 再現されることになるものだ。
アイアート・モレイラ「アイム・ファイン、ハウ・アー・ユー」 マノロ・バドレーナ「マノロ 」UCCU-90092

⇒ 次回につづく

♪ 事実に基づいたストーリーですが、登場人物らの会話、文中「ジョニの手紙」は “発起人”の創作で 架空のものです。

参考文献
「ジャコ・パストリアスの肖像」ビル・ミルコウスキー(湯浅恵子/訳)リットー・ミュージック
「ワード・オブ・マウス / ジャコ・パストリアス 魂の言葉」(松下佳男)立東舎文庫
季刊ジャズ批評118号「特集ジャコ・パストリアス」ジャズ批評社
ジャズベース・プレイヤー Vol.4「オール・アバウト・ジャコ・パストリアス」シンコーミュージック・エンタテイメント
「NO BEETHOVEN ウェザー・リポート&ジャコ・パストリアスと過ごした日々」ピーター・アースキン(川嶋文丸/訳、松下佳男/監修)アルトゥス・ミュージック
「ALL ABOUT WEATHER REPORT」シンコーミュージック・エンタテイメント
「ザヴィヌル ウェザー・リポートを創った男」ブライアン・グラサー(小野木博子/訳)音楽之友社

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