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スケルツォ倶楽部
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全記事タイトル
ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made
ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made
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26.トライローグ Trilogue、
Live At The Berlin Jazz Days 1976

ジャコ・パストリアス トリローグ(三者対話) アルフォンス・ムザーン アルベルト・マンゲルスドルフ(トロンボ-ン奏者)スケルツォ倶楽部

 フロリダのジャコのもとへ、ザヴィヌルから一本の電話がかかってきた。
「はい、もしもし 」
「おお、ジャコか。最高のニュー・アルバム“ヘヴィ・ウェザー”のミックス・ダウンも仕上がったところで、オマエさん、ちょっと気分転換の武者修行にヨーロッパまで 足を運んでみる気はないか 」
「はあ? またスイスですか 」
「今度はドイツだよ。ベルリン・ジャズ・デイという、欧州では最大規模のジャズ・フェスティヴァルのひとつさ 」
忙しいウェザー・リポートの活動以外に もし時間の余裕が作れたなら 当面はできるだけジョニ・ミッチェルとのセッションに充てたい、と内心考えていたジャコだった。 ・・・が、ザヴィヌルの依頼では断るわけにはいかない。
「はい、喜んで ! 」
「フランクフルトのトロンボーン奏者で アルベルト・マンゲルスドルフ という名人を知っているかな 」
「ヨーロピアン・ジャズのフリー系で、たしか二つの音を同時に出せるマルチフォニックスとかいう特殊奏法で知られる 凄いプレイヤーですよね 」
「そう、そのマンゲルスドルフだ。そやつがフェスティヴァルのステージで “わしの秘蔵の” ジャコ・パストリアスを貸してほしいと、ヨーロッパ時代からの友人ヨアヒム・ベーレントを通して 打診が来てな 」
「・・・名誉なことです 」
「そうだろう? オマエさんには わしの顔を立てると思って ぜひ参加してもらいたい・・・ というか、すでに受諾の返事をした後なんだがな 」
そう言うなり ザヴィヌルは電話の向こうで爆笑してみせた。心の中でため息をつきながらジャコは訊ねる。
「ええと、そのステージは いつなんでしょ 」
「11月アタマだったかな 」
「ええっ ? もう来月のことではありませんか。二週間ありませんよ、時間が足りません 」
「オマエさんの腕(テク)なら ぶっつけでも大丈夫さ。公演は一度きり、だがステージはベーレントのMPSレーベルがライヴ・レコーディングするそうだから、向こうで名を上げるチャンスだと思え。延(ひ)いては われわれウェザー・リポートのヨーロッパでのレコード・セールスにも影響を与えることとなろう 」
「はあ - 」
「他に 何か質問は? 」
「そうですね・・・ ドラマーが誰だか 聞いていますか 」
「それは知らん。現地のプレイヤーが就くのではないか。さあ、迷わず行って来い ! 」
“ありがたい”電話は そこで一方的に切れ、ジャコは独り残された。

ジャコ・パストリアス トリローグ
 そんなジャコがベルリンに入ったのは、コンサートの僅か 4日前 - 11月2日朝のことだった。ベルリンは11月に入ると一気に寒くなり 冬支度を感じるシーズンである。
 ベースを携えて コンサート会場のリハーサル・スタジオまでやってきたジャコの肩を軽く叩く者がいた。
「よく来たな、久しぶりじゃないか 」
と、嬉しそうな表情で出迎える大男 - 昨年 アル・ディ=メオラの「黄金の夜明け」レコーディング 以来 一年振りとなる名ドラマー、アルフォンス・ムザーンがそこにいることに ジャコは驚いた。
「エピックのスタジオで共演させて貰ってから もう一年も経ちましたっけ 」
「すでにあの時から 君のベースの腕に注目してきたのが、この俺よ。なにしろ印象が強烈だったからな。僅か一年で あっという間に頭角を現して、物凄いことになってるじゃねえか 」

 ジャコは、ムザーンが自分をベルリンへ出迎えた理由にやっと気づいた。
「あ、もしやアナタがフェスティヴァルのステージで共演するドラマー ! 」
「え、知らなかったのかい? アルベルト・マンゲルスドルフ自身の希望で、本場アメリカの現代ジャズ・ドラマーとして 真っ先に指名されたのが、この俺よ。ベースの人選も一任されていた 」
「と、言うことは・・・ 」
「エージェントがリスト・アップしてくれたベーシストの一覧には、エディ・ゴメス、デイヴ・ホランド、チャーリー・ヘイデンらと並んで、唯一エレクトリック・ベーシスト、ジャコ・パストリアスの名前もあったんだ。迷うことなく君を選んだのは、もちろん、この俺よ 」
そう言うと、ムザーンは笑顔をみせながら、彼の懐から出したZippo で 煙草に火を点けた。
「ウェザー・リポートには エージェント経由でヨアヒム・ベーレントから連絡を取ってもらうことになったようだ。だからジャコを指名した人間が、まさか俺だったとはジョー・ザヴィヌルのヤツにも判らなかったんだろ 」

 このアル・ムザーンが、ウェザー・リポートの初代ドラマーだったことを ジャコは忘れてはいない。
「今や アルさんの後輩になりましたよ、ボクも(笑) 」
「共演が実現して ホントうれしいよ。ところで・・・」
と、そこでムザーンは少し声をひそめた。
「何ですか 」
「君も苦労してるんだろうな、アイツには 」
「あ、アイツ・・・って? 」
吐き捨てるように、ドラマーは言った。
「ザヴィヌルのことだよ。傲慢で自分勝手。まともなら誰ともソリが合わないだろうぜ。アイツと対立してドン・アライアスもスタジオを去ったし、俺もツアーの途中で離脱した口さ 」
あれ? どこかで聞いたような会話だなあ・・・と、ジャコは 一瞬 デ・ジャヴ感に襲われた。
「君ほどの才能があれば、どこかのグループに所属しなくても 独り立ちして余裕で食って行けるだろうに。ワルイことは言わねえ、考えたほうが良いよ、ガハハハ・・・ 」
少し当惑するジャコの肩をもう一度 ムザーンは、今度は力強く叩いた。
「さ、11時からリハーサルだ。マンゲルスドルフ氏を紹介してやろう 」



(小)ジャコ・パストリアス トリローグ MPS ジャコ・パストリアス トリローグ (2)
アルベルト・マンゲルスドルフ Albert Mangelsdorff
トライローグ( 「三者対話 」 ) Trilogue Live !

  アルベルト・マンゲルスドルフ Albert Mangelsdorff(トロンボーン)
  ジャコ・パストリアス Jaco Pastorius(エレクトリック・ベース)
  アルフォンス・ムザーン Alphonse Mouzon(ドラムス)
収録曲:
1. トライローグ Trilogue(06:13)
2. ゾアーズ・モアーズ Zores Mores(08:12)
3. フォーリーン・ファン Foreign Fun(07:31)
4. アクシデンタル・ミーティング Accidental Meeting(08:50)
5. アント・ステップス・オン・アン・エレファンツ'トウ Ant Steps on an Elephant's Toe(09:35)
録 音:1976年11月6日 ベルリン
音 盤:MPS(ポリドールPOCJ-2517 )

 まさに一期一会 - 主役のトロンボーン奏者を ベース + ドラムス というリズム・セクションが支える特殊なトリオ編成。この「冒険的なプロジェクト」で演奏されたナンバーは、すべてマンゲルスドルフ作曲によるオリジナルだが「楽譜に書かれたのはヘッドの部分だけで、彼らのインプロヴィゼイションを促すのに必要充分」なものだったようだ。
 尚、このステージ演奏がフリー・ジャズの世界にあるとか解説している文章を多く見かけるが - たしかに、マンゲルスドルフ自身フリー系にカテゴライズされるプレイヤーだし、このライヴ・アルバム中にも ごく一部だがフリーな即興的要素もなくはないけれど - 基本的に リズムも調性も聴きやすいスケール内に収まる演奏だ。通して聴いていないのか「先行きが見えない展開」などと 初心者リスナーの誤解を招くような記述(Wikipediaなど )は避けてほしい。

 ジャコのプレイを傾聴するなら、快適に 4ビートでスウィングする「ゾアーズ・モアーズ」では とりわけ絶好調なベース・ソロを、スタンダード・ナンバー「四月の思い出」にも似た音列を持つテーマが魅力の「フォーリーン・ファン」では ハーモニクスによる美しいコード奏法を、さらにリズミカルなブルース「アント・ステップ・オン・アン・エレファンツ'トウ」では 後の「リバティ・シティ」で聴かれることになる重音ベースの音型や、やがて「デ・モインのおしゃれ賭博師」に顔を出す六連符フレーズの萌芽などが 次々と現われ、それらがまるで車窓の風景のように目の前を通り過ぎてゆくのを楽しめる。

 さて、今さら勝手な想像だが もしこの場でジャコのオリジナル「オコンコレ・イ・トロンパ(“太鼓とラッパ”の意 )」が採り上げられていたら・・・と、考えてしまう。ソロ・アルバム「ジャコ・パストリアスの肖像」に収録された名曲「オコンコレ~ 」は、本来フレンチ・ホルンの指定だが トロンボーンなら音域もサウンド的にも遜色ない。いや、こんな想像を巡らす理由は 実は もっと深い所にある。
 この楽曲に隠された真意とは、ジャズ が ヨーロッパ(発祥の金管楽器 )とアフリカ(発祥のドラムス)という二つの文明の邂逅(出会い)にこそ在り、それゆえマンゲルスドルフ(=西洋音楽)ムザーン(=アフリカのリズム)ジャコのエレクトリック・ベース(=現代アメリカのジャズ)が繋いでみせるステージを 目(ま)の当たりにしたヨーロッパの聴衆は、きっと その象徴性に気づいたに相違ないから。
 想像の「オコンコレ・イ・トロンパ 」の最後で長く伸ばされる金管の一音は、マンゲルスドルフだったら 彼のマルチフォニックス奏法によって 印象的に締め括ったことであろう。

⇒ 次回につづく

♪ 事実に基づいたストーリーですが、登場人物らの会話は“発起人”の創作で 架空のものです。

参考文献
「ジャコ・パストリアスの肖像」ビル・ミルコウスキー(湯浅恵子/訳)リットー・ミュージック
「ワード・オブ・マウス / ジャコ・パストリアス 魂の言葉」(松下佳男)立東舎文庫
季刊ジャズ批評118号「特集ジャコ・パストリアス」ジャズ批評社
ジャズベース・プレイヤー Vol.4「オール・アバウト・ジャコ・パストリアス」シンコーミュージック・エンタテイメント
「NO BEETHOVEN ウェザー・リポート&ジャコ・パストリアスと過ごした日々」ピーター・アースキン(川嶋文丸/訳、松下佳男/監修)アルトゥス・ミュージック
「ALL ABOUT WEATHER REPORT」シンコーミュージック・エンタテイメント
「ザヴィヌル ウェザー・リポートを創った男」ブライアン・グラサー(小野木博子/訳)音楽之友社

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