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ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made
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「それで・・・ その晩 ジョニさんは、夢の中に出てきた チャールス・ミンガス から 何を頼まれたんですか 」
と、ジャコは自分より 8歳年上のシンガー・ソングライター、ジョニ・ミッチェル に 興味津々で訊ねた。

ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made
25.逃避行 Hejira

 最初にエージェントが、歌手ジョニ・ミッチェルから共演の打診があることを知らせてきたのは、ジャコが ザヴィヌルらと「ヘヴィ・ウェザー 」のミキシングを途中まで完成させ、残りは明日以降にしようと すでに暗くなりかけたハリウッドのスタジオを まさに一歩外へ出た時だった。
 
 ・・・ジョニ・ミッチェル? その名は フォークかカントリーのシンガーだろうという程度の不正確な認識しか ジャコにはなかった。次アルバムの共同プロデュースなどという名誉を担って ウェザー・リポートの新譜を仕上げる仕事に集中していたジャコは、正直 困惑した。
 だが、面識のない相手であっても 渡された手紙の文面から 自分に「会いたい 」という熱意は強く伝わってきた。その理由を知りたくなり、翌週になればスタジオでの作業もようやく一段落つく見込みだったから、まるで何か別の意志に衝き動かされるように、ジャコは そろそろ多忙になり始めた自身のスケジュール帳に、ジョニ・ミッチェルとの面会予定を書き込んだのだった。


 会見の日までに、ジョニの最も新しいアルバムだった「夏草の誘い」The Hissing Of Summer Lawns を入手して 耳を傾けたジャコは、その予想外なクォリティの高さに このシンガー・ソングライターに対する認識を大幅に修正し、約束の時刻より 30分も早く ビヴァリーヒルズ・ホテルのロビーに到着してしまった。そんなジャコよりも さらに早く着いていたジョニは、すでにラウンジで待っていた。
「はじめまして、ぼく ジャコ・パストリアスです 」
年下のジャコが 礼儀正しく挨拶するのと、彼女が手を差し伸べるのは同時だった。
「お会いできてうれしいわ。ジョニと呼んでね 」
ジョニ・ミッチェル スケルツォ倶楽部

 最初に彼女は、ジャコのエピックからリリースされたソロ・アルバム「肖像」を絶賛した。デビュー以来、単なる社交辞令と 心からの賛辞との差違を容易に聞き分けることができるようになっていたジャコは、彼女の本心からの評価に照れて、思わず頭を掻いた。その仕草がかわいいと言ってジョニが笑い、すぐに二人は打ち解けた。

 テーブルに運ばれてきたコーヒーを傍らに、ジョニはトロントからデトロイト、ニューヨークを経て南カリフォルニアへ活動拠点を移す過程で 彼女自身の創作プロセスも成長を続けていることを熱心に話した。
 深化を遂げつつある彼女の表現方法の模索と 成長する音楽に伴って共演すべきミュージシャンの起用が いかに重要な課題であるか、にもかかわらず いわゆるフォーク、ポップス系のバック・ミュージシャンには そろそろ人材を見出せなくなっており、ここ数年は トム・スコットやウィルトン・フェルダーなど 他人からは畑違いだとも言われるミュージシャンにも協力を仰いできたけれど、どこかしっくりこなくて 溝が深まってしまっていることへの悩みなどを一気に語った。
 そんなジョニの表現者としてのスピーチ能力の高さも ジャコを彼女の物語の中へ誘いこむのに十分だった。
 一息ついてコーヒー・カップを飲み干したジョニが、彼女の物語の続きを話すことに 少し躊躇(ためら)っている様子を察して、ジャコは静かに訊ねた。
「どうかしましたか、具合でも? 」
「大丈夫・・・。実は、初対面の相手にこんなことをしゃべったら わたしのこと オカシイ奴なんじゃないかって思われるかな 」
ジャコは優しく笑った。
「大丈夫ですよ、ジョニさんの語りに ボクは胸が熱くなりました。音楽を表現する者として - 必ずしも同じではないけれど - 共通する志がいっぱいあるな・・・って。どうぞ何でもジョニさんの力になれることがあったら、遠慮なく言ってください 」
「ありがとう、今のアナタの言葉 A Remark You Made に勇気を得て、わたし 思い切って話しちゃおうかな 」
「安心してください 」
「そもそも“”が なぜわたしなんかを選んだのか、それは わたし自身にも理解できないんだけど - 」
「“”って? 」

 そこから先のジョニの語りは、ある意味 幻想的だった。
 “”- すなわちモダン・ジャズ草創期の偉大なベーシスト、チャールス・ミンガスの声を、まるで金縛りにあったような状態で、真夜中 彼女は聞いた、と言うのだ。
チャールス・ミンガス スケルツォ倶楽部
「ええと、そもそも ミンガスには会ったことあるんですか、ジョニさんは? 」
「ないわ、でも直感で 本人だと判ったの。何より私の脳の中へ “”が直接 語りかけてきたんだもん 」
「・・・ 」
ジャコは 質問を変えた。
「ミンガスって、今 もう何歳くらいでしょうね 」
「50代も中頃ね。関節炎の痛みが酷くなってきて、もうそろそろ ステージで立ってベースを弾けなくなってきたと 」
「そう言ってたんですね 」
「そう、関節痛の苦しみ以上に、プレイヤーとして音楽が演奏できないことが苦しいと ‐ 」
「ジョニさんの 夢の中で、ですよね 」
「そして、“”の代わりに ベースをプレイしてくれる男が一人いるんだ と。その男を捜してほしい、自分の精神を伝えたいから と 」
ジャコは、まるで語り部を務める巫女のようなジョニの顔を見上げながら、自分の首を横に振った。
「・・・まさか 」
「そう、それがアナタなの。夢枕に立ったミンガスの指示が不十分だったから、かなり苦労して、実は 半年以上も探した末、やっと今 この場があるのよ 」
「ボクを 巨人ミンガスのところへ - 」
「うん、ミンガス翁のもとへ 一緒に連れて行こうと思ってる。でもその前に、アナタが わたし自身の探し求めていた共演者たり得るかも確認しておきたいから 」
「って、どうやって - ? 」
「A&Mスタジオまで ぜひつき合って。録音中の新曲でベースを、アナタが思うとおりのやり方で 弾いてみてほしいの 」
ジャコに 異論は なかった。

ジョニ・ミッチェル
アルバム「逃避行 」Hejira (Asylum)
リリース:1976年11月

ジョニ・ミッチェル(小)逃避行
 人生を、旅を、テーマとしたコンセプト・アルバム。いずれも秀逸な全 9曲中、Side A-1「コヨーテ」Coyote(05:01)、同じくA-2「逃避行」Hejira(06:42)、Side 2-2「黒いカラス」Black Crow(04:22)および 2-4「旅はなぐさめ」Refuge of the Roads(06:42)の 4曲にのみ ジャコ・パストリアスは参加。伸びやかによく歌うベースが、主役ジョニ・ミッチェルの歌唱と彼女のアコースティック・ギターと 絶妙に綾をなす、そのコンビネイションの美しさに息を呑む瞬間が何度も訪れる。
 アルバムの製作途中で加わることになるのは 図らずもウェザー・リポートへの初参加作「ブラック・マーケット」と似た状況だが、率直に言って 「逃避行」のほうが、ジャコのフレットレス・ベースの動きや繊細な表情、美しいサウンドのディテイルは より鮮明に聴け分けられると感じる。
 名曲「コヨーテ」は、レコードのリリースと ちょうど同時期(1976年11月25日)に ザ・バンドの「ラスト・ワルツ」のステージ上でも披露された一曲。リック・ダンコジャコとの全然違うベース・ラインを比較してみるのも一興だ。
 いつまでも途絶えぬ旅がテーマである「逃避行」に、ジャコの「コンティニューム」を思わせるベース・プレイとの根底でつながる親和性を感じるのは ごく自然なことかも。
 「黒いカラス」では 歌唱の休符を埋めるように、ジャコのベースが鮮やかにハーモニクスを放つ瞬間の効果が素晴らしく、「旅はなぐさめ」でジョニが奏でるアコースティック・ギターの動機からは パット・メセニー = ライル・メイズの「ウィチタ・フォールズ」As Falls Wichita, So Falls Wichita Falls(1981年/ECM、同じタイトルのアルバムに収録 )から前半で繰り返し聴こえてくる音型を なぜか連想してしまう。

「真心と ユーモアと 謙虚さとが 」と、彼は云った -
「貴女の重荷を 軽くしてくれるでしょう 」と。
で、わたしは彼を 旅路の慰めに とっておいた・・・

ジョニ・ミッチェル Refuge of the Roads(湯川れい子 / 対訳 )より

 

⇒ 次回につづく


参考文献
「ジャコ・パストリアスの肖像」ビル・ミルコウスキー(湯浅恵子/訳)リットー・ミュージック
「ワード・オブ・マウス / ジャコ・パストリアス 魂の言葉」(松下佳男)立東舎文庫
季刊ジャズ批評118号「特集ジャコ・パストリアス」ジャズ批評社
ジャズベース・プレイヤー Vol.4「オール・アバウト・ジャコ・パストリアス」シンコーミュージック・エンタテイメント
「NO BEETHOVEN ウェザー・リポート&ジャコ・パストリアスと過ごした日々」ピーター・アースキン(川嶋文丸/訳、松下佳男/監修)アルトゥス・ミュージック
「ALL ABOUT WEATHER REPORT」シンコーミュージック・エンタテイメント
「ザヴィヌル ウェザー・リポートを創った男」ブライアン・グラサー(小野木博子/訳)音楽之友社

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