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スケルツォ倶楽部
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短期連載 
ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made

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ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made

15.流浪者(ながれもの) All American Alien Boy

 気がつけば 長期に渡ることになった 初めてのニューヨーク滞在期間中、初のリーダー・アルバム(エピック )の吹込みを 完了して以後も まだジャコは、自分を“発見”してくれた恩人ボビー・コロンビーの屋敷で 快適な居候暮らしを続けていた。
 12月には、年下の友人パット・メセニーから呼ばれ、ECMレコーディング(ブライト・サイズ・ライフ )に参加するため ベース一本だけ携えて 彼との約束どおり はるばる西ドイツまで出かけていったものの、その後もフロリダには帰ることなく、またニューヨーク郊外のコロンビー邸へと舞い戻って来た。

「ただいま 」
「おい、フロリダには戻らないでもいいのかい ジャコ? 」
と、心配しつつもコロンビーは 自身が率いるブラス・ロック・バンド、ブラッド・スウェット&ティアーズの年末ギグに すでにジャコを招待していた。
「いいんだ。ニューヨークにいたほうが日々勉強になるし、驚くような新しい出会いもある 」
当時コロンビーのグループには 旧知のドン・アライアスの他、ギタリストのマイク・スターン、トロンボーン奏者のデイヴ・バージェロンも在籍しており、ジャコは身の丈に合ったプレイヤーたちとのニューヨークでのギグにすっかり夢中になっていた。
「でも奥さんとお子たちがいるじゃないか? 」
「まめに手紙を書いてるし、電話でも話せる。年明けにエピックからリリースされる僕のリーダー・アルバムA面ラストのタイトルを聞いたら、トレイシーは僕の愛情を絶対に疑わないよ 」
天使”をフロリダに置いたまま ジャコは、そのままニューヨークで新年を迎えた。

 年が明けて早々、エピックの親会社コロンビア・レーベルから ジャコにレコーディングの依頼がきた、もちろんコロンビーの推薦である。が、それは 意外なアーティストだった。
イアン・ハンター イアン・ハンター イアン・ハンター
 英国のロック・バンド、モット・ザ・フープル解散後 アメリカに活動拠点を移したばかりのシンガー、イアン・ハンター が作るソロ・アルバムへの参加である。
 その企画が決まると 何でも相手の懐に入ってしまうジャコらしく、何と渡米してきたハンターが住まいに定めたチャパカ - やはりニューヨークから一時間ほど郊外 - に、コロンビー邸を引き払って引越してきた。
 それから半月ほどの間、毎日ジャコはハンターと寝食を共にし、朝夕はハンターの義弟が運転する乗用車でグリニッジ・ヴィレッジのエレクトリックレディ・スタジオを往復した。車の中では、レコーディング・ナンバーの打ち合わせ以外、行きも帰りもずっとジャコは、ナンセンスな即興のジョークをまるで機関銃のように飛ばし続けたという。
ジャコ・パストリアス Ian Hunter ALL-American Alien Boy

 ニューヨークでのレコーディング初日を終え、チャパカへ戻る途上の車中、和やかなムード・メイカーという役割を 自ら務めるジャコにすっかり心を許したハンターが、ぽつりと呟いた。
「・・・僕、実は アメリカで成功する自信を持てないんだよね。
「ボビー(・コロンビー)のおかげで、君をはじめ 超一流のミュージシャンが集まってくれただろう、テクニック面では みんな明らかに僕より上だしさ。
「周りがそんな凄いメンバーばかりで、時々怖くなる時があるんだ。果たしてこれから大丈夫かな・・・って。
「自作は用意したけど、曲づくりにせよ アレンジにせよ、本当は自信ないんだよね 」
意外な言葉を聞いて、隣の席に座っていたジャコはジョークを止めると、英国から来た“大物”ロッカーを励ました。
「俺は、貴方のプレイも、貴方が作る曲も、歌詞も、大好きですけどね。
「テクニック面のことなんか 全然気にする必要ないですよ。ハンターさんは もっと別の面で、俺たちが持っていないものをイギリスから持って来てくれたんですから。
「もとより貴方のバックで貴方を支援するのが、俺たちバンド・メンバーの仕事なんですから。
「貴方には オレがついてますよ ! ハンターさん 」
「君の親切な言葉(The Remark You Made )に 感謝するよ、ジャコ 」
ハンターはサングラスを外すと、ジャコに微笑みながら、握手を求めた。
「この流浪者(ながれもの)を、イアンと呼んでくれるかな? 」

イアン・ハンター 放浪者(ながれもの)CBS-SONY イアン・ハンター 放浪者(ながれもの)が録音された エレクトリック・レディ・スタジオ 1976
イアン・ハンター Ian Hunter
「流浪者(ながれもの ) 」All-American Alien Boy
1.さらば大英帝国 Letter to Britannia from the Union Jack(03:48)
2.流浪者(ながれもの)All American Alien Boy (07:07 )
3.アイリーン・ワイルド Irene Wilde (03:43 )
4.暴走ロックンロール Restless Youth (06:17 )
5.罪 Rape (04:20 )
6.傷心のハイウェイ You Nearly Did Me In (05:46 )
7.無感動 Apathy 83 (04:43 )
8.神との禅問答 God (Take 1 ) 05:45
パーソネル:
  イアン・ハンター Ian Hunter – Lead Vocals, Rhythm Guitar, Piano
  クリス・ステイントン Chris Stainton – Piano, Organ, Mellotron, Bass on 5.“Restless Youth”
  ジャコ・パストリアス Jaco Pastorius – Bass on all tracks, Guitar on 8. “God (Take 1)”
  エインズレー・ダンバー Aynsley Dunbar – Drums
  ジェリー・ウィームス Gerry Weems – Lead Guitar
  デイヴィッド・サンボーン David Sanborn – Alto Saxophone
録 音:1976年 1月、ニューヨーク エレクトリックレディ・スタジオ
音 盤:CBS


 冒頭「さらば大英帝国 」Letter to Britannia from the Union Jack から、ジャコ特有のふくよかで温かいベースのリズムがGのオクターヴで揺るぎなく支える、堅実なプレイが聴けるオープナーだ。この曲のみコーネル・デュプリー Cornell Dupree がエレクトリック・ギターを担当。

 邦題「流浪者(ながれもの)」 All-American Alien Boy - 米国に移住してきた英国人が、慣れぬアメリカの風物に驚きつつも これを受け容れようと決断する歌詞。16小節だけだが、ジャコのベース・ソロが聴ける。短いが、起承転結のまとまった素晴らしいプレイで、思わず呟くハンターの称賛の声が途中で聞こえる。傾聴すべき個所は曲のアウトロ、先住民族レッド・インディアンの酋長の名を無数にハンターが歌い挙げる背後から、ゴスペル風コーラスに重なって、アーニー・ローレンス(クラリネット)、デイヴ・バージェロン(トロンボーン )、ルー・ソロフ(トランペット)によるディキシー調の素晴らしい集団即興が聴こえてくる。

 アルバム唯一へヴィなハードロック・ナンバー Restless Youth(邦題「暴走ロックンロール」w )のみ、キーボード奏者のクリス・ステイントンがベースを担当している。この程度の楽曲であれば、むしろジャコなら容易に弾きこなせる範囲だが、あるいはこの曲調を考えたハンターが、若きジャコの将来的なキャリアを察し、この曲だけ交代させたものかもしれない。

 邦題「傷心のハイウェイ 」You Nearly Did Me In も 曲の随所でジャコらしいベースがアウフタクトで物を申す、素っ晴らしいバラードだ。歌詞にはジョン・レノンからの影響が聴きとれる。途中で突然 クイーン (フレディ・マーキュリー、ブライアン・メイ、ロジャー・テイラー)の あの個性的なコーラスが入ってくるが、これを初めて聴いていた時には先入観も無く知らなかったので、心底驚いた思い出が。繰り返し 聴きたくなってしまう名曲。

 邦題「無感動 」Apathy 83 - ジャコのベースには、楽曲リフレインの特徴的なフレーズを繰り返す役割が与えられ、ドミニク・コルテセ Dominic Cortese の弾くアコルディオンとドン・アライアスの乾いたコンガの音がフィーチャーされている。タイトルのApathyとは、ハンターがニューヨークで偶然ボブ・ディランと出会って交わした会話の中で、ローリング・ストーンズのSympathy For The Devil に対して述べた無関心な感想から着想を得たものだという。

 そして アルバムを締めくくる、まさにボブ・ディラン風ナンバー God (Take 1 ) 邦題「神との禅問答」(ハンターは、日頃からあまりにもディランに似てると言われるものだから腹を立て、じゃ本気でディランっぽく歌ったらどうなるか やってみてあげるよ、と述べているのが 可笑しい )、尚、この曲では終始アコースティック・ギターでリズムを刻んでいるため 手が離せなかった(?)ジェリー・ウィームスに代わって、ジャコが音数少ないエレクトリック・ギターのパートをプレイしたそうな。でもそこは多重録音で、ちゃんとベースも弾いてるって。 ・・・ならジェリーが オーヴァー・ダビングでエレキも弾けばよかったんじゃね? まさかジャコがアコースティック・ギター弾いてるってことは、ないですよね(笑 )
 お詳しいかた、どうかコメントをお願いします。


⇒ 次回につづく


事実に基づいたストーリーですが、ミュージシャンらの会話は“発起人”創作で 架空のものです。

参考文献
「ジャコ・パストリアスの肖像」ビル・ミルコウスキー(湯浅恵子/訳)リットー・ミュージック
「ワード・オブ・マウス / ジャコ・パストリアス 魂の言葉」(松下佳男)立東舎文庫
季刊ジャズ批評118号「特集ジャコ・パストリアス」ジャズ批評社
ジャズベース・プレイヤー Vol.4「オール・アバウト・ジャコ・パストリアス」シンコーミュージック・エンタテイメント
「NO BEETHOVEN ウェザー・リポート&ジャコ・パストリアスと過ごした日々」ピーター・アースキン(川嶋文丸/訳、松下佳男/監修)アルトゥス・ミュージック
「ALL ABOUT WEATHER REPORT」シンコーミュージック・エンタテイメント
「ザヴィヌル ウェザー・リポートを創った男」ブライアン・グラサー(小野木博子/訳)音楽之友社

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