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スケルツォ倶楽部
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短期連載 
ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made

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ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made

14.「ジャコ・パストリアスの肖像 」

「24歳の凄腕ベーシストが フロリダから来た 」
ニューヨーク入りしたジャコの実力は、一般人よりも先に音楽関係者らとミュージシャンたちの間で一気に 口コミで広まることとなり、エピックからのデビュー盤は、いきなり リーダー・アルバムが企画された。

 だがジャコ自身は、名刺代わりの“フロリダ・デモ”制作を手伝ってくれたマイアミの仲間たち - オセロ・モリノウ、アレックス・ダーキ、ボビー・エコノモウ、ドン・アライアス、ピーター・グレイヴズら - を呼び集め、温めてきたアイディアを ニューヨークの一流レコーディング・スタジオで再現/発展できれば - 程度に、そう、初めのうちは 謙虚に考えていた。
「いやいや、そうはいかないよ 」
と、ジャコの“発見者”を自任するボビー・コロンビーが アルバムのプロデュースを買って出た。
「いくら世界一のベース・プレイヤーでも 新人のデビュー盤だ。もし全米に名前を知られたミュージシャンがバック・アップすることによって、そのネーム・ヴァリューを利用出来るなら、君の才能は さらに注目を集めるだろう。それがアルバムの売上に直結するんだからね 」
「・・・って、商売ですか 」
「そんな顔するなよ。君のプレイを一人でも多くの人に聴かせる為にはどうする? 一人でも多くの人にレコードを買ってもらわなきゃだろう? 」
コロンビーは、熱心にジャコを説得した。
「いいかい、レコーディング・メンバーは選び放題だ。コロンビア系のミュージシャンだったら、ほぼ誰でも調整可能なんだから。遠慮するなよ、俺に希望を言ってくれ 」

 ― これは願ってもないチャンスだ、と ジャコは この状況を活かすことを決め、尊敬する一人のピアニストの名前を 思いきって プロデューサーに告げた。
「あのー・・・ ハービー・ハンコック師に 連絡をとれますか 」

(小)Jaco Pastorius Epic ジャコ・パストリアスとハービー・ハンコック
▲ ジャコ・パストリアス Jaco Pastorius
(邦題:「ジャコ・パストリアスの肖像」 )
録音:1975年 9月~12月、
コロンビア・レコーディング・スタジオ、ニューヨーク
音盤:Epic(SONY ESCA-7822 )


Side-A
1. ドナ・リー
Donna Lee(02:24 )

ジャコ・パストリアス(ベース)
ドン・アライアス(コンガ)

 チャーリー・パーカー作曲、バップの古典的ナンバーのメロディを エレクトリック・ベースで弾くという試み。フロリダ時代から ジャコのフレットレス・ベースの技巧を披露するショーケースだったが、これをアルバム冒頭に置くという奇襲戦法には 誰しもやられてしまう。ただ原曲を知らないと驚きも半減、これからの人は ぜひ “バードパーカーのSAVOY盤を先に聴いてからにしましょう。
 個人的には、クライテリア・セッションに聴ける コンガのリズムを伴わない演奏のほうが好み。パーカッションにいちいちリズムを刻まれるのは 何だか耳元で過剰/過多な説明が加えられているようで 正直しつこく感じていたから、初めて無伴奏のフロリダ・デモの存在を知った時は、わが意を得たりという気にさせられたもの。

2. カム・オン、カム・オーヴァー
Come On, Come Over(03:54 )

サム & デイヴ(ヴォーカル)
ジャコ・パストリアス(ベース、ブラス・セクション編曲)
ランディ・ブレッカー、ロン・トゥーリー(トランペット)
ディヴィッド・サンボーン(アルト・サックス)
マイケル・ブレッカー(テナー・サックス)
ハワード・ジョンソン(バリトン・サックス)
ピーター・グレイヴズ(トロンボーン)
ハービー・ハンコック(クラヴィネット、フェンダー・ローズ)
ドン・アライアス(コンガ)
ナラダ・マイケル・ウォルデン(ドラムス)

 アルバム中、自己のルーツがR&Bであることを証明する唯一の楽曲として、異色のナンバーだ。
 R&Bのデュオ・グループ、サム&デイヴは ジャコと同郷フロリダ出身の大先輩格。ここで臨時編成されたブラス・セクションの凄い顔ぶれを ご覧頂きたい。
 さらに、この一曲だけで演奏に参加している名ドラマー、ナラダ・マイケル・ウォルデンは、まさにこの時期 次作「ブラック・マーケット」を準備中だったウェザー・リポートと交渉の真っ最中だった。(結局、僅かなセッション参加にとどまるものの )ジャコとの奇縁を感じさせるシンクロニシティが、ここにもまた一つ。
 共作者のボブ・ハーツォグは、フロリダ時代のジャコが最初に組んだR&Bオルガン・トリオのバンド、ウッドチャック のドラマーを務めていた親友で、ジャコが亡くなる前年、心臓麻痺で急逝してしまう。

3. コンティニューム
Continuum(04:32)

ジャコ・パストリアス(ベース)
アレックス・ダーキ(フェンダー・ローズ)
ハービー・ハンコック(フェンダー・ローズ)
ドン・アライアス(パーカッション)

 ジャコの代表的なオリジナル名曲の一つ、フレットレス・ベースの美しい音色を存分に引き出せる抒情的な素材。
 ニューヨークでの本レコーディング当初、フロリダ時代の旧友アレックス・ダーキによるバッキングのみで準備されていたが、急きょハンコックがスタジオで加わったことで、キラキラする色彩感も豊かな完成型へと至ったもの。

4. クル~スピーク・ライク・ア・チャイルド
Kuru / Speak Like A Child(07:38)

ジャコ・パストリアス(ベース、ストリングス編曲)
ハービー・ハンコック(ピアノ )
ドン・アライアス(パーカッション )
ボビー・エコノモウ(ドラムス )
マイケル・ギブス(指揮)/ ストリングス・オーケストラ

 フロリダ時代から尊敬の対象だったハービー・ハンコックのレコーディング参加への感謝の念を表そうと、ジャコのメカニカルなベース・プレイが印象的なオリジナル曲“クル”のリズムにかぶせるように、中盤ストリングス・セクションが ゆったりと倍テンポで ハンコック作曲“スピーク・ライク・ア・チャイルド”のメロディを奏で始めた瞬間を 初めて聴いた時の衝撃ったら !
ハンコック スピーク・ライク・ア・チャイルド (Blue Note )
▲ これも原曲を予習してから聴きましょう。ご参照:スケルツォ倶楽部 キス・ジャケットの回

5. トレイシーの肖像
Portrait Of Tracy(02:19)

ジャコ・パストリアス(ベース)

「(この曲のハーモニクスは )左手の薬指で 音を出して 人差し指をハーモニクスが出るところまで伸ばすんだ。言わば、左手をカポ代わりに使うわけ。この曲の場合、左手の薬指でBの音を出し、人差し指をD♯のハーモニクスまで伸ばしてるんだ。手が大きくないと少し難しいよ(ジャコ・パストリアス談/松下佳男‐訳 )」

「トレイシーの肖像 」Portrait of Tracy (「ジャコ・パストリアス 」収録 )


Side-B
1. オーパス・ポーカス
Opus Pocus(05:24)

ジャコ・パストリアス(ベース)
ウェイン・ショーター(ソプラノ・サックス)
オセロ・モリノウ(スティール・ドラム)
ルロイ・ウィリアムス(スティール・ドラム)
ハービー・ハンコック(フェンダー・ローズ)
ドン・アライアス(パーカッション)
レニー・ホワイト(ドラムス)

 オセロ・モリノウによるスティール・ドラムが印象的な作品。
 アル・ムザーンやナラダ・マイケル・ウォルデン以上に 注目すべきなのが、この後ウェザー・リポートで活動を伴にすることになるウェイン・ショーターの参加であろう。タイトルの“オーパス”とは本来 作品(オーパス)1、作品2… というように クラシカルな楽曲に出版された順に付けるべき“作品番号”の意味であるが、これにおとぎ話の魔女の呪文の言葉“ホーカス・ポーカス”にかけたシャレ。かつてブルー・ノート時代に ブラック・マジック的な世界をモティーフに使うことが多かったショーターの起用が、これに関連するようにも思われる。

2. オコンコレ・イ・トロンパ
Okonkolé Y Trompa(04:20)

ジャコ・パストリアス(ベース)
ピーター・ゴードン(ホルン)
ドン・アライアス(コンガ、パーカッション)

 ドン・アライアスとの共作とされるジャコのオリジナル・ナンバー。一つの作品としての完成度という点では 本アルバム中随一の名曲だと思う。
 原タイトルは キューバ語で“太鼓とラッパ”という程度の意だそうだが、まるで遥か太古のアフリカを発祥とするパーカッションがヨーロッパの象徴たるフレンチ・ホルンと出会った瞬間を再現するがごとき想いを 二つの文明の邂逅にまで馳せたくなってしまう深淵さが、この曲の中にはある。

3.(ユースト・トゥ・ビー・ア )チャ・チャ
(Used To Be A) Cha-Cha(08:53)

ジャコ・パストリアス(ベース)
ヒューバート・ロウズ(ピッコロ、フルート)
ハービー・ハンコック(ピアノ)
ドン・アライアス(コンガ)
レニー・ホワイト(ドラムス)

 聴き応えある素晴らしくモダンな急速ナンバー。ここでのジャコが後半に爪弾くベース・ラインからは、後にウェザー・リポートでも多用される、いわゆる“インヴィテーション”パターンの原型を すでに聴きとることが出来る。
 リハーサルを重ねるにつれて速くなってしまったけれど 「元々この曲は(もっとゆっくりした )チャ・チャ・チャだったんです 」という話をスタジオでジャコが明かしたら、これにハンコック爆笑、気に入って そのままタイトルにしてしまった、という楽しい逸話をライナーで紹介してくださったのは、松下佳男氏。
 ボーナス・トラックに別テイクを収めた盤もあるが、やはり採用された本テイクのプレイのほうが ジャコもハンコックも演奏に一層キレがあって、好きだな。

4. 忘れられた愛
Forgotten Love(02:15)

ハービー・ハンコック(ピアノ)
マイケル・ギブズ(ストリングス編曲、指揮)/ ストリングス・オーケストラ

 名手ハービー・ハンコックの参加は、当初は この曲と「クル~スピーク・ライク・ア・チャイルド 」二曲のみの予定だった。が、スタジオでジャコと親しく接するうち、その革新的な才能に魅かれたハンコックは、結局「カム・オン、カム・オーヴァー」、「コンティニューム 」、「オーパス・ポーカス」、「(ユースト・トゥ・ビー・ア )チャ・チャ 」にも 自ら加わることになり、結果的に ジャコのデビュー作に 全面的な協力を惜しまぬ形となった。
 これが縁で、その後も ハンコックは、様々な機会に ジャコとの共演を重ねることになる。

 さて、この画期的な一枚「ジャコ・パストリアス」は、翌年(1976年 )夏に発売されるや評論家・演奏家サイドに絶賛され、同年グラミー賞「最優秀ジャズ・アルバム 」、「最優秀ジャズ・ソロイスト」にノミネート、世界的にも高い評価を受けることになるのだが、アルバムがリリースされるまで(ウェザー・リポートへの電撃加入が報道されるまで )依然としてジャコは、一般には まだ無名の「知る人ぞ知る」存在のままだった。


⇒ 次回につづく

事実に基づいたストーリーですが、ドラマの文章は“発起人”創作で 架空のものです。

参考文献
「ジャコ・パストリアスの肖像」ビル・ミルコウスキー(湯浅恵子/訳)リットー・ミュージック
「ワード・オブ・マウス / ジャコ・パストリアス 魂の言葉」(松下佳男)立東舎文庫
季刊ジャズ批評118号「特集ジャコ・パストリアス」ジャズ批評社
ジャズベース・プレイヤー Vol.4「オール・アバウト・ジャコ・パストリアス」シンコーミュージック・エンタテイメント
「NO BEETHOVEN ウェザー・リポート&ジャコ・パストリアスと過ごした日々」ピーター・アースキン(川嶋文丸/訳、松下佳男/監修)アルトゥス・ミュージック
「ALL ABOUT WEATHER REPORT」シンコーミュージック・エンタテイメント
「ザヴィヌル ウェザー・リポートを創った男」ブライアン・グラサー(小野木博子/訳)音楽之友社

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