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短期連載 
ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made

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ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made

9.ブライト・サイズ・ライフ
 
 ポール・ブレイとのセッションを終え、すでに夕闇も迫る頃、ジャコとメセニーは ニューヨークの雑踏に出た。
「どうしたの? ジャコ、ご機嫌ななめだね 」
と、メセニーは 若きベーシストの顔をのぞきこんだ。
「だって 誰もリーダーシップを発揮しない、フラストレーションのたまるスタジオだったからさ。特にパット、俺は お前に呼ばれたから わざわざフロリダからニューヨークくんだりまで出てきたのに、当のお前は 全然やる気なさそうで、がっかりしたよ 」
すると、メセニーが 突然 くすくす笑いだすので ジャコは憮然とした。
「な、何だよ、その態度は?」
「だって、ジャコったら あんまりにも一生懸命なんだもん 」
「・・・(怒 ) 」
「まあ聞けよ、ジャコ。ボクは、ポール・ブレイのスタジオに入るなり気づいたのさ。ここには何か罠があるぞって。ボクたちは エレクトリック楽器の編成で 今までの何にもとらわれない新しいジャズに取り組めるアイディアを 実は豊富に持っている。でも、いいかい。それをブレイなんかのために披露してやる手はないな、と考えたんだ 」
「? 」
「いつか言ったよね、ボクは間もなく自分のグループを立ち上げるつもりだって。それは、エレクトリック楽器でありながら アコースティック・サウンドの要素を追求したウォームなジャズなんだ。それには、ジャコ、きみのベースの音が 絶対に必要なんだ。今日きみとスタジオに入れる機会を作ってくださったのは、きっと神様のお導きだよ 」
ハッとした。そうに違いない・・・ ジャコの脳裏には、忘れもしない“神様”の御顔が浮かんだ。
「それは、ボクたちだけが描ける、まだ誰も知らない新しいサウンドなんだよ。さっき、ボクだって正直 ジャコに本気で音合わせしたくなる衝動に駆られたさ、でも実験するのはまだ早い。だって今日ポール・ブレイのミキサー室には テープ・レコーダーが隠されて回ってたんだぜ、ボクたちのアイディアが 他人に全部盗まれちまうじゃないか 」
ようやくジャコも パットの意図を知った。
「そうか・・・ 誤解してたよ パット。いやー、お前は 大したヤツだな 」
「実はね - 」
と、そこでメセニーは 少し声をひそめた。
「まだ黙っていようと思ったんだけど、ゲイリー・バートンの紹介で、ECMのマンフレート・アイヒャーから、ボクのリーダー・アルバムを出さないかって打診が来てるんだよ 」
「ええっ? それはスゴイな、パット・メセニーは ヨーロッパのレーベルからデビューするってことになるわけか 」
「その時には 必ず声をかけるからね。一緒にレコーディングに参加してね、絶対だよ 」
「お前には オレがいるぜ、パット 」
ジャコの言葉に応えて メセニーは 鼻に皺を寄せ、笑顔をつくった。

Pat Metheny BRIGHT SIZE LIFE ECM パット・メセニー(ECM)
パット・メセニー Pat Metheny
ブライト・サイズ・ライフ Bright Size Life
パーソネル:パット・メセニー(6弦ギター、エレクトリック12弦ギター )、
ジャコ・パストリアス(ベース )、
ボブ・モーゼス(ドラムス )
収録曲:Bright Size Life、Sirabhorn、Unity Village、Missouri Uncompromised、Midwestern Nights Dream、Unquity Road、Omaha Celebration、Round Trip / Broadway Blues
録 音:1975年12月、ドイツ ルートヴィヒスブルク
音 盤:ECM(ユニバーサル UCCU-5204 )

 ストーリーの時系列は 一年ほど先へ進むが、このニューヨークでの逸話の翌年、ドイツでレコーディングされることになる パット・メセニーのデビュー盤である。
 ジャコのファースト・アルバムにも匹敵する、まさに「栴檀は双葉より芳し 」的な名盤だ。冒頭の出だしから香り高く咲く 独特な雰囲気を放つサウンドに、聴者はすっかり呑まれてしまうだろう。真剣に聴き入れば アルバム全曲約37分が あっという間に過ぎてしまう。それでさえ 若い才能が発するオーラは まだ全開ではなく、次作を期待させつつ名残惜しく閉じている。
 そのラスト一曲だけが メセニーのオリジナル曲ではなく オーネット・コールマンのブルーノート・レーベルからのナンバー「ラウンドトリップ / ブロードウェイ・ブルース 」というのも、その後のメセニーの共演者歴/人脈を知る 未来の私たちから眺めると、興味深いものがある。特に、ここで聴けるジャコのフレットレス・ベースの よく歌うヴィブラートの豊かなニュアンスといったら もう !
 20代の二人に対し、ドラマーのボブ・モーゼズは 彼らより8歳ほど年上、ラリー・コリエルやゲイリー・バートンのバンドで活躍した経験も豊富な名手だった。堅実なシンバル・レガートの刻みが、確かな拍動を与えている。


NYC Air Port
 さて、メセニーは長距離バスでボストンへ向かうし、一方ジャコもアメリカン航空でマイアミへと戻る。ニューヨーク・シティで 彼らは別れを惜しんだ。
「そう言えば・・・ 」
ふと、別れ際になって ジャコは 年下のメセニーに、何気に ゲイリー・バートンと どうやって知り合ったのかを 訊ねてみた。
「面識なんかなかったけど、2年前 ゲイリーのコンサート会場へ出かけていって彼の楽屋に押しかけたんだ。それで『ボクは貴方のグループが演奏するレパートリーを全部知っています、だから仲間に入れてください 』って頼んでみたの 」
「へえ、スゴイ度胸だな、パットは 」
「はったりなんかじゃないよ、全部弾けちゃうことは 事実なんだもの。実際 受け入れてもらえたわけだし 」
「俺だって、世界一のベーシストだぜ 」
「よく知ってるよ(笑)。でも君の言葉(A Remark You Made )も じきに誰からもジョークとは受け取られなくなるよね、だって君のサウンドを聴けば一発で それが真実だって納得できるからね 」

⇒ 次回につづく

事実に基づいたストーリーですが、ドラマの文章は“発起人”創作で 架空のものです。

参考文献
「ジャコ・パストリアスの肖像」ビル・ミルコウスキー(湯浅恵子/訳)リットー・ミュージック
「ワード・オブ・マウス / ジャコ・パストリアス 魂の言葉」(松下佳男)立東舎文庫
季刊ジャズ批評118号「特集ジャコ・パストリアス」ジャズ批評社
ジャズベース・プレイヤー Vol.4「オール・アバウト・ジャコ・パストリアス」シンコーミュージック・エンタテイメント
「NO BEETHOVEN ウェザー・リポート&ジャコ・パストリアスと過ごした日々」ピーター・アースキン(川嶋文丸/訳、松下佳男/監修)アルトゥス・ミュージック
「ALL ABOUT WEATHER REPORT」シンコーミュージック・エンタテイメント
「ザヴィヌル ウェザー・リポートを創った男」ブライアン・グラサー(小野木博子/訳)音楽之友社

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