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短期連載 
ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made

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ジャコ・パストリアス ~ A Remark You Made

8.パット・メセニー と出会う

 マイアミ大学のキャンパスで ジャコが出会った若きギタリスト、パット・メセニーは すでにゲイリー・バートンに認められ、彼のアルバム「リング 」(ECM)に参加するという形で レコーディング・デビューも果たしていた。バートンの推薦によって、まだ18歳だったというのに バークリー音楽大学の講師も務めており、着々とキャリアを積み始めていた。
若きパット・メセニー 若きジャコ・パストリアス
「パストリアスさん、あなたは エレクトリック・ベースを これまでとは全く違った楽器にしようとしていますね 」 
ジャコのフレットレス・ベースを 興味深げに眺めながら、メセニーが親しげに話しかけてきた。
「ふふん、遠慮しないで ジャコと呼び捨てていいんだよ、パトリック。君のほうが プロとしてのキャリアを先に歩んでいるし、俺より 3つ若いだけじゃないか 」
彼らは、思わず微笑みを交わし合った。
「ありがとう、ジャコ。では僕のことも パットと呼んでもらいましょう 」
才能ある二人は、共にピーター・グレイヴズのビッグ・バンドに それぞれ異なる時期に在籍しており、グレイヴズから お互いの存在とその好評価を聞かされ よく知っていた。

メセニーは タメ口になった。
「エレクトリック楽器なら PAを通して 広いコンサート会場でも無理なく音が届くよね、ギターはもちろん ベースも 」
「その通りだよ、パット。俺はソウル/R&Bバンドの出身だから ベース・アンプを通せば 大音量で鳴っているブラス・セクションとも拮抗できることを、身をもって知っているんだぜ 」
「でもジャコのエレクトリック・ベースには、何というか、新しいニュアンスがあるんだよね。音を長く伸ばした時のトーンといったら、まるでアコースティック・ベースを聴いている時みたいに、何て自然で美しい音色なんだろう 」
わかってくれているね コイツは、と内心ジャコは喜んだ。
「フレットレスだから 豊かなヴィブラートをかけることもできるというわけだ。アコースティックな低弦楽器 - チェロやダブル・ベース - と同じようにね、その代りフレット・ボードを押さえるポジションは0.1インチも外れちゃならない、俺はハードな訓練を経て正確なポジショニングを獲得したのさ 」
「ジャコ、いずれ僕は自分のグループを率いるつもりなんだ。そこには 絶対にきみの暖かいベース・サウンドが欲しいんだよ 」
「嬉しいよ パット。そうだ、一度スタジオで合わせてみないかい 」
「いいね ! 」

 すでにメセニーのほうは、マイアミばかりでなく、バークレー音楽大学のあるボストン、演奏活動の盛んなニューヨークへと移動する 活動域も広い 忙しい生活サイクルになっていたが、彼がジャコと再会するチャンスは 意外に早く訪れた。

 それは この年の 6月のこと。当時ニューヨークでインプロヴァイジング・アーティスツなる新しいレーベルを立ち上げたばかりの、バップからフリー・電子楽器など幅広い活動をしていたピアニスト、ポール・ブレイのリハーサル・セッションのスタジオに集められた若きリズム・セクションのメンバーとして、彼らは顔を揃えることになったのだ。
 けれど、果たしてポール・ブレイが いかなる意図をもってジャコ、メセニー、そしてマイアミで活動していたドラマー、ブルース・ディトマスらを集めたのかは不明・・・ というより 殆ど謎である。このセッション自体に 大きな進展はなく、ここからは結局 何も生まれなかった、と言ってよい。

paul bley - jaco pastorius paul bley - jaco pastorius(DIW)
▲ ジャコ・パストリアス Jaco Pastorius, パット・メセニー Pat Metheny, ブルース・ディトマス Bruce Ditmas, ポール・ブレイ Paul Bley
JACO (国内初リリース時の邦題“ジャコ・パストリウスとの出会い” )
収録曲:Vashkar、Poconos、Donkey、Vampire、Overtoned、Jaco、Batterie、King Korn、Blood
録 音:1974年 6月16日、ニューヨーク
音 盤:Improvising Artists

 ミュージシャンには交通費以外 ギャラは一切支払われず 一時間ほどの無計画で退屈なフリー・セッションの間、ずっと回されていた録音テープは、二年後(ジャコの存在が大きく注目されるようになってから )無断で編集され “JACO” なるタイトルで 勝手にリリースされることになる。後から付けられたとしか思えない適当なタイトルとともに それらの 「作曲者」もポール・ブレイ、カーラ・ブレイ、アネット・ピーコックらの名義とされ、著作権まで奪われたことを知って 二年後 ジャコは 拳を握ることになる。
 しかし少なくとも ポール・ブレイが弾くフェンダー・ローズを含む クァルテットの主要楽器が すべて「エレクトリック楽器 」であったことに この企画の意図を探る一つのヒントが隠れているようにも思える。ブレイが設立した新レーベルは 実験的な要素の濃い、新しいメディアである映像媒体にも取り組もうとしており、従来のアコースティックな楽器によるジャズとは異なる楽器編成と 若い才能から生まれるサムシングを模索していたようにも聴こえる。そう考えると、当時有能なエレクトリック・ベース奏者として 早くも注目され始めていたジャコが、何らかのコネクションを通じて わざわざフロリダから呼ばれたことは間違いない。証言はないけれど、あるいはメセニーの推薦だったという可能性も考えられなくはない。

 重要なのは、メセニーがジャコとニューヨークで共演したことによって 二人が音楽的な絆を深め、翌年 彼らの共同作業のひとつの結果として、一枚の宝石のようなアルバムが ヨーロッパの片田舎で録音されることであろう。

⇒ 次回につづく

事実に基づいたストーリーですが、ドラマの文章は“発起人”創作で 架空のものです。

参考文献
「ジャコ・パストリアスの肖像」ビル・ミルコウスキー(湯浅恵子/訳)リットー・ミュージック
「ワード・オブ・マウス / ジャコ・パストリアス 魂の言葉」(松下佳男)立東舎文庫
季刊ジャズ批評118号「特集ジャコ・パストリアス」ジャズ批評社
ジャズベース・プレイヤー Vol.4「オール・アバウト・ジャコ・パストリアス」シンコーミュージック・エンタテイメント
「NO BEETHOVEN ウェザー・リポート&ジャコ・パストリアスと過ごした日々」ピーター・アースキン(川嶋文丸/訳、松下佳男/監修)アルトゥス・ミュージック
「ALL ABOUT WEATHER REPORT」シンコーミュージック・エンタテイメント
「ザヴィヌル ウェザー・リポートを創った男」ブライアン・グラサー(小野木博子/訳)音楽之友社

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