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「気分がふさいでいるときは、いつも 新しいレコードを何枚か買うことにしてるんだよ 」 

シューマン ピアノ四重奏曲 変ホ長調 Op.47 を
フォーレ四重奏団(ARS MUSICI)盤で 初めて聴く。

シューマン ピアノ四重奏曲(ARS MUSICI) (3)

 “スケルツォ倶楽部発起人です。
 いつも営業車で移動中、タイミングよくクラシック音楽が流れる時間帯には 必ずNHK-FMにカー・ラジオのチューナーを合わせる習慣です。

 ええと、そんな つい先日のこと。
 対応が難しかった顧客の訪問を無事に終え ホッと一息。ちょっと休憩しようとコンビニの駐車場に停車、熱いコーヒーを入れたペーパーカップ片手に 車内に戻ってくると、時計はもう午後三時頃・・・ おお、早よ急げ 「クラシック・カフェ 」を聴かなくては。急いでスイッチを入れると、室内楽編成の緩徐楽章と思われる穏やかな楽曲の演奏が ちょうど始まったところでした。
 ん、でも 何だろ、この曲は・・・ 知らない、もしくはタイトルが浮かんでこない楽曲です。一聴して、それがロマン的な香りも濃厚な 素晴らしいサウンドだったので、思わず音量を上げると もはやコーヒーに口をつけることさえ忘れていました。

 その朗々とよく歌うチェロの美しい楽想は とても魅力的で、私にはワーグナーの「トリスタンとイゾルデ第一幕への前奏曲等に聴ける「愛の動機」の幅広く跳躍する音程を 連想させられました。
 もちろん これ自体は 決してワーグナーの作品などではないでしょう。この編成にはどうやらチェロの他 さらに複数の弦と、明らかにピアノも交じっていることが聴きとれましたから 普通に考えれば これはピアノ四重奏曲(か五重奏曲 )・・・。ワーグナーが残した作品には この組み合わせの室内楽曲は 存在しない筈ですから。

 それにしても 緩徐楽章と思しき、この主旋律を歌うチェロの 何という美しさでしょうか。
楽譜 シューマン ピアノ四重奏曲 第三楽章のテーマ部

 いつの間にか 弦を中心とする短い経過部を経て、メロディ・ラインは ヴィオラと思しき 中音域の弦へとバトンタッチされていました。そこは、ヴァイオリンの控えめながらも華やかな装飾に飾られつつ ピアノ音型のほうは シューベルトの歌曲「セレナード」Ständchen(「白鳥の歌」第4曲 )伴奏部によく似たリズムを刻んでいます。では この曲はシューベルト? いやいや、さすがに もう少し後世の香りがする。
 などと思っているうち、この緩徐楽章の 何とも 不思議なコーダ に到達し、そこで 私の耳は 最近無かったほどの深い感銘に沈み、思わず息を呑むことになったのです。

 その印象的な結尾とは、チェロが 長ーく 基低音を持続させ(すなわち主和音を動かすことなく 30秒以上も延ばし続け )る上に、他の楽器 - ピアノとヴァイオリン、ヴィオラは、まるで 互いに席を譲り合うかのように 主和音を構成する 短いフレーズを 慎み深く 提示し合いながら、名残惜し気に 穏やかな収束へと向かう、この場所の素晴らしい効果に 耳を奪われてしまいました。
 その稀にみる儚(はかな)げな効果に、私は またしてもワーグナーの作品を、それも晩年の傑作「パルジファル終幕の締め括り部分を連想していました。そこは、まさにカーテンが下ろされようとする舞台の後奏で 音楽が ずっと変イの基音を延ばし続ける中「信仰の動機 」や「聖餐の動機 」が 少しずつ その姿を現わしては消えゆく、徐々に か細くなる光彩の、やがては闇のしじまへ溶けゆくがごときエンディングの作曲技法にも似てはいませんか。

 やがてラジオの室内楽曲は 活力溢れるフガートな終楽章(と思われる )パートとなりました。明らかに技術的に高度な奏者らによる熱演は もう素晴らしく、それ以上に対位法的な処理も魅力的な この室内楽作品が 飛び切りの名曲であることを 私たちに知らしめます。
 さらに途中 前楽章の美しいコーダが 未だ耳に残る楽器同士の“譲り合い”の動きが、意表を突いてテンポ・アップした姿で突然披露されます。「うわー 」そんな 私 発起人大好物なアイディアに心底驚き、思わず感嘆の声が漏れます。

♪ 参考 過去記事 ⇒ 走馬灯のように ~ フィナーレで回想される楽想

 それにしても これは、また何と素晴らしい作品なんだろう、そして何という完成度の高さだろう。一体この曲は 誰の作曲だろ、そうだ、自分が知らないブラームスの作品かもしれない・・・? って、いや待てよ、ブラームスの作風なら、もっと渋い仕上がりになるんじゃないか、さらに遠回りするような? だって この終楽章ったら、まるで若者が 自分の言いたいことを 遠慮なく すべて言い尽くそうとするかのように、まだ若い率直性が 周囲に汗を飛び散らかしているようじゃない・・・?

 やがて クラシックカフェのパーソナリティ貞平麻衣子さん(この日は、発起人ご贔屓のかすやひろせさんではなかったw )が、遂に 曲名を教えてくださいました。
シューマン作曲、ピアノ四重奏曲 変ホ長調 作品47 - フォーレ四重奏団による演奏でした - 」。
 シューマンだったのか ! 
 恥ずかしながら、私 発起人シューマンの ピアノを含む室内楽曲は、同じ変ホ長調でも 五重奏曲 作品44 のほうしか 今まで聴いてこなかったのでした。

 その晩、仕事から帰宅するなり 私は フォーレ四重奏団盤を ネットで探しだすと、もはや躊躇なく Amazonの注文ボタンを押すこととなりました(それにしても 何でも便利になったものだなあ )。

ロベルト・シューマン シューマン ピアノ四重奏曲(ARS MUSICI) (2)
シューマン
ピアノ四重奏曲 変ホ長調 作品47
演奏:フォーレ四重奏団

併録:キルヒナー ピアノ四重奏曲 ハ短調 作品84
録音:2004年 ケルン
音盤:ARS MUSICI(AMCD-232-394 )


 数日後 届いたシューマン (^_^)v
 おかげさまで、この歳になって初めて またひとつ 新しい天体との出会いがありました。どうもありがとうございます、NHK-FM クラシック・カフェさん。感謝です、貞平さん。そして誰よりも ロベルト・シューマン先生 !
 
 早速 開封したディスクを PCにとりこんでみると、私が 過日FM放送で 耳にしたのは、間違いなく 後半二つの楽章(緩徐楽章とフィナーレ )だったことを 確かめました。
 で、今回 私が初めて聴くこととなった第一楽章の主旋律は、偶然にもシベリウス 「フィンランディア 」讃歌の、初めの四つの音列と 同じ並びで出来ていました。もちろん両者に関係性など ある筈はないでしょうが、時代も生地も異なる二人の作曲家が、たまたま似た楽想のインスピレーションを得、それぞれの個性を駆使しながら いかなる楽曲へと仕上げていったのか - そんな想像を しながら聴き比べるというのも、また一興ではないでしょうか。
 すぐ主部のアレグロ・マ・ノン・トロッポ へと入り、爽やかさ さえ感じる速さの第一楽章は(終楽章フーガを中心に作られているのと同様 )対位法的な処理が目立つ、なかなか綿密な創作でありました。
 第二楽章の さらに速いスケルツォ(モルト・ヴィヴァーチェ )も 主題がカノン風に組み立てられた楽曲で、野心的にも トリオを二つ設ける試みも 成功していると思います。フォーレ四重奏団の演奏は 覇気があり、テンポも快速で とても気持ち良いです。
 この四重奏曲は、敢えて 殆どの楽章に対位法を採り入れるという難しい課題を自己自身に課した、シューマンの意欲的な試みでもあったのでしょう。それにしても これほどの名曲を 今まで知らずにいたなんて・・・ 恥ずかしい。

 調べてみたら、この作品は1842年(ライプツィヒ時代 )妻クララが ピアノ・パートを弾くことを 想定して作曲されたそうです。非公開の初演で チェロ・パートを任されたのは、音楽愛好家で シューマン夫妻の後援者でもあった ロシアの外交官ミハイル・ヴィーホルスキ伯爵。この人の弾くチェロは アマチュアの域を越える腕だったらしく、シューマンのみならず メンデルスゾーンからもチェロ・ソナタ ニ長調 を献呈されています。美味しい第三楽章のメロディを 最初にチェロ・パートに委ねたのは、そこにも理由があったようですね。
 他の二人の弦楽器奏者も 初演は豪華なメンバーで、御存知フェルディナント・ダーヴィット( ! )とニールス・ゲードという人、後者はメンデルスゾーンライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団で指揮者を務めていた人物だったそうです・・・ 果たしてどんな演奏だったんでしょうね、興味津々です。


! たった一つの音のために、チェリストスコラダトゥーラ(変則調弦 )を?
 
 さて、もう一つ シューマンによる たいへん興味深い試みが、第三楽章アンダンテ・カンタービレの、あの感動的なエンディング部に在りました。
 それは、例の 最後の基低音を息長く持続させるよう指示されたチェリストの押さえるべき音が、あろうことか チェロの最低音Cよりも全音低い( ! )B♭であることです。さすが 目的のためには手段を選ばないシューマン先生w これが管楽器への指示だったら 演奏不能でしょうが、弦楽器ですから 奏者が弦を緩めさえすれば 音を下げることは、まあ可能ではあります。
 実際、コーダで弾かれるべき一音(B♭ )の直前、チェリストには 明らかにスコラダトゥーラ変則調弦 )の準備のためでしょう、15小節の休止が与えられているのです。って、演奏中 その場でやるんですか? されど、緩めた以上は 締め直しもせねばなりませんよね。すぐに続く最後の楽章も 休止の合間に慌ただしくチューニングして 調弦を戻さねばなりませんから、チェロ奏者にしてみたら やはりストレスでしょう。この曲を献呈したヴィーホルスキ伯爵に、ここで そんな変則調弦を 強いることに( 果たして音楽以外に? )何か意図があったのでしょうか。 これが もしハイドン先生の仕業だったら、ほぼイタズラに違いないですけどw

♪ 参考 過去記事 パガニーニ ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 オリジナルは 変ホ長調
Paganini.jpg パガニーニ ヴァイオリン協奏曲_マッシモ・クァルタ(Dynamic ) Massimo Quarta

 ・・・ されど その結果は ―   と言うと、そんなチェリストの裏方苦労も知らず第三楽章の美しいコーダを 初聴したが 近年にないくらい感動をおぼえたほどですから シューマンのアイディアが及ぼす音響効果は絶大で、これは成功だったと言えるのではないでしょうか。

楽譜 シューマン ピアノ四重奏曲 第3楽章のスコラダトゥーラ
  「ひとつ、思いついたんだが、この曲を演奏する場合に限って、ステージ上には 予めチェロを 二台用意しておくっていうのはどうかな? 」
  「ははーん、管楽器奏者が持ち替えにするような発想ね 」
  「楽器のチューニング時間がイラナクなるし、何より チェロ奏者のストレスを最小限に抑えられるのでは? 」
  「うーん、それ、余計なお世話じゃないかしら。最低弦の一音を合わせる程度でしょ、しかも演奏中にチューニングが可能なように、わざわざシューマンは 休止まで設(しつら)えて チェロ奏者に配慮してるくらいなんだからさ 」
  「シューマンの厚意を無にしちゃイケナイって? 」
  「演奏中にヴィーホルスキ伯爵が 聴衆の前で さりげなく調弦してみせるっていうパフォーマンスまで シューマン先生が 意図していたとしたら? 」
  「おお、それこそ オーセンティックな演奏だーw 」

では また!

おまけ
シューマン ピアノ四重奏曲(ARS MUSICI) (2) ウェザー・リポート Beatles_Rubber Soul
フォーレ四重奏団メンバーの姿が 鏡に(?)歪んで映り込む画像が ウェザー・リポート(一枚目 )裏ジャケットや ビートルズの「ラバー・ソウル 」のデザインを連想させます?

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