FC2ブログ

スケルツォ倶楽部 Club Scherzo Home
ワンダリング・ローズ WANDERING“RHODES” 記事一覧

スケルツォ倶楽部 鍵盤に向かうポール・マッカートニー、フェンダー・ローズを弾く。
フェンダーローズを弾く ポール・マッカートニー

 偉大なポール・マッカートニーの姿を思い浮かべる時、おそらく八割以上の方が その脳裏に描く映像と言えば、左利きでベースを構え ステージで跳ねている、あの雄姿でしょう。
 マルチ・プレイヤーとしても知られるポール・マッカートニー、どんな楽器でも左手でこなしてしまう才人です。殆ど独りで全部の楽器を演奏してみせる “The Plastic Macs”による楽しい「カミング・アップ 」(1980年 )のPV映像など、忘れられませんね。
Paul McCartney Coming Up HQ

 しかし、 私 “スケルツォ倶楽部発起人が思い描くのは、やはりビートルズ時代のポールが「ヘイ・ジュード 」や「レット・イット・ビー 」などを ピアノに向かって弾き語っている 真摯な姿をとらえた正面からの映像です。
 「マーサ・マイ・ディア 」や「レディ・マドンナ 」、果ては「西暦1985年バンド・オン・ザ・ラン ) 」など、左手がオクターヴでベース・ラインをリズミカルに弾く特徴的なピアノ・プレイが聴ける数々のナンバーは、私の大のお気に入りです。

 過去、何かのインタヴューで 若きポール・マッカートニーが「エリナー・リグビー 」を作曲していた頃、将来 音楽家として自分自身がどうあるべきか自問した時、やはり「作曲家 」として立つべきことを意識するようになった、という発言をしていたのを 聞いた記憶があります。
ポール・マッカートニー リヴァプール・オラトリオ TOCE-7424-25 Paul McCartney - Working Classical EMI
 かの「リヴァプール・オラトリオ 」を聴くまでもなく、何にでも高い意識をもつポールが 英国出身のミュージシャンらしく、身近にいたプロデューサー、ジョージ・マーティンの影響もあって、基本的に伝統的なクラシック音楽からも熱心に学んでいた様子は、すでにビートルズ時代に書かれた彼の作品の随所に聴きとることができます。

Johann Sebastian Bach (1685 - 1750) シューベルトの肖像画
▲ (左から )J.S.バッハ、シューベルト 

 たとえば「ペニー・レイン 」には J.S.バッハブランデンブルク協奏曲第2番でソロを務めた楽器ピッコロ・トランペットが効果的に登場していますし、「レット・イット・ビー 」のピアノ・イントロの和声進行は、キーこそ異なるものの、聴く人が聴けば シューベルトの歌曲「春に 」Im Frühling(D.882 )冒頭の雰囲気を連想させるものです。

ウイングス ワイルドライフ
 ビートルズ解散後、自身のソロ・アルバムを発表するようになっても ポールのキーボード・プレイは 専らアコースティック・ピアノに留まっていました。1971年に デニー・レイン(ギター )、デニー・シーウェル(ドラムス )、妻リンダらと結成したグループ、ウイングスのファースト・アルバム「ワイルド・ライフ 」(わずか 3日間で録音されたとも )においても、そこで使われているキーボードは、まだ 生ピアノとせいぜいハモンド・オルガンを加えるくらいでした。

 しかし、翌1972年、ギタリストにヘンリー・マカロックを加え、同年 2月頃から最初のコンサート活動を開始する頃から、ポール ビートルズ活動末期に「ゲット・バック 」セッションでビリー・プレストンが用いていた普及型エレクトリック・ピアノフェンダーローズ を使うようになります。
鍵盤に向かうポール・マッカートニー、フェンダー・ローズを弾く。 ウイングス ロックショウ ローズ

 これは、やはりコンサート・ツアーの移動/運搬に適すること、調律師によるチューニングがほぼ不要であるという利点、ステージ上では 小さな音量のアコースティック・ピアノだと 直接マイクで音を拾わなければならないリスク、これに対し 電気ピアノであれば プラグを差すだけで 他のエレクトリック楽器とのサウンド・ミキシングも容易かつ確実である点などが、ライヴ重視で採用された理由でしょう。まさに、これらがフェンダーローズの長所でもあるわけですからね。

ポール・マッカートニー Red Rose Speedway
 レッド・ “ローズ” ・エレクトリック が 柔らかくコードを刻む、ポールらしい美しいメロディ・ラインが魅力の 73年発表のシングル「マイ・ラヴレッド・ローズ・スピードウェイ ) 」は、ウイングス初の大ヒット、全米第1位を記録します。

▲ Paul McCartney & Wings - My Love (Original film) 1973

 それでは、フェンダーローズ・エレクトリック・ピアノの音色が聴きとれる ポール・マッカートニーのナンバーから、以下、思いつくまま並べようと思います。

▲ Magneto And Titanium Man
ポール・マッカートニー & ウイングス
Magneto And Titanium Man(この「磁石屋とチタン男 」っていう邦訳、何とかしようよ )
実況録音:1976年 5月~ 6月 
ライヴ盤:「ウイングス・オーヴァー・アメリカ 」 Wings Over America 収録

 同曲のオリジナル・ヴァージョンは、アルバム「ヴィーナス・アンド・マース 」(1975年 )の中で聴けます。ここで紹介する動画は、ポールが ステージ上で フェンダーローズを激しく叩きながらシャウトする様子が観られる貴重なもの。フェンダーローズ特有の、切れのある打鍵を とらえていますが、残念ながら よく聴くと この動画、キーが半音ばかり高いようです。全プログラム中、ローズが効果的に使用されたのは、意外にもこのナンバーだけ。
Wings Over America
 ソースは1976年 5月~ 6月のウイングスの全米ツアー(「ロック・ショー 」Rockshow )から。初出時LPでは3枚組だったライヴ・アルバムは、 5月のテキサス公演から6月のロサンゼルス公演まで26都市31公演、約60万人を動員した全米公演の音源からベスト・テイクを編集したものとされます。


▲ Paul McCartney & Wings - With A Little Luck
ポール・マッカートニー & ウイングス
しあわせの予感 With A Little Luck
発表:1978年
アルバム「ロンドン・タウン 」収録

 オリジナルL.P.ではB面の最初に収められてました。いわゆるフェア・キャロル号の洋上セッションでレコーディングされたヒット・チューン。この原題は、ロンドンを舞台にした傑作ミュージカル「マイ・フェア・レディ 」中の With A Little Bit Of Luck (「運がよけりゃ 」 )を思わせるもの。
 主にステージでは 妻リンダに そのプレイを任せていたらしいフェンダーローズは、冒頭から楽曲のテンポとリズムを決定づける役割を果たす意味で、重要です。しかし、リズム・セクションのひとつとして加えられたポリフォニック・シンセサイザーのぶ厚い音に埋没してしまい、あまり表面に姿を現わすことはありません(非公開のデモ・ヴァージョンだとよく聴こえる )。全米ビルボード1978年 5月20日週間ランキング第1位。
ウイングス ロンドン・タウン ウイングス ロンドン・タウン (2)
 このアルバム「ロンドン・タウン 」には、ローズ・エレクトリックの登場回数が多く、アルバム冒頭に置かれた名曲「たそがれのロンドン・タウン 」も フェンダーローズが奏でる美しいイントロで開始されます。


▲ Arrow Through Me [music video] PAUL McCARTNEY & WINGS
ポール・マッカートニー & ウイングス
アロウ・スルー・ミー Arrow Through Me
発表:1979年
アルバム「バック・トゥ・ジ・エッグ 」収録

 実はこの一曲、私 “スケルツォ倶楽部発起人が 個人的に最も愛好するポール・マッカートニーのナンバーです。アルバム「バック・トゥ・ジ・エッグ 」の中でも突出して優れた作品だと思ってます。
 エレクトリック・クラヴィネットが、ポールの叩く幻想的なローズのコードとユニゾンでベース・ラインをなぞりながら歩く、特徴的なサウンド・カラー。特に素晴らしいのは、ポールらしからぬファンキーなフレーズを提げて参入してくるブラス・セクションの波状攻撃です。延々と同じアンサンブル(変拍子 )を繰り返し聞かせる、その催眠導入的な効果と、ポールの楽曲にしてはめずらしく たっぷりと間(ま)をとる、その不思議な呼吸。歌唱パートも演奏も 休止符が長い分、その隙間を埋めるように ドラムスパーカッションといったリズム・パートの一挙手一投足が 一層 印象に残るようにつくられているのです。


▲ Paul McCartney - Waterfalls (2011 Stereo Remaster)
ポール・マッカートニー
ウォーターフォールズ Waterfalls
発表:1980年、アルバム「マッカートニーⅡ」収録

 もともとアルバム発売は想定されていなかった、スタジオ内における独り多重録音の産物 - 賛否両論だった「マッカートニーII 」 から、何と二枚目のシングル・カットとして選ばれたナンバーが、これです。キャッチーな「カミング・アップ 」なら判りますが、このあまりにも地味で抑揚も足りないスロー・バラードを、ヒットさせることが前提のシングル曲に選ぶ感性って・・・ この歌を絶賛される方も 少なからずいらっしゃるようですが、すみません、私には 正直この曲の良さが理解できておりません。
ポール・マッカートニー ウォーターフォールズ マッカートニーⅡ
 そんなことではイケナイと、実は 今日 - 冬休みのほぼ半日を費やして - 朝から この一曲を 少なくとも100回は リピート、今も 聴き直しながら 拙文を書いておりますが・・・ やはり初めて聴いた時に抱いた主観 「これは まだ完成されていない途中の歌で、これからサビが付くべきでは ? 」 という感想に 変わることは ありませんでした。
 でも ポール・マッカートニーの奏でるフェンダーローズが、とてもよく聴こえてくる一曲ではあります。アレンジは、これに効果音的なシンセサイザーと 主要メロディ・ラインに アコースティック・ギターを重ねた程度の必要最小限なもの。イントロもなく 冒頭からいきなり始まる ポールの切ないヴォーカルは 素敵ですが。


ポール・マッカートニー タッグ・オブ・ウォー Bonus Audio 未発表 デモ
ポール・マッカートニー
[DEMO] ワンダーラスト Wanderlust
[DEMO] エボニー・アンド・アイヴォリー Ebony And Ivory
録音:1980年 – 1981年 
音盤:タッグ・オブ・ウォー【デラックス・エディション】 Bonus Audio 未発表 デモ・ヴァージョン から
    ユニバーサルUCCO-3058-59(Paul McCartney Archive Collection )

 2015年にリリースされた、一連のマッカートニー・アーカイヴの中でも 特にお気に入りな一組です。豪華なボーナス・トラック集に収められた 上記 2曲は、いずれもポールが 爽やかなエレクトリック・フェンダーローズでコードを弾きながら 独りでワンコーラスのみ歌ったデモ・ヴァージョンです。
 佳曲「ワンダーラスト 」のほうは、主旋律のみを ギター、ベース、ドラムスを加え シンプルに重ね録りしただけのもの。もしかしたら、この後 完成版において 重ねることとなる もうひとつの対旋律との効果を 実際にポールがスタジオで試してみるために準備したテープだったかもしれません。
 同じく「エボニー・アンド・アイヴォリー 」は、スティーヴィ・ワンダーと二人だけの多重録音で完成させたことで知られる名曲ですが、こちらはポールの独りデモ・ヴァージョンフェンダーローズ一台を伴奏に ワンコーラスだけ歌っている貴重なもの。特に、歌い出しのメロディ・ラインが 頭に半拍の休符を置かず ストレートにインで入るところ、どなたもオヤッ ? と思われるでしょう。それに、スティーヴィのアイディアによって完成することになるリズミカルな後半コーラス・パート(♪ Ebony , Ivory , Livin’in perfect harmony … )は、この時点では当然作られていなかったため、演奏も途中で終わっています。


▲ Paul McCartney - Carry That Weight - Back in the U.S. (Live 2002)
ポール・マッカートニー
「キャリー・ザット・ウェイト 」Carry That Weight
アルバム「バック・イン・ザ・U.S. - ライヴ2002 」Back In The U.S. から
録音:2002年 
音盤:MPL / EMI(東芝EMI TOCP-66110~11 )

 21世紀に入ってもまだまだ元気なポール・マッカートニーが、これでもかと量産する懐メロ・ライヴ盤の中にひっそりと収録された、ビートルズ時代の忘れられぬ一曲です。
 フェンダーローズに座ったポールが、徐に「ユー・ネヴァー・ギヴ・ミー・ユア・マネー 」から歌いだします。やがて All the money’s gone,nowhere to go 以降、私には聴き慣れない、明らかにオリジナルとは異なる歌詞で しばらく歌っていますが やがて末節の Oh,that magic feeling nowhere to go で オリジナル歌詞に戻ると そこから Boy, you’re gonna carry that weight と、力強く「キャリー・ザット・ウェイト 」に自然に繋げています、感動的。かすかに会場から 聴衆がコーラスに加わる合唱や手拍子が遠く聴こえてきます。
 まるまる一曲を フェンダーローズ一台で ポールが弾き語りで聴かせるとは、異例なことではないでしょうか。


スケルツォ倶楽部 
ポール・マッカートニー
ビートルズ 関連記事


ビートルズ 「レット・イット・ビー Let It Be 」
⇒ 同時に二つのメロディが重なる音楽の 素敵な効果

Beatles_Rubber Soul
⇒ ザ・ビートルズ The Beatles 「ノーウェジアン・ウッド 」Norwegian Wood

The Beatles Abbey Road
⇒ ザ・ビートルズ The Beatles 「アビイ・ロード 」Abbey Road の横断歩道が 文化遺産に指定

ポール・マッカートニー_夢の旅人 Mull of Kintyre
⇒ アフター・シュトラウス 1977年 ポール・マッカートニー 「夢の旅人」Mull of Kintyre

Sgt. Peppers Lonely Hearts Club Band
⇒ アフター・シュトラウス 1967年 ザ・ビートルズ 「シー'ズ・リーヴィング・ホーム 」She's Leaving Home


↓ 清き一票を
にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ
にほんブログ村
にほんブログ村 音楽ブログ ジャズへ
にほんブログ村

クラシックランキング

ジャズランキング
Club Scherzo, since 2010.1.30.

関連記事
スポンサーサイト



コメント

コメントの投稿

トラックバック

トラックバック URL
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)