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ワーグナーの劇的な前半生 ⇒ もくじ
スケルツォ倶楽部_ワーグナーの劇的な前半生

コロンブス 序曲(テイト / バイエルンR.S.O.盤 )と、
歌劇「恋愛禁制序曲(サヴァリッシュ / フィラデルフィアO.盤 )
を 聴く(EMI )。


 今晩は、“スケルツォ倶楽部発起人です。今宵の記事も 前回の続きとなりますが、今日やっと投稿できた文章は、実は 一昨日 誤って全部消してしまい、すべて書き直したものです。はー、連休でよかった・・・ 些か疲れております。

 さて、リヒャルト・ワーグナー 最初の結婚相手となる女性との運命的な出会いは、1834年 21歳の時、一目惚れからでした。
 それは、エルベ川左岸 水上交通の要所だったマクデブルクを拠点とするベートマン歌劇団に、指揮者として招聘されたことがきっかけでした。劇団の旅巡業先であるラウホシュタットという温泉地を訪れたワーグナーは、しかし そのあまりにも「みじめな巡業馬車(髙木卓 )」を見て、このはなしは断ろうと内心 決心しながら 背を向けた途端、そこを通りかかった一座の若い女優ミンナ・プラーナーの美しさに、胸がふるえるほどの感情を覚えたとされます。
ミンナ・プラーナー ワーグナー最初の妻
 彼女は ワーグナーより四歳年上、まだ独身でしたが、実は すでに 9歳になる娘がいました(世間体を憚って“妹”と称していたとされます )。もし この事実にワーグナーがこだわらなかったとすれば、多くの連れ子を残して夫に先立たれたヨハンナを 姉さん女房として迎えた「ガイヤーの面影が、おそらく その脳裏をよぎったからではないでしょうか。
 そんなミンナは、かなり奔放な性格だったらしく、配役上の不満があれば ぷいっと一座を脱退して行方不明になってしまうし、(時系列的にはもう少し後のことですが )二人でケーニヒスベルクの劇場へ移った際、美貌のミンナのことを絶えず男たちが取り囲んでいるのを見せつけられて焦ったワーグナーが嫉妬に駆られて 結婚に踏み切った、というあたりが 真相に近いようです。

 やがて一座の中で頭角を現し、彼は独自の地位を築いていました。手腕を見込まれたのでしょう、マクデブルク劇場の支配人代理として派遣されたワーグナーは、次季シーズンに出演してもらえる歌手たちの人選と新たな契約を交わすため 1835年 7月から 9月頃まで 広く西独地域を中心に旅をしています。重要だったのは、彼が 初めてバイロイトニュールンベルクの地を訪れたのが、まさに この機会だったということです。

 そんな多忙な合間にもかかわらず、同じ時期 ワーグナーは 友人テオドル・アーベルが書いた、マクデブルク劇場で上演されることになった戯曲「コロンブス 」のために序曲を作曲します。オペラではなく 戯曲上演への劇付随音楽ですから、ちょうどベートーヴェンの「エグモント 」やメンデルスゾーンの「真夏の夜の夢 」の序曲などと同じ立ち位置になります。この作品は、今日 演奏される機会は殆どありませんが、今回あらためて聴き直してみたら その意外なほどの力強さ、雄弁さに感銘を受けました。
 
コロンブス 序曲(ジェフリー・テイト ) ジェフリー・テイト Jeffrey Tate “The Rarer Wagner” EMI 50999 5 17619 2
コロンブス 序曲 “Columbus” Ouvertüre
ジェフリー・テイト 指揮
バイエルン放送交響楽団
録音:1988年 ガスタインザール、ミュンヘン

併録曲:
歌劇「恋愛禁制 」序曲、交響曲(第二番 )ホ長調、「ファウスト 」序曲、歌劇「リエンツィ 」序曲、ヴェーゼンドンクの詩による歌曲集(メゾ・ソプラノ独唱:マルヤーナ・リポヴシェク ) / ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮 フィラデルフィア管弦楽団
歌劇「妖精 」序曲、「表敬(忠誠 )行進曲 」、「皇帝行進曲 」、「アメリカ独立100年祝典大行進曲 」 / マレク・ヤノフスキ指揮 ロンドン交響楽団
「ジークフリート牧歌 」 / ネヴィル・マリナー指揮 アカデミー室内管弦楽団
音盤:EMI 50999 5 17619 2 “The Rarer Wagner

 開始から前半部分の、陰鬱な短調による大波が何度も船体を襲っては打ちつける描写が、後の「オランダ人 」を予感させます。主人公である「コロンブスが苦闘を重ねつつ、ついに絶望を切りぬけて新世界に達するまでを象徴的に表現(髙木卓 )」していますが、困難の底に沈みながら 未だ見ぬ新世界をイメージするようなトランペットに現われる希望に満ちた変ホ長調の旋律は、ワーグナー愛好家にとって驚くべきことに、何と「ラインの黄金の輝き」の動機そのまんま( ! )なのです。
 やがて曲は、目的地たる“ 新世界”の発見を示すように大きくパワーアップ、コーダに至ってはテンポを加速、「ラインの黄金の輝き」から発展した 付点リズムのファンファーレを 全金管がこぞって吹奏する歓喜のうちに天高く飛翔してゆきます。

 結局 ベートマン一座は 劇場の経理面での不振のため、とうとう行き詰まり 翌1836年に解散の止むなきに至ります。奇しくも劇団最後の演目となったオペラは、ワーグナーが「妖精 」の次に完成させた、新作喜劇「恋愛禁制 」でした。わずか十二日間の稽古だけで幕を上げたせいか 結果は散々な失敗だったそうです。一座が解散してしまう前に 自作を上演したいというワーグナーの強引な下心もあったようです。

 「恋愛禁制 」 - このオペラは、シェイクスピアの「尺には尺を 」に基づく翻案で、ドラマの背景も原作のウィーンから 伊シチリア島に移されています。シチリアといえば、「カヴァレリア・ルスティカーナ 」や「ゴッドファーザー 」、「ニュー・シネマ・パラダイス 」の舞台としても おなじみですね。
 シチリアの首都パレルモ国王留守居役となった ドイツ人のフリードリヒ総督は、開放的なラテン系の当地に 厳しい「恋愛禁制 」を布(し)き、結婚以外の男女関係のみならず 飲酒や祝祭を含むあらゆる享楽的な遊興歓楽を厳しく取り締まります。「違反 」して恋人をおめでたにしてしまった咎(とが )で逮捕され 死刑を宣告された青年貴族クラウディオの命乞いをするため クラウディオで尼僧イザベラ総督のもとを訪れますが、彼女の美しさに 総督一目惚れ。これに気づいて一計を案じる賢いイザベラ。その一方、理不尽な禁制に反発する市民らは 禁令違反の謝肉祭を賑々しく強行、そんな祭りの場が ドラマのクライマックスとなります。イザベラ会いたさに仮装姿で祭りにまぎれ込んでいたフリードリヒ総督を捕えた市民らは、自暴自棄になって自分自身にも死刑を宣告しようとする総督を寛大にも赦すと、この無茶な「恋愛禁制 」の無効を宣言、タイムリーに帰国してくる国王を皆で出迎えようと、めでたく大団円となります。

 いまだに「恋愛禁制 」も正規の全曲盤は稀少で、最近になってセバスティアン・ヴァイグレ / フランクフルト歌劇場(2012年、OHEMS )盤がリリースされたぐらいではないでしょうか。
 もはや歴史的な価値を持つと言ってもよい、ワーグナー没後百年(1983年 )に録音された サヴァリッシュ / バイエルン放送交響楽団&合唱団によるライヴ(ORFEO )盤は -
サヴァリッシュ ワーグナー 初期三部作(Orfeo) ワーグナー 恋愛禁制 サヴァリッシュ盤 ワーグナー 恋愛禁制 サヴァリッシュ盤(ORFEO)
 同じ年に収録された「妖精 」がコンサート形式の演奏だったのとは異なり、ヴォルフラムベックメッサー バイロイトで演じた名バリトン、ヘルマン・プライを 総督フリードリヒ役に迎え、名匠ジャン=ピエール・ポネルが演出を担当した舞台上演の実況レコーディングでした。
 にもかかわらず、発起人 これも未聴。スミマセン・・・ 今宵もまた「序曲 」だけのレヴューで済まそうと考えております、どうぞ 寛大に ご容赦のほど。

サヴァリッシュ ワーグナー秘曲集(EMI) ヴォルフガング・サヴァリッシュ “The Rarer Wagner” EMI 50999 5 17619 2
歌劇「恋愛禁制 序曲 “Das Liebesverbot”Ouvertüre
ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮
フィラデルフィア管弦楽団
録音:1995年 5月、10月 ニュー・ジャージー

併録曲:
交響曲(第二番 )ホ長調、「ファウスト 」序曲、歌劇「リエンツィ 」序曲、ヴェーゼンドンクの詩による歌曲集(メゾ・ソプラノ独唱:マルヤーナ・リポヴシェク ) / ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮 フィラデルフィア管弦楽団
「コロンブス 」序曲 / ジェフリー・テイト指揮 バイエルン放送交響楽団
歌劇「妖精 」序曲、「表敬(忠誠 )行進曲 」、「皇帝行進曲 」、「アメリカ独立100年祝典大行進曲 」 / マレク・ヤノフスキ指揮 ロンドン交響楽団
「ジークフリート牧歌 」 / ネヴィル・マリナー指揮 アカデミー室内管弦楽団
音盤:EMI 50999 5 17619 2 “The Rarer Wagner

 当時 大当たりしていたと伝わる エロールエロルド )の歌劇「ザンパ序曲の出だしを思わせる、フランス・グランドオペラ的な華やかな開幕です。オリジナリティを確立した後年のワーグナーの書法からは とても想像できない、派手な打楽器の活躍に驚きます。そう言えば、前回ご紹介した 盟友ラウベの新聞誌上で発表されたワーグナー最初の論文「ドイツのオペラ 」の中には「論理や形式、規則の正確性などに過剰にこだわるドイツの衒学性は捨て去り、良い所があればイタリアやフランスも柔軟に手本とすべし 」との一文を物していたほどですから、すでにこだわりも捨てていたのでしょうか。
 途中で何度も 金管のユニゾンが立ちはだかり、その都度 音楽の流れは中断されますが、ははーん、さては これが フリードリヒ総督が発布した無茶な「禁令 」を表す動機でしょうか。やたら明るく賑々しいメイン主題は、「禁令 」に衝突しても 懲りずに何度も登場し、これから先の不屈なドラマ展開を暗示します。
 やがて徐(おもむろ )に姿を現わすのは、ターンする可憐な弦セクションによる優美な主題です。これは「ブリュンヒルデ 」の動機などに聴かれる、登場人物の情愛を表現する典型的なワーグナー好みの節回し。最後は華麗なファンファーレを伴なって 序曲冒頭の明るいリズムと一緒に、「若気の過ちワーグナー談 )」が華々しく幕を開くのでした。

次回につづく

参考文献
Wikipedia ワーグナーの楽曲一覧 
素描の自叙伝ワアグナア、髙木卓/訳 )岩波書店
大音楽家・人と作品 ヴァーグナー(髙木卓 )音楽之友社
ワーグナーの世界(オードリー・ウィリアムソン、中矢一義/訳 )東京創元社
クラシック音楽作品名辞典(井上和男/編著 )三省堂


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