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「気分がふさいでいるときは、いつも 新しいレコードを何枚か買うことにしてるんだよ 」 

バイロイト風、爆笑ワーグナー
Bayreuther Schmunzel-Wagner


 今晩は、“スケルツォ倶楽部発起人です。まだまだ蒸し暑い日が続きますね。
 さて、前回の続き - 残暑に聴く、ワーグナーゆかりのディスク - 今宵もまた「ちょっと一味違う 」音盤を セレクトしようかなと思います。
 前回の記事は こちら ⇒ 「真夏には ワーグナーを 騎行(聴こう ) !

(小)バイロイト風、爆笑ワーグナー (小)Bayreuther Schmunzel-Wagner
Bayreuther Schmunzel-Wagner
バイロイト風、爆笑ワーグナー(意訳 )
バイロイト祝祭管弦楽団員、および祝祭合唱団員

Arthur Kulling(指揮、ヴァイオリン )
Erwin Schnur、Robert König、Werner Luppa、Ángel Jesús García(ヴァイオリン )、Hans Brünig(ヴィオラ )、Robert Reitberger(チェロ )、Otto Stiglmayr(コントラバス )、Joachim Welz、Jörg Fadle、Reinhold Helbich (クラリネット )、Gerhard Rapsch、Hans Szabo、Prof. Horst Winter、Karl Steinbrecher(バスーン )、Georg Rettig、Heiner Wellnitz、Kurt Nagel(トランペット )、Georg Rak、Dirk Delorette, Garry Garbage, Jan Schröder, Jürgen Danker, Ondré Babinec, Robert Ross(ホルン )、Dieter Bauer、Eberhard Merz、Gerd Erdmann、Siegfried Cieslik(トロンボーン )、Walter Hilgers(チューバ )、Dieter Smesny, Eckhard Fiebig(パーカッション )

録音年月日:不明 バイロイト
音盤:CONCERTO BAYREUTH(CB-13003 )

 その存在は 80年代頃から知る人には知られてきた、全編ワーグナー原曲のパロディ作品を集めたレコードでした。戦後イギリスの冗談音楽の祭典として 一世を風靡したホフナング音楽祭と同趣の傾向ながら レコーディングに参加しているオーケストラ団員も合唱団も「由緒正しき 」本物のバイロイトのメンバーです。仕掛人は アルテュール・クリング Arthur Kulling という人、ヴルテンブルグ歌劇場の元コンサートマスターで、バイロイト祝祭劇場のオケ・ピット内の常連だったそうですから、もう筋金入りですね。 特にアルバム最後の4曲は、クリング自身によるオリジナル・パロディ作品となっています。

1. アイネ・クライネ “バイロイト風” ナハトムジーク
 モーツァルトの「アイネ・クライネ~ 」に乗せて 弦楽オーケストラが「マイスタージンガー 」や「トリスタン~ 」「ローエングリン 」の有名/無名フレーズを 取り換えては奪い合う、ホフナング風の混線ナンバー。全四楽章、徹底的にやり遂げる気合に脱帽、めっちゃ楽しい11分間。

2. モンティ チャールダーシュ
 モンティ作曲のジプシー・ヴァイオリンが有名な人気曲に 四本のとぼけたファゴット・アンサンブルが澄ました顔でライトモティーフを挿入する、ボケの呼吸に噴きます。なぜここで「ワルハラ城 」が建つ ? なぜそこで ジークムントジークリンデは見つめ合ってる ? 曲調がフリスカになってからも 混線(混戦?)は止まず、一瞬ファゴット隊が「チャールダーシュ 」のフレーズを奪取するや あうんの呼吸で交代したヴァイオリニストが必死に「タンホイザー 」の忙しい伴奏部を熱演したり、果ては「オランダ人」の水夫たちが乱入してくる瞬間が 発起人ツボでした。

3. フォーレ カドリーユ「バイロイトの思い出 」
 フォーレ(メサジェ合作 )による四手ピアノ曲を、クリングが室内楽編成にアレンジしたもの。主に「指環 」に登場するライト・モティーフが「ンッ・チャカ・チャン・チャンフレーズで次々と接続されながら投入され、「あ、ワルキューレの騎行だ 」「あ、ジークフリートの角笛だ 」「あ、隠れかぶとだ 」・・・ などと、笑っているうち テンポを速めて終わります。

4. ドヴォルザーク 弦楽三重奏曲 第2楽章 ラルゲット
 ドヴォルザークが1887年に作曲した、二つのヴァイオリンとヴィオラのための三重奏曲 Tarceto ハ長調の美しい緩徐楽章ですが、楽句の締め括りなど随所に「指環」や「トリスタン~ 」のフレーズが挿入される趣向。「混線 」は最小限なので、知らずに流されたら 気づかぬまま聴き終えてしまう人もいるかも。

5. 「わたしら全身すっかりワーグナーに浸かって 」
 「マイスタージンガー」をイントロに、かつてマレーネ・ディートリヒが主演した戦前のドイツ映画「嘆きの天使」で披露された フリードリヒ・ホランダーの名曲 Ich bin von Kopf bis Fuß auf Liebe eingestellt - 米題は、「フォーリン'イン・ラヴ・アゲイン 」として知られている曲ですが - 「頭のてっぺんから足の爪先まで愛に包まれて 」というニュアンス、これをいわば「ワーグナーに包まれて 」と表現し直す替え歌です。悪乗りには拍車がかかり、コーラス隊はさらに アーヴィング・バーリンが1911年に作曲したジャズスタンダード「アレクサンダー’ズ・ラグタイム・バンド 」へと雪崩れ込みます。

6. アスベック「タニーとリッシー 」(タンホイザーのパロディ )
 前曲()の延長線上にある趣向、タンホイザーエリーザベトの名前を それぞれヤンキーな “タニーリッシー” と米語風に砕きます。ヴェーヌスブルクの陶酔的な音楽を 4ビートにして 退廃的なクルト・ワイルのフレーズから 一瞬「ティル・オイレンシュピーゲル 」まで顔を出せば「ハロー、ドーリー」で盛り上がり、私が知らないドイツのポップ・ソングが「夕星の歌 」や「貴き殿堂よ 」を下敷きにして平気な顔。大行進曲ファンファーレの前をロードランナー Beep ! Beep ! と警笛を鳴らしては横切ってゆきます。歌詞がわからないだけでなく、内輪受けに終始する まとまりのなさに、だんだん飽きてきます。いつまでやってるんだろ。

7. シャブリエ カドリーユ「ミュンヘンの思い出 」
 シャブリエは、1880年にミュンヘンで観た「トリスタンとイゾルデ 」によって 音楽の道に専念することを決意、内務省を辞しています。これは、そんな転機のきっかけとなったワーグナーへの敬意を感じさせる佳作で、フォーレの()と同様、原曲は四手ピアノ曲アンドレ・メサジェとの共作 )ですが、これもクリングが室内オケ用に編曲したものです。

8. 「黄昏」ポルカ(ワーグナー / J.シュトラウスⅡ / クリング )
 このディスクの仕掛け人クリングの作品。「神々の黄昏 」で ギービヒ家で盛大に祝われる 偽りの結婚式の場面で用いられる動機たちが、徹頭徹尾ピッツィカート奏されるシュトラウス兄弟(共作 )のポルカのサイズに卑小化されてしまう、何ともいえぬ可笑しさ。

9. 「ジークフリート」ワルツ(ワーグナー / クリング )
 クリングの作品。楽劇「ジークフリート 」に登場する様々な動機が 三拍子のリズムで揺れます。途中「こうもり」や「春の声 」、「ウィーンの森の物語 」、果ては「青きドナウ 」の景色まで通り過ぎてゆきます。私 発起人、個人的にはミーメの「養育の歌」がワルツになっている個所が ツボでした。

10. 「オランダ人 」カドリーユ(ワーグナー / クリング )
 アルバム最後の4曲はアルテュール・クリングによる作品です。木管五重奏という鄙びた編成で 水夫の合唱糸紡ぎの歌が 次々と繰り出される様子が可愛らしく、何とも楽しい一曲です。

11.「指環」マーチ(ワーグナー / クリング )
 最後もクリングの作品ですが、存外にまともな曲。テーマは「ワルハラ城 」の音列を組み直したような旋律で 繰り返しが多く、たしかにヴォータンの「契約 」の動機や ニーベルングの鍛冶のリズム、ジークフリートの角笛などが使われてはいますが、さほどユーモアは感じません。
 ちなみに、同じ趣向のマーチであれば バイロイトバイエルン歩兵第七連隊首席オーボエ奏者だったゴットフリート・ゾンターク(1846-1921 )という人の「ニーベルング行進曲 」のほうが、その破壊力では上回ります。ゾンタークは わざわざヴァーンフリートへ出向き 「指環 」からのメロディを使用するお墨付きを ワーグナー自身から貰った上で 作曲を手がけたのだそうです。これを ベルリン・フィルの管楽アンサンブルで、「ドイツ名行進曲 の中に しっかりと収録した見識の(?)カラヤン指揮によるD.G.盤(1973年録音)で、聴くことができます。猛烈に覇気の漲る、素晴らしい演奏です。
「ドイツ名行進曲 」集を録音したカラヤン D.G.盤「ドイツ名行進曲 」集を録音したカラヤンによるD.G.盤


 さて、本日最後に。
 ワーグナーの傑作なパロディと言えば、ワーグナー愛好家の方なら どなたも真っ先に思い出される作品がおありではないでしょうか。
 それは、2012 / 13年シーズンに サイモン・ラトルベルリン・フィル(の団員 )で演奏して 話題にもなった、パウル・ヒンデミットによる「午前七時に温泉場の二流オーケストラによって初見で演奏される『さまよえるオランダ人 』序曲 」・・・。
 長い過激なタイトルどおり、ワーグナー歌劇「さまよえるオランダ人 」序曲を下敷きにした、異様な変容を遂げた楽曲です。なぜか曲の終盤にワルトトイフェルの「スケーターズ・ワルツ 」もチラリと登板。これは 一体?
 ヒンデミットが意図したことは、「ワーグナー作品への単なるパロディではなく、タイトルが示すように、過去の作品の粗悪な編曲といいかげんな演奏に対する風刺だったのではないか(キングインターナショナル )」とされています。
 今回 紹介させて頂いた アルトゥール・クリングによるCB盤「バイロイト風、爆笑ワーグナー 」の中には、残念ながら、このヒンデミット作品は 採りあげられることはありませんでした。巧い人たちが わざと下手に演奏する(しかも合わせる )って、実はかなり難しく、さすがのバイロイトの名手たちも 忙しい本番上演の合間に そこまで稽古して合わせる時間はなかったということではないでしょうか(笑 )。

「コントラ・ワーグナー 」ハーゼル&ベルリンフィルのメンバー
ヒンデミット( / ワーグナー )
「午前七時に温泉場の二流オーケストラによって初見で演奏される『さまよえるオランダ人 』序曲 」(弦楽四重奏版 )
演 奏:ミヒャエル・ハーゼル指揮 / ベルリン・フィルハーモニーのメンバー
トーマス・ティム、ロマーノ・トマシーニ (ヴァイオリン )、ヴォルフガング・タリルツ (ヴィオラ )、タチアナ・ヴァシリエヴァ (チェロ )

併録曲:ワーグナー ヴァイオリンと小オーケストラのための「夢 」、モンティ ヴァイオリンと4本のファゴットによるワーグナーの主題によるチャールダーシュ(アルトゥール・クリング編曲 )、ワーグナー ジークフリート牧歌、シャブリエ 四手ピアノのためのカドリーユ「ミュンヘンの思い出 」(デイヴィッド・マシューズ編曲 )、ワーグナー ヴェーゼンドンク歌曲集より「夢 」(アルトゥール・フラッケンポールによるトランペットとブラスアンサンブルのための編曲 )、クシェネック クラリネットと弦楽三重奏のためのセレナーデ、ヴェーベルン 弦楽三重奏のための断章
録 音:2007年 4月、ザルツブルク、モーツァルテウム大ホール
音 盤:海外盤 col legno WWE-1CD-60018

 その代わり、2007年 ザルツブルク復活祭で行われた「コントラプンクテ 」シリーズ「ワーグナーによる、ワーグナーのための、ワーグナーに“反する”コンサートにおいて、何とベルリン・フィルのメンバーによる 「機知と笑いに満ちた 」ライヴ録音を col legno 盤で 聴くことができるのですが、多くの会員の皆さまには すでにご存知の 今さらな 情報でしょうね。
 このディスクは、 クリングCB盤 とは異なり、「おふざけ 」も コンサートの一部の要素であるに過ぎません。ワーグナーが及ぼした影響の広範囲さや多面性を聴かせる - という趣旨の、基本的に真面目な企画盤です。しかし・・・ というか、それゆえ・・・ と申すべきか、たしかに奏者は巧いし、音質も明らかに上であるのにもかかわらず、“禁断の”クリング(CB)盤を 先に聴いてしまった耳には、全然面白く聞こえないのです。CB盤では あれほど生き生きしていた クリング編曲の傑作「チャールダーシュ 」 も 彼らの大人しい演奏では まったく笑えません。ああ、もし 逆に CB盤で クリングらが 「午前七時のオランダ人 」を演(や)ってくれていたら、さぞや迫真の表現と大爆笑が聴けたであろうに・・・ と、心から惜しむものです。 


関連記事は こちら
【オルゴール内蔵】生誕200周年ワーグナー 限定テディベア(グリーンハーマン社 )
⇒ ワーグナーの劇的な前半生


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コメント

grunerwaldさま !

ご来訪ありがとうございます。バイロイトのマイナー・レーベル CONCERTO BAYREUTH は 国内代理店もないはずなので、入手困難盤の紹介はどうかなと思いつつも 記事を書いてしまいましたが、何と! いともたやすく Amazonでダウンロードできてしまうという ⇒ https://www.amazon.co.jp/gp/product/B00Q34WPBO/ref=dm_ws_sp_ps_dp grunerwaldさんのさすがな情報にびっくり! いやー 何でも便利になったものだなあ。
そう言えば、バイロイト音楽祭の舞台まで 殆どリアルタイムでBS放送の映像で観れるようになってしまったし、年末まで待って FM放送で音だけを聴いていた時代とは もはや隔世の感ですね(新演出「タンホイザー 」についてgrunerwaldさんの素晴らしいレポート、拝読しましたよー )。
でも・・・ちょっと脱線しますが、今や主流?になってしまった オペラの読み替え演出は、シェローやフリードリヒの時代は面白かったけど、近年は このまま永久に航海が止められない「さまよえるオランダ人」的な 負のスパイラルに堕ちていってる気が、私にはします。本家総本山たるべきバイロイトの舞台が こんな「冗談」みたいな演出を続けてるなんて いかがなものでしょうか。・・・って、保守的なのかな、頭カタイのかなー。

URL | “スケルツォ倶楽部” 発起人 ID:-

笑!

こんにちは。最初は、はて何のことなのかと思っていましたが、おもしろそうなのでamazonでDLして聴いてみました。「午前七時に~」単曲170円ですが、すごいですね。ここまでわざと下手に演奏するのは、逆に難しいでしょうね。「ゲバゲバ90分」でハナ肇が指揮をしてそうな絵が浮かびました。「温泉場の二流オケが初見」で弾いても、もう少しはましかと思います、彼らの名誉のために付け加えますと(笑)。「午前七時に」と言うのが、ミソですね。まともな音楽家がこういう曲を演奏する時間じゃない(笑)。クリングのBayreuther Schmunzel-WagnerもアルバムでDLして(1500円)、とりあえず一曲目の「アイネクライネ~」だけ聴いてみましたが、爆笑ですね。さすがに演奏がしっかりしているだけに、聴き応えがありますね。各曲の混線ぎみにクラクラしますが(うっとりしてるヒマがない)、さすがの演奏です。ちゃんと4楽章なのも笑えます。続きの演奏、後の楽しみにしておきます。夏の終わりにおもしろいものをご紹介、ありがとうございます。

URL | grunerwald ID:-

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