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童話「子どもの不思議な角笛」 Des knaben wunderhorn
(マーラー/アルニム/ブレンターノ原作 )

童話「子どもの不思議な角笛 」(マーラーに拠る)
マーラー生誕159年の記念日(7月 7日)に寄せて


 かつて あどけない牧童だったペーターも徴兵され、見習いの少年鼓手兵として 国境の戦場を駆け回る日々。とはいっても、農民上がりの少年兵、やれることは 誰よりも早く起きて 年上の兵士たちを起こす“起床合図”の太鼓を叩くことくらいでしたが。
 同じ村から徴兵された近眼のグスタフも、ペーターと一緒に“起床ラッパ”を吹く係でした。


 一方、故郷のアルプスでは 許嫁(いいなずけ)のハイジが かわいい山羊たちと一緒にペーターの帰還を待っています。
 その日も岸辺で一日中 草刈りして疲れたハイジは、出征の朝 ペーターが別れ際にプレゼントしてくれた金の指環を 彼女の雪のように白い薬指からそっと抜いて つぶやきました。
「退屈だわ 」
ハイジは、その指環を アルプスの雪解け水が音を立てて溢れ出した 美しい小川の流れへ ぽーんと力まかせに投げました。
「そばにいないんなら、恋人がいたって 何の意味があるのかしら 」
金の指環は 川底を漂いながら ゆっくりと流れ流れて、ライン川の方角へと下っていくのでした。


 その晩のこと、宿営地で ペーターは慣れない歩哨に立っていましたが、
「止まれ。誰だ、そこにいるやつは ? あっちへ行け、おいらに近づくな 」
と、暗闇の中を おっかなびっくり、野良犬にさえ銃口を向ける始末です。
「心楽しいはずもない ! みんなはぐっすり眠っているというのに、おいらは寝ずに立ちどおし。そして また朝の三時四時から起床太鼓に 行軍だ 」
耐えきれなくなったペーターは 勝手に独りで 戦線を離脱してしまいました。目指すは故郷のアルプスへ、愛しいハイジの許へ・・・。

 しかし、可哀そうに、ペーターは すぐ捕らわれの身となりました。隊を脱走することなど軍律では重罪です、少年兵といえども許されませんでした。翌朝 絞首刑が執行されることが決まり、地下の営倉に監禁されてしまいました。
「ああ、おとなしく鼓手兵のまま我慢していればよかったなあ。自由なのは、胸に抱く思いだけか 」

 処刑の日の朝、営倉から引き出されたペーターは 絞首台の下で 刑の執行を見届ける役目の上官と兵士らに、明るい声で 告別のことばを 叫びました。
「みなさま、お暇(いとま)を頂きます、さようなら 」

 まさにその時のこと。突然、隣国の敵が奇襲攻撃を仕掛けてきたのでした。それはもう圧倒的な兵力で、少数の味方は慌てて応戦するしかありませんでした。
 縛られていたペーターのいましめを、上官が急いで解きながら言いました、
「赦(ゆる)してやるから 貴様も武器をとれ。さあ、愛国心があるなら 最期まで 我らと一緒に ここで闘うんだ 」
武器をとれ と言われても、鼓手兵ペーターの手には小太鼓しかありません。
 つい先ほどまで突撃ラッパを吹き鳴らしていたグスタフは すでに敵の弾にやられたのでしょう、トランペットを握りながら血にまみれ うずくまっています。
 驚いてふりかえった途端、すぐそばにいた上官も 敵弾に頭を撃たれ、ものも言わずに倒れました。
 気がつけばそこは、まるで種まきのように銃弾が降り注ぐ戦場になっていました。

マーラー 交響曲第6番「悲劇的」セル クリーヴランド管弦楽団(SONY) マーラー 交響曲第6番「悲劇的」バーンスタイン ウィーンフィル(DG) マーラー 交響曲第6番「悲劇的」テンシュテット ロンドン・フィル(EMI)
 次の瞬間、ペーターは 戦場から自分の身体が飛び立って 上空まで高く昇ってゆき、静寂の中 アルプスの山々を目指して宙を飛んでゆくのを感じました。
 浮かんだ雲の切れ端を 左へ右へ スイスイと追い越すのを眺めながら 高速で静かに飛んでいます。
 遥か上空から見降ろすと、眼下には雪を抱いたアルプス山脈が見えます。
 ああ、この下は 故郷(ふるさと )だ・・・
 放牧牛の首に吊るされたカウベルが がらんがらんと鳴っている、何とも平和な音が聴こえてきます。
 カウベルの音、懐かしいなあ。
 遠くからは 不思議な角笛(ホルン )のアンサンブルも聴こえます。
 さらに、気のせいか チェレスタまで鳴っているような・・・ って、なぜ ?
 ハイジは どこだろう ?
 

 はっ と気づくと、ペーターの身体は 戦場に戻っていました。どうやら こちらが現実のようです。
 さあ、味方の兵らはもう あたり一面 まるで刈りとられた麦のように倒れています。ペーターは 腹をくくりました。
「よし、こうなったら太鼓を打ち鳴らしてやろう。そうでもしなけりゃ おいらもお仕舞だ。上官殿 すみません、お身体を駐屯地まで運べない代わりに、これからおいらは 太鼓を打ちます 」
地獄のような戦場で ペーターは 太鼓を 打って、打って、打ちまくりました。
「トララリ ! トララレ ! トララレラ ! 」
起床合図Revelge です。
「おい、みんな 起きろ ! 」、「起きろ ! 」、「起きろ ! 」と、倒れている味方を めちゃめちゃに起こしまくります。
 ペーター太鼓の音は、倒れていた兵たち全員を 白い顔のまま立ち上がらせました。みんなボロボロなのに血だらけの軍服のまま武器をとると、一斉に敵に襲いかかりました。死んでいたグスタフも起き上がるやトランペットを その青白い唇に当て、美しく吹き鳴らします。上官も頭部が吹き飛んでいるのに 大砲へ駆け寄ると 敵に向けて力強く拉縄を引きました。轟音 !

 さあ、驚いたのは 敵兵どもです。
 倒したはずの兵らが起き上がって、文字どおり死に物狂いで応戦してくる姿をみれば 誰しも仰天して、恐怖のあまり腰を抜かしてしまうでしょう。
「た、退却 ! 退却だー 」
と、敵軍の指揮官が撤退を叫びました。大勝利です。

 全滅した幻の部隊が 勇ましく凱旋の行進をしてきます。先頭で誇らしく独り小太鼓を叩いているのは、鼓手兵のペーターでした。
「本日の戦闘における大勝利は、この若者の功績だ 」と、誰しも手を叩いて喝采を贈りました。
ペーターは、特に国王からお城へ招かれ、勲章を授与されるという栄誉を担いました。さらに王宮の夕食会にまで招待されたのです。
「ほ、本当ですか ? 」


 さて、ハイジが アルプスの雪解け水の流れに投げこんだ金の指環は、川を漂いつつ流れているうち、ラインの本流あたりで 一匹の大きなに飲みこまれました。こやつは、つい先ほどまで パドヴァの聖アントニウス様のお説教に深く感銘を受けたばかりでしたが、水底を流れる光るものをみると、警戒心もなく 何も考えず、口の中へぱくっと入れずにはおれなかったのでした。
 そのは 美味しく料理され、国王の豪華なテーブルに載りました。
 カープフェンの白身に浅くナイフを入れておられた王様は、先端に何か固いものが当たったことにお気づきになられました。
「おやおや、魚の腹の中から指環が出てきたぞ。これは 誰のものじゃ ? 」
招待されて王宮のテーブルについていたペーターは、王様のお声を聞くと、思わず顔を上げました。おお、それこそ 自分がハイジにあげた指環ではありませんか !

「畏れながら 陛下、それは おいらが故郷(くに)の許嫁に預けたものでございます 」
王様は、心から楽しそうに、ペーターに微笑まれました。
「思ったとおりじゃ。この指環は 持ち主たる そなたに返してつかわそう。さあ、急ぎ故郷へ発ち戻り、その幸福な娘を 汝が妻に迎えるがよいぞ 」
「ありがたき幸せにございます、陛下 」
ペーター 王様から指環を おし戴くと、喜び勇んで 山を越え 谷を越え、愛するハイジの許へ、もう一度 金の指環を 渡すため 一路 故郷のアルプスへ 飛ぶように走ったのでした。


 それは、「終わりなき春 」の夜明け前のこと。ハイジは、山羊ではない 何か他の動物が戸外にいる物音で目を覚ましました。
「外にいるのはだれ、戸をたたくのはだれ、こんなにこっそりとわたしを起こすのは ? 」
「きみの最愛の恋人だよ、さあ起きて、おいらを中へ入れておくれ ! 」

 驚いて ハイジは 起き出すと、彼を部屋に招き入れ 歓迎のことばを告げました。
「ようこそ、いらっしゃい、ペーター ! 長く待たせちゃって、ごめんなさい ! 」
彼女が差し出す 雪のように白い薬指に、ペーターは 再び金の指環を はめてやりました。
「川辺で草を刈る時は、またおいらのために投げておくれ、お前の指環を、水の流れにね ! 」

【 以下は、もうひとつの結末です 】

 彼女が差し出す 雪のように白い薬指に、ペーターは 再び金の指環を はめてやりました。
 遠くで ナイチンゲールが歌っています。すべてを察したハイジは、さめざめと泣きはじめました。
「ああ、泣くんじゃないよ、かわいいひと ! この地上では、きみ以外に誰もなれない、おいらのお嫁さんにきっとしてあげるよ ! おお、この緑の大地に住む愛しきハイジ ! でも おいらが戻らなけりゃならない場所は荒野の戦場 - そこは美しくトランペットが鳴りわたるところ、そこに今は ぼくの住まいがあるんだ、緑の芝に埋もれて ! 」

 最後まで これを読んでくださった貴方に気づいて 顔を上げたハイジは、涙を拭きながら 笑顔で 貴方に訊ねるでしょう。
この歌をつくったのは、どなたかしら ?

via GIFMAGAZINE



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