スケルツォ倶楽部
名優ゲアハルト・シュトルツェの演技を聴く
 オルフ「オイディプス王」(クーベリック)D.G.ゲルハルト・シュトルツェ(最小サイズの肖像写真)  目次は こちら

(9)W.エック 「検察官 」で 主役を務める

 1957年 W.エック作曲「検察官」初演で、主役を務める
  カラヤンが総監督を務めていた時期のウィーン国立歌劇場で、ウェルナー・エック Werner Egk (1901-1983) の歌劇「検察官 Der Revisor」が、1957年、ギュンター・レンネルトの演出によって上演されています。
 エックは、カール・オルフに 作曲を師事、戦前の活動としては ナチスに利用され(アドルフ・ヒトラーが開会宣言をし)た、1936年のベルリン・オリンピック 開会式の祭典音楽を書いています。
 この歌劇「検察官」は、1836年ロシア(ウクライナ)の文豪 ニコライ・ゴーゴリ によって書かれた 同名の戯曲に基づく5幕のオペラで、当時の帝政ロシア官僚制度を痛烈に風刺した原作を基に、作曲者のエック自身が脚色したものです。

 ニコライ・ゴーゴリ (1909-1852)Wikipedia     Werner Egk (1901- 1983)httpwww.schott-musik.deshoppersonsfeatured5503
  ニコライ・ゴーゴリ(1909-1852)  ウェルナー・エック(1901- 1983)

 「検察官」の物語は、 帝政ロシア時代。とある田舎町に 突然、ペテルブルグの中央省庁から行政視察に検察官がやってくる - しかも それとはわからぬように お忍びで乗り込んでくる、という情報が入ります。
 これまで特権的な地位を利用して 賄賂や横領を行なってきた町長をはじめ、判事や警察署長、慈善病院の院長、学校長、郵便局長らは、悪事が露見し(バレ)ては大変と、このニュースのおかげで 蜂の巣を突いたような騒ぎになります。
 そんなところに、若い官吏フレスターコヴが 町にやってきます。登場早々、間抜けなフレスターコヴは 安ホテルでカモられ、イカサマ賭博で 一文無しにされ、わずかな宿賃も払えないので宿を出て行くこともできず 困っているところですが、そんな様子を見て早合点した(これもドジな)諜報員から「彼こそ お忍びで中央から赴いた 私服の検察官に違いない」と 一方的に間違われます。殆んど拉致されるようにして豪華なホテルへ移された上、取り繕うのに必死な町長と自分勝手な役人たちによって「ご視察同行」と称し、過剰な接待サービスや賄賂攻勢を受ける、という愉快な物語です。
 エックによって歌劇化されたこの作品は、ウィーン国立歌劇場で上演される前に、同年シュヴェツィンゲン音楽祭で 世界初演されたばかりの演目でしたが、これら両方の舞台で ゲアハルト(ゲルハルト)・シュトルツェは 主人公の青年官吏フレスターコヴ役を務め、高い評価を受けたそうです。これにシュトルツェが起用された経緯は、やはりエックの師であるカール・オルフの推薦があったものと推察されます。
 この上演、録音がもし残っていれば ぜひ聴いてみたい(!)ものですが、しかし現時点で この時の音源はもちろん、公演についての詳しい資料さえも 私には 殆んど探すことが出来ず、誠に残念ながら 今回はこれ以上 ご報告することは出来ません。

 エックの「検察官」(ビールマイヤー指揮)OEHMS盤で 聴く
 ・・・そこで、代わりに(シュトルツェが参加したレコーディングではありませんが)、エックの興味深い音楽、この歌劇「検察官」が聴ける 現在唯一のCDと思われるディスクの試聴印象をご報告させて頂きます。
 Werner Egk_Der Revisor_OEHMS CLASSICS OC-222
エック 歌劇「検察官」
 ダグラス・ナスラーヴィDouglas Nasrawi(フレスターコヴ)、
 ニコライ・ガルキン Nikolai Galkin(オシップ)、
 ミハエル・ドリーズMichael Dries(町長)、
 ジャネット・ウォーカー Janet Walker(アンナ)、
 コーネリア・ツィンク Cornelia Zink(マリア)、
 ニコラ・ダーヴィット Nikola David(ボブチンスキー)、
 フェリペ・ペイロ Felipe Peir醇p(ドブチンスキー)ほか
ハンス・ノーベルト・ビールマイヤー Hans Norbert Bihlmaier 指揮
アウグスブルク・フィルハーモニー管弦楽団 Augsburg Philharmonic Orchestra
録音:2001年3月8~10日、アウグスブルク劇場
OEHMS CLASSICS OC-222

( 重ねて注 ※ シュトルツェの出演した録音ではありません。)

 初演の時に シュトルツェが扮した主人公「青年官吏フレスターコヴ」を、このディスクでは ダグラス・ナスラーヴィという、軽妙で なかなか芸達者なテノール歌手が演じています。
 何の予備知識も、台本対訳も(その代り 先入観も)無く、まったく初めて聴くオペラ。しかし 意外や(?) 耳には快適な ちゃんとした 調性音楽です。その印象は・・・そうですね、一言で表現すると「プッチーニの『ジャンニ・スキッキ』風、アリア抜き」といった感じでしょうか、主観的な印象ですが・・・。但し、一部の資料に書かれているような、いわゆる「喜歌劇」「オペレッタ」ではありません。題材は確かに喜劇ですが、ドラマの台本に大略沿って音楽が進行する、詠唱を持たない「楽劇」です。
 面白いのは 第3幕第6景、町長の屋敷に案内された「検察官」フレスターコヴは、町長や判事、警察署長など 町の名士のことごとくが、自分のことを下へも置かぬ接待をするので、真意はわからぬまでも 徐々に気を良くしています。そのうち歓迎の美酒に酔っ払ってしまい、自分が首都ペテルブルクの中央官庁では いかに重要な立場にあるか、というホラ話を 快適なパーカッションのリズムに乗せてペラペラ喋り出す、そんな おかしな場面に付けられた エックの音楽に 思わず引き込まれます。
「いやー 僕はね、外務大臣や外国の公使ともトランプ仲間。役所では 僕がいなければ何も始まらないんだ、まったく困ったものさ。そうそう、余暇には芝居の台本だって書くんだよ、『ノルマ』も『フィガロ』も 実は 僕が書いたのさ、 実は プーシキン君とも親友でね。僕の屋敷では毎週舞踏会なんだ、そこで客に出すスープは パリから船で鍋に入れたまま持ってくるんだよ・・・」
 もうメチャクチャです。誰が聞いても このあたりで「コイツ偽物だろ」って判るでしょうに。 ・・・さすがに フレスターコヴ自身も、そろそろ自分が 誰か他人と勘違いされているらしいと気づき、第4幕には ここが潮時とばかりに この町の善良な(?)人々から思いきり金を「借り」まくった上、ちゃっかり町長の娘と「婚約」までした挙句、「義父」となる 町長に最高級仕立ての馬車まで手配させ、一同から名残惜しげに見送られながら、同伴の下男オシップと共に、堂々と手を振って町から出てゆくのでした(第5幕のオチには触れずにおきましょう)。
 エックの豊かな才能によって まとめ上げられた色彩的な音楽は、オーケストラ全体がひとつになって一斉に鼓動を打ち始めるような躍動的なリズムです。しかし師オルフのような むき出しの打楽器が活躍・・・といった手法は決して踏襲せず、オーケストレーション自体は意外なほど保守的です。その抑制された音響からは、むしろ同時代の ストラヴィンスキーなどの作風からの影響を感じます。

 ・・・これは 国内発売は、まず期待出来ないディスクです。しかし、作曲者自身 ゴーゴリの有名な原作に基づいて脚色した台本を使っているので、全5幕 (多少、原作からのカットはあるものの)おおむねオリジナル戯曲に沿って進行しています。ですから、オペラの対訳をお持ちでなくとも、ゴーゴリの名作「検察官」を「昔の岩波文庫で持っている」、あるいは「読んだことがある」、という皆さまにとって、ストーリーを追うことは 決して難しくないと思います。実は 私自身も 今回、図書館で「ゴーゴリ選集」という一冊を借りてきて、これを確かめながら 楽しんで聴き通すことができました。 
 聴いた後で口ずさめるような 耳当たりの良いメロディを期待することは出来ませんが、オルフストラヴィンスキー あるいは ロシア文学が お好きな方には、きっと興味深い時間をお過ごしになれるでしょう。
 
 あー、それにしても シュトルツェが この主人公フレスターコヴ役を演じた、初演の録音が残っていない(らしい)ことは、返すがえすも 残念です。かつて歌手になる前は ドレスデンでコメディ劇場の舞台俳優だった、という特異なキャリアを持った異才のこと、きっとキレまくった演技を聴かせてくれたに違いないのですが。
 なお、シュトルツェは さらに この2年後(1959年)にも、同じくエックの“ Erbses Julietta ” という新作オペラにも出演することになります。

次回(10)クナッパーツブッシュの バイロイト「リング」で、ミーメを演じる に続く・・・

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