スケルツォ倶楽部
架空のシューベルティアーデ
シューベルティアーデ  目次は こちら

 
(3)休憩 ~ クーペルヴィーザー・ワルツ    

 ・・・さて、今宵のリサイタルは 2部構成です。
 ここで休憩に入る前、ヨーゼフ・フォン・シュパウンは、まるで先ほどのコンヴィクトの先生たちによる凄演の熱気を冷ますかのように、静かにピアノに近づくと 親友の作曲した短い小品を1曲、さらりと弾いたのでした。

トヴェルスカヤ「シューベルト:楽興の時」
シューベルト
楽興の時 第3番D.780
オルガ・トヴェルスカヤ(フォルテ・ピアノ)
録音:1995年9月 北イタリア、旧メディチ邸にて
原盤:フランス・オーパス111

 そう言えば これは わが国で NHKラジオ第1放送の長寿クラシック音楽番組「音楽の泉」(毎週日曜日の8:05~)のテーマ曲としても有名です。調べてみると、この番組は 戦後間もない1949年にスタートし、「静かな休日の朝をクラシック音楽とともに過ごす」というのが当初の番組コンセプトだったそうです。初代の解説者は堀内敬三氏(1959年まで)、私 “スケルツォ倶楽部”発起人が、子供の頃から聴いていた時期の解説者は、2代目の村田武雄氏(なんと1988年までおつとめだったとか)、そして現在は3代目になる皆川達夫氏の落ち着いた解説ですね。
 今でも 日曜日の朝、番組を時々聴くことがありますが、この単調な左手のピアノ伴奏部に乗せ ハンガリー風の(あるいはロシア風とも)、あの独特なメロディを耳にすると、初めてクラシック音楽の素晴らしさ に目覚め 新しく出会う音楽に夢中だった小学生の頃、家が貧しくて1枚の新しいレコードさえ入手することも困難だった当時、わずかでもノイズの少ない周波数を求めて 一生懸命ラジオのダイヤルを回しながら「今日は何のレコードがかかるんだろう?」と、毎回わくわくしていた、春休みのある朝の心象風景を思い出してしまいます。
 曲が主調であるヘ短調から 思いがけず長調へ転調する瞬間の、初めて聴いたときの 驚きにも似た新鮮さを味わうには もうすっかり耳が慣れてしまっていますが、1820年に製作された古(いにしえ)のグラーフ・ピアノの鍵盤を トヴェルスカヤが叩く、その190年前の楽器の音を聴いていると、私は なんだか もう一度 子供の頃の耳を 取り戻せたような そんな錯覚を感じ、胸のうちが暖かくなるのです。


―――――――――   休     憩   ―――――――――


 ・・・ 休憩中、ピアノに近づこうとする長い髪の少女がいます。この娘に面識があるシュパウンは、彼女の身長に合わせて いすの高さを調節してやりました。
 彼女の名は テレーゼ・クーペルヴィーザー、12歳。
 少女の両親が12年前に挙げた結婚式のパーティで 当時19歳だったシューベルトは、ワルツを1曲 即興で演奏し、友人でもあった花婿レオポルトと その頃 彼自身がピアノを教えていた 美しい花嫁の二人に献呈したのでした。
 けれども このワルツを シューベルトは楽譜に残しませんでした。そこで クーペルヴィーザー家では、ほどなく授かったテレーゼに、記憶で習い覚えたこのワルツを 教え伝えたのです。
 この話は、シューベルティアーデの仲間内では 有名でしたので、
テレーゼが休憩中に サロンのピアノで “彼女にしか弾けない”シューベルトのワルツを弾こうとしている
と理解されるや、いっせいに暖かい拍手が起こったのでした。

デムス「シューベルト小品集」
伝シューベルト
「クーペルヴィーザー・ワルツ」
イエルク・デムス (ピアノ)
録音:1993年
原盤:プラッツ(PLCC-639)

 クーペルヴィーザー・ワルツについての物語を 筆者である“スケルツォ倶楽部”発起人が 初めて知ったのは、10年ほど前 新婚旅行でザルツブルクへ行くオーストリア航空の機内誌ででした。初めて読む話だった上、記事も観光客向けだったので、きっとフィクションだろうと思っていました。
 ところが、帰国してから数ヵ月後、お店で何気なく手にとったCDに、何とその曲が収録されているではありませんか。たった1分30秒の、この1曲のために 2,500円出して そのディスクを買ってしまいました。
イエルク・デムス自身の解説によると、この小品が成立した経緯は 大体上記のとおりなのですが、この伝説の曲を最初に採譜したのは、何とリヒャルト・シュトラウス(!)で、1943年マウントナー・マルクホフに於いてテレーゼ・クーペルヴィーザーの孫に頼んで、この家に代々伝わるシューベルトの作品を何度も弾いてもらった上、楽譜に採ったものだそうです。
 一体どんな音楽なんだろう? ひさしぶりに わくわくしながら聴いてみると、ははあ なるほど・・・同じシューベルトによる 変ト長調D.899-3の即興曲に近い雰囲気を持った佳曲で、しかし あっという間に終わってしまう はかないワルツでした。楽曲を成立させた伝説のために、その価値を認める人すべてにとって 価値の高い作品である、と言えましょう。

架空のシューベルティアーデ(4) に 続く・・・
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