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本記事は、1月17日 「注目記事ジャズ ランキング 」で 第1位となりました。
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スケルツォ倶楽部 Club Scherzo
スティーヴ・ガッド Steve Gadd を讃える。
   
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チック・コリア + スティーヴ・ガッド バンド
チャイニーズ・バタフライ 」 2017年

チック・コリア Chick Corea Steve Gadd Chinese Butterfly スティーヴ・ガッド
収録曲
CD-1
01. チックズ・チャム’ズ (09:23 ) Chick's Chums
02. セレニティ (06:39 ) Serenity
03. ライク・アイ・ワズ・セイイン' (06:45 ) Like I Was Sayin'
04. ア・スパニッシュ・ソング (08:51 ) A Spanish Song
05. チャイニーズ・バタフライ (11:51 ) Chinese Butterfly
CD-2
01. リターン・トゥ・フォーエヴァー(17:30 ) Return To Forever
02. ウェイク・アップ・コール (18:14 ) Wake-Up Call
03. ガッド・ズークス (16:17 ) Gadd-Zooks

Chinese Butterfly
パーソネル
チック・コリア(ピアノ、キーボード ) Chick Corea
スティーヴ・ガッド(ドラムス ) Steve Gadd
リオーネル・ルエケ(ギター、ヴォーカル ) Lionel Loueke
スティーヴ・ウィルソン(サックス、フルート ) Steve Wilson
カリートス・デル・プエルト(ベース ) Carlitos Del Puerto
ルイシート・キンテーロ(パーカッション ) Luisito Quintero

録 音:2017年
音 盤STRETCH ユニバーサル クラシックス&ジャズ(UCCJ-2035/6 )


 CD 2枚組という意欲的なボリューム、懐かしの「リターン・トゥ・フォーエヴァー 」一曲を除けば 他は全部新曲、そして興味深いタイトル「チャイニーズ・バタフライ 」 Chinese Butterfly - このイメージから私が勝手に連想するのは、あの“バタフライ効果”Butterfly Effect です。
 すなわち 一匹の蝶が北京の天安門を羽ばたくと、ハリケーンがニューヨークを襲う という(笑 )・・・。
 ひとつの場所でふと起きた 目に見えぬほどのミクロな変化が、実は別の場所での膨大なマクロ現象に影響を及ぼしている - という、あの興味深い カオス理論 Chaos Theory です。
Miles in the Sky_マイルス・イン・ザ・スカイ チック ガッド チャイニーズ・バタフライ
 このアルバム・タイトルの名付け親であるに違いないチック・コリアが、果たして どこまで考えて命名したのかは不明ですが、学究肌でインテリな芸術家でもあるコリア氏のこと、「 マイルス・イン・ザ・スカイ 」のジャケット・デザイン にも似た、この不思議な表紙も ピアノやドラムスといったバンドの楽器を配置したイラストに直線を引いてその軸で反転させれば ぴたりと重なり合う線対称のデザインを採用しているほどですから、それも十分あり得ることではないかなー などと考えました。


CD-1
01. チックズ・チャム’ズ (09:23 ) Chick's Chums

 はい、こんな気持ちは久しぶりのことです。
 一体どんな演奏なんだろう・・・ まだ高校生だった頃、好きなアーティストの未知の新譜の封を切る時の ちょっとわくわくエキサイトする感じ、もう長いこと忘れていましたね、こんな気持ち。
 初聴の第一印象 - 意外にもファンキーなエイト・ビートが始まったことにちょっと驚き。チック・コリアらしくないなー 」と、慌ててクレジットを確かめたら、この曲はかつてマイルスを介して「イン’ナ・サイレント・ウェイ 」(1969年 )で共演して以来の盟友ジョン・マクラフリンが、コリアのために作ったオリジナル・ナンバーとのこと。耳当たりの良いリズム・アレンジは 言うまでもなくガッドに依るもの、シンプルに叩きこまれる力強いスネア打撃の心地よさに身をゆだねます。
The Corea+ Gadd Band
 やがて70年代から“エレクトリックチック のトレードマーク的サウンド・カラーだったフェンダー・ローズミニ・ムーグ(最新のヴォイジャーですが )を操って、巧みにソロをとりはじめるチック・コリア、明るい曲調とフレーズで 実に楽しそう(って、もちろん楽しくリラックスさせてもらっているのは、聴いている私たちのほうであるわけですが )。
 知る人ぞ知る、80年代新生ブルーノートの看板グループのひとつだったO.T.B.Out of the Blue )で、最出世頭ケニー・ギャレットの後任だったスティーヴ・ウィルソンコリアとは1997年の「オリジン 」以来 何度も共演を重ねているおなじみ、すでに自己のリーダー・アルバムもリリースしているほどの実力派です。彼のソプラノ・サックスのソロも このバンド・カラーに絶妙に馴染みます。
 そして08:10頃から披露されるガッドの短いドラムス・ソロ、例によって正確にテンポをキープして姿勢を崩さず、しかも程よく暴れてくださるという「神様 」特有の優れモノ。アルバム・オープナーを好発進で飾る一品。


02. セレニティ (06:39 ) Serenity
 穏やかなアコースティック・ピアノの和音がいくつも滴り落ちるようなイントロ、ようやく目指していたメロディに辿り着いたかのようにヴォーカルとスティーヴ・ウィルソンのフルートがユニゾンで出現する瞬間の懐かしさ、それは初代リターン・トゥ・フォーエヴァーの「ライト・アズ・ア・フェザー 」の清冽な空気にも似た、素敵なボッサ・ワルツ。
 タイトルの Serenity とは 単に静けさ、晴朗さ、うららかという意味に加え、心の平静というニュアンスもあるそうな。それは絶妙なサウンド・ヴィジョン、さらに一貫して背後で複雑なボッサ・ワルツのリズムを刻み続けるガッドルイシート・キンテーロ(パーカッション )による 静かな執念にも敬服しきり。
 尚、これ以下の楽曲は すべてチック・コリア自身の作曲です。


03. ライク・アイ・ワズ・セイイン’ (06:45 ) Like I Was Sayin'
 もしアルバム冒頭の一曲目が このクール・ナンバーだったら、アルバムのイメージも相当異なったものに変わっていたろうなーと想像。なぜなら(個人的には )そのほうが良かったのに・・・ という勝手な意見の持ち主だから。
「チャイニーズ・バタフライ 」 のチック・コリア(BLUE NOTE) (2)
 都会的なサウンドとスタイリッシュな空気感が醸し出されるハード・ボイルドな逸品。
 ほろ苦い曲調に、どこか懐かしさまで感じてしまうのは、演奏を主導するチック・コリアの扱う主楽器が まさにオリジナル・フェンダーローズの音色をサンプリングしているからでしょうか。ここでは管楽器プレイヤーはお休み、基本ピアノ・トリオの未来形。
 心地良い緊張感を維持したまま03:48頃から始まるガッドのアイディアに溢れた白熱のドラムス・ソロにも感嘆、格好イイ・・・。これ、コレですよ、まさしく「こう演(や )ってほしい 」って思っていたとおりのプレイを、ここで「神様 」は披露してくださるんですよ。未聴のアナタ、今回は期待して良いと思いますよ、エンディングもさり気なくて好きだなー。


04. ア・スパニッシュ・ソング (08:51 ) A Spanish Song
 「スパニッシュ 」こそ チック・コリアの“心の所有格”です。
 ラテン・リズム特有のアクセントを鋭く裏打ちするガッドの名技、弱拍部でスネアをさりげなくローリングさせる小技にも注目。そして複雑なフレーズを アコースティック・ピアノ、ソプラノ・サックス、ギター、ベースが揃ってユニゾンで合わせるのと同時にガッドのドラムスがこれを絶妙にサポート、彼らのアクセントを「神様 」が縁(ふち )取ってくださる瞬間は、快感をおぼえるほどスリリングです。
Chinese Butterfly (2)
 ところで、スティーヴ・ガッド・バンド名義で2013年にリリースされたアルバムガッドの流儀 Gadditude 」に所収のナンバーで もう一曲、やはりスパニッシュ・タッチの「カヴァリエッロ Cavaliero 」(作曲:Larry Goldings )なる一曲がありましたよね、もっとテンポは遅いですが その分ガッドがスティックに蓄えるエネルギーの熱量は高く、特筆すべき凄演でした。機会あれば ぜひ一度お聴き比べください。


05. チャイニーズ・バタフライ (11:51 ) Chinese Butterfly
 チック・コリアフェンダー・ローズでリズミカルな呪術的リフを繰り返し、これにユニゾンで合わせるソプラノ・サックスのプレイに、ジョー・ファレルの幻が私の耳の奥をよぎってゆきます。この息の長いテーマは音域も広く複雑ですが、楽句の後半で一瞬現れる 下降したり上昇したりする特徴的なアンサンブルのフレーズは ハービー・ハンコックの「ジ・アイ・オヴ・ザ・ハリケーン 」に似た旋律の一部を少し連想させるもの。
 アコースティック・ベース本来のウッディな深い響きまでミックスされると、やはりどうしても初代R.T.F.のサウンドを思い出してしまいます。そして、今回 これらを手堅く引き締めているのは やはりガッドのタイトなドラムスです。
 ソロ・パートに入ってからのウィルソンが紡ぎだすソプラノ・サックスによる即興演奏は、コルトレーン、ウェイン・ショーター、ジョー・ファレル といった この楽器の伝統を担うジャイアンツらの奏法を消化した熟練の域に達していると感じます。



CD-2
01. リターン・トゥ・フォーエヴァー(17:30 ) Return To Forever
 
 今回チック=ガッド・バンドによるニュー・アルバムを買い求めた動機のひとつが「この一曲が収録されていたから 」に他なりませんでした。
 何と言ってもECMからリリースされた、最初の「リターン・トゥ・フォーエヴァー(1972年 )」がわたしは大好きでしたから、このタイトル・ナンバーが45年ぶりに( ! )果たして どんな風に再演されたか、さらに ガッドが参加したらR.T.F.サウンドはいかなる変化を遂げたか - などが 専ら私の興味の対象でした。
Return To Forever(Chick Corea )ECM
 ご存知のとおり、この曲の最初と最後には フェンダー・ローズの旋律とユニゾンで歌われる神秘的なヴォーカリーズ・パートがあり、1972年ECMのオリジナル・レコーディングでは パーカッション担当だったアイアート・モレイラの妻フローラ・プリムが担当していました。
 今回 そこをフィリップ・ベイリー(言うまでもなく 男声のファルセットです )が歌っている事情の背景はまったく知りませんが、残念なことに、私の耳には 生理的なレベルで不快でした。声質も音程もダメです、妙なヴィブラートもかけないでほしい。チック・コリアらがこれを良しとしてリリースしたことが正直信じられません、違和感いっぱいです。痛いです。こんなこと率直に書いて、ベイリー・ファンの方には 本当にすみませんが、百歩譲って せめてキーだけは下げてあげるべきだったのではないでしょうか。わたしは E, W & F は大好きですが、それとこれとは別です。
 但し、中間部 テンポ・アップしてからのサンバを 多人数のコーラス隊で合唱するようにした今回のアイディアは、強く支持します。まるでジョアン・ジルベルトが1961年に「オ・ノッソ・アモール 」 O Nosso Amor とメドレーでレコーディングした名唱「フェリシダーヂ 」 A Felicidade(Odeon )の後半部分を髣髴とさせる、力強い、素晴らしい効果です。


02. ウェイク・アップ・コール (18:14 ) Wake-Up Call
 ヨーゼフ・ザヴィヌル風のエスニック調イントロが終わると そこはタイトルどおり「目を覚ました 」ように 05:16 から音場が変わり、“舞台上”はガッドキンテーロによるパーカッションが主役、静かなのに躍動感いっぱいという 不思議な活況を呈します。
 そこで提示されるテーマはシンプルなAマイナーのワンコードで、ミュージシャンらはユニゾンでアンサンブル・パートを見事に決めると、この楽曲は Aマイナーのワンコードのまま 最後までずっと続くのです。
 まずウィルソンのフルート・ソロ、その背後でフェンダー・ローズとドラムスが盛り上げていると、次にリオーネル・ルエケが自身のギターを爪弾きながら所々ヴォーカルを口ずさむのですが、正直この辺りまでくると 私の老いつつある耳には 些か冗長に感じてきます。そう思っていると、いつの間にか演奏の中心はチック・コリアのキーボードへと交替しています、ようやく聴き手は身を乗り出します。まずお得意のフェンダー・ローズによるリズミックなソロ、次に倍音の響きが珍しいプリセット・シンセによる金属的なサウンドが選ばれると、このソロ・パートもやや長めに続きます。
「チャイニーズ・バタフライ 」 のガッド(BLUE NOTE)
 コーダ部は Aマイナーのアンサンブル・テーマをフルートとギター、フェンダー・ローズ、ベースがユニゾンで何度も繰り返し、これにドラムスとパーカッションが強力な拍動を送ります。このように盛り上げた演奏の最後に、モーダルなテーマを奏者がユニゾンで何度も繰り返して熱を通すという手法は、後期のウェザー・リポートでもしばしば試みられていた形式でしたね。


03. ガッド・ズークス (16:17 ) Gadd-Zooks
 昨年 - 2017年に入って間もなく、本当に久しぶりにスケジュールが空いて、その翌月にはフロリダでスティーヴ・ガッドと会えることが決まったというチック・コリア、最初のうち「スティーヴとは ジャム・セッションでもやりたいな 」くらいに考えていたものの、まだ約束の日まで一ヶ月もあることから 途中で気が変わり、「やっぱり何かオリジナルを作曲しておこう 」 - こうしてCD1枚目第3曲「ライク・アイ・ワズ・セイイン’ 」とともに コリアガッドのプレイを想定して作曲した 最初の二曲のうちの一つが、この「ガッド‐ズークス 」だったそうです。
「チャイニーズ・バタフライ 」 のチック・コリア(BLUE NOTE)
 これもやや長いイントロダクションを持ち、我慢して聴いているうち 否が応でも期待は高まります。そんなリズム・セクションがようやく目覚めるのが 04:34頃、そして親しみやすいメイン・テーマが初めて登場するのがようやく06:23を過ぎた頃から、ソプラノ・サックスによって繰り返されます。
 私の耳には コルトレーンの「至上の愛 」 Love Supreme を思わせる( ? )シンコペートが特徴の短い反復フレーズを 何度もバンド・ユニゾンが重ねてゆく、その背後でガッドのドラムスが見事に炸裂します。短い経過句を経て、ヤマハGFXグランド・ピアノを操るコリアガッドとの素晴らしい一騎打ち(09:05頃から )的なソロ・パートなど、聴かせどころも満載です。
 ミュージシャンたちが 本アルバムのために スタジオで演奏したレコーディング・マテリアルは、100分以上もあったそうです。それらには、敢えて編集/短縮 の手が加えられるようなことなく、あたかも実況ライヴのように即興性が残っているのでした。
 さて、ソプラノ・サックスによるメイン・テーマが戻ると、そこから以降は いよいよ大詰めともなるコーダ部(14:03以降と考えられます )、「至上の愛 」似の反復フレーズが再現され、スネア・ドラムは長いトレモロを大クレッシェンドしてみせ、反復テーマもユニゾンで繰り返されます。この手法は 前曲「ウェイク・アップ・コール 」にも似た趣向ですが、今回はテーマの背後で大爆発してくださる「神様 」のソリスティックなドラムスや テーマに代理コードをどんどん付加してゆく強力なバンド・サウンドがクライマックスを築き、アルバムはエンディングを迎えます。


 最後にひとつ、私 発起人の個人的嗜好から勝手な希望を述べさせて頂ければ、本アルバム中に一曲、アコースティックで本格 4ビートのストレート・ジャズ・ナンバーを ぜひ加えてほしかったなあーと思うものです。
 チック・コリアと言えばハーモニー & フレーズ面で、同時にスティーヴ・ガッドと言えばリズム面で、それまでとは明らかに異なる新しい感性から70年代以降のモダンな 4ビート(ビ・バップ )ジャズの演奏法を革新したパイオニアだった - という揺るぎない実績があります。
若きコリアとガッド(Warner Bros.)
 しかし、その当時は まだ一部の保守系の批評家辺りから「チックが弾くジャズのニュアンスはおかしい。あんなのはビ・バップじゃない 」とか「ガッドが刻む縦乗りな4ビートのタイム感覚はスウィングしない、あれはジャズじゃない 」などと言われていたものです。今日の常識からするとウソみたいな話ですが、ホントなんですよ。もちろん現在では 誰もそんな風に貶す者など全くいなくなりました が。
 この二人の功績は真に偉大です、生きた音楽史の一部です。
 そんなチック=ガッドの名を冠するアルバムを 今 世に贈りだそうと言うのであれば、アコースティック・サウンドの最新型での 4ビート・ナンバー に期待をかけることこそ むしろ当然とは言えないでしょうか、
チック・コリア_マッド・ハッター
▲ かつての名盤「マッド・ハッター 」に収録されていた、そう 「ハンプティ・ダンプティ 」の立ち位置に相当するような - 。


チック・コリアとガッド(Bluenote NY)

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