スケルツォ倶楽部
名優ゲアハルト・シュトルツェの演技を聴く
オルフ「オイディプス王」(クーベリック)D.G.ゲルハルト・シュトルツェ(最小サイズの肖像写真)   目次は こちら

(8)1956年バイロイト「マイスタージンガー 」ダーヴィットを演じる

■ 1956年「ダーヴィット 」
~ ワーグナー:楽劇「ニュールンベルクのマイスタージンガー 」

ワーグナー マイスタージンガー 1956 1956年「マイスタージンガー 」M&A(輸入盤CD-1011 )  

ワーグナー:楽劇「ニュールンベルクのマイスタージンガー 」
アンドレ・クリュイタンス指揮/バイロイト祝祭管弦楽団、合唱団
 ハンス・ホッター(ザックス )、
 ヨーゼフ・グラインドル(ポーグナー )、
 D.フィッシャー=ディースカウ(コートナー )、
 ヴォルフガング・ヴィントガッセン(ヴァルター )、
 カール・シュミット=ワルター(ベックメッサー )、
 ゲアハルト・シュトルツェ(ダーヴィット )、
 グレ・ブロウェンスティーン(エーヴァ )、
 ゲオルギーネ・フォン・ミリンコヴィチ(マグダレーナ ) 他
ライヴ録音:1956年7月
M&A(輸入盤CD-1011 )


 男声陣の 豪華な顔ぶれには、絶句します。
 ハンス・ホッターバイロイトの舞台でザックスを演じた回数は意外に少なく、その点でも これは貴重な録音と言えます。フィッシャー=ディースカウコートナーというのも 珍しいですね。これにポーグナーを演じるヨーゼフ・グラインドルまで登場してしまうと、まるで舞台にハンス・ザックスが三人並んでいるようではないですか。
 この時期の実況録音であれば、音質は「並」のレヴェルなのでしょうが、やはり時々チリチリいう電気的なノイズが 多少気にはなります。しかし 歌手の声は、マイクロフォンのかなり近くで録られており、時にはその呼吸する音まで聴き取れるほどですし、第2幕の群衆の大騒ぎのシーンなどもたいへん臨場感があり、大乱闘の最中 シュトルツェダーヴィットベックメッサーに飛びかかるときに張り上げる怒声までしっかりと届いています。

Andreacute; Cluytens (1956) httpwww.bayreuther-festspiele.defsdb_enpersonen57index.htm ホッター演じるザックス(1956年バイロイト)東京創元社 シュトルツェ演じるダーヴィット( バイロイト 1956年)
(左から )アンドレ・クリュイタンス、ハンス・ホッター、ゲアハルト・シュトルツェ

 1958年までの向こう3年間、バイロイトに招かれて 毎年この「マイスタージンガー」のタクトを振ることになる フランス系ベルギー人 アンドレ・クリュイタンスの指揮 ( 第二次大戦中、ナチスによって国威発揚目的に利用されてしまった この楽劇を、この年ヴィーラント・ワーグナーが 自身の新演出のプレミエにおいて 敢えてドイツ人の指揮者を選ばなかった、という事実は 多分に政治的配慮もあったのでしょう )  は、開始の清朗な前奏曲では 少し重く緩慢な印象ですが、それは 最初のうちだけで、徐々にオーケストラで複数旋律が複雑に絡み合う部分までくると、各動機旋律線ひとつひとつの動きが、不十分な録音レベルであるにも関わらず すべてきちんと聴き取れることに驚かされます。クリュイタンスが 慎重に計算した上で選んだ、適確なテンポ設定 であったことがわかります。 ・・・ とは言っても、録音のディテールは 理想的なレベルからは程遠いもので、このコンディションによって演奏の内容まで評価されてしまうとしたら、クリュイタンスには気の毒な気がします。

シュトルツェが ダーヴィット を演じたスタジオ盤は 何故ないの ?
 それにしても シュトルツェダーヴィット が聴ける音質の良いスタジオ録音が残っていないのは、本当に惜しまれることです。なぜ 1960年代にグラモフォンデッカ等 メジャーレーベルで ダーヴィット を録音する機会がなかったのでしょう。これをもし「文化的な損失」だった、とまで言う人がいたとしても、私は決して大袈裟とは思いません。
 彼は、バイロイトダーヴィット役を 当年から1961年まで、少なくとも6期 歌っています。よほど好評だったのでしょう、最初のヴィーラント演出のもと クリュイタンス(~1958年)、エーリヒ・ラインスドルフ(1959年)、ハンス・クナッパーツブッシュ(1960年)、 ヨーゼフ・クリップス(1961年 )といった歴代の大指揮者のもと 演じ続けました。その初年度となる この1956年の歌唱を 後年の録音と聴き比べると、もうそれこそ 力いっぱいの気合が入っていることがわかります。そこからは 当時 期待の新人として注目されている自分を意識しているシュトルツェの、高いモティヴェーションを感じるのです。

 それは やはり第1幕。ご存知のとおり ヴィントガッセンが演じる 若い騎士ヴァルターは、美しい乙女エーヴァグレ・ブロウェンスティーン)と 教会の礼拝堂で出会っていきなり お互いに一目ぼれして 恋に落ちています。しかしエーヴァは 明日のヨハネ祭の歌合戦優勝者 からのみ 求婚できることが決まっている、と聞かされた ヴァルター失望のどん底に。「でも 歌を歌うだけなら、もしかしたら ボクにだって出来るかも・・・」という甘い観測木っ端みじんに打ち壊すように、靴職人徒弟ダーヴィットシュトルツェ)が、マイスターの歌の作法がどれだけ大変か、その堅苦しい規則をくどくど説明して ヴァルター 奈落の底に突き落とす、そんなユーモラスな場面のシュトルツェの語りの凄さと言ったら! 
 舞台狭しと敏捷に駆け回って 若い徒弟役を熱演するシュトルツェを 初めて観たバイロイトの聴衆は、その見事な演技・歌唱に唖然としたのではないでしょうか。彼のダーヴィットは、完全に 突き抜けています。
 ゲアハルト・シュトルツェ、この時まだ29歳! 3年前にはベルリン国立歌劇場と初めて専属契約を交わしています。まさしく新進気鋭のキャラクター・テノール歌手として出港、比類無き個性という才能を豊かな追い風にして、今 順風満帆の航海を始めたわけです。


次回 (9)エック「検察官 」で 主役を務める に続く・・・
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