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ロドリーゴ ピアノ作品全集_サラ・マリアノヴィチ(SONY CLASSICAL) 「気分がふさいでいるときは、いつも 新しいレコードを何枚か買うことにしてるんだよ 」 
 「 レコード買うと 元気がでるよ。
   落ちこんだときには いつも新しいレコード 買うんだ・・・ 」


サラ・マリアノヴィチが弾く、
ロドリーゴピアノ作品全集(Sony Classical )
- 「複調 」の妙に耳を傾ける。


 こんばんは、“スケルツォ倶楽部発起人です。
 さて久しぶりに 拙いディスク・レヴューでも書こうなどと思い立った理由(わけ )は、最近知遇を得た若いギタリストの佐藤さんに勧められ、 ロドリーゴが遺したピアノ曲をすべて集めたCDを お借りして聴いてみたところ、その内容の素晴らしさに 色めき立ってしまったからに他なりません。佐藤さん、ありがとう (^_^)v

 ホアキン・ロドリーゴ(1901~1999 )と言えば、泣く子も黙る名曲「アランフェス協奏曲 」ばかりが突出して有名なスペインの作曲家ですが、恥ずかしながら、私 発起人ロドリーゴについての知識はそんな程度、以前 パコ・デ・ルシア が 個性的なソロを務めたレコーディングについては 力いっぱい語りましたが( 過去記事はこちら )、実は 肝心の作曲者に関しての知識は殆どなく、挙句の果てに 「え? この人 ギター弾かないの 」 などと口走って 佐藤さんに失笑されてしまう始末。
パコ・デ・ルシア アランフェス協奏曲(PHCA-4250 ) ロドリーゴ
 その作風は、明快なリズムを土台とした スペインの国民音楽と、師デュカスより注がれたフランス印象派の響きが絶妙に溶け合ったオリジナルなもので、三歳にして光を失っていたにもかかわらず 太陽のように豊かな色彩感が映える、美しい旋律を持ち味としていました。

 でも一般には「ロドリーゴのピアノ曲が - 」などといっても 殆ど知られていないのは事実で、そのピアノ作品のレコーディングなども 過去 自作自演(EMI )盤やマリア・ガルソン(ASV )盤くらいしかありませんでしたから、この マリアノヴィチによる 2枚組ピアノ作品全集のリリースは、画期的なことでした。最初期の作品「ピアノ組曲」(1923年作曲 )から晩年の幽玄な「郷愁のプレリュード」(1987年作曲 )まで その殆どが 概ね 5分以内に収まってしまう小品ばかり 49曲も収録されてます。

ロドリーゴ ピアノ作品全集_サラ・マリアノヴィチ(SONY CLASSICAL) ロドリーゴ_ピアノ作品全集 SICC-89~90 (2)
ホアキン・ロドリーゴ Joaquín Rodrigo Vidre
ピアノ作品全集
サラ・マリアノヴィチ(ピアノ )Sara Marianovich
収録曲

Disc 1
ピアノ組曲(前奏曲、シチリアーナ、ブーレ、メヌエット、リゴードン )、歌と踊り、早起き鶏への前奏曲、パストラル(牧歌 )、遙かなるサラバンド、バガテル、二つの子守歌(春の子守歌、秋の子守歌 )、とある若い娘の名によるバレエ用アリア、スペインのセレナード、別れのソナタ(ポール・デュカスの墓のための讃歌 )、四つのピアノ曲(カレセーラス(チュエカの讃 )、食堂のファンダンゴ、カスティーリャ王女の祈り、バレンシアの踊り )、16世紀の五つの歌(「騎士の歌」によるディフェレンシアス、三つのパヴァーヌ、ルドヴィコのハープを模したファンタジア )
Disc 2
三つのスペイン舞曲(ルスティカ、3人の乙女の踊り、セラーナ )、朱色の塔のかげに、セシリアのアルバム~小さな手のための6つの作品( ロス・レイェスのマリア、ラス・パロマスのホタ、金髪の妖精の歌、褐色の妖精の歌、黒人の子ども、ベツレヘムのロバ )、物売りの声によるトッカータ付き カスティーリャのソナタ第1番嬰へ短調、同ソナタ第2番嬰へ短調、同ソナタ第3番ニ長調、同ソナタ第4番ロ短調(ティエント風のソナタ )、同ソナタ第5番イ長調、アンダルシアの4つの版画(シラス売り、グアダルキビル川の黄昏、悪魔のセギディーリャ、カディスのパン切れ )、アマポーラの踊り、3つの回想曲(公園の午後、グアダルキビル川の夜、トリアーナの朝 )、郷愁のプレリュード
録 音:2001年 2月 ホアキン・ロドリーゴ・オーディトリアム、マドリード
音 盤:SONY CLASSICAL(SICC-29~30 )


ロドリーゴ_ピアノ作品全集_スペイン Madrid 盤 ロドリーゴ_ピアノ作品全集_スペイン Madrid 盤 (2)
スペイン・ソニー Madrid盤は 装丁が異なりますが、中身は同じようです。

 ロドリーゴのピアノ曲 - その響きを聴くうち ファリャ、アルベニス、モンポウ などといったスペインの作曲家たちの名前を次々と連想しましたが、彼らより とりわけ セヴラック(1872~1921 )の作風に似ている - と、私は強く感じました。セヴラックも やはりスペインとの国境に近い南フランス、ラングドック地方出身の作曲家です。そのピアノ曲は アルド・チッコリーニ(EMI)盤や舘野泉(FINLANDIA)盤が秀演です。

 で・・・もとい。
 実は、最初に小さな驚きを覚えたのが アルバムの一枚目に収録されていた「ピアノ組曲 」でした、1923年の作品です。
 その冒頭「前奏曲Preludio に聴かれる、精妙でどこか懐かしい音色、これは一体何でしょう ? 腕を組んで唸った末、私が個人的に連想したものとは、我ながら意外なことに「おもちゃの音 」でした。
おきあがり ぽろんちゃん
▲ それは、生後間もない赤ちゃんが最初に与えられる「おきあがりポロンちゃん 」、その名前どおりの 起き上がり小法師(ミツワ社 )がありましたが、人形を傾けるたび 中に仕組まれた細工がカランコロンという可愛い音を立てたものです。その響きにも似た なんとも無垢でイノセントなサウンド・・・。
 ええと、もとい。この音は 明らかにロドリーゴが多用する「複調 」効果の結果であるようです。手元に楽譜がないので正確ではありませんが、左手が弾く旋律と同時に 意図的に半音ずらした高音の旋律を右手が弾くことによって、この独特な効果を演出しています。
 「複調 」とは、演奏中の楽曲の一部あるいは全部で 異なる調性の楽曲が同時に演奏されることをいいます。リヒャルト・シュトラウスの楽劇「サロメ 」の中で、領主ヘロデに捕えられた洗礼者ヨハネが 地下牢の中からキリストの到来を告げる場面がありますが、舞台上で ヨハネに賛同するナザレ人が柔和に語りだす 美しい福音の旋律を まるで打ち消すように パリサイ派の律法学者のひとりが全然異なる調性で「まだ救い主は 来ておられぬ ! “Der Messias ist nicht gekommen ! ” 」と絶叫するパートがありました。はい、あの部分が「複調 」です。
過去記事 ⇒ 「まだメシア(救い主 )は 来ておられぬ ! 」“Der Messias ist nicht gekommen ! ”
リヒャルト・シュトラウス ラヴェル Maurice Ravel _
▲ リヒャルト・シュトラウスラヴェル(右 ) 
 もちろんラヴェルの名曲「ボレロ 」も忘れるわけにはいきません。リズムを刻む小太鼓と一緒に 何度も繰り返される「あのメロディ 」を吹くホルン奏者に重ねて、 「複調 」でチェレスタが、さらに異なる調でピッコロまで加わる「多調効果によって、あたかもパイプオルガンの倍音の如き精妙なる響きを再現した 天才的オーケストレーションの技ったら もう前人未到でしたよね。

 ウィキペディアにも 「(楽曲を演奏中に )半音などで同時に同じ旋律を奏することによって鋭さと共に 『暈(ぼか)し 』 の手法を入れることができる利点がある 」 との一文をみつけましたが、「ピアノ組曲 」の「前奏曲 」に聴ける ロドリーゴの工夫こそ、まさしく この「暈し 」でしょうね。
 この 2枚組ピアノ・アルバムに収められている「物売りの声によるトッカータ付き カスティーリャのソナタ 」(1950~51年作曲 )の中にも 「複調 」は頻繁に聴かれるのですが、この効果という点では おそらく最もよく知られた、リカルド・ビニェスに捧げられたという「早起き鶏への前奏曲 」(1926年作曲 )も聴くことができます。こちらは ピアノの右手がト長調、左手が嬰ヘ長調で書かれており、その不協和音が雄鶏の鋭い鳴き声を、激しいトリルが鶏の羽ばたきを 巧みに描写します。
 
 さらに各曲について、詳しく触れる暇(いとま )が 時間的にも体力的にも なくなってしまいました(虚弱 ! )、許してください、そろそろ疲れちゃったので、特に印象に残った楽曲についてのみ 駆け足で 一言ずつ感想を述べてまいりましょう。

 素朴な詩情で綴る「パストラル」(1926年作曲 )など もうセヴラックの作風そのもの。
 「アンダルシアの四つの版画 」から、特筆すべき「悪魔のセギディーリャ 」は 光の当たらない憂鬱なリズムで始まりますが、やがて徐々に活気を帯びて まるで ファリャのように明るい日差しを浴びるところが実に素敵です。
 楽しい「バガテル 」(1926年作曲 ) やシャブリエ風にも聴こえる スペイン舞曲「セラーナ 」(1941年作曲 )の愉悦感は例えようもなく、中でも興味深かったのは「スペインのセレナード」(1931年作曲 ) で、ギターの爪弾きを模した同音連打の動きが ラヴェルのピアノ曲「道化師の朝の歌 」を連想させたこと。
 グラナドスの影響が明瞭に聴きとれる「朱色の塔のかげに 」(1945年作曲 )は、スペインの多彩な風景を垣間みせてくれる、個人的には 全集中でも筆頭の名曲と感じました。

SARA MARIANOVICH
サラ・マリアノヴィチ(ピアノ )Sara Marianovich
 東欧の旧ユーゴ出身、ベオグラード大学音楽学部で学んだ後 スペインへ留学、マドリード王立音楽院スペイン音楽専門コースで研鑽を積んでいます。12歳でオーケストラと共演するなど いわゆる早熟の天才少女。渡西後はロドリーゴの知遇を得て そのピアノ作品の紹介に努め、2001年以降ホアキン・ロドリーゴ国際コンクールの芸術監督も務めているそうです。
 私はまだ このレコーディング以外には 彼女の演奏に触れた機会はありませんが、本ディスクにおける演奏を聴く限り、曖昧さのない解釈とバランスにすぐれた明晰な若々しいタッチが好ましい特徴です。小品が並ぶプログラムではあっても その一曲一曲が堅牢で揺るぎない構成、耳に心地よいスペインのリズムも十分生かされています。 
 この録音(2001年 )以降 レコーディングの情報は途絶えているようですが、ひょっとして(?) その立場上 ロドリーゴしか弾かないつもりなのかなー それは いささかもったいない・・・ アルベニスグラナドスといった スペインの作曲家はもちろん、相性の良さそうなシャブリエフォーレドビュッシーラヴェル、さらに適性の高そうなセヴラックのピアノ作品にも 機会があれば 次回は挑戦して頂きたいものです。

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