本記事は、4月21日 「注目記事ジャズ ランキング 」で 第1位となりました。
皆さまのおかげです、これからも 何卒よろしくお願い申し上げます。
   

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椎名林檎、「ザ・レディ・イズ・ア・トランプ 」を唄う。
~ 「その淑女(をんな )ふしだらにつき 」(東京事変 )2004年

シナトラ「ザ・レディ・イズ・ア・トランプ」(キャピトル ) 東京事変「その淑女(をんな )ふしだらにつき 」PV

 お久しぶりです、カフェ・ソッピーナ 二代目店主(呼称“マスター” )です。
 先週は “スケルツォ倶楽部発起人の奥さまがご来店になり、御大スティーヴ・ガッドの フォービートで猛烈にスウィングする パキートの「ザ・レディ・アンド・ザ・トランプThe Lady And The Tramp を 聴きながら大満足でお帰りになりました。あのレコードは、ソッピーナのL.P.棚から出した貴重な蔵盤だったのですよ。
 さて、今日は 発起人ご夫妻に代わって 急きょ ボクが記事を書くこととなりました。どうぞよろしくお願いします。

 ボクから提供させて頂く今日の話題は、「ザ・レディ・アンド・ザ・トランプ 」と似たタイトルから連想される、有名なジャズ・スタンダードの一曲 ザ・レディ・イズ・ア・トランプです。
 The Lady Is A Tramp  - 1937年にローレンツ・ハート(作詞 )リチャード・ロジャーズ(作曲 )のコンビによって ブロードウェイのショー「青春一座(って、笑 ) 」原題 Babes in Arms のために書かれた楽曲です。

 その後、ポップ / ジャズ系ヴォーカルを中心に 多くのミュージシャンにカヴァーされてきました(リナ・ホーン、エラ・フィッツジェラルド、フランク・シナトラ、メル・トーメ、ペギー・リー、トニー・ベネット etc. )、ジャズのインストゥルメンタル楽曲としても インプロヴィゼーションの素材として頻繁にとりあげられ( オスカー・ピーターソン、ジェリー・マリガン、チェット・ベイカー etc. )・・・ すっかりスタンダードナンバーとなっています。

The Lady Is A Tramp_Sheet
▲ 1957年に ミュージカル映画「夜の豹 Pal Joey で、キム・ノヴァク Kim Novakリタ・ヘイワース Rita Hayworth らとともに主演して以来、フランク・シナトラ Frank Sinatra の十八番に。

 いわゆる ジャズ系のスタンダード・ナンバー、たとえば 「国境の南South Of The Border ) 」とか「君にこそ心ときめく(I Get A Kick Out Of You ) 」、「コートにすみれを(Violets For Your Furs ) 」などといった、わが国では 親しまれた外国語歌曲には日本語タイトルが付くことが多いのに、この曲は原題の発音そのまま「ザ・レディ・イズ・ア・トランプ 」との表記が 未だ一般的ですよね。これは やはり、対訳のニュアンスが難しいため 邦訳が定着しなかったからでしょう。
 さて、本日は この古い歌を、わが国の ある才能あふれる女声アーティストが、「いかにも彼女らしい 」変わったアレンジで 現代に生まれ変わらせた、ひとつの興味深い歌唱を ご紹介しましょう。
 それが、東京事変の「その淑女(をんな )ふしだらにつき 」 - 本日は、ボク、カフェ・ソッピーナの二代目店主が、椎名林檎さんの歌った歌詞をすべて和訳しながら エラそうに(笑 )コメントを加えます。

 
「その淑女(をんな )ふしだらにつき 」
東京事変「その淑女(をんな )ふしだらにつき 」 東京事変_深夜枠(東芝EMI )
東京事変
  椎名 林檎 しいなりんご(ヴォーカル )
  亀田 誠治 かめだせいじ(ベース )
  刄田 綴色 はたとしき(ドラムス )
  晝海 幹音 ひらまみきお(ギター )
この後 脱退
  H是都M えいちぜっとえむ(キーボード )この後 脱退
音 盤:(左 )東芝EMI(TOCT-04884 )「群青日和 」、「顔 」併録
    :(右 )東芝EMI(TOCT-29000 ) アルバム「深夜枠 」収録
リリース:2004年


ザ・レディ・イズ・ア・トランプ 」The Lady Is A Tramp
ローレンツ・ハート Lorenz Hart 作詞
リチャード・ロジャーズ Richanrd Rodgers 作曲

Richard Rodgers Lorenz Hart
(ヴァース )
 ワインと ごった煮鍋 (mulligan stew ) で 空腹を満たしてきたから、
 今さら贅沢な七面鳥料理なんかイラナイのさ
 あの手この手でヒッチハイクなどしながら、
 メイン州からアルバカーキまで移動してくる間に
 ボザール・ボールに行き損ねちまった、
 おかげで悲しさも二倍さ
 でも主賓にノエル・カワードとやらを招くような
 そんなお高い人たちのパーティは 勘弁して頂戴。
 おつき合いで 流行についてくなんざ急(せ )わしないよ
 わたしには、貧しくても
 お気楽な日雇い暮らしが性に合ってるのさ

(コーラス )
 お腹が空いて 8時のディナーまで 待ちきれないよ
 シアターは好きだから 遅刻したりするもんか
 嫌いな奴らがいたって 気にならない
 それこそ わたしのこと、この淑女(をんな )ふしだらにつき(笑 )

 上流階級の高いご身分の方々と遊ぶなんて イヤなこった
 毛皮のコートに真珠のネックレスつけてハーレムなんか イヤなこった
 女同士でクダらない噂話でもしてろっていうの ? イヤなこった
 それこそ わたしのこと、この淑女(をんな )ふしだらにつき(笑 )

 わたしは自由が好きなの、爽やかな風に髪をなびかせて
 誰に彼にと気をつかう生活なんかまっぴらゴメン
 お金なんかなくたって 気にしない
 カリフォルニアなんか大キライ、
 だって あそこ寒いんだもん、辛気(しんき )クサイんだもん
 それこそ わたしのこと、この淑女(をんな )ふしだらにつき(笑 )

                                  (意訳 : 山田 誠 )

シナトラ「ザ・レディ・イズ・ア・トランプ」(キャピトル ) シナトラ_メインイヴェント(Reprise)
▲ シナトラ盤(左:1957年 キャピトル盤、右:1974年 リプライズ・ライヴ盤 )
 ボクが 最初に「ザ・レディ・イズ・ア・トランプ 」という曲を認識したのは、やはりフランク・シナトラの歌唱でした。今 振り返ると意外なことに、この当時シナトラは 歌手業を (一時的に ) 引退していました。が、1973年に復活を宣言、ラスヴェガスのホテルなどを中心に 大規模なショーを定期的にこなすようになり 大きな成功を収めることとなります。その皮切りとなる 記念すべき初公演が、1974年10月マディソン・スクエア・ガーデンにおける「メイン・イヴェント 」でした。
 この「復活コンサートは 全米にTV放送され 冒頭ウディ・ハーマン・オーケストラによるオーヴァーチュアの演奏に続いて、堂々と登場したシナトラが 冒頭一曲目に唄うのが、この「ザ・レディ・イズ・ア・トランプ 」だったのです、うーん 鮮烈でしたね。
 シナトラは この歌を唄う時は 常に「ヴァースVerseを省略します。「ヴァース 」とは、この時代の多くの歌曲で コーラスが始まる前に置かれていた「語り 」ともいうべき部分で、音楽的なご先祖である 歌劇(オペラ )であれば 主要人物の聴かせどころ「アリア(詠唱 ) 」の前に置かれる 語り「レチタティーヴォ(朗唱 ) 」が、いわばその前駆体であったとも言えると思います。
 「ヴァース 」については、いずれ別の機会をみつけて語ろうと思ってますが。
⇒ 不十分ですが、その後 語りました : 「 スタンダードにおける ヴァースの源流を辿ると ~ 」

 とにかく、シナトラは いきなりコーラス部分「お腹ぺこぺこ、8時のディナーまで~ 」から 歌い出すわけですが、その鷹揚な歌唱と迫力ある咆え方、実に格好イイです。尤も「ザ・レディ~ 」に限らず、この時代につくられた歌のヴァースを歌手が飛ばして歌い始めることは 決してめずらしいことではなく、別に非難するには当たりません。
 その「ザ・レディ~ 」の「ヴァース 」を 初めてボクが聴いたのは、やはり エラ・フィッツジェラルドのレコードにおいて でした。
エラ・フィッツジェラルド:エラ・イン・ベルリン
▲ エラ・イン・ベルリン
エラ・フィッツジェラルド(ヴォーカル )
ポール・スミス(ピアノ )
ジム・ホール(ギター )
ウィルフレッド・ミドルブルックス(ベース )
ガス・ジョンソン(ドラム )
録 音:1960年 2月13日、西ベルリン、ドイッチュラントハレ Deutschlandhalle
音 盤:VERVE 314 519 564-2

 「アット・ジ・オペラハウス 」と並び立つ、エラの名盤として名高い「ライヴ・イン・ベルリン 」です。 これに先立つ1957年、彼女は ヴァーヴ・レーベルに「ロジャース&ハート、ソングブック 」をスタジオ録音しており、そのアルバムは 当時すでにロングセラーとなっていました。
 1万2千人とも伝わるベルリンの熱気溢れる聴衆を前にした 最盛期のエラの絶唱が聴けます。突出して有名な歌唱「マック・ザ・ナイフ 」と「ハウ・ハイ・ザ・ムーン 」の前に 隠れがちな一曲ですが、個人的には ヴァースから入る「ザ・レディ~ 」のオリジナルな姿に衝撃を受け、激しく興奮を覚えたものです。
 
 ところで、この「ヴァース の歌詞に登場する 「マリガン・シチューmulligan stew (ごった煮鍋 )なる謎の料理の正体は、1900年初頭 家も職もない浮浪者(同時代のチャップリン映画のイメージでしょうか )が集まって、互いに入手した食材を一つの鍋に放り込み 煮こんでは皆で一緒に食べる、文字どおり 「貧民 」の「ディナー 」を 象徴する、質素な食事のことだったそうです。
 そんな 「シチュー 」と同じ綴りを名乗るモダン・ジャズのミュージシャン、ジェリー・マリガン Gerry Mulligan  - 果たして当の本人は 知ってか知らずか - 自分の姓名と同じ名の料理が登場する 「ヴァース 」は省略して、このナンバーを 自身のコンサート・レパートリーとしていました。
Gerry Mulligan Gerry Mulligan Quartet ‎– Paris Concert Pacific Jazz ‎– PJ-1210 Gerry Mulligan Quartet
▲ ジェリー・マリガン・カルテット Gerry Mulligan Quartet
「パリ・コンサート 」Paris Concert
音 盤:Pacific Jazz Records(PJ-1210 )Vogue Productions
録 音:1954年6月1日 パリ、サル・プレイエル Salle Pleyel
ジェリーマリガン(バリトン・サックス )Gerry Mulligan
ボブ・ブルックマイヤー(ヴァルヴ・トロンボーン )Bob Brookmeyer
レッド・ミッチェル(ベース )Red Mitchell
フランク・イソラ(ドラムス )Frank Isola
収録曲
 Side A
 1 Come Out Wherever You Are 3:54
 2 Five Brothers 4:40
 3 Laura 4:10
 4 Love Me Or Leave Me 5:10
 5 Utter Chaos 0:43
 Side B
 1 Bernie's Tune 4:23
 2 Walkin' Shoes 5:05
 3 Moonlight In Vermont 3:11
 4 The Lady Is A Tramp 3:36
 5 Utter Chaos 0:49

 ・・・この実況録音、ホント素晴らしいんですよ。早いとこ CDに復刻してほしいものです。
 ピアノレス、クールでモダンを 絵に描いたような、この時期のジェリー・マリガン・カルテットの爽やかなサウンドに引き込まれます。熱狂的な聴衆の賞賛や各楽器が鳴らす間接音を、リアルにとらえた臨場感も溢れる、何とも素晴らしいレコーディングなんです。
 「ザ・レディ~ 」は、ドラムスのイソラによる スネアをブラッシュで快適に刻むリズムに乗せながら、あたかも紙縒(こよ )りを巻くように バリトン・サックストロンボーンが 小節線をまたいでは 自由自在に主旋律と対旋律を クロスさせたり 解(ほど )き合ったり 親しく会話を重ねてゆく好演です。やがて皆さんは無意識のうちに ご自分の膝や踵(かかと )が マリガンの演奏と一緒になって 勝手に拍子をとっていることに気づくでしょう。

椎名林檎
 ・・・ さて もとい、椎名林檎さんです。
 遅ればせながら、いずれ彼女の音楽については 詳しく語らねばならないと思っておりますが、今回は 2004年、東京事変のメンバーとして最初にリリースされたシングル「群青日和 」のC/W曲だった 「ザ・レディ・イズ・ア・トランプ 」すなわち「その淑女(をんな )ふしだらにつき 」 (名訳 ! ) についてのみ 触れるにとどめます。
 この歌唱で ボクが驚いたことは、エラ・フィッツジェラルド以来 あまり顧みられなかったオリジナルの「ヴァース 」から 丁寧に 林檎さんが唄っていたことでした。そのネイティヴに近い、慣れた英語の発音にも傾聴させられましたが、最初に聴いた時 「その淑女ふしだらにつき 」などという、初めて目にする「日本語タイトル 」ゆえに スタンダード・ナンバーThe Lady Is A Tramp であるとは まったく意識していませんでした。 林檎さんらしい 五十年代風のスタイルを装った オリジナルの曲が始まったのだろう、ウィッティーなピアノ伴奏による「ヴァース 」が終われば、かつて 斎藤ネコさんらと演(や )った「この世の限り 」みたいな ノスタルジックなコーラスがはじまるのであろうと、勝手に思いこみ、殊更身構えることもせず 油断していたものです。
 そんなボクの生温(ぬる )い耳に 思いきり冷や水をかけるように 突然はじまったコーラスは、バシャバシャと叩き込まれる 16ビートの激しいリズム、やがて絶叫する林檎さんが歌うパンクなメロディが 何か有名な曲のメロディラインに似ているような気はしたものの、まさかロック系のミュージシャンが リチャード・ロジャーズのスタンダード・ソングを採りあげるようなことはあるまい、などという料簡の狭い先入観を 自分がもっていたせいで、ようやくワン・コーラス終わった頃になって、どうやらこれがシナトラエラの歌唱で愛聴していた「ザ・レディ・イズ・ア・トランプ 」のカヴァーであるらしいということに気づくと、同時に その斬新さに唖然としてしまいました。歌詞もメロディ・ラインも たしかに あの「ザ・レディ~ 」と同じ、いえ それどころか原曲に忠実でさえあることを、徐々に脳が認識していきました。亀田師匠のエレクトリック・ベースも オリジナルのコード進行に沿って それはきちんと動いています。ただエレクトリック・ギターの凶暴な刻み方と 刄田さんのドラムスが自由奔放に弾(はじ )けまくっていること、そして何より意図的に dirty で汚い歌い方をする林檎さんが、たとえばRの音を激しく巻き舌で発声してみせたり、まるでシュガーキューブスの頃のビョークのように喉を鳴らして声を振り絞っていることなどが、この曲を「ザ・レディ~ 」とは異なる 彼らのオリジナル曲ではないかなどと、一瞬ではあっても 錯覚させられてしまった原因でした。
 ここでいう A Tramp The Lady とは、まさに林檎さん自身のことではなかろうか、などと考えるものです。「口先だけの社交に振り回される 」関係を周囲と結ぶことを拒否し、当時の日本の歌謡界に存在していたに違いない 既成概念や因習、虚構のルールを脱して 自分自身の才能を信じて生きた結果、大きな成功をつかんだ「型に嵌(はま )らない 」いろんな意味で Tramp な女性の姿です。
 ところで、これ以後 林檎さんが再び50年代のスタンダード楽曲をカヴァーするようなことはないようです(少なくとも ボクが知る限り )。このような斬新なアレンジのアイディアって、斬新であればあるほど きっと一度だけしか使えない荒技でしょう。だって、もしこれと同じ手法で - たとえば I Get A Kick Out Of You とか Mack The Knife なんかを料理したとしたら、その瞬間、誰にでもそのギミックが透けて見えてしまうでしょう。もちろん そんなことは 賢明な林檎さんのこと、クリシェを犯す危険は 慎重に避けるに決まってるでしょ(笑 )。 じゃ、また。
椎名林檎。 椎名林檎 幸福論 椎名林檎 (3) 椎名林檎 (2) 椎名林檎


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