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「気分がふさいでいるときは、いつも 新しいレコードを何枚か買うことにしてるんだよ 」
▲ 「 レコード買うと 元気がでるよ。
    落ちこんだときには いつも新しいレコード 買うんだ・・・ 」


ジュゼッペ・タルティーニ 「悪魔のトリル 」物語
 - アンドルー・マンゼ盤(無伴奏 )の狙い

インスピレーション_0003 タルティーニに夢の中で語りかける悪魔

 ・・・ では最初に、間もなく この世に別れを告げることとなる 老作曲家ジュゼッペ・タルティーニ の回想に 耳をお傾けください。

「なに ? おまえさんも “あのこと” について 聞きたいと申すか。ふむ、まあ今なら話しても よかろう。それは 忘れもせぬ 1745年のある冬の真夜中のことじゃった・・・

「当時アッシジに滞在していたわしが自室のベッドで目覚めると、なんとその足元には わしヴァイオリンを抱えて立っている悪魔がいたんじゃ。

わしは そいつと ひとつの契約を交わした - わが魂と引き換えに、わが名を偉大にし その名声を後世に残さしめるような、黄泉の世界の音楽を われに与えよと - 悪魔は答えた、『よしわかった、けれど 我らの世界の音楽を人間に聴かせることは 許されておらぬゆえ 一度だけしか弾かぬ。しっかりと記憶するのだぞ、ジュゼッペ 』 わしは夢中で頷いた気がする、これを確かめるやいなや悪魔のやつは わしヴァイオリンを 顎に当てたかと思うと 猛然と弾き始めた。

ギル・シャハム「悪魔のトリル」D.G.
▲ ギル・シャハム(D.G.)盤 (クライスラー編曲版による )

「・・・ ああ、それは たしかに現世の音楽ではなかった、その美しさ、その素晴らしさを何にたとえよう、特に後半以降の技巧的なパートにおける 文字どおり悪魔的なトリルの煌めきには エクスタシーさえ感じたものじゃった・・・。 

「翌朝、わし悪魔の演奏を聴いたとおり再現しようと わがテクニックの限りを尽くし必死になって自分のヴァイオリンを掻き鳴らしてみたが、駄目じゃった。まったく足元にも及ばぬ。あの夜の音楽は 現世の技巧などでは決して演奏不可能なのじゃ。辛うじてト短調のソナタとして ヴァイオリンのソロ・パートだけを 覚え書きのように 楽譜にこそしたためたものの、それは あの夜の悪魔素晴らしいプレイの 百分の一さえも再現し得ておらぬわ。

「え、なぜ そのソナタを公開しないのかじゃと ? うーん、おそらく近い将来 人生の幕を閉じようという 今際(いまわ )のきわになって、わしは恐ろしい不安に駆られているんじゃ。結局 拙い人間の腕では 黄泉の世界の音楽を再現することさえ出来なかったにもかかわらず、少なくとも わしは あの夜 悪魔の演奏を聴いてしまったのだから。悪魔との契約が順守されるとしたら、確実に訪れる自分の死後、わしの魂は 永遠に悪魔のものになってしまうではないか。

「 - けれど 考えてみてくれ、もしも 『 わが名声が後世に残 』 ることさえなければ悪魔との契約は 成立し得ない筈ではないかな ?  ・・・じゃから、わしは 悪魔のトリルの片鱗を 自分で楽譜には書きとめたものの、決して これを発表する気はないのじゃよ。 楽譜は、わしの生前は 居間の壁に掛けておくが、わし自身が いよいよ死を迎えると悟れば 壁から外して 必ず焼き捨てるようにと、弟子には遺言しようと思っておる。どうじゃ、名案とは思わぬか。 これで安心というもの、ふははは・・・ 」



 -  しかし その後、この「悪魔のトリル 」の自筆譜は 作曲家の部屋から紛失し、行方不明になった - と伝えられます。
 忠実に師の遺言を守った弟子が その指示通り 焼却を実行したのでしょうか、あるいは それ以前に タルティーニ自身が 死を迎える前に 自ら燃やしてしまっていたのでしょうか、それとも・・・ ?
  
 曲にまつわる この不思議な逸話とともに、特定不明な第三者が ( 一体 何処で入手したのか )紛失していた筈のタルティーニの オリジナルな「覚え書き 」譜から忠実に筆写した - として、この ヴァイオリン・ソナタ「悪魔のトリル 」は、 1798年 - タルティーニの遺志に関わらず、その死から20年近くも経て - 楽譜商社(カルティエ社 )から 出版されてしまいます。
 
 これを契機に、後世の様々な音楽家が 「タルティーニの遺した 」ソロ・ヴァイオリン伴奏パート( やはり クライスラー版が 最も有名でしょう )を付加したり、さらには 伴奏チェロ・パートを加えてみたりと、これらが 皆さま もうご存知のとおり、今日 コンサートホールなどで 一般的に演奏されている形です。
イツァーク・パールマン プレイズ・フリッツ・クライスラー(EMI Warner ) インスピレーション_0004 
▲ (左 )クライスラー編曲版:パールマン(EMI/Warner Classic )盤
   (右 )通奏低音付:インゴルフ・トウルバン(Claves )盤


 その結果、この曲は 世間に広く流布、作曲者ジュゼッペ・タルティーニの名を「不滅 」のものにし、今日に至るのでした。
 そうです、「その名声を 後世に残 」すことになってしまった タルティーニの魂は、果たして その死後、悪魔の手から 逃れ得たのでしょうか・・・?

インスピレーション_0003 Andrew Manze
タルティーニが書き遺していながら 行方不明になってしまったとされる ソロ・ヴァイオリンパートフラグメント再現を試みた(ものと思われる ) アンドルー・マンゼ Andrew Manzeharmonia mundi 1997年 )盤。
 このレコーディングで、マンゼが 最後まで 無伴奏ソロによって 演奏し果(おおせ )ている理由とは、まさにそこにある筈です。もちろん オリジナル譜が現存していない以上 真正性の判断はできませんが、逆に それ故 たいへん興味深いところを狙った、マンゼの企画力の勝利と思います。 技巧の確かさが、彼自身のアイディアに説得力を加えていることは、言うまでもありません。
 近年のエンリコ・オノフリ盤も(こちらは 筆者未聴ですが )マンゼと同じ発想によるものでしょう。


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