スケルツォ倶楽部 Club Scherzo 
読み切り小説
「ノーウェジアン・ウッド Norwegian Wood 」
- 2016改訂版 -


2016 まえがき ( 不本意な改訂の理由 )
 この短い小説の主眼とは、ビートルズの謎めいた名曲「ノーウェジアン・ウッド 」 Norwegian Wood の歌詞が、創作の初期段階において いかなるインスピレーションのもとに生まれたか、関係者が残した証言をもとに 推理しつつ その原型を復元する試みでした。
 考察は、当然のことながら、現行の レノン / マッカートニー による 最終的な歌詞を尊重するところからスタートしたわけですが、それゆえに 「JASRAC様 」 より DMCA法による著作権侵害にあたるものとして訴えられたのだそう( ? )・・・ 名誉なことです(笑 )。
 間髪を入れず、 8月 1日16時16分、私 スケルツォ倶楽部 発起人 オリジナル文章 ( 2011年07月09日投稿 ) を掲載した記事 は、事前に何の通告もなく FC2によって「凍結 」されてしまいました。
 見解の相違があったとはいえ、 ブログを運営する以上 投稿側の順守すべきルールを軽視し、「多数のユーザーに迷惑をかける行為を行った 」 ことを 深くお詫び申し上げます。 私は 忙しいので 異議申し立てを起こす気もございません。
 その代わり、上記事情を 反省 / 考慮しつつ オリジナル文章 をリライトした 適切な改訂版を ここに投稿し直させていただきました。 ただひとつ、復元した英詩の掲載を断念することは とても残念ですが - 今後も スケルツォ倶楽部を ご支援いただけますよう 何卒よろしくお願い申し上げます。



Beatles_Rubber Soul ノーウェジアン・ウッド Norwegian Wood_スケルツォ倶楽部

 途方に暮れた若者の多くが そうするように、選ばれし青年ジョン・レノンもまた 無意識にタバコをくわえながらマッチを擦った。
 ジタン・フィルトル Gitanes Filtre - 彼は くわえタバコの先端に 小さく燃える軸木を 当てながら軽く吸い込むと、その薄い唇の先から ふーっと一筋の煙を吹き出しつつ、手にしたマッチ箱を見るともなくぼんやり眺めた。そこにはマッチの原材料や薬剤名が印刷されている - 発火剤、赤燐・硫化アンチモン、燃焼剤、第二燐酸アンモニウム、軸木、ポプラ材・・・

ノーウェジアン・ウッド Norwegian Wood_スケルツォ倶楽部 (2)
 そこへ 紅茶を入れたティーカップを片手に、ポール・マッカートニーが部屋に入ってきた。
「ふふん、何か困っているようだね、ジョン? 」
「ちょうど良い所に来た、ポール。実は 次のアルバムに使える新しい曲のアイデアがひとつあるんだけど、今 肝心なところで行き詰まってるんだ。また一緒に考えてくれよー 」
「今回のテーマは何だい? 」
「ゆきずりの情事 - (忍び笑い ) 」
「ええーっ? そんなのEMIのお偉方が顔をしかめて、アルバムに収録させてもらえないぞ、ジョン 」
「いや、でも未遂に終わるんだよ、男が振られる形でね 」
「タイトルは? 」
「 “ノウィング・シー・ウッド Knowing She Would ” (彼女がされたがってること お見とおし ) 」
「うっひゃあ、あぶないねえ・・・ 」

 レノンは アコースティック・ギターを引き寄せると、新曲「 ノウィング・シー・ウッド 」 を マッカートニーに歌って聴かせた。

ノルウェーの森

(第一節 )                            
   かつて 女の子をナンパした、
   ・・・て言うか、こっちがナンパされた というべきか
   だって その娘(こ )は 自分から部屋に僕を誘ったんだから
   いかすよね、彼女がされたがってること お見とおし
   (Isn't it good, knowing she would )

(第二節 )
   彼女は僕に 泊まっていくようにと頼み、
   そして どこにでも座ってよ と言うので
   僕は部屋をぐるっと見回した 
   そしたら気づいた、 ここには椅子がないってことに
   (And I noticed there wasn't a chair )

(第三節 )    
   だから僕は ラグマットに腰をおろし
   彼女とワインを飲みながら チャンスをうかがっていた、
   そして 午前 2時までしゃべっていたら、
   いよいよ彼女が言った “わたし ベッドに入るわ” って
   (And then she said, "It's time for bed" )


(第四節 )
   けれど 彼女は 明朝は仕事なんだと、
   そして くすくす笑い始めた
   僕のほうは暇なんだけど と食いさがってはみたけれど、
   結局 バスタブの中で眠ることになった
   (And crawled off to sleep in the bath )


(第五節 )   
   目が覚めたら、僕はひとりぼっちだった
   小鳥は飛び去った
   (This bird has flown )・・・


 そこで 歌は唐突に終わった。
「え、終わりかい ? 」
「いや、まだ あと 2行、残ってるんだが -  」
と、レノンは傍らにギターを置くと 困った顔になった、
「その最後に もうひとひねり、何か欲しいんだけど 思いつかないんだよ 」。
しかし明らかにマッカートニーは 面白がっていた。
「ワルツか・・・ 悪くないぞ、この曲。女の部屋には椅子がなかったって - もしや彼女は日本人か 」
「さあ、どうだろ ? 」
ふふんと、謎めかそうとするレノンに、相棒は 矢つぎばやに尋ねる。
「さては この歌詞は お前の実体験だな ジョン? 」
「まさか。フィクションに決まってるだろ、僕にはシンシアがいるからな 」
「しかし This bird has flown 小鳥は飛び去った - じゃ ビートルズらしい終わり方とは言えないな。ジョルジュ・ビゼーの “カルメン” っていうフランス・オペラでも 第一幕で兵士たちがミカエラっていう村の少女を口説こうとする場面があるんだけど、結局 逃げられちゃってさ、彼女の後ろ姿と青いスカートを見送りながら 彼らが歌う歌詞も “小鳥は飛び去った L'oiseau s'envole on s'en console.” っていうんだよね 」
「何だよポール、フランス語なんか披露して キザったらしいな。どうせ僕の発想は月並みだよ 」
「 “もうひとひねり欲しい” って 今 ジョンが自分で言ったんじゃないか 」
「フランス語 使いたければ、ポール お前、自分の曲で使えよ 」
マッカートニーは 笑いながら言い返した、
「それじゃ 硬いバスタブに寝かされて怒った男が 腹いせに誰もいなくなった女の部屋に放火して お仕舞い - っていう そんな落ちはどうだ、ジョン? 」
「また馬鹿なことを、そんなの全然おもしろくないや 」
途方に暮れたレノンは、新しいタバコを一本 口にくわえた。が、それに火をつけようと さきほどのマッチを手にしながら、
「いや、待てよ・・・ 」
と、ふと思いついた。
「・・・何も部屋まで燃さなくても、タバコを吸うためにマッチを擦ることくらいは あり得るんじゃないか? 」
手の中でマッチ箱をひっくり返し、ジョンは 再び原材料名がプリントされている面を眺めた - 軸木材、ポプラの木、メイド・イン・ノルウェー・・・
 この時代 1960年代、イギリスで使われているマッチの多くがノルウェーをはじめとする北欧からの輸入品だった。

 Made by Norweagian Wood Made by Norweagian Wood (Little Boy Blue)

 次の瞬間、レノンの脳裏に 稲妻のように閃(ひらめ )いた言葉があった。
 ノルウェー木材 - Norwegian Wood - ノーウェジアン・ウッドだ! Knowing She Would ノウィング・シー・ウッド と見事に韻を踏んでいる、この「落ち 」を 最終節ラストの行に はめ込んだらどうなるだろう?

(第五節 )   
   目が覚めたら、僕はひとりぼっちだった
   小鳥は飛び去った
   それで タバコでも吸おうと 火をつけたら
   いかさないね、マッチ箱には 「ノルウェー木材 」 だって
   (Isn't it good, Norwegian wood )


 第一節で 「 Knowing She Would 彼女がされたがってること お見とおし 」 のはずだった主人公の認識とは 実は 何の根拠もなかった ただのカン違いに過ぎず、そんな「妄想 」はあっけなく空振りに終わる。それは あたかも点火したら一瞬で一塵の灰となって消え失せてしまう 「Norwegian Wood ノルウェー木材 」でできたマッチ棒のごとく ― そんな妙意すべてを この歌詞ひとつで 表現させることさえ出来るじゃないか、とレノンは考えたのだ。

 こうして二人のビートルズは 興奮しながら、たった今 出来上がったばかりの新曲 「ノウィング・シー・ウッド Knowing She Would 」を繰り返し歌った( しかし その録音は 存在しない )。
 Paul McCartney  John Lennon(right )

 でも やがてマッカートニーは 表情を引き締めると言った。
「・・・しかし もったいないな、ジョン。これをボツにするというのは 」
レノンは、憮然とした顔つきになった。
「何を言ってんだよ、ポール。誰が ボツなんかに。いや、絶対にするものか 」
「だったら落ち着いて考えてみろよ、ジョン。 “ノウィング・シー・ウッド Knowing She Would” なんて、そんな危ないタイトルをEMIがレコードのジャケット裏に載せるとでも思ってるの? ジョージ・マーティンさんの顔もつぶす気かい? 問題がこじれたら ブライアン・エプスタインをまた困らせることになるよ? それに お前が機会さえあれば平気で不倫を犯すような夫だって 愛妻シンシアさんにも不貞を疑われるよ? 」
「一体どうしたらいいんだよ! 」
「うーん、では まずタイトルを変えるんだな 」
「何て? 」
「そうだな、軽く “小鳥は飛び去った This bird has flown” で 僕はいいと思うけど 」
「いやだ、それなら “ノーウェジアン・ウッド Norwegian Wood ” のほうがいい 」
「好きにしろよ・・・ それから - 」
「って、まだあるのかよ 」
「当たり前だろ。最も危険な第一節の “ Knowing She Would ” を残したままで・・・。僕の言う意味、わかるよな? とにかく コレを 何とかするんだ! 」
「それだけはダメだよ、ポール。だってまさにココが肝なんだぜ、対句になっている “ノウィング・シー・ウッド Knowing She Would ” と “ノーウェジアン・ウッド Norwegian Wood ” が せっかく韻を踏んでるっていうのに、これを取っちゃったら 落ちないだろうが 」
マッカートニーは腕を組むと、心から残念そうな顔をした。
「それじゃ、やっぱりこの曲、発表は見送るか? 」
ためらってはいたものの、さすがにレノン自身も解ってはいたのだ。
「オーライ、オーライ、この歌の運命は 僕が 自分で決めるよ 」
と、彼は あきらめるように宣言する。マッカートニーは顔を上げ、眼鏡の奥で語る そんな親友の目を 黙って見つめた。
「・・・お前が言うように、この歌から Knowing She Would というラインは 完全に削除してやる。その代わり 第一節の 同じ個所には “Norwegian Wood ” を そのまま使う。そうすると こうなる 」

(改訂された 現行の 第一節 )                            
   かつて 女の子をナンパした、
   ・・・て言うか、こっちがナンパされた というべきか
   だって その娘(こ )は 自分から部屋に僕を誘ったんだから
   いかすよね、「ノルウェー木材 」
   ( Isn't it good, Norwegian Wood )  


「・・・って、ジョン お前 それ、ヤケになってないか 」
と 今度はマッカートニーが 少し心配になって言った。
「え? 全然 」
「だって それじゃ 意味不明だろ。ノルウェー木材のCMソングじゃあるまいし 」
「いや これで良いんだ、ポール 」
と、レノンは もう一度 ギターを 静かに置き直した、
「ここは 永遠のエニグマ Enigma にしようと思っている。今、僕は Knowing She Would を完全に封印する覚悟を決めたところだ。葬った以上は 自分の墓まで持っていくつもりだよ。そして ひとつ 小さな決心もした。この歌は 今回のアルバムのためにレコーディングをし終えたら、僕は もう二度と歌わない。だから お前も この曲の意味と 最初の歌詞について 決して誰にも話さないって、約束してほしいんだ 」
「よし、誓おう。この歌の真相は 決して誰にも言わないよ 」
「ふふん、でもポール、もし 誰かにこの意味を訊かれたら どう答えるつもりだよ 」
と、レノンが その眼鏡の奥から疑いの目を向けているのに気づくと、
「そうだなー、“腹いせに放火”とでも 出まかせ言っておこうかな 」
二人は互いに目を合わせて爆笑した。よく知られるとおり、彼らは 最強の作詞作曲チームだった。
 
 ふと思いついて マッカートニーが言った、
「・・・でも たとえば この女の部屋の内装が “ノルウェー・ウッド調 ”だったなんて 解釈するような人が出てくるかも知れないよ。曲解されるのは 不本意だろう 」
「いいんじゃない? エニグマだもん。ピーター・アッシャーの ログハウスみたいでさ、それもまた おしゃれだ 」
「 “ノルウェー製の家具 ” だったなんて 考える人も 出てくるかも - 」
「いいんじゃない? エニグマだもん。そいつの自由だよ 」
「 “ノルウェーの森 ” なんて誤訳するような外国人が 出てくるかも -  」
「ハハ、それは あり得ないだろ、ポール 」
軽く笑うと レノンは、
「そうだ。この曲にはジョージに シタールっていう インドのギターを弾いてもらおうと考えてるんだ 」
そう言って ノルウェー製の輸入マッチを擦ると、3本目のくわえタバコに 彼は ゆっくりと火を点けた。

 - おわり  ( 文中の英詩和訳は 山田 誠 による )

Wooden Match

2011 オリジナル投稿時 あとがき
 - 今回の文章中、ジョン・レノンポール・マッカートニーによる架空の会話は、わたし “スケルツォ倶楽部 発起人が想像で描いた 勝手なフィクションであることを お断りしておきます。
 これは、 Music Magazine レコード・コレクターズ 2010年11月号 P.70 「謎につつまれた “ノルウェーの深い森 ” をさまよってみる 竹部吉晃 著 ) 」 から インスピレーションを頂いた結果です。

レコード・コレクターズ 2010年11月号
 竹部氏は オフィスオーガスタ社長 森川欣信氏からの間接的な情報として、ブートレッグ・ビートルズのニール・ハリスンによる 「マッチ説 」を紹介されていました。
 そして村上春樹氏も 小説「ノルウェイの森 」の中で、ストーリー上の重要な登場人物「レイコさん 」が ギターで一曲弾くたびに 主人公「ワタナベ君 ) 」が その数だけマッチ棒を並べてゆく - という 詩情豊かなエピソードをお書きになっておられるほどですから、この「マッチ説 」を村上氏も認識しておられたことは、ほぼ間違いないでしょう。

 Antholgy2
ビートルズ・アンソロジー2 」に収録された
ノーウェジアン・ウッド Norwegian Wood
( それまで未発表だったテイク1 ) を聴く

 さて、この演奏は とても魅力的です。 ステレオ左チャンネルから聴こえてくる リンゴ・スターが刻むフィンガー・シンバルのライディング、そしてオーヴァーダビングされたマラカスとタンバリンをミックスした複数のパーカッションの音が 実に気持ち良く、ここでのリズムは まるで快速なジャズ・ワルツのようです。
 しかし アルバム「ラバー・ソウル 」に収録されることになる 全くアレンジを異にする同曲の本テイクが ホ長調であるのに比し、未発表だったこのテイク1では ぐっと音程が低くなっているのは 奇妙なことです。それは ニ長調と変ニ長調の中間地点あたりの、かなり気持ちの悪いチューニングですから 尚更です。


オリジナル発表日時 : 2011年 7月 9日15時37分
 
村上春樹の 「ノルウェイの森 」を読み、
ジャズ・ミュージシャンによる 「ノーウェジアン・ウッド 」を聴く。
 は  ⇒ こちらから

And crawled off to sleep in the bath
・・・And crawled off to sleep in the bath


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