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前略 辻井伸行さんへの手紙

 今朝 9時、遅い朝食を とりながら 何気なく テレビ朝日「題名のない音楽会 」(出光興産 提供 )にチャンネルを合わせたら、ピアニスト 辻井伸行さんが ゲスト出演されており、そこで 大好きな ベートーヴェンピアノ協奏曲第5番 変ホ長調「皇帝 」を 演奏されてました( 2月14日放送回 )。

題名のない音楽会 
 
 クラシック音楽番組としては世界最長寿レヴェルとされる「題名のない音楽会 」を、私 “スケルツォ倶楽部発起人 は、まだ物心つく前の幼い頃 - 初代の黛 敏郎氏が司会されていた 昭和40年代 - から見ていた世代です。
黛敏郎「題名のない音楽会 」
▲ 番組の創始者にして 初代司会者 黛 敏郎

 おそらく この手の音楽番組を企画する上での難しさは、わかりやすさやウケを狙った一般向けに傾ければ コアな音楽愛好家が興味を失って離れてしまうこと、また逆に 専門性の高い凝った内容へと深めてしまうと 今度は視聴率が取れず スポンサーも離れて番組維持できないことにあるでしょう。過去 そういった左右両極に傾きながら 名番組「題名のない音楽会 」を、絶妙なバランスを保ちつつ 維持してこられた関係者の方々のご苦労、推察申し上げます。
 昨年(2015年 )10月以降には、前任の佐渡 裕 氏から司会を引き継いだ 若い 五嶋 龍 さんの これからの活躍に大いに期待しております。でもサン、もう少しクダけると さらによいと思いますよー、だってカッコ良すぎるんだもん。 どうか頑張って !

五嶋龍と辻井伸行(右 )
▲ 五嶋 龍辻井伸行(番組HPより ) 二人とも同い年(27歳 )の才能だそう(!)。

 障がいを乗り越えて活動を続けておられる演奏家の身体的な面を、ことさら興味本位で語るような趣味は 私には決してありません。たとえば ヘルムート・ヴァルヒャに やはり視覚障がいがあるからと言って、それだけを理由に 私が彼の「バッハ 」演奏の録音を聴くなどということは ありません。
ヘルムート・ヴァルヒャ (D.G.
▲ ヘルムート・ヴァルヒャ Helmut Walcha(1907 – 1991 ) 

 しかし 辻井伸行さんが楽曲を習得されるに際して 右手と左手のパートをそれぞれ別々に録音した「譜読みテープ 」を聴き、これを記憶するところから練習をスタートさせた、というエピソードを知ると、ヴァルヒャもまたバッハを演奏するに際して 楽譜の左右各声部を別々に読み取っては記憶し、組み合わせては一つの楽曲にまとめ上げたという逸話を思い出し、たいへん理に適ったやり方なのだと感じ入りました。
 なにしろ私は - 今さらで お恥ずかしいのですが - 本日 初めて辻井伸行さんの演奏をきちんと観て、その音楽の解釈や粒立ちも優れた硬質なタッチなどに深く感動したものです。

辻井伸行
前略 辻井伸行さん、
今朝、TVに映る あなたのベートーヴェンを聴きながら、かつて後天的に聴覚を奪われた大作曲家が、自分自身で演奏することを断念したピアノ協奏曲を、生まれつき闇に閉ざされた ひとりのピアニストが 今 オーケストラと 完璧に協演している、という驚愕の図式を悟った瞬間 - 私は目頭を熱くしてしまいました。

私には解りました。「皇帝第3楽章も大詰めのコーダ、まさに最後の一音 - 変ホ長調の和音 - を叩こうとされる その直前、TV画面に映ったあなたの両手は ピアノの鍵盤上に軽く指を一度乗せ、そこがベートーヴェンの意図した位置であることを慎重に確認されていましたね、それも神技のような瞬時の動きで。
この独特な動作の意味を知って、私は 今さらですが、深い驚きに胸を打たれました - それは、ご自身にとっては もはや当たり前のことでしょうが - あなたが 視覚に頼らぬ代わり、日常的に ピアノの鍵盤すべてを 指先で識別されている、という実感です。 さりげない あなたの所作は、きっと音楽を演奏中 ずっと前から 何度も繰り返されてきた運動であることに相違ないでしょう。
それは、暖かい春の日向(ひなた )に奏でていたモーツァルトの中に、遠くで喧(かまびす )しく蝉の声が響く暑い季節に「幻想ポロネーズ 」を弾きこなしていた時も、また窓外の紅葉が色づく樹々にも振り向くことなく 一心にラフマニノフを浚(さら )っていた晩秋にも、さらに隣室でお母さまが用意される温かい鍋料理の湯気を感じながら チャイコフスキーを仕上げていた冬の夕暮れにも・・・
毎々ピアノが鳴る直前の その一瞬に約束された動作は、音楽の化身たる あなたの脳に繋がっている 繊細な指たちに課された重要なセレモニーなのでしょう。その手間が、あなたの音楽をこれほど素晴らしい形にしていたという事実に、私は 今さらながら 気づいて、まるで何か発見したかのような気になって、こんなエラそうに・・・ スミマセン。

でも あなたの心から出でて ピアノを通し、さらに地上デジタル放送からTVモニターを通して どすんと私の心に届いた 感動に対する感謝の気持ちを 抑えることは できませんでした。

あなたは、すでに 今のご活躍だけでも十分物凄いレヴェルの偉業を達成しておられます。けれど あなたの演奏には、まだ更なる余力が蓄えられているように 私には聴こえました。私ごとき凡夫が申し上げる立場にはありませんが、しかし さらなる向上とご活躍を 心より お祈りしております。
草々


フランツ・リスト 辻井伸行 プレイズ・リスト
辻井伸行 - フランツ・リスト名曲集
収録曲 : ラ・カンパネッラ、エステ荘の噴水、ワーグナー「イゾルデ 」愛の死、ペトラルカのソネット 第104番(巡礼の年報第2年 )、グノー「ファウスト」ワルツ、愛の夢第3番、ハンガリー狂詩曲第6番 変ニ長調、ため息、「リゴレット 」パラフレーズ
録音 : 2010年5月、2014年5月 ベルリン
音盤 : avex(AVCL-25837 )

 たまたま 私 発起人 が所有していた 唯一の辻井伸行さんのアルバムです、良い意味でたいへん端正なリスト。「エステ荘の噴水 」の弾(はじ )ける水粒の透明さに注目 ! 
 辻井さんの演奏でなら、ぜひカプースチンを聴いてみたいですね、適性があるように思うのですが。

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