本記事は 5月 5日「 注目記事ランキング クラシック音楽鑑賞 」で 第1位 となりました。
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アンラヴェル “ラヴェル” ラヴェルメント
Unravel RAVEL Ravelment 
  もくじは ⇒ こちら
ravel[1] Unravel RAVEL Ravelment (5) Unravel RAVEL Ravelment (2) unravel RAVEL ravelment
 “unravel
─  【 vt. 他動詞 】 解明する、 (もつれた糸などを ) ほどく、
    (物語の筋を )解決させる; (話し言葉 )破綻させる.
 “Ravel
─  【 n. 固有名詞 】 モーリス・ラヴェル Maurice Ravel
    (1875-1937 )フランス印象派の作曲家.
   “ravelment
─  【 n. 名詞 】  紛糾、混乱、もつれ
                      三省堂「EXCEED 英和辞典 」より


室内楽編成、単一楽章の ハープ協奏曲 「序奏とアレグロ
Introduction et Allegro pour Harpe、Flûte、Clarinette et Quatuor à Cordes
竹松舞_ラヴェル_序奏とアレグロ Snoopy on Sail

短いまえがき 
 かつて甲子園で、石川県代表星陵高校の強打者だった松井秀喜に、対戦相手校の野球部監督はピッチャーに勝負させることなく、あろうことか五打席連続敬遠を指示。 主砲を封じられた星陵は敗退することになるのだが、しかし このエピソードによって、逆に  若き松井選手は 「伝説のバッター 」なる カリスマ的雰囲気までその周囲に帯びるようになり、ただでさえ並みでない実力に加え さらに強大な存在となってゆく。その後の松井の活躍は 言うまでもない。 ・・・って、脱線じみた前置きはここまで。

ラヴェル事件 」後の ラヴェル
 才気溢れるその革新性によってアカデミーの反感を買っていたモーリス・ラヴェルは、権威あるローマ大賞に何度も挑戦するものの、保守反動的な芸術院の委員たちによる密室選考審査の結果、続けて五回も落選させられてしまう。このため、逆にラヴェルの真の才能を知って これを擁護する世間の音楽関係者の意見が一斉に沸騰、転じて非難の的となったパリ音楽院内の保守反動勢力は 院長デュボアの辞職を筆頭に 根こそぎ壊滅してしまう。 この話題にパリ中の注目が 若きラヴェルに集中、その名声は飛躍的に高まっていた。その後のラヴェルの活躍は 言うまでもない。
▶ 詳しくは 前回の記事を  ⇒ ご参照のこと


エラール 社長社員の会話
社長   「わがエラール社の社運を賭けて開発した、このダブル・アクション方式のペダルつきハープの最新式は、半音操作をペダルによって容易に得られるスグレものである 」
社員   「当社のハープのほうが、ライバル社 プレイエルクロマティック・ハープより実用性が高いにもかかわらず、プレイエル社がシェアを伸ばしていますよ、社長 」
社長   「ムムッ、なぜだ ? 」
社員   「プレイエル社は、人気作曲家のドビュッシークロマティック・ハープを使った 『神聖な舞曲と世俗の舞曲 』を委嘱して 話題になっています 」
社長   「イメージ戦略で普及を狙うというわけか。わがエラール社のダブル・アクション・ハープを使えば演奏効果が高まる、そんな新しいコンサート・レパートリーとなり得る名曲を、わが社もドビュッシー先生に すぐ作ってもらうんだ 」
社員   「・・・って、そんな安易に同じ作曲家に頼んじゃうんですか、社長 ? 」
社長   「え、ワルイかなー ? 」
社員   「他の作曲家に頼んだほうがよくありませんか。同じハープのイメージが被(かぶ )ってしまうではありませんか 」
社長   「・・・ 他に対抗馬はいるか 」
社員   「今 パリ中で話題が持ちきり、若手の新進気鋭作曲家モーリス・ラヴェル氏はいかがでしょう 」
社長   「それだ、ラヴェル先生だ ! すぐ彼に依頼するんだ 」



 そのころ、「ラヴェル事件 」によって 世間の注目の的となったものの、今さらアカデミーの決定が覆(くつがえ )るわけでもなく、心身ともに疲れきった若い作曲家のことを 慰めようと、1905年6月初旬、支援者だった アルフレッドミシャ・エドゥアール夫妻 Alfred and Misia Edwards は、彼らのヨット、エーメ号Aimée で オランダ、ベルギー、ドイツの水路を巡る 夢の休暇旅行へとラヴェルを誘ったのだった。
Misia et Alfred Edwards sur le pont
▲ 船上の エドゥアール夫妻 (左 ミシャ夫人、右 アルフレッド

ラヴェル郵便配達人の会話
ラヴェル    「うれしいなあ。 どうしてみんな ボクにこんなに親切なんだろ。 ふふん、旅行には何を着ていこうかなあ 」
郵便配達人  「ラヴェルさん、おめでとうございます。エラール社から 作曲の依頼ですよ 」
ラヴェル    「え、謝礼が 前払いで こんなにたくさん。 うれしいなあ。どうしてみんな ボクにこんなに親切なんだろ。 ところで、締め切りの指定はあるのかな 」
郵便配達人  「仕事に期日はつきものでしょ。 ほら、ここに一ヶ月って 書いてありますよ、ラヴェルさん 」
ラヴェル    「うひゃ、一ヶ月 ! そりゃコンクール並みだねい。 よし、でも旅行までに 絶対間に合わせてやるぞー 」
 


自演を含むラヴェル作品集
Ravel Conducts Ravel ウラニア(URN.22.341 )
ラヴェル 「序奏とアレグロ 」
  ~ ハープと弦楽四重奏、フルート、クラリネットのための 
(09:33 )

併 録: ピアノ協奏曲 ト長調 (マルグリット・ロン、ラヴェル自身/ラムルー管弦楽団、1932年 )、左手のためのピアノ協奏曲 (ヴィトゲンシュタイン、ブルーノ・ワルター/アムステルダム・コンセルトヘボウ、1937年 )、ボレロ (ラヴェル自身/ラムルー管弦楽団、1930年 )
録 音: 1923年10月19日、ロンドン
演 奏: モーリス・ラヴェル (指揮 )、Swendolen Mason(ハープ )、Robert Murcie(フルート )、Haydn P.Draper(クラリネット )、C.Woodhouse、H.Disney、E.Tomlinson、S.James (弦楽四重奏団 )
 
 ハープをソリストに、フルートクラリネット および弦楽四重奏のための七重奏曲序奏とアレグロ 」 は、ラヴェル自身の指揮によって、最も初期にロンドンで レコーディングが企画された作品のひとつだ。 形式は、単一楽章のソナタというところであろう。 ゆったりとした美しい四拍子の 「序奏 」 を終えると、主部「アレグロ 」は 三拍子で ワルツ風の曲調となる。 印象的なハープのカデンツァも挿入され、室内楽編成による 「ハープ協奏曲 」 であるとする 研究家 (アービー・オレンシュタインなど )の意見には 私 発起人も強く同意。 事実、弦楽器の人数を増やす編成での演奏を ラヴェル自身も許容している ( といっても、弦セクションを増員した大編成による演奏を 耳にする機会は ほとんどない )。

▼ スケルツォ倶楽部 オススメの一枚
竹松舞_ラヴェル_序奏とアレグロ
ラヴェル 「序奏とアレグロ 」
  ~ ハープと弦楽四重奏、フルート、クラリネットのための 
(11:20 )

竹松 舞 (ハープ )
B.S.C.アンサンブル との七重奏
   湯本 洋司 (フルート )
   鎌田 広 (クラリネット ) 
   物集女 純子 (ヴァイオリン ) 
   大鹿 由希 (ヴァイオリン )
   桑田 穣 (ヴィオラ )
   森澤 泰 (チェロ )

録 音 : 1999年8月16日 東京
竹松舞-1 湯本洋司氏 フルート 鎌田広氏_クラリネット 物集女純子_ヴァイオリン 大鹿 由希_2ndヴァイオリン 桑田 穣 (ヴィオラ ) 森澤泰_チェロ 
音 盤 : DENON(COCQ-83257 )
併録曲 :
ドビュッシー「月の光 」、「亜麻色の髪の乙女 」、アッセルマン「五月の歌 」(以上、ハープ・ソロ )、ドビュッシー 神聖な舞曲と世俗的な舞曲、ヘンデル作曲 ハープ協奏曲 変ロ長調 作品4-6(以上、ジャン¬=フランソワ・パイヤール指揮 パイヤール室内管弦楽団 共演 )

 若きラヴェルの隠れた名曲 「序奏とアレグロ 」 - 実は 当初 リリー・ラスキーヌ(ハープ )、 マルセル・モイーズ(フルート )、 ユリス・ドレクリューズ(クラリネット ) & カルヴェ弦楽四重奏団 による 1938年(EMI / 新星堂 SGR-8556 )録音の濃厚な表情の歴史的レコーディングを紹介しようかなーと思っていたが、投稿前 何気なく聴き直してみた竹松舞さんによる若き日のプレイが、ホント 想像を超えて素晴らしかったので、急きょこちらを推薦盤として差し替えることにしたもの。
 竹松舞さんのハープ と言えば、かつて アッセルマン 「泉 」 の名演を 紹介したことがあった ⇒ 「水のピアノ
 一度 竹松盤と比較してしまうと、やはり 「序奏とロンド 」は 良い音質のレコーディングで聴きたいものだ - と考え直してしまう。 ラスキーヌ旧盤は、たしかに表情も濃い名演ではあるけれど、この楽曲を楽しもうとすると 音の古さだけは致命的である。

 竹松(DENON )盤のことを、近年時々目につく 安易なJ - クラシックの一枚だろう などと聴きもせずに 軽くみる人はさすがにいないだろうが、もしいたとしたら、それは不要な偏見。 この演奏(録音 )の想像を超えるレヴェルの高さ は、余計な先入観を すべて打ち壊す。とりわけ ラヴェルの「序奏とアレグロ 」が やはり断トツの出来。次いでハープ・ソロ曲。予想に反して、老パイヤールとの共演による ヘンデルだけは、一体どうしたことだろう、ドビュッシーのほうはともかく、私には オケがあまりにも温(ぬる )くて、竹松さんの鋭さに拮抗し得ていないように聴こえてしまった。 残念。
 ・・・ もとい。 やはり 注目すべきはラヴェルだ。 それは、映像的なイメージも喚起させる。 静謐で透明な泉にその身を投げ、深く沈みながら 水中で目を開けてみると、頭上高く 水面もはるか天上から 眩しい太陽の光がまっすぐ 水底まで差し込んでくるときの プリズムを見るよう、一音一音 驚くほど均一で粒立ちも整った竹松のカデンツァが 本当に美しい・・・ ソロ・ハープが 「序奏 」 冒頭のフレーズを 静寂の中で再現し、あたかも夢の中を流れゆくような 美しいグリッサンドの背後から、もう一台のハープが隠れていたかのように、別のメロディがハーモニクスで点描のように姿を現わす効果など、筆舌に尽くせない - そんな秀逸なカデンツァが終わるやいなや、さり気なくアンサンブルが再現部に入るところ、彼女らのラヴェルの 高い完成度をもつ演奏には鳥肌が立つほど感動してしまう。
 音色バランスも絶妙、小編成アンサンブルに支えられつつ、ヒロインたるハープの呼吸もクライマックスのエクスタシーへと向かって徐々に激しくなってゆき、彼女の弾(はじ )く息づかいも急速に高まりゆく。
 ああ、もしこの名曲にドビュッシーが好んでいたような詩的なタイトル - たとえば 「亜麻色の髪の乙女 」 とか 「夕べの大気に漂う音と香り 」、あるいは 「月の光が降り注ぐテラス 」 - なんていう調子で 表題が付いていたら、後世の人気も 今より絶対 高かったに違いないのだが (要するに、もっと売れたことだろう )。 ・・・実にもったいない。

竹松舞 紀尾井ホール・ライヴ_0003
▲ 1999年11月、紀尾井ホールにおける ライヴ「序奏とアレグロ 」 映像もあり。同じメンバーによる (日本コロムビア COBO-4030 )

 楽しみにしていた船旅に出発の当日、ラヴェルは締め切りぎりぎりまで譜面の清書をしていたが、遂に終わらなかった。にもかかわらず、生来のお洒落に気を使う性格のため、船上の旅装を どうしようかなどと考えているうち、何と出発時刻に遅刻してしまったのだ。せっかく仕上げを急いだというのに !  
 それでも 友人たちの助けによって 若きラヴェルは必死に車で水路を先回りして追いつき、道路から土手づたいに 何とか船へと乗り込むことができたという。

船上でのエドゥアール夫妻ラヴェルの会話
ラヴェル   「ああー、気持ちの良い潮風だなあー 」
アルフレッド 「お疲れさま、しばらく 何もかも忘れて 楽しんで行こうよ、ララ (ラヴェルの愛称 ) 」
ミシャ     「ね、ララくん。 そう言えば エラールから委嘱されてた作曲は 無事終わったのかしら ? 」
ラヴェル   「一週間ぶっ続けで仕事しましたよ。追い込みの仕上げには三日三晩徹夜して ほぼ完成。後はもう 清書を終わらすだけです。 ふー 」
ミシャ     「よかったわねー 」
アルフレッド 「そう言えば、その楽譜はどうしたんだい、ララ ? 」
ラヴェル   「・・・え ? あれ ? うわぁ 出がけに寄ったカフェのカウンターに置き忘れてきたあ ! 」


 ・・・(笑 )幸いにして、直前までラヴェルが書いていた新作の自筆譜は、カフェで保管されており、無事だったという。
 「序奏とアレグロ 」 の爽やかなコーダのように、このエピソードにもまた涼しい潮風のような結尾がついた。 すなわち 爽やかなハープのグリッサンドが 楽譜のページを ぱらぱらぱらっ・・・ と、最後まで一気にめくってしまう、そんな風のようなエンディング竹松盤で聴いた人は、ラスト一音、この印象的なサウンドを 決して忘れることはないだろう - 。
竹松舞-2 ヨットに乗るスヌーピー

 ラヴェルのため出航した船旅。その目的地は、レージュ、アムステルダム、フランクフルト ・・・。
 ラヴェルが特に強い印象を受けたのは、ベルギーとドイツの工業地帯、オランダの風車で有名な田舎町、アムステルダムの動物園と水族館、フランクフルトのゲーテの生家、フランツ・ハルス、レンブラント、ベラスケスの絵画 だったという。

「生きているのがこれほど幸せだったことは 一度もありません。そして喜びは苦しみよりもずっと実り多いことを固く信じています 」 (ラヴェルが、支援者 ド・サン=マルソー夫人に宛てた手紙より )


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コメント

木曽のあばら屋 さま !

毎回 話題の広がる 素敵なお便りを いつもありがとうございます。
木曽のあばら屋 さま も ご常連のひとり、NHKきらクラ ! の中に  そういえば「勝手に名づけ親 」なるコーナーがありましたが、この「序奏とアレグロ 」の新タイトル( ? )こそ ぜひ公募して頂きたいものです。「序奏とアレグロ 」には まだ出会わないけれど どこかに絶対 ドンピシャなネーミングがあるはずだと思うです。そんな「生涯の伴侶 」に未だ巡り会えずに さすらいの旅を続けている この一曲に 世間のラヴェル愛好家は ぜひとも 一筋の光明を照射して頂きたいものですよね !

URL | “スケルツォ倶楽部”発起人 ID:-

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こんにちは。
「序奏とアレグロ」作曲秘話、面白く読ませていただきました。
竹松舞さんは、別のCDを1枚持ってますが、このCDも欲しくなりました。
竹松さん、いまはお医者さんになられているようですね。
演奏家としてはほぼ引退でしょうか? 残念です。

それにしてもこの曲、もう少し気のきいたタイトルがついていたら・・・とは、
確かに思いますね。

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