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ベートーヴェン「熱情」_0004 スケルツォ倶楽部_エイプリル・フール
今年のエイプリル・フール首尾報告 (笑 )。
~ ベートーヴェン「熱情 」ソナタ第3楽章って、
   実は スケルツォ(? ) ウソだよん ! 


 今晩は、“スケルツォ倶楽部発起人(妻のほう )です。
 はい。今年も 4月 1日が - そうです、エイプリル・フールが やってまいりました。この「恒例行事 」は わたしのひそかな楽しみのひとつでもあるわけですが(笑 )、さすがに毎年のことゆえ 夫(ヤツ )もダマされまいとせいいっぱい緊張している様子がわかります。
 そこで仕方なく 今年の 4月 1日 - 水曜日 - の朝は、仕事で出かけようとする夫を 玄関で見送りながら、彼には 安心させてあげる言葉を 与えたのでした。

わたし  「警戒してるでしょ、アナタ。ふふん、エイプリルフールって 午前中しか効力がないんですって。だから 午後はウソついちゃイケナイものなの。今年は、アナタ これからお仕事でしょ。お昼前は外にいるわけだから 平気じゃない 」
     「そうなんだ。本当かなあ 」
わたし  「今晩は アナタの好物 ウィンナシュニッツェル Wiener Schnitzel を 焼いておくつもりだから、期待してて 」
     「おおー、なんて良い妻なんだ 」
わたし  「久々に通販で仕入れた ウィーンのビール、オッタクリンガー も冷やしておくから、ベートーヴェン聴きながら飲もうよ。早く帰ってきてねー 」
     「行ってきまーす 」

 ・・・って、どうやらこれで すっかり安心したらしく 単純な夫は手を振りながら 喜んで出掛けてゆきました。いってらっしゃいマセ (忍び笑 )。

 さあ、その夕方のこと。
 よく叩いて薄くした子牛の赤身肉には すでに塩胡椒、小麦粉もまぶしてあるし、これに溶き卵をたっぷりつけてセンメルブレッセル (ウィーン風シュニッツェル用のパン粉 ) をまぶせば、あとはサラダ油とバターを敷いた熱いフライパンできつね色になるまで揚げ焼きするだけ。あ、そうそう、焼きはじめる前に お肉の両面には包丁の背でしっかりと筋目をつけておかなくちゃ。これをしないで加熱すると、衣がふくらんじゃって格好ワルイからね。
 さー、これで美味しいウィンナシュニッツェルの出来上がり~。
 メインディッシュに添えるポテト・サラダザウアークラウトを盛り付けていると、どうやら夫が帰宅。
Wiener Schnitzel   ottakringer.jpg ottakringer beer-glass
▲ ウィンナシュニッツェルと 庶民派の缶ビール オッタクリンガー。 
関連する過去記事
⇒ ハイドンのスケルツォを聴きながら オッタクリンガーで酔っ払った発起人(妻)に、若きベートーヴェンが憑依する

     「ただいまー 」
わたし  「アナタ、おつかれさまー 」

 なーんて 甲斐甲斐(かいがい )しく良妻を演じながら、疲れきった夫に しこたまビールをススメまくり、十分に酔わせておいて… と。 え ? うちの夫はヤマタノオロチかって(笑 )。

     「あー、シュニッツェル 美味(うま )かったなー。久しぶりにウィーンのビールで したたかに酔ったよ、もう寝ちゃおうかなー 」
わたし  「ダメよ、今夜は 寝かさないんだから ♡ 」
     「はあ ? 」
わたし  「だって 一緒に ▼ ベートーヴェンを 聴く約束だったでしょ ? 」

Willibrod Josef Mahler, Portrait of Beethoven with Lyre, c. 1804(部分 ) Beethoven_部分_Joseph Karl Stieler、1820 Ferdinand Schimon, Portrait of Beethoven 1818-1819 Ferdinand Georg Waldmuller, Portrait of Beethoven, 1823

     「えー ?  いや、たのむから 今夜は許してくれよ。 気分よく酩酊して、今 天井が ぐるぐる 33回転でまわってるんだもん 」
わたし  「はー、 そんなアナログな(笑 )アナタだから さすがに知らないんでしょ ? イギリスの最近のベートーヴェン研究によれば、ピアノ・ソナタ第23番 『熱情 』第3楽章が、実は スケルツォだった( ! )って言う 驚きの 新説 を。欧米では 今 この話題で持ちきりなんだってよ 」
     「 (酔いを醒まそうと頭を振りながら ) そ、そんなこと、あり得ねー 」
わたし  「わあ、遅れてるんだなあ 」
     「だ、だって もしそうなら 『熱情 』 ソナタは スケルツォで終わることになっちゃうだろ、そんなの 変じゃないか 」
わたし  「ベートーヴェンの偉大なところは形式にとらわれないところよ。たとえば ソナタ 第10番ト長調 だってスケルツォ楽章で終わる前駆体となっているじゃない 」
 ⇒ ピアノ・ソナタ第10番 は スケルツォで終わる

     「うーん、たしかに 前例はあるけどさあ… 」
わたし  「ベートーヴェンの影響を受けたウェーバーが1807年に作曲した交響曲第2番ニ長調メヌエット第3楽章に続くフィナーレは なんとスケルツォなんだよ 」
    「へえ、たしか サヴァリッシュ / バイエルン放送交響楽団(Orfeo )盤が、CD棚に聴かないままあったような・・・。聴いてみようか 」

ウェーバー 交響曲第1番、第2番 サヴァリッシュ(Orfeo ) ウェーバー
▲ ウェーバー交響曲第2番スケルツォ で終わる。

ウェーバー作曲
交響曲第2番 ハ長調
ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮
バイエルン放送交響楽団
併 録:交響曲第1盤 ハ長調
録 音:1983年10月24、25日 ヘルクレス・ザール ミュンヘン
音 盤:Orfeo(C 091 841 A )

     「ホルンが大活躍する古典交響曲だ。終楽章スケルツォは明確な三部形式で、トリオで美しいソロを歌うホルンが やがて主部のリズムを呼び戻す 」
わたし  「サヴァリッシュ熱演だけど、第4楽章の演奏時間が、たった 2分52秒 って・・・ 短かすぎない ? 」


     「 ・・・もとい。 『熱情ソナタ終楽章スケルツォだという説を 納得させてほしいんだが 」
わたし  「 ベートーヴェンは、ピアノ・ソナタにおいては 数多くの新しい試みに大胆に挑戦しているの。『熱情 』のひとつ前に発表したソナタ第22番ヘ長調 二つの楽章しかない構成。でも二楽章のピアノ・ソナタって ベートーヴェンには意外と多いんだけど、第22番にはソナタ形式の楽章もなくて、その第1楽章はいきなりメヌエットで始まるし、続く終楽章も 実質スケルツォなんだもん 」
     「え、そうだったかなー 」
わたし  「ベートーヴェン自身もお気に入りだったと伝わる ソナタ第24番嬰ヘ長調二楽章構成。しかも その第2楽章 スケルツォ風の独奏的な終楽章 - 」
     「おお、そう言えば ソナタ第20番ト長調二楽章構成で、しかも その終楽章メヌエットだった ! 」
わたし  「そう、そうよ。さすがねー アナタ。それは、ベートーヴェンが 『七重奏曲 』で使い回しした、あの有名なメヌエット主題よね。ソナタでは最終楽章のメヌエットは、めずらしいことにトリオが二回出てくるという またも変則な形式」
     「トリオが二回 ? えーと それ、複合三部形式じゃなくて、ロンド形式なんじゃないか。確証はないけど・・・ 」
わたし  「トリオが二回出てくるスケルツォと言えば、第6交響曲 『田園 』にも興味深い 近年の学説があるんだよ。 ( ここから Wikipedia を 読む ) 『 田園の第3楽章は A-B-A-B-A'の複合三部形式だが、トリオ部のBも含むA-B部を繰り返し演奏する自由な形式であり、明確なコーダ部は無く、次楽章へと切れ目無く続く - 
    「ふんふん 」
わたし  「 … A-Bの反復は 交響曲第4番や第7番のそれ(記譜された反復 )とは異なり、反復記号のみによる繰り返しの指示となっている。そのためか カラヤン / ベルリン・フィル(1962年録音、D.G. )盤は その反復を自由に省略し A-B-A' のみでスケルツォを切り上げ、第4楽章へ突入する 』 が -  」
     「え ?  」
わたし  「よく聞いて。ここからが 肝心だから。 『 第4楽章を 第3楽章スケルツォの“第2トリオ”と見なした解釈であると考えることもできる 』 ですって 」
     「何 ? 第4楽章の嵐スケルツォの第2トリオ ・・・ ? 」
わたし  「この第4楽章自体、『田園 』 の中で - と言うより ベートーヴェン交響曲全楽章の中でも特異な存在よね。 たしかに 1962年カラヤン盤以外にも シャルル・ミュンシュ / ボストン交響楽団(1955年、RCA )盤 や カルロス・クライバー / バイエルン国立歌劇場管弦楽団(1983年、Orfeo )ライヴ といった名盤のいくつかでも スケルツォ楽章の反復は すぱっと省略 されていることはアナタもよく知ってるでしょ 」
ミュンシュ 田園 RCA カラヤン「田園 」1962 DG クライバー_ベートーヴェン「田園 」(Orfeo)
▲ ベートーヴェン 田園交響曲 第3楽章トリオ反復指示を省略
(左から )ミュンシュ(RCA )、カラヤン(DG )、クライバー(Orfeo )


     「へえ・・・ でも主部Aが再現しないスケルツォなんて、いくらベートーヴェンの作品でも やっぱ邪道なんじゃないかー ?  うう~、もう わからなくなってきた (頭を抱えこむ、深酔いのせいかも 笑 ) 」
わたし  「大丈夫 ? ほら お水 飲んで 」
     「 (大声で ) もし 『熱情ソナタ第3楽章が 本当にスケルツォ楽章だと言うんなら、それじゃ スケルツォトリオ主題は 一体どこに出てくるんだよ ! 」
わたし  「 (勝ち誇って )ふふん、それこそが 従来コーダだと思われていた 308小節以降のプレスト、あの激しい農民舞踏こそ、実はスケルツォのトリオだったのよ ! 」

スケルツォ倶楽部_ベートーヴェン自筆「 熱情 」第3楽章コーダ(プレスト )
▲ 第3楽章308小節から登場するプレストの旋律

    「うう・・・ と、いうことは -  」
わたし  「そう、トリオは324小節までの僅か十八小節、さらに325小節目以降から最後の361小節までが スケルツォ主題の再現部A’ であると同時に、テンポを速めたコーダをも兼ねているという、革新派ベートーヴェンによる変則な試みだったのよ ! 」
     「そ、そうだったのか・・・ 」
わたし  「この新説を決定的にしたのが、 近年 『熱情 』 ソナタの汚損が激しいことでも有名な ベートーヴェンの自筆譜 (パリ国立図書館所蔵 )を専門家が洗い流していたところ、作曲者自身によって書き込まれていた Scherzo という文字が かすかに浮かび上がってきたという、世紀の発見 - 」
     「そ・・・それ、見れるのか 」
わたし  「はい、コレ。ネットからプリントした楽譜の一部分だよん 」

スケルツォ倶楽部_ベートーヴェン自筆「熱情 」第2~3楽章
▲ 自筆譜 第3楽章冒頭Scherzo の文字( ? )。


      「おお、そうだったのかあ・・・ いや、実はオレも あのコーダで突然 登場する農民舞踏風の新しいメロディーってさ、どこかスケルツォトリオっぽいよなー とか 前々から思っていたんだよね、いや本当。うーむ、やっぱ オレの直観って、真実を鋭く射抜いていたってことだよなー 」

スケルツォ倶楽部 推薦盤。
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ベートーヴェン
ピアノ・ソナタ第23番 ヘ短調「熱情 」
スヴャトスラフ・リヒテル(ピアノ )
併 録:ピアノ・ソナタ第12番「葬送 」、22番ヘ長調
録 音:1960年 ニューヨーク、ウェブスターホール
音 盤:RCA

 伝説のカーネギー・ホール公演の翌月、RCAによるスタジオ・セッション・レコーディング。 たとえ歴史的な価値と強烈なパッションに彩られていたとしても 瑕疵が目立ち音質も劣るライヴ録音に比すれば、総合得点で軍配が上がるのは、やはり 正規録音のスタジオ盤が順当というものでしょう。 繰り返しの鑑賞にも耐え得る、それは素晴らしい演奏です。
 わたしの個人的な意見ですが、 こと 「熱情ソナタ に限っては、この リヒテル盤のもつ価値は最高位です。 その即興的な 「明日なき 」 燃焼度内発性の高さ においては、ホロヴィッツより バックハウスより ゼルキンより ケンプより シフラより グールドより ポリーニより ブレンデルよりも、これら 古今の名演たちの頭上を超えて飛ぶ、恐ろしいほどまでに 優れた名演の記録であると 断言します。

関連記事は こちら
⇒ 短い小説 「リヒテルを呪縛した、カーネギーホールの『熱情 』 」

わたし   「・・・って、アナタ やっぱり酔ってるわね ? 」
      「え ? いや 酔ってない、酔ってないぞ 」
わたし   「(笑いを堪えながら ) はい。今年のエイプリル・フール、大成功でしたー
      「な、何だと ? 」
わたし   「 『熱情 』 の第3楽章 スケルツォなワケないじゃん。昔も今もソナタ形式だよ 」
夫      「え ? じゃ、この楽譜に浮かび上がってる 『スケルツォ 』 っていう文字は ? 」
わたし   「自筆譜を カラー・コピーに わざわざ一度撮って わたしの字で書き込んだんだよ 」
      「な、何だと・・・ じゃ田園交響曲第4楽章(嵐 )第3楽章スケルツォの“第2トリオ”だとする 『 近年の学説 』 ってやつは ? 」
わたし   「それは、アナタ自身が 先週末ベッドのなかで言ってた寝言を 書きとめておいたものさっ (爆笑 ) 」
      「お、オレ 一体 何て言ってたんだよ ? 」
わたし   「 “むにゃむにゃ、カルロスの田園の嵐は スケルツォの第2トリオかも・・・” って。 あの晩 実は わたし、目を覚ましてて、アナタの声を しっかり聞いちゃったんだからねっと」
      「何だと・・・ じゃ、コーダに登場する農民舞踏風のプレスト主題スケルツォトリオだっていう新説は ? 」
わたし   「あれは わたしの作り話真っ赤なウソでござるだぴょーん 」
      「(激怒 ) こ、コイツぅ ・・・。 でも 今朝 エイプリル・フール午前だけだって言ったのも オマエ じゃん ! 」
わたし   「ふふん、油断してたわね、アナタ。 気づかなかった ? それこそ ウ・ソ だった ということに ! 」
      「 (絶句 ) 」

 まるでスローモーションのように 夫の足の裏が天井を向くのを眺めながら、わたしは思いきりお腹をかかえたのでした。 では また来年のエイプリルフールにも どうぞ ご期待ください。 って、来年も やってるかしら (笑 )。


▼ 昨年のエイプリル・フール
映画「不滅の恋 」ベートーヴェン
⇒ ベートーヴェン映画「不滅の恋 Immortal Beloved 」

▼ 一昨年のエイプリル・フール
Vengerov_Wigmore Hall Live(WHLIVE0056)
⇒ 復活していた マキシム・ヴェンゲーロフ

▼ 三年前のエイプリル・フール
シベリウスの肖像(1915年 シベリウス博物館)
⇒ シベリウスの「交響曲第8番 」( ! )を聴く

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