スケルツォ倶楽部
名優ゲアハルト・シュトルツェの演技を聴く
 オルフ「オイディプス王」(クーベリック)D.G.ゲルハルト・シュトルツェ(最小サイズの肖像写真)   目次は こちら

(7 ) 「アンティゴネー 」 カール・オルフと出会う

 1956年3月、ゲアハルト(ゲルハルト)・シュトルツェは、フェルディナント・ライトナーが指揮する シュトゥットガルト歌劇場 で上演されたオルフ作曲の 歌劇「アンティゴネー」で、第1幕と第2幕の一部にのみ登場する端役番人 」を演じます。
 ちなみに この時の 他の主要な配役は、マルタ・メードル(アンティゴネー )、ヘティ・ブリュマッハー(イスメネー )、ヘルマン・ウーデ(王クレオン )、ヘルムート・シンドラー(ハイモン )、ヨーゼフ・トラクセル(預言者テイレシアス ) という たいへん個性的な顔ぶれが並びました。 そして これが シュトルツェにとっては、特筆すべき運命的な出演となったのでした。
 それは、この舞台を観ていた作曲者カール・オルフCarl Orff、1895~1982)が、シュトルツェの 歌唱演技能力に 自作の演技者として適性を強く感じ、この時から3年後に初演を控えている 新作「オイディプス王」の タイトルロールとして 彼を抜擢することになったという事実です。
 では その「アンティゴネー」で、シュトルツェ端役番人」をいかに演じていたか、( 時系列でご紹介してきたディスクの順序は、今回に限って 先に飛びますが、) この5年後(1961年)にレコーディングされた スタジオ録音盤で、聴いてみることにいたしましょう。

 「番人(夜警 ) 」
~ オルフ「アンティゴネー」

オルフ「アンティゴネー」(ライトナー)POCG‐3160~2  オリジナルLPの表紙(D.G.)
ライトナー(D.G. )盤()CD再発時()オリジナルLP の表紙

オルフ「アンティゴネー」
フェルディナント・ライトナー指揮/バイエルン放送交響楽団員&放送合唱団
 インゲ・ボルク(アンティゴネー )
 カルロス・アレクサンダー(王クレオン )
 クラウディア・ヘルマン(イスメネー )
 フリッツ・ウール(ハイモン )
 エルンスト・ヘフリーガー(預言者テイレシアス )
 ゲアハルト・シュトルツェ(番人 )、他
録音:1961年 ミュンヘン
ドイツ・グラモフォン(ポリドールPOCG-3160~2)


 このオペラは、カール・オルフギリシャ悲劇作家 ソポクレス の 同名戯曲に音楽をつけた 舞台作品で、有名なギリシャ悲劇「オイディプス」の「後日談」にあたる物語です。
 タイトルロールアンティゴネー (インゲ・ボルク)は、悲劇的な経緯の前史によって王位を捨てたオイディプスの娘で、テーバイの王女
カール・オルフCarl Orff Inge Borkh フェルディナント・ライトナー
(左から)カール・オルフインゲ・ボルク(アンティゴネー) フェルディナント・ライトナー(指揮)
 
 この舞台では、すでに亡き父オイディプスに代わって、アンティゴネーの叔父 クレオンテーバイの為政者となっています。
 詳細は省略しますが(スミマセン)、紆余曲折の末、不本意ながら祖国テーバイの反逆者となって祖国と剣を交えることになった挙句 戦死したオイディプスの息子ポリュネイケスの遺骸は、テーバイの王となったクレオンによって埋葬することを禁じられ、そのため 痛ましくも城外に野ざらしとなっています。ポリュネイケスの妹であるアンティゴネーは、クレオンの長男ハイモン婚約していましたが、愛する兄への弔意埋葬 という 神に対する儀礼 を ないがしろにすることが 出来ず、クレオンの禁令に反し、敢えて市民の目の前で 兄の亡骸を砂で覆うのでした。
 この事実を伝え聞かされたクレオンは激怒アンティゴネーを捕らえさせ、彼女が自分の息子ハイモンの婚約者であるにもかかわらず 一度は 死刑宣告 まで与えますが、偉大な預言者テイレシアスの忠告を受け容れて考え直し、許そうとします。
 しかし、時はすでに遅く彼女は牢で自害して果て、その死を悼む婚約者のハイモンも 父クレオンを深く恨みながら自決してしまいます。そして息子の訃報を聞いたハイモンの母にしてクレオンの妻エウリュディケーもまた、夫を呪いながら自殺します。最後は 独り残されたクレオン深い嘆きの慟哭で幕が降りる、という痛ましい物語です。
 シュトルツェが演じる「番人」は、端役ではあっても ドラマにエンジンをかけるような存在で、まず 第1幕 では「禁令が犯されました、城外に放置されるべき反逆者の遺骸が土で覆われています!」と 大声でご注進つかまつります。延々と長い台詞 にもかかわらず、訴えの内容は空虚(からっぽ)で、ただ自分が為政者に疑われることだけを極度に恐れ、自分はいかに身上潔白であるかを憑かれたように自己弁護しまくった挙句、クレオンから「おまえは喋り過ぎる」とたしなめられる、というコミカルな面もある道化的役柄です。
 自己弁護の真っ最中 「Und schlimme Worte fuhren durcheinander. Ein Wachter klagt den andern an ~(番人同士で罵り合って、殆んど殴り合いになりそうでした)」という歌詞の所からの、猛烈に加速するパーカッションとピアノのリズムに乗って まるでギヤ・チェンジしたかのようにリズミカルに(歌い)語りまくる個所や、逆に 静まりかえった舞台を背後に、恐ろしいほど繊細なファルセットで長く細く声を伸ばしながら、さらに薄く薄くデクレッシェンドさせてゆく、そこまで声量をコントロールさせる巧みな技を聴いているうち、一体これまでクラシック音楽の表現者として この種のオペラ歌手が かつて いただろうかと、鳥肌が立つほどの思い がするのです。
クレオンにアンティゴネーを告発する証人(古代の壺絵)
クレオン(左)にアンティゴネーを告発する番人(左から 2人目)を描いた 古代ギリシャ壺画  

 シュトルツェの「番人」は、現場を見張り続けた挙句 第2幕 でとうとうアンティゴネーを犯人として名指します。「反逆者の遺骸に埋葬の礼を行なっているところを 私が目撃しました」と誇らしげに 彼女を告発するという、素晴らしくイヤな役どころを 実に見事に演じています。
 1961年のスタジオ録音でシュトルツェを聴くと、このような緩急を効果的に生かした本当に迫真の演技歌唱で、たしかに この二つの短い場面だけで退場させてしまうには あまりにも惜しい と言わざるを得ません。1956年に、この舞台を観ていた作曲者オルフ自身も きっと同じ印象を抱いたことは 間違いないでしょう。

次回 (8)1956年、バイロイト「マイスタージンガー」ダーヴィット を演じる に続く・・・

↓ まだ先は長い道のりですが、どうぞご支援ください!
にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ
にほんブログ村
blogram投票ボタン
人気ブログランキングへ
Club Scherzo, since 2010.1.30.

関連記事
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

トラックバック

トラックバック URL
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)