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クラウス・オガーマン
ビル・エヴァンス・トリオ
ウィズ・シンフォニー・オーケストラ (Verve )
- その偉業の真価を カフェ ソッ・ピーナで 聴く。

クラウス・オガーマン_0003 ビルエヴァンス_クラウス・オガーマン_Verve Bill Evans

 こんにちは、スケルツォ倶楽部発起人”( のほう )です。
 今回の「音楽ジャンルの障壁を飛び越えるメロディ ♪ 」は、お気に入りの ジャズ喫茶 「カフェ ソッ・ピーナ 」から お届けします。
 
 「カフェ ソッ・ピーナ 」は、わたしたち“発起人夫婦の自宅から 徒歩10分ほどの距離、公園そばに建つオレンジ色の雑居ビル2階にあって、壁一面ガラス張りの明るい内装の店内です。そこで 独身の音楽オタクとして知られる 二代目マスターが 先代オーナーから譲り受けたご自慢の巨大オーディオ・セットを大音量で鳴らしてくれる音楽を聴きながら、香り高いコーヒーを楽しむ一時(ひととき )こそ、わたしにとって日常のストレスを発散する貴重な自由時間でもあるのです。
 
 さーて、今日は店内では どんな音楽がかかっているのかしら - と、小さな胸を弾(はず )ませながら 狭い階段を駆け登り、お店入口の防音ドアをよっこらしょと押し開ければ、そこに吊られているスイス製のカウベルもがららんと鳴り響き、その都度 マーラーの6番ベナツキーの「白馬亭 」なんかを一瞬連想しちゃうのも もう毎度のセレモニー。

わたし   「こんにちは マスター。(店内を見回して思わず微笑む )うーん、今日もやっぱり 他にはお客さん、誰もいないのね、わたしが来てくれてよかったでしょう 」
マスター  「いらっしゃいませ・・・って、いつもながらご挨拶ですね。忘れないうち 先にオーダーをお願いしますよ 」
わたし   「しようがないわね。では ソッ・ピーナのオリジナル・ブレンドでも頂いておこうかしら 」
マスター  「かしこまりましたー 」
わたし   「・・・あ、今 かかっているレコード、ビル・エヴァンスっぽいピアノのフレーズだけど、リヴァーサイドの音ではないようね 」
マスター  「あ、おっしゃるとおり、奥さん。これ、ヴァーヴビル・エヴァンスです。さすが お耳も肥えてますね 」
わたし   「 お耳“”って何よ、一文字多いんだから、ぷんすか。(すぐ気を取り直し ) これ、ピアノ・トリオの背後で 控えめにストリングスの音が被(かぶ )ってるわね - ヴァーヴ・レーベルだというヒントから考えると、ははーん、わかっちゃったかも。1965年にクラウス・オガーマンのオーケストラと共演した、クラシック名曲をアレンジしたアルバムでしょ 」
マスター  「ご名答(拍手 )。 」

ビルエヴァンス_クラウス・オガーマン_Verve ビル・エヴァンス
▲ Bill Evans with Symphony Orchestra
ビル・エヴァンス・トリオ・ウィズ・シンフォニー・オーケストラ
ビル・エヴァンス (ピアノ )
チャック・イスラエル (ベース )
ラリー・バンカー or グラディ・テイト
(二人のドラマーの曲別交替情報 不明 )
クラウス・オガーマン (アレンジ、指揮 ) / ストリング・オーケストラ
音 盤:Verve (Polygram 821 983-2 )
録 音:1965年09月29日、10月18日、12月16日、ニュー・ジャージー
収録曲:グラナダス Granadas (グラナドス原曲 )、ヴァルス Valse (J.S.バッハ原曲 )、プレリュード Prelude (スクリャービン原曲 )、タイム・リメンバード Time Remembered (ビル・エヴァンスのオリジナル曲 )、パヴァーヌ Pavane (フォーレ原曲 )、エレジー Elegia(Elegy )(クラウス・オガーマンのオリジナル曲 )、マイ・ベルズ My Bells (ビル・エヴァンスのオリジナル曲 )、ブルー・インタールード Blue Interlude (ショパン原曲 )


マスター  「クラシック名曲からのアレンジ企画といえば、ロドリーゴの『アランフェス協奏曲 』やガーシュウィン歌劇『ポーギーとベス 』を素材にした、当時のマイルス・デイヴィスギル・エヴァンス・オーケストラCBSレーベルに残した一連の有名な録音を連想しますよね 」
MilesDavis_Sketches Of Spain_CBS-SONY Miles Davis Porgy And Bess 1958年

わたし   「ジャズ・プレイヤーがオーケストラをバックに即興演奏を披露するという、いわゆる“ウィズ・ストリングス”ものという点からも、ビル・エヴァンス『ウィズ・シンフォニー・オーケストラ 』は興味深い作品だと思うわ。だってチャーリー・パーカークリフォード・ブラウン以来、ストリングスを従えた大きな編成でソロ・プレイヤーが演奏するっていう企画は、モダン・ジャズ・レコーディングの伝統を汲む形態のひとつとも言えるんじゃないかしら 」
チャーリー・パーカー・ウィズ・ストリングス クリフォード・ブラウン・ウィズ・ストリングス

マスター  「ムムッ・・・ 今のご指摘は 奥さん、なかなか鋭いと思いますよ。何故って このレコード、実は ビル・エヴァンスのアルバムとしてとらえようとすると、発表当時から その評価も微妙に曖昧な一枚だったからです 」
わたし   「 そうよね、かつてスウィング・ジャーナル編集長だった 故中山康樹氏でさえ このアルバムを指して『紅茶の時間ですよ~ 』 とか、『駄作ではないが 名作とも言いがたい 』 『困ったアルバムだ 』 とか、まぁずいぶんとバカにした評価を下しておられたのを わたし、何かで読んで 残念な気持ちになったこと あるもん 」
マスター  「おっしゃるとおり。そして それは当時から わが国のジャズ・リスナーの大勢の見方ともおおむね一致し、そのまま現在に至っているのではないでしょうか 」
わたし   「さあ、どうかしら・・・ 」
マスター  「一般のジャズ愛好家の方々にとっては、これがビル・エヴァンスリーダー・アルバムだと思って聴くから よく解らなくなってしまうんじゃないか - って、ボク 思うんです 」
わたし   「はあ ? だって これビル・エヴァンスのアルバムでしょ 」
マスター  「いえいえ、仮にクラウス・オガーマンのアルバムで、エヴァンスは 単にソリストに過ぎなかった - って想像したら、一発で解りやすくなりますよ。だってエヴァンスは 基本的にオリジナル志向のミュージシャンですからね。このレコードのプロデューサーが誰だったか ご存知でしたか 」
わたし   「 ? 」
マスター  「当時 ヴァーヴに在籍していたクリード・テイラーだったんです 」
わたし   「 !
マスター  「クリード・テイラーは、その後70年代になってから自身のCTIレーベルを立ち上げることになるわけですが、そこでの重要な仕事として クラシック音楽のジャズ化という、ひとつの領域を確立し 大きな成功を収めていますよね。このアルバムは たしかにビル・エヴァンスの名義ですが、実はテイラーの その後のCTIへの大躍進に続く萌芽ともなった ひとつの実験作だったのではないでしょうか 」
(左から )ビル・エヴァンス、クリード・テイラー、クラウス・オガーマン
▲ (左から )ビル・エヴァンス、クリード・テイラー、クラウス・オガーマン

わたし   「なるほどね。そうすると ここでのクラウス・オガーマンが築いた実績は、ドン・セベスキーデオダートボブ・ジェームスなどといった、後のCTIが擁した優秀な編曲家たちが意欲的に取り組んだクラシック音楽のジャズ化というアイディアを大いに刺激したでしょうね 」
マスター  「おっしゃるとおりです。そう考えると ビル・エヴァンスの『ウィズ・シンフォニー・オーケストラ 』における役割とは、これも後のCTIレーベル諸作における ポール・デスモンドヒューバート・ロウズジム・ホールらと同じだったに違いないと -  」
わたし   「ふんふん 」
マスター  「 - で、さらに時代は下って、1982年に行き着くことになる クラウス・オガーマンの傑作 『シティスケイプ 』 における名ソリスト、マイケル・ブレッカーの役割を予見させるものだった、とさえ言い得るんです 」
クラウス・オガーマン_0006 クラウス・オガーマン_0007

わたし   「ああー、そっか 名盤 『シティスケイプ 』 にまで 繋がるんだ ! 」
マスター  「はい。それらに比べたら この 『ウィズ・シンフォニー・オーケストラ 』 なんて 実に謙虚なレコードです。ビル・エヴァンス名義のアルバムとしては 本流を外れた企画盤的なアルバムとして 常に彼のトリオ作品とは別の箱に投げ込まれ、ずっと正当な評価を得ることも稀でした。商業的にも成功しませんでしたが、実は その後のジャズ=クラシック・フュージョン時代への口火を切った、極めて重要な価値を持った一枚だったのです 」
わたし   「うーん、マスターの講釈を聞いていたら なんだか 『ウィズ・シンフォニー・オーケストラ 』を 最初からきちんと聴きたくなってきちゃったなー 」
マスター  「喜んで、もう一度 頭から おかけ直ししましょう 」
わたし   「あ、原曲となったクラシック作品と一曲ずつ交互に聴かせて頂戴。 」
マスター  「・・・クラシックの音盤、ソッ・ピーナのレコ棚にあったかなー 」
わたし   「あ、さてはマスター、オリジナルの原曲を聴いたことないんじゃないの ? 」


1. グラナダス Granadas (グラナドス作曲のテーマによる )05:51
グラナドス グラナドス_ピアノ組曲「ゴイェスカス」第1部 IV. 嘆き、または美女と夜うぐいす(RCA) ラローチャ
マスター  「いかにもビル・エヴァンスらしい、ほの暗い美しさがぽっと灯るようなピアノ・ソロによって エンリケ・グラナドスの詩情豊かなメロディを自由に崩しつつスタート。まもなく冷たい夜風が海の波の表面にさざめきを起こすかのごときストリングスに乗せ、フルート、オーボエ、ホルンと 管楽器群が順々にグラナドスのメロディを引き継いでゆきますが、間もなくオーケストラは沈黙して、ビル・エヴァンスの快速な4ビートによる モダンなピアノ・トリオ演奏に道を譲ります。それは まるで泉がどんどん湧き出てくるかのような素晴らしい即興演奏、もう最初からエヴァンス 飛ばしてますね。ラリー・バンカーのスティックの先端から拍動を打つ繊細なライディングも実に魅力的。いつのまにか背後からオガーマンのペンによる控えめなストリングスのオブリガードが 音楽を渋く彩っています 」
わたし   「 独盤ジャケットのライナーには 原曲は『グラナダス 』 なるクレジットが( ? )ありますが、エンリケ・グラナドスに そんなタイトルの作品ありません、何かの手違いでしょう。クラシック音楽好きの方なら一聴してすぐおわかりのとおり、この神秘的に美しい主題は グラナドスの最高傑作 『ゴイェスカス(ゴヤの絵画からの場面、の意 ) 』 の第4曲 『嘆き、あるいは マハと夜鶯 ( Quejas ó La Maja y el Ruiseñor ) 』ですよね。スケルツォ倶楽部 の 推薦盤は、グラナドスの孫弟子にもあたる アリシア・デ=ラローチャのピアノによる名演(RCA / 1989年録音 )です。未聴のかたは ぜひ一度この美しい原曲をお確かめください 」


2. ヴァルス Valse (J.Sバッハ作曲のテーマによる )05:47
Johann Sebastian Bach (1685 - 1750) バッハ フルート・ソナタBWV1031
マスター  「この旋律、本当に美しいですね。特に主調のGマイナーからB♭メジャーに移るところの仄(ほの )明るさなんか、もう絶品です。音数の少ないテーマに続いてインプロヴィゼーションが本格的に始まると、ビル・エヴァンスの指先から溢れだす心地良くも過剰なピアノの音粒と 苦みのあるクラウス・オガーマンによるオーケストラ編曲のペンのおかげで、一歩誤ると安っぽいムード音楽に堕してしまう手前ギリギリのところで、辛うじて踏みとどまっている感じが -  」
わたし   「そうね、シャッター商店街に空しく流れる有線放送の拡声器からは 絶対に聞きたくない種類の音楽ね 」
マスター  「って、何ですか その意味不明な比喩は。 ・・・ところで、このタイトル“ヴァルス Valse”って “ワルツ Waltz”のフランス語表記なんですか 」
わたし   「ふふん、J.S.バッハの時代にワルツはまだ存在してないんだよ。原曲は、『フルートと通奏低音のためのソナタ BWV1031 』 から 第2楽章、6 / 8拍子の緩やかなシチリアーノ舞曲だから、まあ 3拍子で割り切れなくはないけれど(笑 )、ヴァーヴの表記にも困ったものよね 」
マスター  「タイトルは オガーマンの見識ではない気がしますね 」
わたし   「さらに余計なことまで言っちゃうと、この原曲、実はJ.S.バッハ真作じゃないとされてるんだよ。楽譜を筆写させた息子のカール・フィリップ・エマヌエル・バッハが誤って記名してしまったもので、バッハの影響下にある人物による18世紀後半の作品という楽説が、今日では有力なんだそう( この個所、「音楽之友社 名曲解説全集 – 室内楽曲Ⅰ 」から、角倉一朗氏の情報に拠ります ) 」
マスター  「ええっ ? それって、たいへんなことじゃありませんか 」
わたし   「でも たとえJ.S.バッハの作曲じゃなかったとしても これほどまで心に迫る名曲だから、今日(こんにち )のフルート・リサイタルにおける重要なレパートリーである事実には変わりないわよ。ユーゴスラヴィア出身の女流フルーティスト、イレーナ・グラフェナウアーと ミュンヘン出身のハープ奏者マリア・グラーフ(但し 原曲はチェンバロ )による二重奏のCD(PHILIPS / 1987年録音 )をおススメします 」


3. プレリュード Prelude (スクリャービン作曲のテーマによる )02:55
スクリャービン クラウス・オガーマン_0026
わたし   「この短い一曲におけるクラウス・オガーマンのアレンジは、本当にチャーミングな仕上がり。短い木管アンサンブルによるイントロを経て すぐに始まる楽曲に秘められた魅力は とにかく聴いてみなければ 伝わらないでしょう。そこに加えられたリズムも、ストリングスによる絶妙なオブリガードも 」
マスター  「原曲を知らなければ、オガーマンの工夫も決して理解できませんね 」
わたし   「世紀末ロシアの作曲家スクリャービン(1872-1915 )初期の代表作 『24の前奏曲 』から第15番 変ニ長調 レント。編曲者オガーマンがいかに工夫を凝らしたのか、知るためには 鬼才ミハイル・プレトニョフによるピアノで(Virgin / 1996年録音 )聴いておかなきゃダメよ、ダメダメ 」
マスター  「2分にも満たない、ホント短い楽曲なんですね。まるで作曲家が心に思いついた一瞬の楽想を書き留めたスケッチをのぞき見するような 」
わたし   「たっぷりとした空間(ま )を生かして、そこにオガーマンは変ニ音の信号風リズムを加えて 音楽の隙間を自然に埋めてゆくの。その魅力的なこと。寡黙なピアノによる対旋律の音列をストリングスで重ねてゆくところなんかも、本当に趣味のよい 透明な美しさが際立つアイディアよね 」


4. タイム・リメンバード Time Remembered (ビル・エヴァンス作曲 )04:04
クラウス・オガーマン_0023 チャック・イスラエル_Chuck Israels ラリー・バンカー_Larry Bunker
▲ (左から )オリジナル・レコーディングのジャケット、チャック・イスラエル(ベース )、ラリー・バンカー(ドラムス )

マスター  「ビル・エヴァンスが その晩年までレパートリーとしていた重要なオリジナル曲に、オガーマンがオーケストラによるバッキング・セクションを新たに編曲し加えたものです 」
わたし   「ビル・エヴァンス・トリオの演奏で オリジナル・バージョンが聴けるディスクは ? 」
マスター  「それは、やはりハリウッドのジャズ・クラブ“シェリー’ズ・マン・ホール”における1963年5月のライヴ・レコーディングが最も有名でしょう (Milestone / 1963年 ) 」
わたし   「この 『タイム・リメンバード 』って思索的だけどアンニュイな趣も漂う名曲よね。ベース、チャック・イスラエル、ドラムス、ラリー・バンカー、って、この基本リズム・セクションの顔ぶれは、『ウィズ・シンフォニー・オーケストラ 』ともちょうど共通しているじゃない 」
マスター  「おお、細かい所までよくお気づきですね。エヴァンス、イスラエル、バンカー、彼ら3人のメンバーが最初に顔を揃えたのが、まさに『タイム・リメンバード 』を彼らトリオがレコーディングした、この月の“シェリー’ズ・マン・ホール”だったんです 」
わたし   「1961年のスコット・ラ=ファロ急逝後、しばらくの間レコーディングでベース奏者を務めていたのが チャック・イスラエルだったわよね 」
マスター  「そうです。1963年のシェリー’ズ・マン・ホールにおいて、当初エヴァンスは ベースのイスラエルとの二重奏でステージに立って演奏していました。ところが客席から飛び入りで参加したLAの名ドラマー、ラリー・バンカーとの相性がたいへん良く、これで急きょ新トリオが誕生してしまった、という劇的な伝説があるほど。ゆえに これもある意味 歴史的なライヴ・アルバムというわけです。 厳密には この時のライヴ盤(マイルストーン・レーベル )は2枚あって、『タイム・リメンバード 』が収録されているほうは、後年に発表された 『残り音源 』のほうでした 」
わたし  「 『残り 』ものには福があるって。演奏内容はお蔵入りにするにはもったいないほどのレベルの高さじゃない、リリースされてよかったね 」


5. パヴァーヌ Pavane (フォーレ作曲のテーマによる )03:56
フォーレ 小澤征爾_フォーレ管弦楽曲集(D.G.) 小澤征爾_フォーレ管弦楽曲集(D.G.) (2)
マスター  「繊細さが極まる、いかにもフォーレらしい優雅な旋律線を ビル・エヴァンスの硬質なピアノストリングス・オーケストラが互いに呼応し合うように歌い継ぐアレンジ効果も素晴らしいですね。テーマ呈示が終わると ビル・エヴァンスのピアノ・トリオによる短い即興パートに入るわけですが、曲が良いだけに もう少し長くソロ・パートを聴かせてほしかったと思います 」
わたし   「これは、あの清浄な 『レクイエム 』 で名高いフランスのガブリエル・フォーレ(1845-1924 )が、定期コンサートのために作曲していたオーケストラ曲がオリジナルよね。まるで詩人の清い魂が荒野を彷徨するような旋律、そのあまりの美しさ に感動したパトロンのグレッフューレ伯爵夫人が、この曲に声楽を加えるよう勧め、従ったフォーレが 翌年合唱パートを加えて わざわざ作り直ししたもの 」
マスター  「 フォーレの 『パヴァーヌ 』をアレンジ素材にと見つけてきたのって、やっぱりクラウス・オガーマンなんでしょうが、これ、聴けば聴くほど凄い見識だと思いますよ。だって、このアルバム『ウィズ・シンフォニー・オーケストラ 』に使われているクラシック音楽の原曲って 皆ジャズ・アレンジのマテリアルとして相応(ふさわ )しい素晴らしさなんだけど、必ずしも 一般に よく知られた作品というわけではない、いずれも隠れた逸品ばかりだからです 」
わたし   「そうよね。ところで、フォーレの美しさを見事に引き立てた合唱入バージョンが聴けるディスクって 意外に少ないんだよね。そんな中でもフランスものを得意としてきた 若き日の小澤征爾が、かつてボストン交響楽団の常任指揮者だった時期にタングルウッド音楽祭合唱団を加えてレコーディングした名盤『フォーレ名曲集(D.G. / 1986年録音 ) 』を、ここではおススメします 」


6. エレジア Elegia(Elegy ) (クラウス・オガーマンのオリジナル曲 )05:08
クラウス・オガーマン_0003 クラウス・オガーマンとビル・エヴァンス(左 )
わたし   「コープランド風の、あるいはコンテンポラリーな映画音楽を思わせる、ストリングスによる息の長い楽想で始まる クラウス・オガーマン自身によるオリジナル楽曲ね。オーケストラル・パートが一段落すると、ビル・エヴァンスのソロから始まるピアノ・トリオによる内省的なプレイが、やがて忍び寄ってくるようなオーケストラと絡み合い、闇の深みを増してゆく ― 」
マスター  「クラウス・オガーマン(1930- )は ポーランド出身の作曲家、編曲家。大戦後のドイツで映画音楽の仕事を経た後1959年に渡米、60年代はクリード・テイラーに重用され ヴァーヴ CTIといったコンテンポラリー・ジャズの諸作品において、また70年代以降はトミー・リピューマがプロデュースするワーナー・ブラザーズ系列の作品において、数多くのアレンジを手がけました 」

クラウス・オガーマン_0004 ビルエヴァンス_クラウス・オガーマン_Verve クラウス・オガーマン_0005
ビル・エヴァンスV.I.P.のテーマ(Verve / 1963年 ) 』、『ウィズ・シンフォニー・オーケストラ(Verve / 1965年 ) 』、『シンバイオシス(MPS / 1974年 ) 』

クラウス・オガーマン_0014 Stan Getz_Voices(Verve )
スタン・ゲッツリフレクションズ(Verve / 1963年 ) 』、『ヴォイセズ(Verve / 1966年 ) 』

クラウス・オガーマン_0016 クラウス・オガーマン_0018
アントニオ・カルロス・ジョビンイパネマの娘(Verve / 1965年 )』、『 (A&M / CTI / 1967年 ) 』・・・
クラウス・オガーマン_0015 クラウス・オガーマン_0017
▲ 同じく ジョビンの 『ウルブ(Warner Bros. / 1976年 ) 』、『テラ・ブラジリス(Warner Bros. / 1980年 ) 』

クラウス・オガーマン_0021 クラウス・オガーマン_シナトラ_ジョビン(W.B.)
フランク・シナトラ シナトラ & ジョビン(Warner Bros. / 1967年 ) 』、

クラウス・オガーマン_0009 クラウス・オガーマン_0010
マイケル・フランクススリーピング・ジプシー(Warner Bros. / 1977年 ) 』、ジョージ・ベンソンブリージン (Warner Bros. / 1976年 ) 』

クラウス・オガーマン_0013 クラウス・オガーマン_0019
ダイアナ・クラールの 『ザ・ルック・オブ・ラヴ(Verve / 2001年 ) 』では、1977年にジョアン・ジルベルトのアルバム 『アモローソ (Warner Bros. ) 』の中で用いていた、あの素晴らしいボサ・ノヴァ風ス’ワンダフル 』のリズム・アレンジを再び採用するなど、その意欲的な活動にはまだまだ目が離せません。

クラウス・オガーマン_0012 クラウス・オガーマン_0020
▲ そういえば、ダイアナ・クラールが 『ザ・ルック・オブ・ラヴ(Verve / 2001年 ) 』のジャケットで纏(まと )っているセクシーなドレスって、これも 同じくオガーマンがオーケストレーションを担当していた アストラッド・ジルベルト 往年の名アルバム 『いそしぎ The Shadow of Your Smile(Verve / 1965年 ) 』 でアストラッドが着ていた衣装の踏襲ではないかと思うのですが。

マスター  「オガーマン自身の名を冠したリーダー・アルバムは、必ずしも多くはありませんが ジョージ・ベンソン、ジョー・サンプル、デイヴィッド・サンボーン、マイケル・ブレッカー(『カプリース 』 ! ) らをソリストに迎えたアルバム『夢の窓辺に(Warner Bros. / 1976年 ) 』、さらに6年後、前作で最も相性の良かったマイケル・ブレッカーを今度は単独で主要ソリストに据え、最高の名盤『シティスケイプ(Warner Bros. / 1982年 ) 』を・・・
クラウス・オガーマン_0002 クラウス・オガーマン_0006 クラウス・オガーマン_0001
  ・・・また2001年には ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団を指揮して自作ピアノ協奏曲管弦楽のための協奏曲(Decca / 2001年 )のレコーディングをしています 」
わたし   「これらクラウス・オガーマンオリジナル作品については、また別の機会を設けて語りまくりたいわね 」


7. マイ・ベルズ My Bells (ビル・エヴァンス作曲 )03:44
Bill Evans Composing Bill Evans Loose Blues
わたし   「このCメジャーの短い楽曲、とても良いメロディを持ってるわね 」
マスター  「実は ボクもひそかに愛聴しているナンバーです。 - にもかかわらず、ステージで演奏された記録が見当たらないからでしょうか、ビル・エヴァンスオリジナル・スタンダード楽曲の中では 殆ど知られていない、隠れ名曲です 」
わたし   「クラウス・オガーマンのアレンジによる冒頭の清冽な木管アンサンブルにハープの爪弾きの音まで加わる抒情的な和声の流れったら、まるでラフマニノフの曲みたいに魅力的じゃない 」
マスター  「そのテーマに続いて始まる、歌心に溢れたビル・エヴァンス・トリオのプレイもたいへんリラックスした、とびきり素敵な演奏内容ですよね 」
わたし   「最後のコーダ部分で、エヴァンスが主旋律をピアノ・ソロで再現するさりげなさ、楽曲の良さをダメ押しするわね 」
マスター  「実は、長らく未発表だったエヴァンスの『ルーズ・ブルーズ 』(Milestone / 1962年8月録音 )というアルバムの中に、そんな 『マイ・ベルズ 』の初演テイクが含まれているんですよ。その録音は、よく知られたリヴァーサイドの名盤 『インタープレイ 』(1962年7月録音 )とほぼ同時期のレコーディングで、フレディ・ハバードの代わりにズート・シムズ(テナー・サックス )が、パーシー・ヒースの代わりにロン・カーター(ベース )が参加、さらにドラムスはフィリー・ジョー・ジョーンズ、またエヴァンスとは相性の良かったギタリスト、ジム・ホールも加わっていますから、その魅力的なメンバー構成には 聴く前から興奮するでしょ 」
わたし   「ふんふん、それ ぜひ聴いてみたいわ ! 早く聴かせて頂戴。 」
マスター  「・・・すみません、奥さん。『ルーズ・ブルーズ 』は 今 ソッ・ピーナにはないんですよ 」
わたし   「一体これで何度目かしら、マスターが わたしをがっかりさせたのは( ) ぷん ぷんすか 」
マスター  「で、でも( ) もし奥さんが『マイ・ベルズ 』 をそっちのヴァージョンで先に聴いていたら、意外なあか抜けなさに きっとがっかりなさったと思いますよ。なにしろ期待に反して 演奏には全然まとまりないし、フィリー・ジョー・ジョーンズなんか せっかくの原メロディの良さをぶち壊すようなラテン・リズムを叩いてるんですから 」
わたし   「って、ますます聴きたくなるじゃないの ( ) 」


8. ブルー・インタールード Blue Interlude (ショパン作曲のテーマによる )06:03
ショパン Frédéric François Chopin 
マスター  「この名盤の最後に納められたクラシック・アレンジ作品は、Cマイナーの渋い一品。まず冒頭 木管アンサンブルが、ピアノの詩人ショパン(1810-1849 )作曲の 『前奏曲第20番 ハ短調 』 の旋律を提示します 」
わたし   「葬送のテーマを支えるハーモニーをオスティナートのように繰り返し、そのリズムに乗せてビル・エヴァンスが自由に即興演奏を繰り広げるという趣向ね。そんなオガーマンの秀逸なアレンジ方法って、実はバッハの時代のパッサカリアシャコンヌのようだわ。原曲は僅か13小節ほどの短さなのに、この曲には 何か補足してみたくなるような魅力があるんじゃないかしら 」
マスター   「オガーマン以外にも この曲を採りあげたミュージシャンって 過去いたんですか 」
わたし   「ブゾーニが 『ショパンの前奏曲第20番による変奏曲とフーガ 』 という曲を作っているし、たしかラフマニノフにも何かあったような 」
マスター  「ショパンが この曲を含む 『24の前奏曲 作品28 』 を完成させたのは、愛人ジョルジュ・サンドと二人っきりで ひと冬を過ごした、マジョルカ島の修道院だったそうですね 」
わたし   「そう、そこでジョルジュ・サンドは この暗い曲を『死せる修道士たちの歌 』と呼んでいたそうだよ 」
マスター  「その古い修道院の中で、ショパンサンドは 亡き修道僧の幻影を見ちゃったんじゃないですかー ? 」
わたし   「きゃーっ ! 」

ショパン「前奏曲集 」ポリーニ(D.G. )
▲ ショパン作曲 「24の前奏曲 作品28 」
力強いマウリツィオ・ポリーニの旧盤(D.G. / 1974年 )で ぜひ原曲をお聴き比べください。「前奏曲集 」は 全曲すべてが異なる調性で書かれていることが特徴。その工夫は 偉大な先人 J.S.バッハ平均律クラヴィーア曲集を連想させます。



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コメント

デイヴ・ブルーベックの「ブランデンブルク・ゲート 再訪 」 !

木曽のあばら屋さまの 守備範囲の広さにはいつも 感服です。 ご来訪 ありがとうございます !  それで わたしも 今日‐日曜の午後は、あばら屋さま オススメのブルーベック「ブランデンブルク~ 」 を久しぶりに聴き直してみました。そうしたら 弦楽オーケストラの真摯な役割が クァルテットの単なる伴奏にとどまらず 十分 互角の働きをしていることや、中でも 実力者であるジョー・モレロのドラムス・ソロの活躍する場が たっぷりと用意されていたり、何よりも デイヴ・ブルーベックが有していた がっちりしたモダン・ミュージックのセンスがこれほど高いものだったかとあらためて再認識するなど、さきほどまで深い感銘に浸っていました。 うーん、あばら屋さまが以前書かれていた文章も より多くの皆さんに読んで頂きたいものですね (こちら)▶ http://www.h2.dion.ne.jp/~kisohiro/brandenburggate.html 

URL | “スケルツォ倶楽部”発起人 ID:-

ちゃんと聴いてみます

こんにちは。
このアルバム持ってるんですが、世評に流されてか、きちんと聴いてませんでした。
ひとつ虚心坦懐に聴いてみるとします。

ジャズ・コンボとオーケストラの共演といえば、デイヴ・ブルーベックの「ブランデンブルク・ゲート再訪」が好きで
以前から愛聴してます。

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