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ブリテン : 歌劇 「ねじの回転 」 The Turn of the Screw
(原作:ヘンリー・ジェイムズ )
 - 本当はもっと怖い真相 

benjamin britten (5) スケルツォ倶楽部_ねじの回転_ピアノ

第二幕 第6場「ピアノ 」 

 屋敷内にしつらえた教室で、マイルズ少年が巧みにピアノを弾いています。この場の音楽は 最初から最後まで 殆どマイルズのピアノ伴奏に主導されながら展開します。その圧倒的な支配力は 象徴的なほど。
 家庭教師の「先生 」と 家政婦グロース夫人は そのピアノを囲んで 卓越したマイルズのプレイに聴き入り、しきりに感心し合っています。その傍らでは 妹のフローラがひとり 床に座りこんで 熱心にあやとりに興じている、という 一見とても平和な日常風景のようです。が、ここから第7場「フローラ 」、第8場「マイルズ 」と衝撃的なラストまで 一息に運んでしまう原作者ヘンリー・ジェイムズの筆の力量は驚異的、この第8場におけるマイルズの「ピアノ 」演奏は その端緒ともなる 不吉なプレリュードなのです。

 このシーンで マイルズが弾いていた曲は何だったのか、実は 原作にも指定はありません。
 映画 「回転 Innocents 」 では ジョルジュ・オーリック作曲の ワルツ 「柳の歌 」でしたが、この選曲には 効果的な理由がありました。 ⇒ 詳しくは こちら
 このオペラにおいては ブリテン作曲のオリジナルエチュードが使われていますが、その左手の常套的な伴奏音型右手のフレーズも 判る人ならどなたも一聴で感じるとおり「いわゆる古典音楽 」の記号であることは 明白です。
 具体的には、モーツァルトソナタK.545ハ長調明朗な第1楽章「トルコ行進曲 」 として知られる K.331第3楽章を 混ぜ合わせた上、モーツァルト繊維質だけをするりと抜き出した後の残滓のような、とても不思議な音楽です。

楽譜 ねじの回転 マイルズのピアノ
【 ご参考に 】 
クラヴィーアを弾くモーツァルト(エッチング、G.A.Sasso ) グルダ_モーツァルト(amadeo )
▲ モーツァルト : 
ピアノソナタ 第11番イ長調 K.331 「トルコ行進曲付き 」、第15番ハ長調 K.545
(併録 : 第13番変ロ長調 K.333、 ロンド ニ長調 K.485 )
フリードリヒ・グルダ (ピアノ )
録音: 1965年
音盤:PHCP-20328 ( 原盤 amadeo 462 926-2 )


 少年のピアノを聴きながら「先生 」は グロース夫人に近づくと、その耳元で 昨晩 子どもたちの伯父であるロンドンの後見人に宛て、救援を求める手紙を書いたことを告げます。 「それはよろしゅうございました 」と無邪気に喜ぶグロース夫人。まだ「先生 」は この直前の第5場クイントに操られたマイルズ手紙を盗みだしたことを 知らないようですね。マイルズピアノも まるで二人の会話に聞き耳を立てているかのように「先生 」の台詞の間は意図的に控えめな動きになります。
 
 モーツァルト風の古典音楽もどき が一段落する頃、グロース夫人は 今度は床に座りこんでいる 妹のほう フローラに気を配ります。グロース夫人フローラと一緒に唄う あやとり歌「ねこの揺りかご 」 の歌詞を、“スケルツォ倶楽部発起人も ひとつ谷川俊太郎氏風に和訳してみましょう。

「糸と空気でできている、ねこの揺りかご あやとりを、
 解いたら そこには なーんにもない ! 」
「せわしく賢く紡ぐなら、子ねこの揺りかご あやとりは、
 いついつまでも 続くでしょう・・・ 」


 暖かい部屋、快いピアノの音色、遂にグロース夫人は うとうとと舟を漕ぎはじめてしまいます。そんな老家政婦に追い打ちをかけるように、フローラマイルズピアノを伴奏に乗せながら子守唄をひとつ投下します。

「両目を閉じて、そうすれば、あなたの揺りかご できるでしょう 」
「ねんねこ ねんねん、おねんねなさい (Go to sleep ! go to sleep ! ) 」


 ・・・ご記憶でしょうか、最後の一行の歌詞フレーズ第一幕第7場「湖 」で、ジェスル先生死霊が湖畔に姿を現わす直前に、フローラが彼女の人形に歌っていた子守唄と同じものではありませんか。その際にはチェレスタが演奏していた不吉な分散和音の音型を、ここではマイルズピアノで再現していることに ご注意ください。
 深い眠りに落ちたグロース夫人の横顔を眺めながら、フローラは 誰にも気づかれることなく こっそり部屋を出てゆきます。
 次の瞬間、家庭教師の「先生 」は いつのまにか 部屋にフローラの姿がないことに 突然 気づきます。大変 ! お目付け役のグロース夫人は - と見れば、ああ…(舌打ち )なんと 気持ちよさ気に寝ているではありませんか。
 
 ジェイムズ原作では、ここで「先生 」は マイルズの所在を尋ねます。しかし 少年は「さあ、ぼくが知るわけがありませんよ 」と、素っ気なく答えると愉快そうに笑い「その笑いを音声による伴奏か何かのようにして、すぐに支離滅裂で派手な曲を弾きはじめ 」た との描写が。 たしかに、この前後のピアノ・パートは まさしく「支離滅裂で派手な 」という表現がぴったり、まるでバルトークのように素晴らしくパーカッシヴな音楽です。
 オペラでは、ピアノを演奏中のマイルズに「先生 」が話しかけるくだりは、残念ながらありません、代わりに彼女老家政婦を揺り起こします。
グロースさんったら、ほら起きて頂戴、出て行っちゃったみたいなの 」
「え、はあ ? 誰がですか、先生 ? 」
フローラよ。きっとだわ、ジェスル先生に呼ばれて行ったに違いないわよ。早く探しに行かないと 」
「あ、でも マイルズ坊ちゃま を独り ここへ置いて行かれるんですか 」
「ああ、でも今は 気にしていられないわよ、あの子はクイントと一緒なんだからマイルズは、今 フローラが部屋を出ることを私たちが邪魔しないよう、ちょっと人力も及ばないような方法を見つけたんだから 」
それこそ、二人の注意を 自分のピアノ演奏に惹きつけておくということでした。

 躊躇するグロース夫人の袖を ぐいぐい引っ張りながら フローラを探しに、慌ただしく彼女と「先生 」が教室を退場すると、独り残されたマイルズは「勝ち誇ったように ピアノを弾き続ける ( Miles goes on playing triumphantly ) 」 と、ブリテンメアリー・マイファンウィ=パイパー脚本(ト書き )には記されています。
Vince Guaraldi_Oh Good Grief
 ・・・はい。 ここで 舞台の照明は ゆっくりとフェイド。 はたして フローラは何処へ行ってしまったのでしょうか・・・ ?

次回は・・・ 【第二幕 第7場「フローラ 」 】


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