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ブリテン : 歌劇 「ねじの回転 」 The Turn of the Screw
(原作:ヘンリー・ジェイムズ )
 - 本当はもっと怖い真相 について、無謀な究明を企てる。

benjamin britten (7) ピーター・ピアーズ Peter Pears  Ian Bostridge

第二幕 第5場「クイント 」 

 ブリテンの歌劇「ねじの回転 」、全二幕十六場 それぞれ各場の前(場面転換に相当する )には すべて短い間奏曲が置かれています。
 それらは、(冒頭のプロローグ後 )オペラが開幕して最初のシーンである 第一幕第1場「旅 」に先立って演奏される「テーマ 」において提示された基本的な音列(下記楽譜 ) に基づいて 周到に作曲された「変奏 Variation 」であることは、すでに触れました。
ブリテン「ねじの回転 」の音列
▲ Wikipedia より

 そのいずれもが 基本的には、声楽を伴わない器楽曲(インストゥルメンタル )ですが、ただ一曲だけ例外があります。それが、この第二幕 第5場「クィント 」の前に置かれた間奏曲「第12変奏 」です。演奏時間にして わずか1分数十秒ほどの、この歌劇中でも最小の間奏曲ですが、しかし 唯一これにのみ声楽が伴っています。場面転換の間ずっと 亡きピーター・クイント役のテノール歌手が舞台を徘徊しながら 短い台詞を偏執狂的に繰り返します。

―  So ! She has written.   そーうか、彼女はとうとう手紙を書いたのか。
   What has she written ?  何を彼女は書いたんだろう。
   What has she written ?  何を彼女は書いたんだろう。
   What has she written ?  何を彼女は書いたんだろう。

―  She has told all she knows.  彼女は自分が知っていることすべてを書いたと言った。
   What does she know ?     何を彼女は知っているんだろう。
   What does she know ?     何を彼女は知っているんだろう。
   What does she know ?     何を彼女は知っているんだろう。

―  It is there on the desk,  手紙は机の上に、
   there on the desk.     勉強部屋の 机の上に置いてある。
   Easy to take         取るのは簡単だ。
   Easy to take         取るのは簡単だ。
   Easy to take !        盗るのなんか簡単だ。

 さて、こんなところで どうでもよい話を 闖入させてしまい 恐縮なんですが、 実はここ いわゆる 「空耳 クラシック 」 な ところで、クイントWhat has she … What does she … と 何度も 何度も 繰り返す個所、日本語で はっきりと 「わたし 」、「わたし 」 と 自己紹介をしようとしているように 聞こえてくるんです。 って、 一度 そう思って聞いてしまうと もうダメでしょうね、きっとアナタも(笑 )。 スミマセン、どうか ご覚悟のほど。

 ・・・ もとい。 マイルズが「先生 」の書いた手紙を盗む場面そのものは、原作には ありません( 漸く最終場面における「先生 」との 息づまるような会話の中で 本人が否定しないという形で 示される程度 )。
 従って、当ブログ中では再三の繰り返しともなりますが、原作では 決して言葉を発しないピーター・クイント( もちろん ミス・ジェスルも )の歌劇中に現れる台詞のすべては、脚本担当である メアリー・マイファンウィ=パイパーと作曲者ブリテン自身によって新たに創作されたものなのです。
Mary Myfanwy Piper Benjamin Britten on Piano

 音楽は、短いけれど 「ねじの回転 」の、まさに「スケルツォ楽章 」とも呼べる魅力的な楽曲で、弓を捨てた弦楽器奏者による無窮動風な ピッツィカート奏法 と管楽器の不吉なハーモニーとが交互に現れながら 落ち着きなく舞台上を動きまわるクイントに寄り添います。
 やがて真っ暗な勉強部屋のドアが静かに開いて、ためらいがちに 誰かが入ってきます - パジャマ姿のマイルズです。マイルズ=生者が 初めて舞台に現れた瞬間、間奏曲「第12変奏 」は終わりを告げますが、音楽は途切れることなく そのまま第5場に。この場は 先立つ間奏曲よりも さらに短く、1分間にも満たない演奏が殆どなのではないでしょうか。
 この短い一場は、クイントマイルズへの指示だけが繰り返されます。

― Take it ! 手紙を盗(と )れ !
   Take it ! 手紙を盗(と )れ !
   Take it ! 手紙を盗(と )れ !

ブリテン ねじの回転_初演メンバー ブリテン ねじの回転_ハーディング盤
▲ ところで、作曲者自演(DECCA )盤におけるピーター・ピアーズが歌うクイントは別格ですが、この場面に限っては、ダニエル・ハーディング / マーラー・チェンバー・オーケストラ盤(2002年、Virgin )のクイントイアン・ボストリッジの鬼気迫る歌唱、凄いです。スケルツォ倶楽部 推薦。

 もとい。マイルズは 終始無言です。彼は、手紙が置かれている「先生 」の机の上に置かれている手紙を手に取ると、それを持って部屋を出てゆきます。これを見とどけ、クイントガッツ・ポーズを決める( ? )ところで 舞台は暗転、完全な闇に沈みます。

 その「手紙 」とは、主人公である家庭教師の「先生 」が 長い躊躇の末、雇い主であるロンドンの後見人(子どもたちの伯父 )に宛て、第二幕第3場で したためたものでした。後見人に来訪を要請するのに何をためらう必要などあろうかと思われますが、これも前述のとおり、「後見人を煩(わずら )わせず、ブライ邸で起きる子どもたちに関するすべての責任を負うこと 」こそが、家庭教師として「先生 」が採用されたときの条件だったから、それゆえ 今まで彼女は孤軍奮闘してきたわけです。
 しかし 屋敷で起きた過去の真相すべてを知ったわけではないものの、本能的にこのままでは子どもたちが危険であることを直感、切羽つまった彼女が書いたのが この「手紙 」だったのです。

Henry James
ヘンリー・ジェイムズ の原作では この重要な小道具である「手紙 」は、第18チャプターに登場、これを書き上げた「先生 」がホールの大テーブルに置いて、グロース夫人に頼んで 下男のひとり(黙役 )に投函させるよう指示する場面がでてきます。しかし(詳しくは もう少し後に述べさせて頂くことになりますが )、フローラを ロンドンの伯父のところへ緊急避難させなければならない非常事態となり、少女に同伴して出立しようとするグロース夫人に 別れ際「先生 」が 手紙について話題にする場面を引用させて頂きます。

―  「お手紙は先に着いていません、先生。投函されていませんから 」
「では、どうなったのです 」
「さあ。マイルズ坊ちゃまが・・・ 」
「とったのですか ? 」あえぐように尋ねました。
 グロースさんはためらっていましたが、思い切ったようです。「昨日、嬢ちゃまと戻ってきたとき、先生が置かれた場所から動いていました。遅くなってルーク(下男の名 )に問い質す機会がございました。ルークは見なかったし、手も触れなかったと言っていました 」

(以下略、青字部分土屋政雄 / 訳:光文社版より )。

 そうなのです。
 原作では、消えた手紙の行方はまだ曖昧にされており、マイルズが盗ったとは(この時点ではまだ )必ずしも断定されてはいないので、オペラ化された際に 付け加えられた この一場が 原作には存在しない上、あからさまに クイントによって操られたマイルズが 手紙を手にしてしまうなど、あまりにも ベタ説明的過ぎるのではないか、蛇足ではないか - という気が 正直 しないでもありません。
 逆に、敢えて 重要な場面をカットしてしまう ことによって、より効果を上げるという映画的な手法もあるほどですから。それらは、たとえば黒沢明監督の映画影武者 」のように、ハリウッド的娯楽映画であればクライマックスとなるべき長篠合戦シーンを一気に飛ばして武田軍敗退の惨状からつるべ落としのようにエンディングに持ち込む方法や、村上春樹の小説「ノルウェイの森 」のように 主人公の恋人が自死を選ぶくだりを まるまる書かなかったり (直子の安否を心配しつつ 第10章を読み終えた読者は、続く第11章の最初のページで すでに彼女が死んでいることを知らされ、唖然とすることに )・・・ これらの他にも もっと適切な作品例があるかもしれませんね。
 実は、今回の記事文章は、今 思いつくままリアルタイムに書き(打ち )連ねています、後になって もっと他に思いついたら、私 “スケルツォ倶楽部発起人、これに補足の文章を上書きするかもしれません。何かと多忙で・・・ 選挙にも これから行ってこなきゃだし。 どうもすみません。

次回は・・・ 【第二幕 第6場「ピアノ 」 】

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