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クリストファー・ホグウッド師のご冥福を祈念します。
- 歴史的な 「モーツァルト 交響曲全集 」の思い出

Hogwood_by Yamamoto Hiromichi Hogwood.jpg

イギリスの指揮者、鍵盤楽器奏者、音楽学者
クリストファー・ホグウッド氏 死去


以下、青字の文章は、 2014年 9月25日掲載 タワーレコードHP から (尚、一部 発起人による加補筆あり )
クリストファー・ホグウッド
Christopher Jarvis Haley Hogwood(1941年 9月10日 ~ 2014年 9月24日 )
 イギリスの指揮者、鍵盤楽器奏者(チェンバロ・オルガン )、ヘンデルの楽譜校訂など音楽学者としても著名。
1941年9月10日、イングランドのノッティンガム生まれ。ケンブリッジ大学ペンブローク校で古典学を学んだ後、専攻を音楽に変え、レイモンド・レパードとサーストン・ダートに師事。その後、ラファエル・プヤーナやグスタフ・レオンハルトらにチェンバロ演奏を学びました。
 1967年、ケンブリッジ在学中からの盟友だったデイヴィッド・マンロウ(1942~1976 )とともにロンドン古楽コンソートを創設。
ネヴィル・マリナーによるアカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールドのチェンバロ奏者を務めていた時期もありました。
1980年代のホグウッド Young Hogwood playing an early harp
 1973年にエンシェント室内管弦楽団を創立、オリジナル楽器とピリオド奏法でバロック音楽から現代作品に至るまで幅広いレパートリーで活躍したことで知られます。この時期には、主にデッカ傘下のオワゾリール・レーベルから多くのアルバムがリリースされました。特にモーツァルトの交響曲全集(78~85年 )は 古楽器では初の試みとして ベストセラーになりました。
クリストファー・ホグウッド - Christopher Hogwood

 1988年から92年まで、アメリカ、ミネソタ州のセントポール室内管の音楽監督を務め、日本にも東京フィルハーモニー交響楽団やNHK交響楽に客演し好評を得ました。
2014年11月には東京都交響楽団への客演指揮も予定されていましたが、病気療養のため来日中止となっていました(公演は、協奏曲K.466 の独奏者として予定されていた ロバート・レヴィンが弾き振りによって、予定されていた全プログラムを務めるそうです )。
 訃報は その情報が告知された直後のこと -  9月24日(水)、享年73歳 でした。
                        (以上、2014年 9月25日掲載 タワーレコードHP より )


ホグウッド(左 ) と レヴィン ◀ ホグウッド(左 ) と ロバート・レヴィン

 
 “スケルツォ倶楽部発起人
クリストファー・ホグウッド師のご冥福を 心よりお祈り申し上げます。

 

 私 “スケルツォ倶楽部発起人 にとって、ホグウッドが成し遂げた業績の中でも 記憶に残るものといえば、やはり -  一般のクラシック音楽愛好家のひとりを自認する立場からも決して落とせません -  盟友ニール・ザスロウヤープ・シュレーダー、そしてエンシェント室内管弦楽団との偉大なる成果 「モーツァルト 交響曲全集 」 です。

ホッグウッド モーツァルト交響曲全集ホッグウッド、シュレーダー、エンシェント室内管弦楽団
モーツァルト:交響曲全集 (CD 19枚組 )
クリストファー・ホグウッド指揮
ヤープ・シュレーダー(コンサートマスター )
エンシェント室内管弦楽団
録 音:1978年 9月 ~ 1985年 8月、ロンドン
音 盤:オワゾリール(ポリドール POCL-2589~607 )


 演奏者の人数、楽器の編成や配置、楽曲のチューニング・テンポ設定・奏法など 判明し得る限り各楽曲の初演当時の姿を再現する古楽運動興隆の象徴的存在ともなったセットでした。
 古楽器による演奏では世界初の試みだったという話題性もさることながら、音楽の伝達媒体LPレコードからCDへと移行を遂げる市場タイミングでもあったこと、また折から モーツァルト没後200年 という記念年を控えた絶妙な時期だったことなども間違いなく追い風となって、この全集は 商業的にも大成功をおさめ、世界的な大ベストセラーになったものでした。
 ホグウッドが担った役割の一部 - それまでは一部の音楽学者の研究対象に過ぎぬ マイナーなイメージしかなかった「古楽 」を、実際に耳で聴ける対象として 現代に蘇らせた功績 - その大きさは 計り知れません。 ニコラウス・アーノンクールグスタフ・レオンハルト らとともに 大戦後ヨーロッパの 古楽復興運動の旗手として、その名は長く記憶されることでしょう。
 
 デジタル録音によるノイズも皆無な再生音によって、爽やかな風がリスニングルームを吹き抜けてゆきます。あまりにも清浄な「ハフナー 」、「リンツ 」。初めて聴く解釈による三大交響曲、室内楽を聴くような 第29番イ長調のテンポ、その演奏技術の確かさ、フルートから低音弦、爽やかに弾(はじ )けまくるティンパニ まで すべての楽器たちの姿がはっきりと透き通って見える 「プラハ 」、第25番ト短調のなんと軽やかで鮮明な新しさ・・・  私たちアナログ時代からの旧世代リスナーにとって、このレコーディングを リアルタイムで 聴いたときの 衝撃の大きさは 今も忘れることはできません、それは誇張なく 新時代の到来 でした。

Christpher Hogwood モーツァルト 最期の年
 様々な意味で、ホグウッド / エンシェント室内管弦楽団による この モーツァルト交響曲全集(オワゾリール )は、私の人生を変えたセットです - って、他人(ひと )には大袈裟(おおげさ )に聞こえるでしょうが、私にとっては 偽りない真実の気持ちです。 
以前 ふれた記事 ⇒  モーツァルト最期の年 」第13回から (後半部分をご参照ください )

 この国内盤につけられていた解説書の執筆を ご担当された石井宏氏による文章は、これだけで一冊の本として出版していただきたいほどのわかりやすさでした。ホグウッド自身が この全集に賭けた意気込み 来日時の講演で語ったくだり を 正確に受け止めた、そこには 石井氏の洞察力の深さも窺える、解説の一部を 引用(以下 青字 ) させて頂きましょう。

―  (ホグウッドは )自分のやった作業を レンブラントの垢落としにたとえていた。あの有名な「夜警 」の絵を、長いあいだ人々は 暗い夜の絵だと想いこんでいたが、せっせと洗って積年の埃を落としてみると、なんと窓からは明るい昼の光が差し込んでいたという話である。ホグウッドの行った検証もそれと同じで、19世紀や20世紀の間にモーツァルトの上に積み上げてしまった上層の埃を落としてみると、モーツァルト像はどうしてもこうならざるを得ないのだというふうになったのである。
 さらにホグウッドはその講演の折、某大家の演奏したモーツァルト第39番シンフォニー K.543第1楽章の序奏から主部に入る部分を、レコードをかけながら、いかに誤っているかを例証して聞かせた。その一つは、たとえば専任指揮者のいない18世紀のオーケストラでは、途中でやたらにテンポを変えられないので、序奏のアダージョ主部のアレグロのテンポには関連がなければ弾けない。それでは このアダージョアレグロとの間には、どんなテンポのつながりがあるのかといえば、アダージョの中の鮮やかな下降フレーズ(譜例1 )と、主部に入って現われる全く同じ音から成るアレグロの下降フレーズ(譜例2 )とが、同じ速さで弾かれるという約束になっているというわけである。従って アダージョ = アレグロ となり、アレグロはアダージョの倍テンポということになる。
楽譜 モーツァルト 39番-アダージョ 32分音符
▲ 楽譜1(アダージョの32分音符
楽譜 モーツァルト 39番-アレグロ 16分音符
▲ 楽譜2(アレグロの16分音符

 なるほど、この約束ごとさえ 頭に入っていれば、楽員は指揮者なしでもアダージョからアレグロにスムーズに入って行けるわけである。これに反して、アレグロアダージョの1.8倍のテンポであったり、2.3倍であったりするような演奏は、たとえロマンティックではあっても、すでに18世紀では考えられなかった演奏ということになる。(中略 ) これは、あくまで合理的な思索から発見されたものであろうが、証明の有無を超越して 万人に対して説得力を持っている。いわゆる“自明の理”である。こうした透徹した思考と(一部 略 )緻密な考証とが重なって、ホグウッドの演奏のベースができるわけである。

レンブラント「夜警」 レンブラント「夜警」垢落とし後
ホグウッドが来日時の講演で 引き合いに出した、レンブラント「夜警 」


Stravinsky Pulcinella、Gallo, Pergolesi Hogwood
▲ ストラヴィンスキー : 「プルチネッラ 」、ダンバートン・オークス 変ホ長調
ガッロ : トリオ・ソナタ第1、2、7番
ペルゴレージ : チェロとコンティヌオのためのシンフォニア
クリストファー・ホグウッド指揮
セント・ポール室内管弦楽団
録音:1989年
原盤:Decca / London (POCL-1013 )

それから、こんなのもありましたね。 え ? ホグウッドストラヴィンスキー ?  ・・・ はい。 ストラヴィンスキーの新古典派バレエ「プルチネッラ 」全曲と、その元ネタ たる 18世紀中葉の作曲家 ペルゴレージガッロの原曲を聴き比べることができます。 「擬古典主義的モダニズム 」解明も そのライフワークだった、ホグウッドの好企画盤でした。


▼ あ、そうそう オワゾリールホグウッド / エンシェント室内管弦楽団 による古典派といえば、かすかに フォルテピアノも聞こえてくる ベートーヴェン交響曲全集、 大のお気に入りでしたね。
 このディスクの話題も 機会を みつけて、いずれまた !
Hogwood Beethoven Loiseau-lyre_1,2 Hogwood Beethoven Loiseau-lyre_3 Hogwood Beethoven Loiseau-lyre_4,5
Hogwood Beethoven Loiseau-lyre_6 Hogwood Beethoven Loiseau-lyre_7,8 Hogwood Beethoven Loiseau-lyre_9


 ああ、ホグウッドさん ったら、今ごろは 天国で 盟友デイヴィッド・マンロウと再会して、 彼に モーツァルトさんを 引き合わせてもらってるかなあ・・・
伝「モーツァルト 」とされる肖像画 David Munrow
▲ (左 ) 伝 モーツァルトとされる肖像画、(右 )デイヴィッド・マンロウ David Munrow


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