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ブリテン : 歌劇 「ねじの回転 」 The Turn of the Screw
(原作:ヘンリー・ジェイムズ )
 - 本当はもっと怖い真相 

Benjamin Britten ブリテン ねじの回転_初演メンバー

第一幕 第5場「窓 」

 かつて屋敷の使用人だったという ピーター・クイントの存在と やはり前任の家庭教師を務めていたミス・ジェスルとの経緯(いきさつ )を、「先生 」が 初めてグロース夫人から聞かされる、重要な場面です。
 
 その前に まず 屋敷内の大きな窓があるダイニングルームで、兄妹が「笛吹きトムごっこ 」に興じるシーンから始まります。ここではマザー・グースとして知られる イギリスの童謡 “Tom Tom The Piper's Son” (笛吹きの息子トムが ブタを盗んで叩かれる歌 )が使われ、これをブリテン独自の ひとひねりした素晴らしい編曲版で聴けることが 興味深いです。特に スネア・ドラムのマーチング風の動きと一緒になって、ヴァイオリンが 高域の開放弦 (EA )を ピッツィカートでリズムを刻む、その音色の オモチャっぽい効果が 最も耳につきます。

Tom Tom The Pipers Son

 無垢(イノセント )な子どもたちが無心に戯れる可愛らしい様子が、音楽で描かれます。二人の子どもの歌唱に関しては、ダニエル・ハーディング(Virgin )盤のマイルズ役(ジュリアン・ラング )とフローラ役(キャロライン・ワイズ )の歌唱演技が 自然で生き生きしており、たいへん上手いです。特に 妹のフローラ が 「もう一回、ねえ もう一回 Let's do it again, do it again 」と歌う 声と そのイントネーションが 本当に愛らしく、これが 耳について離れません。
 但し ジェイムズの原作には マザー・グースは出てきません。ブリテンと おそらく台本作家(メアリー・マイファンウィ=パイパー Piper ! )による アイディアでしょう。

 ・・・もとい。そんな子どもたちを ダイニングルームから退場させた「先生 」は、手袋を手にして自分も広間から出てゆこうとしますが、何気なく窓ガラスを見やった瞬間、恐怖で凍りつきます。昨日 塔上に立っていた同じ男が 今度は この窓のすぐ外側からダイニングルームの内側を覗(のぞ )き込んでいるではありませんか。
映画「ザ・ダークプレイス 」In A Dark Place(2006)より The Innocent より
▲ イメージ 左は 映画「ザ・ダークプレイス 」In A Dark Place(2006)、
右 は 映画 「回転 The Innocents 」(1961 ) より


 ここで音楽は 再びチェレスタが 不穏な空気の非日常性を醸し出し、前場(塔のシーン )で使われた「誰だろう Who is it ? 一体何者だろう Who can it be ? 」の短い疑問フレーズを素早く木管が繰り返します。「先生 」は、謎の赤毛男と窓ガラスを挟んで内側と外側とで瞬時見つめ合いますが、間もなく相手は姿を消します。
 
 ジェイムズの原作では、ここで「先生 」は 猛然と部屋を飛び出し、屋敷の玄関からテラス沿いに全力で駆け抜けると ダイニングの窓の外側へ、すなわち先刻 男が立っていた まさにその場所に到達、そこにいるはずの来訪者が不在であることを確かめると、次は自分の顔を窓ガラスに近づけて さきほど見知らぬ男がしていたように外側からダイニングの中を覗き込んでみるのです。そのとき屋敷の内側では 偶然グロース夫人がホールから部屋の中に入ってきて、 「先生 」が 先刻 男を目撃したときのように、今度は人を替えてグロース夫人が 窓の外にいる「先生 」の 本当に青ざめた顔に驚くところまでの描写が克明に書かれています。



 見知らぬ男の度重なる出現に 恐怖のあまり真っ青になってしまった彼女の様子に気づき、心配してくれるグロース夫人に問われるまま、「先生 」は 不審者の人相風体を話します ‐ 「髪は赤く縮れ、面長で青白く、長身で 髭はきれいに剃っている 」と。
 これを聞いたグロース夫人、突然 怯えながら「そいつは ピーター・クイントです 」と断言、ここに至った屋敷内の経緯(いきさつ )を語り始めますが、少なくとも これを聞き始めた時点で「先生 」は まだクイントが 当然 生存している者だと思っていることに、ご注意ください。

ねじの回転_家庭教師と家政婦
ピーター・クイントは このお屋敷や庭園、ご主人様の身の回りのお世話などを任されていた雑用でした。身分の低い卑しい者だったにもかかわらず、屋敷の誰に対しても 特にマイルズ坊ちゃまに対しても馴れなれしく接し、二人でよく何時間も一緒に過ごしていました。
「それだけではありません、クイント前任の家庭教師だった あの美しいミス・ジェスル、立派な淑女で クイントなどよりずっと身分も高い方でしたのに、彼女に対しても無遠慮に振る舞っていたのです。クイントは小指の先ひとつで、朝から晩まで 小さな二人のご兄妹ジェスル先生を 自分の思いのままにできたのです。
「わたしは、あの男が 屋敷の中で何でもやりたい放題できることが怖かった、そして あの男のやることすべてが気に入らなかったのです。 ・・・やがてジェスル先生は去っておしまいになりました、彼女はここにいられなくなってしまったのです、そして逝ってしまわれました。 」

 家庭教師は、前任者がすでに亡くなっていた事実こそ聞かされてはいましたが、そのような経緯があったとは初耳でしたから、たいへん驚きます (彼女の 死に至る具体的な経緯は、原作者ジェイムズによって 巧みにぼかされてはいますが - )。
「・・・それで クイントは ? 」
「彼も 死にました 」
え ? 死んでいるんですって ?
ここで初めて 家庭教師 ピーター・クイントが「死者 」だったことを知ります。それでは、塔の上や ダイニングの窓の外にいた男は 一体誰なのか・・・ 彼女の頭の中は混乱を極めたことでしょう。

 さらにグロース夫人は、ピーター・クイントの死んだ状況を語り続けます。以下、経緯の詳細はジェイムズの原作からも補足します。
「冬の寒い朝、村に通じる道の坂下でクイントの死体が発見されました。前夜パブでしこたま飲んで泥酔したクイントは 暗闇の中、おぼつかない足取りで帰り道を間違え さまよううち、凍りついた急坂で足を滑らせるかして 転倒し、頭を強打したものと思われました。頭部に小さな傷があり、残された状況から 警察の捜査でもそれを最終判断とする旨、説明されたそうです 」

 「先生 」は、この屋敷で何かよくないことがあったに違いない、その影響が今もまだ 残っていることを知り、さらにクイントの標的がマイルズであることを直感し、さらに 自分こそが子どもたちを守らなければならぬという自身の役割と使命感を よりいっそう強く意識するようになるのでした。

次回は・・・ 【第一幕 第6場「授業 」 】

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