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ブリテン : 歌劇 「ねじの回転 」 The Turn of the Screw
(原作:ヘンリー・ジェイムズ )
 - 本当はもっと怖い真相 

Benjamin Britten ねじの回転_塔に立つ男

第一幕 第4場「塔 」

 短い間奏曲(第3変奏 )、ここでブリテンが音楽で描く イングランド湖沼地帯の大自然の美しさったら・・・ もう格別です。
 広大な自然の中を鳴き交わす野鳥の囀(さえず )りを木管が模す様々な魅力的な楽句、夕刻の日の翳りさえ表現し得た 絶妙な転調の素晴らしさ。
 けれど囀る野鳥の鳴き声に よく耳を傾けてみれば、それらは すべて歌劇冒頭で提示された、「基本的な音列 」から出来ていることに お気づきになるでしょう。試みに 下記の音を ピアノなどで自由に叩いてみてください、 私 発起人の言わんとするところが きっと容易にお判りになることと思います。
ブリテン「ねじの回転 」の音列

Beethoven at the age of 49( Josef Karl Stieler) ワーグナー Gustav Mahler Charles Ives
▲ ここでのブリテンの仕事は、ベートーヴェンの「田園 」交響曲第2楽章におけるウィーンの森の野鳥のさえずりワーグナー楽劇「ジークフリート 」第二幕における絶妙な「森のささやき 」などの系譜に連なるものであるとさえ思います。もちろん楽想はまったく異なりますが、ここでの音楽は マーラーアイヴズの 描写手法に近いものがあります。

 そんな初夏の夕暮れ、自然の美しさを満喫しながら 気も晴れ晴れと広い庭園を散歩していた家庭教師は、庭の一隅に立つ塔の上に立つ人影に気づきます。ジェイムズの原作では このシーンにおける空気感の微妙な変化が 以下のように記されています(引用部分は青字 )。

  ―  なんということでしょう、その人物の出現と同時に、辺り一面に摩訶不思議な変化が起こったのです。(中略 )息を呑んで目の前の何かを見定めようとしていたとき、それ以外の光景がまるで死一色に染まったかのように変わりました。あの強烈な静寂が聞こえてきます。夕暮れの物音がすべて消え失せ、金色の空でカラスが鳴くのをやめ、わたしの時間は暫時すべての声を失いました(土屋政雄 / 、光文社 )。

 ブリテンの音楽は この原作の記述にもあまりにも忠実に、謎の人物出現の瞬間を描き出しています。突如オーケストラは沈黙し、この第4場冒頭からずっと聞こえていたはずの野鳥は 囀(さえず )りをぴたりと止め、夏の午後の牧歌は一切聞こえなくなり、チェレスタとのフラジオが非日常的な空気を暗示します。
 一瞬ですが、なぜでしょう、彼女は ロンドンの後見人が 自分の仕事ぶりを見に わざわざ来てくれたのではないかと 好意的な喜びとともに想像しますが、そんなあり得ぬ空想を すぐに打ち消すと、塔の上の見知らぬ男を凝視します。 彼女の知る限り、それは屋敷にいる使用人でもなければ 村人の誰かでもありません。 「誰だろう Who is it ? 一体何者だろう Who can it be ? 」  木管のアンサンブルが 彼女の不安な心の内面を表すかのように 浅い呼吸を繰り返し 不定型な短い楽句が背すじを吹きぬけてゆきます。塔上に立つ赤毛で長身の男のほうも 家庭教師の顔を黙って見つめ、二人は距離を置いて しばらくの間 凍りついたように睨み合います。
 初めてドラマに接する客席の聴衆は、この新しく出現した人物が何者か理解できず、シートから思わず身を乗り出すところでしょう。しかし この男は 普通のオペラのように( って 極端な比較ですが、ヴェルディの「オテロ 」のように タイトルロールが高所から出現して たとえば「武器を捨てよ 」と叫ぶとか ) 歌い出すわけでもなく、台詞も言わず、何もせず、しかし彼女から視線を外すこともなく、その間 果たして どれだけの時間が経ったでしょう、無言のまま その身をひるがえすと、ゆっくりと 塔上から姿を消すのでした・・・。

次回は・・・ 【第一幕 第5場「窓 」 】

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