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ブリテン : 歌劇 「ねじの回転 」 The Turn of the Screw
(原作:ヘンリー・ジェイムズ )
 - 本当はもっと怖い真相 について、無謀な究明を企てる。

Benjamin Britten Henry James

プロローグ

原作のイントロダクション
 イギリスでは - 少なくとも19世紀中頃には - クリスマスの季節になると 聖夜を祝う夕食に招待され、もてなしを受けた客たちが 屋敷の主人に礼を述べる代わりに、暖炉を囲んで ひとりずつコワイ話や怪談を披露するという楽しい習慣があったそうです。
 ある屋敷で催された そんなクリスマスの夜会の参加者が、ぽつりと口にします。
「罪のない 純真 (イノセント )な 子どもが 一人、怪談に登場すると、なんだか 心のねじが ギリッと一回転、余計に食い込むような気になるね 」
「そうすると もし子どもが二人だったら どういうことになるのかな 」
誰かが 答えて言います。
「そりゃ 二回転分深く食い込むのさ 」
「ついでに、こっちの聞きたい気持ちも それだけ強まる 」
来客の一人で ダグラス氏という男性が、どうやら“二回転分”深く ねじが食い込むスケールの怪談を用意しているらしく、そこで ゆっくりと立ち上がると、客間の暖炉の前まで歩み、炎を背にするように振り向きました。
「これまで 誰にも聞かせたことがない、実に恐ろしい物語がある 」
好奇心をくすぐられた来客たちは、互いに顔を見合わせました。
「それは、すべてを超える - 私の知るどんな話も足元に及ばない 」

 これが、ヘンリー・ジェイムズによる「ねじの回転 」原作の冒頭シーン。「ダグラス氏 」が語る 恐ろしい物語とは、かつて彼の妹の家庭教師を務めていた旧知の女性から40年前に聞かされた物語であり、その女性 - 彼女自身もすでに亡くなっているそうです - が 生前書き残した手記を朗読する、という少し複雑な多重構造を装っています。
 もう最初から 原作はこんな曖昧なすべり出しなのですが、でも大丈夫。不安になることはありません。ここまでの前置きの枠は これから始まるストーリーを理解する上では 殆ど気にしなくてもよいからです。語り手であるはずの「ダグラス氏 」も その後 二度と登場しません。ストーリー・テラーたる「語り 」の主体は、もうすでに その女性へと移っているからです。

 ブリテンが作曲したオペラのストーリーは、この主人公の女性が かつて住み込みの家庭教師として務めていた屋敷での ある恐ろしい体験が 時系列で描かれています。
 歌劇全体は 二幕に分けられ、各幕は さらに小さな8つの場(各場にはタイトルが付いています )に細分化、わかりやすく構成されています。プロローグ各場は インストゥルメンタルの短い間奏曲によって円滑につなげられているのですが、これらすべての間奏曲が いずれも簡潔で 短いながら 、実によくできた秀作揃いなのです。前回もどこかで書きましたが、この十五の変奏曲を抜き出して、コンサート・プログラム用の演奏会組曲にできないものでしょうか。歌劇の全曲上演の機会にしか演奏されないとしたら ちょっと もったいないほどの名曲だからです。

オペラのプロローグ
 舞台袖に「ダグラス氏 」(原作でも最初だけ登場 )を思わせる人物(テノール )が現れ、物語の由来を案内します。

「 - これは 奇怪な物語 curious story だ。ここに私が持っているのは、色あせたインクで、女文字で書かれているが、これを記した女性は ずっと昔、二人の子どもの家庭教師をしていた。

「まだ若く何の人生経験もなく、世間慣れもしていなかった彼女は、はじめに子どもたちの後見人が住むロンドンを訪れた。子どもたちの叔父で 唯一の親戚である後見人(オペラには登場しない )は若く、尊大だが陽気な青年だった。

「子どもたちは 年老いた家政婦(グロース夫人 )と一緒に田舎の屋敷に住んでいる。かつて前任の若い女家庭教師(ミス・ジェスル )がいたが、彼女は逝ってしまった。10歳の男の子(マイルズ )のほうは 学校の寄宿舎に入っているが、ちょうど夏季休暇で屋敷へ帰ってきているし、また 8歳の妹(フローラ )の世話も必要だった - ゆえに それが女家庭教師を必要とする理由だったというわけだ。

「ただひとつ条件があった。子どもたちの後見人は 非常に忙しい立場にある。仕事、旅行、友人、訪問、常に何らかの所用が詰まっていて まったく時間がない。ゆえに 可哀そうな甥と姪の世話はとてもできないため、住込みの家庭教師を務める彼女には 子どもたちに関わるすべての権限を与える何もかもすべてしてもらいたいあらゆる責任も負ってもらいたい、そして叔父である後見人のことを 決して煩(わずら )わさないでほしい、たとえ何が起きても自力で解決し、報告も相談も無用手紙を書くことさえ遠慮してほしい、一切を没交渉で ただ黙って最善を尽くしてもらいたい - と。

「彼女は この仕事を受けるべきか、非常に躊躇(ためら )った。

「しかし 彼女は、依頼者である後見人が たいへん紳士的でハンサムだった上、彼が多忙なビジネスマンであることを知って、なんとか彼の役に立ちたいと考えたのだ。

「そして 遂に依頼を承知して言った - 『 いたします ( I Will ) 』 と 」

 「プロローグ 」 - ここまでは、ピアノ一台だけを伴った独唱テノールによって語られるわけですが、「彼女は遂に依頼を承知した 」というナレーション以降、まるで忍び寄るように 初めて室内オーケストラが入ってきます。そこは、たいへん素晴らしい効果を生んでいます。実際には 劇場でも まさにここで幕を上げるのでしょう。
 ホラー文学などという、歌劇の題材としては古今稀な 不思議なストーリーが動き始める、その緊張と躍動感とを ブリテンが巧みに音楽でも演出しています。

ベンジャミン・ブリテン と ピーター・ピアーズ(右 ) ブリテン ねじの回転_初演メンバー 
 尚、この重要な前口上を述べるテノール歌手を務めるのは、初演の指揮も務めたブリテン自演盤における 作曲者自身とも親交深いことで知られる ピーター・ピアーズ や ・・・

Ian Bostridge ブリテン ねじの回転_ハーディング盤
▲ ハーディング盤における イアン・ボストリッジ など、ドラマの中で 神秘的な ピーター・クイント役を演じる歌手が これを兼ねて歌っていることが 多いようですね。

・・・ 次回は 【第一幕 第1場「旅 」 】

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