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若きマーラーの(疑作 )交響的前奏曲
Symphonisches Prealudium を聴く。

Der junge Komponist Gustav Mahler_スケルツォ倶楽部 マーラー(疑作 )交響的前奏曲_Symphonisches Prealudium
 「グスタフ・マーラー 全作品解説事典 」(長木誠司・著、立風書房 ) によれば、この謎に満ちた一曲 「交響的前奏曲 」は 「偽作 」とされています。 尤も 厳密に申し上げると「偽作 」という言葉自体には、本来の作者でない別人が 他人を欺こうと意図的にみせかけでこしらえるような - かつてオランダの贋作者メーヘレン フェルメールの筆致を真似て ありもしない宗教画をいくつも偽造したような - 「贋作 」という語に近いニュアンスがあり、いまだ 正確には作者不詳とされる 「交響的前奏曲 」に 敢えて付すなら「疑作 」という言葉を選ぶのが 無難であろうと思ってます。

 これがマーラーの作品ではないかという、わくわくするような可能性とともに そのタイトルが マーラーの作品目録等に並んでいるのを目にする度、私 “スケルツォ倶楽部発起人、一度はこの音楽を聴いてみたいものだと思いつつ 今まで ずっと その機会に恵まれずにまいりました。
 それが、先日たまたまAmazonマーケット・プレイスで 送料込み 1,649円という価格(もちろん中古品ですが )で、あの 「いわくつき 」の ネーメ・ヤルヴィ(CHANDOS)盤が出回っていることに気づき、思わず「1-Clickで 今すぐ買う 」 ことにしてしまったものです。 この ヤルヴィ盤を 「いわくつき 」などと書いたのは、すでにご存知のかたもいらっしゃると思いますが、この商品が CD一枚であるにもかかわらず、充分に大曲である交響曲第6番「悲劇的 」ノーカット全曲演奏に加え、さらに この「 Symphonisches Praeludium (所要時間 06分46秒 ) 」までも 僅かな余白に収めている( ! )という、常識的には あり得ないような カップリングのレコード として知られているからです。

 それから 一週間ほど待って・・・ 遂に手に入れましたよ、ヤルヴィシャンドス盤(踊 )。
 では まずはお先に メイン・プロ「悲劇的 」のほうを 早速 聴いてみることに。交響曲の速度は 相当速いことが 容易に想像できます。

ネーメ・ヤルヴィ マーラー(疑作 )交響的前奏曲_Symphonisches Prealudium
マーラー:交響曲第6番「悲劇的 」
     第1楽章         (20:01 )
     第2楽章 スケルツォ (11:32 )
     第3楽章 アンダンテ (13:37 )
     第4楽章 フィナーレ (27:07 )
     「交響的前奏曲 」  (06:46 )
ネーメ・ヤルヴィ指揮
ロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団
録 音:1992年 11月 8日、9日
音 盤:Chandos(CHAN- 9207 )


 うーん、軍団の行進・・・などでは もはやないですね、彼らは 完全に手首を胸の位置まで上げて走っています。といっても 制限時間に合わせることを強いられた結果の やっつけ仕事などという感じは毛頭なく、その身軽な完成度には爽快感さえ覚える素晴らしさです。

ゲルギエフ盤「くるみ割り人形」PHILIPS 462 114-2 ストラヴィンスキー:春の祭典/三楽章の交響曲_SRCR-2705
 タメてみせたり 余分に緩めてみせるところなど皆無で、とにかくフレーズとフレーズのつなぎ目が 無駄なくドンドン切り替わるし、何よりリズムがシャープなので、それは ゲルギエフ / キーロフの 「くるみ割り人形 」(PHILIPS )とか サロネン / フィルハーモニアの「春の祭典 」(Sony旧盤のほう )にも匹敵する呼吸と言ったら、わかる人には わかって頂けるでしょうか、 あるいは コンチェルト・ケルンバッハとか イル・ジャルディーノ・アルモニコによる ヴィヴァルディなどの アンサンブル精度の高い 先鋭的な古楽団体による 演奏姿勢まで 連想してしまいます。

 もとい、それでいて マーラーらしい大爆発にも欠けることなく、大太鼓とシンバルが炸裂した後、爆風で 粉々に吹き飛ばされた欠片(かけら )が トライアングルの音になって きらきらと散り舞うありさまなど申し分ないです。 好き/嫌い には個人差があるでしょうが、もし機会があれば ぜひ一度 ご体験ください。

 では、いよいよ「交響的前奏曲 Symphonisches Prealudium ハ短調 」 を聴くことに - あ、でも その前に、問題の楽曲が発見された経緯を Wikipediaの記事から引用(以下 青字個所。 一部 発起人の加筆あり ) させて頂きましょう。

 -  交響的前奏曲ハ短調 Symphonisches Präludium C-Moll は、近年のブルックナー学者によって、ブルックナーの作品に準じて論じられることがある(厳密には、作品完成までの過程の一部がブルックナーに依る可能性があるという程度の関係であり、定説には至っていない )。 以下の前半の説明は、ブルックナー学者のベンヤミン = グンナー・コールスが2006年に論じた内容に基づく。

 この作品は、作曲家ハインリヒ・チュピック Heinrich Tschuppik( ? ~ 1950 )が、叔父 ルドルフ・クルシシャノスキー Rudolf Krzyzanowski (1862~1911 )の遺品の中から 1946年前後に発見したものである。この手書き譜面は43頁からなる管弦楽スコアになっており、表紙には「Rudolf Krzyzanowski cop.1876 」、最終ページには「von Bruckner 」と記してあった。
 この曲は早速、1948年にミュンヘン・フィルによって初演されたが、ブルックナーの作品とみなすべきかどうかは結論が出なかった。チュピックは当時、複数のブルックナー学者と接触し、ノヴァークにも意見を求めていたが、チュピック自身が1950年に没したことから、存在が顧みられない状態が続いた。
 ノヴァークも検証や出版をせぬまま1991年に没している。

 その後、ヴォルフガング・ヒルトルWolfgang Hiltl が この作品にまつわる諸資料を再研究した。彼は 以下のような推測を下した
  元々、ブルックナーが管弦楽法の練習のために書いたスコアの断章があり、クルシシャノスキーがブルックナーよりそれを譲り受け、補作し 完成させたものであろう - と。
 2002年、上記の説とともに ドブリンガー社から出版されたが、現在に至るまで 殆ど演奏される機会はない。曲のスタイル自体は、展開のスタイルなどから、晩年のブルックナーのものではないかとの指摘もなされている。

ブルックナー
アントン・ブルックナー

 一方、チュピックが接触した音楽家の中には、クルシシャノスキーマーラーの関係(二人ともブルックナーの弟子であり、第3交響曲のピアノ編曲を共同で作成した縁がある )から、これを「マーラーの習作ではないか 」との推測を下す者がいた (氏名は特定されず )。 そのような意見と共に眠っていた資料を マーラー学者ポール・バンクス Paul Banks が再発見し、この曲を「マーラーの習作 」として広く紹介した (但し これはオーケストレーションが、前記チュピックの発見した当初の 手書き譜面とは 全く異なってしまっているため注意が必要。バンクスが再発見した資料には4段の総譜スケッチしかなかったため、アルベルト・グエルシング Albert Guersching が 「マーラー風に 」管弦楽法を補作したためである )。1992年に ロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団ネーメ・ヤルヴィの指揮で シャンドス・レーベルに録音したのは この版によるものである。

 さらに、以下は 別の資料(シコルスキー社のスコア )に基づく意見と思われる。
 交響的前奏曲ハ短調 Symphonisches Präludium C-Moll が マーラーの作品であるとすれば、それは1876年の作と推測される。 発見後、ハンブルクのシコルスキー社より出版された。 初演は1981年3月19日、ベルリン・フィルハーモニーザール、ローレンス・フォスター指揮 / ベルリン放送交響楽団(西側 )。
 この曲は、たしかにブルックナー風の繰り返しが多いが、マーラー初期の作品においてもブルックナーから影響を受けたと思われる 同じような模倣があり、オーケストレーションにハープを頻繁に使うのは ブルックナーよりもマーラーのほうが その頻度は高い。また強弱の使い方やフレージングは マーラーの作風に近い。半音階や弦の語法は 「嘆きの歌 」 や 「第一交響曲 」など若い頃の世界に最も近い。
 以上、 引用部分の出典は  こちら ⇒ Wikipedia


 「グスタフ・マーラー 全作品解説事典 」(長木誠司・著、立風書房 )によれば、1970年代にオーストリア国立図書館で発見された この作品の楽譜は、ところどころにオーケストラの楽器指定が書き込まれたピアノ譜(クルシシャノフスキーによる浄書譜から甥ハインリヒ・チュピックが作成したピアノ編曲譜 )であり、そこに 「おそらくこの作品はブルックナーによるものであろう 」ということも書かれていたそうです。
 しかし 同じ楽譜のページの下のほうには、これもどうかと思いますが、今度は 誰が書いたものか特定できないボールペンによる筆跡で 「この作品は マーラーが試験に提出したものかも知れない 」 などという書き込みもあり、おかげで ここからマーラー研究家たちの議論が始まってしまいました。

Donald Mitchell
ドナルド・ミッチェル Donald Mitchell は、この時期のブルックナーの作風にしては 作品が稚拙であることを指摘、その頃のブルックナーの弟子、あるいはその周辺にいた3人、すなわち ルドルフ・クルシシャノスキー、ハンス・ロット、グスタフ・マーラーの名を挙げ、その中では「マーラーの可能性が高い 」と推測したそうです。

Rudolf Krzyzanowski Hans Rott Der junge Komponist Gustav Mahler_スケルツォ倶楽部
(左から )ルドルフ・クルシシャノスキー、ハンス・ロット、グスタフ・マーラー

 ミッチェルは、学生時代のマーラー(16歳頃 )による最初期の習作ピアノ四重奏曲断章 イ短調 における主題の強調の仕方が この作品に似ていることや カンタータ「嘆きの歌 」における楽想の対比の仕方を この作品が予示していることなどを挙げ、そこから様式上の共通性を読み取ったのだそうです。
マーラー (未発表曲 )ピアノ四重奏曲 マーラー「嘆きの歌 」ブ―レーズ旧盤(Sony )
(左 ) クレメラータ・ムジカ (D.G.)盤 ピアノ四重奏曲
(右 ) ブーレーズ (CBS-Sony )盤 「嘆きの歌


 ・・・なるほど。
 Wikiの文章だけ読み比べてみると、なんか無理にでも 「マーラー作 」と いうことにしたがっているかのようにみえる シコルスキー社のスコアに基づく意見や 同じく ドナルド・ミッチェルの見解の根拠は、私 “ スケルツォ倶楽部発起人には 今ひとつ 説得力が弱いように思えます。
 逆に 優勢に感じられるのは、この曲の 「作品完成までの過程の一部が ブルックナーによる可能性がある 」 という見解 - さらに、このほうが 今日(こんにち )のドイツでも 主流を占める意見なのだとか。
 それでも 百聞は「一聴に 」如かず です -  とにかく 自分の耳で聴いてみることにしましょう。 その前に もう一度 繰り返しますが、オーケストラ用に総譜を編曲したアルベルト・グエルシング が、管弦楽を 意図的に 「マーラー風に 」 着色している という情報は 考慮すべき条件です、その分は よくよく割引いて聴かなければなりません。


♪ 交響的前奏曲ハ短調 Symphonisches Präludium C-Moll
 
 楽器編成
 弦5部、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、
 ホルン4、トランペット2、トロンボーン2、チューバ、ティンパニ、シンバル、ハープ

 前奏なしで いきなり チェロが ハ短調の第1主題をピアニッシモで開始します。その背景では ヴィオラが 旋回するようなオスティナートを塗り重ね、テーマを歌い上げるチェロを支えています。 もし 冒頭すぐにテーマを提示させず 二小節ほど 弦の反復音型をおいてからスタートさせていたら (いわゆるブルックナー開始 )、さらにブルックナー色は濃くなっていたでしょうね。
 この主題自体は さほどマーラーっぽくない・・・ 誰が聴いても これがマーラーの旋律だとは 共感しないでしょう。 あ、でも学生時代の習作として 知られる「ピアノ四重奏曲 」の旋律になら 似ていなくもないかな。 この後「嘆きの歌 」や「第1交響曲 」で ようやく 自分自身のオリジナルな旋律創作が 民謡調の親しみやすいメロディにあることを自覚する以前のマーラーであれば、こんな渋いメロディをテーマに選ぶこともあったのではないか - などと 考えられなくもありません (って、二重否定の肯定文です )。

 やがて フォルティッシモで ホルンとトロンボーンによる信号風の動機が提示、弦による 吹き荒れる嵐のような動きが徐々に治まると 音楽は変ニ長調に移調、弦のトレモロと ティンパニが小さくリズムを刻むのをバックに オーボエ、フルート、クラリネットに次々と引き継がれ、やがてホルンの美しい経過句、ここぞというところで 一瞬ぽろろんと鳴るハープ、この辺りのオーケストレーションは 後の「嘆きの歌 」の「森のメルヘン 」を思わせるような・・・ 美しいですね。 ああ、もしかしたら やっぱり これって マーラーの曲だったのかも  -  なーんて、アルベルト・グエルシングの 巧みな 「マーラー風 」 オーケストレーション技術(偽装 ? ) のおかげで 私たちみんな 見事にダマされてしまいそうです(笑 )。

 やがて弦のトレモロは徐々に深くなり、気づくと一瞬で勇壮な金管が戻ってきてます。再びハ短調、ここら辺りから再現部でしょうか。徐々に暗雲が厚くなってくる様子を弦のクレッシェンドが表現します、やがてトロンボーンに先導される力強いフガートな動き がスタート。カッコ良い ! 金管と弦が巧みに綾をなす 複雑に絡み合うパートは 「第2交響曲 『復活 』 第1楽章( 調性も - ハ短調 - 同じだ ) を 思わせなくもない、なかなか強烈な響きと音圧。 
 クライマックスではシンバルが炸裂、その後 一瞬で弦のトレモロにより静まります、その まるで潮が引くように訪れる静寂、その効果は感動的なほど。ああ、これって やっぱりブルックナーっぽいかな、マーラーの作風のストックには この種の技法は 殆ど聞かれない気がします。 
  ドナルド・ミッチェル は 「この時期のブルックナーの作風にしては 作品が稚拙 」などと指摘しているそうですが、この短さで これだけ簡潔にまとめられる構成力は 並々ならぬもので、少なくとも 私 “スケルツォ倶楽部発起人 の耳には 決して「稚拙 」とは聴こえませんでした。
 ティンパニのG音が激しく強烈にとどろく中、管弦楽は力を取り戻し、主調であるハ短調で壮大に そして 決然と 終わりを告げるのでした。

(3)「生きててよかった! 」
 さて、今回 謎に満ちた この「交響的前奏曲 」を じっくりと聴かせて頂いた結果、 私 “スケルツォ倶楽部発起人は、やはり ヴォルフガング・ヒルトル が見立てた推測に 同意する方向へ かなり傾いていることを感じています。 すなわち この曲は 「元々、ブルックナーが用意していたスコアの断章を、クルシシャノスキーが譲り受けて 補作し、完成させたもの 」 であろう という着地点に。

 楽譜の発見者であるチュピックの叔父 ルドルフ・クルシシャノスキーは、音楽院の学生時代に マーラーフーゴ・ヴォルフと三人で下宿を共にしていたという間柄でした。 クルシシャノスキーマーラーとの共同作業で 当時の彼らの師ブルックナー第3交響曲四手ピアノ用に編曲したことによっても知られていますが、後には ヴァイマール宮廷楽長職を務めることになります。
 ところで、アルマによって 後に著された 「マーラー伝 」 には、この当時のエピソードのひとつとして、マーラー、クルシシャノスキー、ヴォルフ という三人の若きルームメイトたちが ある晩 泥酔して下宿に帰った挙句、そこで 「神々の黄昏 」のブリュンヒルデ、グンター、ハーゲン による 「復讐の三重唱 」を ご機嫌で絶唱したので、これに激怒した大家のおかみさんに雷を落とされたという(笑 ) 抱腹絶倒な挿話が書かれていましたよね。  私 “スケルツォ倶楽部発起人 的には、はたして 誰が どのパートを歌っていたんだろ ? っていうところが 興味津々です。
Rudolf Krzyzanowski Der junge Komponist Gustav Mahler_スケルツォ倶楽部 Hugo Wolf
(左から )クルシシャノスキー、マーラー、フーゴ・ヴォルフ
 
 はあー、それにしても この小文を書くため、今週 「交響的前奏曲 」を 少なくとも 50回以上は繰り返し聴き続けた結果 ヤルヴィ / ロイヤル・スコティッシュの熱演に すっかり情が移ってしまい、もはや これがマーラーの曲だろうが ブルックナーの曲だろうが クルシシャノスキーのだろうが あるいは他の誰かの作曲だろうが もうかまわないや という心境に 今、なっています(笑 )。 とにかく この音楽の若々しい魅力にマイってしまった “スケルツォ倶楽部発起人です。 これを聴くことができて、本当に幸せでした。 では また。



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