スケルツォ倶楽部
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親知らずを抜歯後の療養中、
鶴我裕子さん のエッセイを読んでいたら
無性に グレン・グールド が聴きたくなってしまった。

グールド ブラームス 間奏曲集_0002 バイオリニストに花束を(中央公論新社 )

 こんにちは、“スケルツォ倶楽部”発起人です。
 体調のせいで、今回は 徒然(つれづれ )なるまま とりとめのない語りになる気がしますが(笑 ) ご容赦ください。 
 と、申しますのは つい一昨日のこと。 右下の奥歯 - いわゆる「親知らず 」 - を ようやく抜歯してもらったところなのですが、うーむ、頬の片側など ひどく腫れ上がって まるでフグのよう、術後二日経とうというのに まだかなり熱を持って 強く鼓動を打っています。だいぶ深く掘られたようだから それも仕方ないな・・・ と、そんな痛みを押さえながら、今 この文章を打っているところです。
 なにしろ 私のは「水平埋伏知歯 」という手強い野郎で、正常であれば下顎の下から上に生えるべき歯が 歯茎の中で 完全に真横へ伸びている状態で埋まっているというもの。しかも その歯根は 神経に隣接している上、下顎骨に癒着しており、骨と歯のくっついているところを折る必要もあるという・・・ こうなると 専門性の高い大学病院の口腔外科でないと引き受けてもらえませんでした。
埋伏抜歯の手順

▲ イラスト 西村歯科さんのサイト より 拝借。

 歯茎をメスで深く切開してから 埋まっている親知らずめを 小さな電動ドリルで砕きながら抜き取るという、それは一時間以上も要する施術でしたが、口の中でドリルが「チュウィーン 」という軽い音とともに唸りを上げる度に まるで髪の毛が焦げるような香りがしてくるし、数回に分けて歯を折る瞬間に感じる衝撃とともにはっきりと聞こえる ぱきっという音、大口を開き続けなければならぬために徐々に重く感じてくる顎の疲労、もし万一 麻酔が効いていなかったと想像してみたら、はい 間違いなく 治療椅子の上で 気が狂っていたと思います。
 しかし 人によっては こんな 「親知らず 」が 一生涯 生えてこないケースもあるそうで、このヒドイ苦しみを知らずに過ごせるとしたら、いやー、アナタ それ、本当にラッキーですよ。

 さて、そんなわけで 自宅の寝室で、ひとり大人しく静養です。さすがに家内もそっとしておいてくれるらしい。そう、こんな時には もちろん音楽です。買ったきり CD棚に並べたまま 忘れて未聴のディスクを今こそ じっくり聴くことにしましょう。わくわく。
 えーと、何にしようかなー。
 そうだ、ゲルギエフムソルグスキー 歌劇「ボリス・ゴドゥノフ 」(Philips ) - 1869年版1872年版 という 2バージョンの聴き比べができる全曲盤あたりはどうだろう、これって 買ってきたはいいけど 実はまだ 一度も聴いてないんだよね。
ムソルグスキー:歌劇「ボリス・ゴドゥノフ 」(1869年 & 1872年版 )

 しかし、さすがにちょっと 重たいかなあ・・・ そうそう、ロッシーニの歌劇「シンデレラ 」全曲(アバド、D.G. )盤ならどうだろ。大好きなレナート・カペッキが脇役で出演していたことに気づいて 衝動買いしたんだけど、これもまだ未聴だったんだよなあ。
テレサ・ベルガンサ、クラウディオ・アバド~ロッシーニ:歌劇《チェネレントラ》全曲

 いやいや、未聴のD.G.盤なら アナトール・ウゴルスキのピアノ・ソロで メシアンの「鳥のカタログ 」全曲盤、60ページ以上の解説を読みながらCD 3枚組を 淡々と聴くような機会なんか、これこそ まさに今しかないのではなかろうか。
メシアン 鳥のカタログ_ウゴルスキ_DG

 ・・・でも 結局、コレに決めたのでした。

ドヴォルザーク:交響曲全集_スプラフォン(コロムビア COCQ-83697~703 ) ドヴォルザーク Dvorak
ドヴォルザーク:交響曲全集
ヴァーツラフ・ノイマン指揮
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
 交響曲第1番 ハ短調「ズロニツェの鐘 」
 交響曲第2番 変ロ長調、交響曲第3番 変ホ長調
 交響曲第4番 ニ短調、交響曲第5番 ヘ長調
 交響曲第6番 ニ長調、交響曲第7番 ニ短調
 交響曲第8番 ト長調、交響曲第9番 ホ短調「新世界より 」
併録曲:交響的変奏曲、ノットゥルノ、スケルツォ・カプリチオーソ
録 音:1968~73年 プラハ、芸術家の家
音 盤:スプラフォン(コロムビア COCQ-83697~703 )

 スメタナ四重奏団の初代メンバーだったノイマンは チェコ・フィルのヴィオラ奏者も兼ねており、1947年にクーベリックの代役でチャンスをつかんでから指揮者に転進。以後、途中10数年の空白期間はあったものの、チェコ・フィルとは 実に半世紀に及ぶ関係を築き上げることになります。
 そんな彼らの最も優れたレコーディングのひとつに数えられるのが、このドヴォルザーク交響曲(最初の )全集です。この全集録音のスタートは1968年ですが、その年は ソ連軍や東ドイツ軍などでつくられたワルシャワ条約機構軍によるプラハ侵攻の年でもあり、ノイマンがライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の首席指揮者とライプツィヒ歌劇場の音楽監督の地位を投げ打ってチェコ・フィルの仕事に専念することになった年でもありました。
困難な時期を共に過ごす緊張感の表われか、演奏の密度は非常に高く、微細な素材に至るまできちんと陰影の付いたスラヴ的な表現は、黄金時代のチェコ・フィルならではの世界です。ホールの良さもあって音質もかなり良好な状態なのも嬉しいところ。
(以上、青字部分 HMVの解説より引用させて頂きました )

 では第1交響曲から。 所々シューベルト交響曲大ハ長調終楽章とか )に その作風が、また 途中 初期ワーグナーオーケストレーション( 歌劇「リエンツィ 」のコラール主題にそっくりなフレーズが第4楽章に出てくる )を思わせる 「ズロニツェの鐘 」を聴きながら、しかし 何気なく 本棚から抜いて読みだした一冊のほうが 俄然おもしろくなって止まらなくなってしまい、その本の中で言及されていた ディスクのほうを優先、あっさりと取り替えてしまいました。 ああ、せっかく ドヴォルザーク交響曲を 全曲制覇するつもりだったのに・・・ どうも スミマセン、ドヴォ教授(礼 )

ドヴォルザークを挫折した きっかけになった一冊とは、こちらです。
バイオリニストは肩が凝る ― 鶴我裕子のN響日記(アルク出版企画 )
「バイオリニストは肩が凝る ― 鶴我裕子のN響日記 」
鶴我裕子 / 著 (アルク出版企画 )


 その 注目の部分を 少し 引用させて頂くことを どうかお許しください。
 
― バッハの「有 」伴奏バイオリン・ソナタって、6曲もあるのに、私はひとつも弾いたことがない。「えーっ、プロなのに 」とのけぞっては いけません。このバイオリン・パートを弾いている、ハイメ・ラレードという人をも、私はぜーんぜん知らないのだ。石もて追うならどうぞ。
 グレン・グールドなら知っている。「録音しかない男 」で有名だった。

(中略 )
― グールドと共演できる人間像とはズバリ、さだまさしの「関白宣言 」をクリアできる人だ。

♪  お前と録音する前に / 言っておきたいことがある
   かなりきびしい話もするが / 俺の本音を 聞いておけ
   俺より先に出てはいけない / 俺より後に残ってもいけない
   トリルは上手にやれ / いつもきれいな音を出せ
   できる範囲でかまわないから
   忘れてくれるな / 仕事もできない男に
   売り上げを伸ばせるはずなど ないってことを
   お前には お前にしか できないこともあるから 
   それ以外は口出しせず / 黙って 俺についてこい

 ピアノ伴奏のほうが100% 我を通す、しかも前もって奇妙キテレツなスタイルを固めていて、変更の可能性はまったくない、となると「よくやるよ 」と感心してしまう。
 しかしラレードの演奏には、苦しんだあとは見られない。グールドと ウマが合ったのだろうか。「あなた色に染めてちょうだい 」のタイプなのか。ガイジンには珍しいことである。なんでも、この組み合わせは、グールドのほうで乗り気だったという。「ラレードを尊敬している 」と言ったそうだ。めでたしめでたし。
 ハイメ・ラレードは、59年のエリザベート・コンクールの優勝者なのだから、立派なものだ。同じ一位でも、堀米ゆず子とグールドがスタジオにこもって、血を見ずに出て来るとは思えないが。彼は何度も来日しているそうだが、ちっとも知らなかった。次の機会には行ってみたい。
 この2人のアンサンブルは、「合う 」ということを第一に考えるならば、完璧だ。逆に「丁々発止 」をアンサンブルのだいご味と思う人には、まったくおもしろくない。2者は対等ではなく、主と従にハッキリ分かれているからだ。しかし日本人は 古来、このスタイルを理想的と考えてきたのではないか。即興性がなく2人の間になんのトラブルも発生していないので、安心して聴いていられる。曲は申し分なく、テンポは安定して、演奏は達者なので、ちょうど健康食品のようだ。おいしいってわけじゃないが、体によい、と。
 さて、書くとなれば、弾いてみなければ。フメンは、いつかのバーゲンで買ってあります。
 いやぁ、さすがは大バッハ、いい仕事してますねぇ。そのブランドを知らなくても、軽く試着してみただけで、仕立ての良さと素材のすばらしさが、たちどころにわかるのと同じように、曲も、弾けばすぐに素性がわかるものだ。これは、どこをとっても、たとえ一部を切り取っても、すばらしい。そのうえ、弾けば弾くほど、自分の調子もよくなるという、名曲の証拠を持っている。
 それから数日後、譜読みはできたので、CDをかけて一緒に弾いてみる(譜読み、いうのは、とりあえず楽譜の通りに音が出せるようになることで、ゲイジツ的に完成しているわけではない )。ピッチは正常のようだ。いざ自分が弾き出すと、ヴァイオリンのラレードの音はまったく聴こえなくなるので、グールドと共演しているのと同じことになる。CDだから、ときどき間違ってもジロリとにらまれることもなく(グールドは、セッションのあいだ、一度もミスタッチをしなかったそうだ )、落ちてもラレードが正しく弾いてくれるので、実に具合がよい。 
 そうなのだ、これは、上等のマイナス・ワンとしても使えるのだ。ただし、聴いているときより一緒に弾いたほうが、グールドのアクの強さをビシビシ感じる。「おまえの好きにはさせんぞ 」、「ホレ、そうくると思った。オレのやり方はこうだ、2度言わせるなよ 」と、日本語で言われているような気がする。気がつくと、自分もトリルをガタガタと遅くして、グールドに合わせているのだ。あーこわ。

(以下略、「バイオリニストは肩が凝る 」 から 「マイ・フェイヴァリット 」より )

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 いかがですか。臨場感あふれる こんな名文を読んで、グールドラレードの演奏とはどんなだろう、すぐに聴いてみたいなあと、そそられない人など いないでしょう。
 かく言う 私 “スケルツォ倶楽部”発起人 も さっそく 自分のCD棚から グールドのセットを引っぱり出した というわけなのでした。
Johann Sebastian Bach (1685 - 1750) グールド = ラレード J.S.バッハ ヴァイオリン・ソナタ (CBS )
バッハ:ヴァイオリン・ソナタ全集
CD-1
 第1番 ロ短調 BWV 1014
 第2番 イ長調 BWV 1015
 第3番 ホ長調 BWV 1016
CD-2
 第4番 ハ短調 BWV 1017
 第5番 ヘ短調 BWV 1018
 第6番 ト長調 BWV 1019
グレン・グールド(ピアノ ) 
ハイメ・ラレード(ヴァイオリン )
録 音:1975年11月、1976年1月 トロント、イートンズ・オーディトリアム
音 盤:CBS / SONY


 「N響の向田邦子 」とも呼ばれた 鶴我裕子さん、つい数年前までNHK交響楽団の現役第一ヴァイオリン奏者でした。長年コンサートのパンフレットや 音楽雑誌などに その飛び切りの文才を生かしたエッセイを寄稿されてきました。一度お読みになれば すぐわかりますが、その内容も独特の文体も 非常に楽しく、わかる人には ホント すぐ惹きつけられてしまうと思います。
 オーケストラの楽団員としての舞台裏が話題の中心になりますが、さすがN響ライトナー、スウィトナー、サヴァリッシュ、ホルスト・シュタイン、ブロムシュテット、ヴァント、マタチッチ、プレヴィン、スヴェトラーノフ、ゲルギエフ といった大指揮者の他、メニューヒン、アシュケナージ、ポリーニ、パールマン、イヴリー・ギトリス、ギドン・クレーメル鶴我さんとは同年同月同日生まれとのこと )、ヨーヨー・マなどなど、そのウィットに富んだ文章によって 饒舌に語られるエピソードは 掛け値なしの素晴らしさ。女史の生い立ち、独自の切り口で詳説される「裕子の音楽語事典 」や 名曲のお話など、楽しさのあまり アッという間に 時間は飛び去ります。

 グールド = ラレードバッハ、この中でも とりわけ 第3番 ホ長調 BWV 1016 第2楽章の 明るく 旋回する アレグロフーガ主題が、さっきから 私の頭の中を 離れなくなってしまいました。
J.S.バッハ ヴァイオリン・ソナタ第3番ホ長調 第2楽章のテーマ
 ・・・ さて、それでは今宵は もう一度 この 「3番 」を 通して聴いてから、ロキソニン飲んで 早寝することといたします。
 おやすみなさい !

グールド = ラレード、バッハ

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コメント

ヴァイオリン じゃない! バイオリン って・・・

木曽のあばら屋さま、お久しぶりです。
お見舞いのお言葉を どうもありがとうございます。

さて、木曽のあばら屋さまも 鶴我さんのエッセイに注目されてる同好の士のひとりであると知って、やはりという思いで 嬉しさもいっぱいです。
ご指摘の件、そう思って読み返してみると・・・ ベートーヴェン、サヴァリッシュ、インヴェンション、ヴュータン、ヴィオッティ・・・ おお、たしかに ヴァイオリンだけが 「バイオリン 」だ !  あばら屋さまの鋭い視点。
おそらく鶴我さんご自身が弾く楽器であるという 時別な愛情をこめた こだわりの表記と思われますが、この点について 女史が直接 触れている文章は みつけられませんでした。 真意を知りたいものですね。

URL | “スケルツォ倶楽部” 発起人 ID:-

NoTitle

こんにちは。
親知らず、御大事に。
私も依然抜いたときは2日ほど寝込みました。

鶴我さんのエッセイ、私も大ファンです。
「バイオリニストは肩が凝る」はいまは
「バイオリニストは目が赤い」と改題されて新潮文庫から出ていますね。
「鶴我さんの新刊が文庫で!」と本屋で手に取ったもの、
改題しただけと気づいたときはがっかりして肩が膝まで落ちました。

ところで鶴我さんは必ず「バイオリン」と表記され、「ヴァイオリン」とは書きません。
何かこだわりがあるのでしょうか・・・?

URL | 木曽のあばら屋 ID:GHYvW2h6[ 編集 ]

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