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スケルツォ倶楽部”発起人/作 オリジナル・ストーリー
「サンタクロース物語 ~ It’s A Small World ~  」
この物語は、2010年11月30日から同年12月25日に投稿しました、
“スケルツォ倶楽部”発起人.作 の オリジナル連載小説に 手を加えたものです。

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(14)ふたりの「イエス 」

 エルサレム中心部にある ピラト総督管理下の牢獄へ ニコラウスとともに移送されたイヴリーが、そこで30年前ヘロデの近衛隊に逮捕されて以来、ずーっと別れたままだった息子イエス・バラバと 牢内で奇跡的に再会したことによって、バプテスマのヨハネの予言がまたひとつ的中しました。
 ユダヤ解放の活動をしてきた政治犯イエス・バラバは、幼い頃から母エリサベトに いつも父の思い出と一緒に聞かされてきた「親切な旅人」が、今や真っ白いひげに覆われたニコラウスその人であることを知らされると、重ねて礼を述べながら 感激を深めて言いました、
「ああ、冥土のみやげに 親父と再会できて 本当に良かった、まるで夢のようだ 」。
「冥土のみやげとは聞き捨てならねえな、イエスよ。今 会えたばかりなのに 随分と不吉なことを言うじゃねえか 」
と、思わずイヴリーは 息子の言葉尻をとらえます。ニコラウスも その真意を尋ねました。
 バラバは周囲の政治活動の仲間らとゆっくりと目配せを交わすと、これに答えました、
「実は、僕と仲間たちは 今日・明日にも反逆者として十字架刑に処せられる運命なんだ。この監獄は そんなに長く囚人を養うことはしないんだよ。ローマ人に敵意を抱いている僕らのような政治犯は、処刑が申し渡される場では 皆すべて“強盗”とか、“人殺し”という不名誉な烙印を勝手に押されて、ゴルゴダ行きと相場が決まっているんだ。そして死刑執行の呼び出しの声は いつ掛かってもおかしくないんだ 」。
それは父イヴリーにとって、衝撃的な情報でした。
「そんな・・・ せっかく30年ぶりに会えたというのに。オレは決して許さねえぞ。一体どこの誰がてめえの息子を見殺しに出来るかって言うんだ。そうだ、オレがお前の身代わりになるよ、それがダメなら ひと暴れしてみせる 」
すると牢の外に立つ番兵が イヴリーの言葉を聞き咎め、鉄格子の隙間も通り抜けるような細い槍を構えながら、鋭く牢内に注意しました。
「そこの老人、軽率なことを言うなよ。独居房へ移りたいのか 」
息子のバラバ本人からも、
「親父、気持ちはとてもうれしいけれど、他の奴らにも迷惑がかかるよ。頼むから、おとなしくしていてくれよ 」
と、拝まれるので 不承不承イヴリーは床に座り込みました。

この人を見よ
 その時、建物の裏側から ウワーッ という群衆が大声を上げる音が 地鳴りのように響いてきました。
「あの騒ぎは何だろう 」
と 気にするニコラウスに、バラバが説明を始めました。
「ここの牢屋に隣接している裁判所に集まった群衆の声だと思います。親父はもちろん、きっとニコラウスさんも知らないでしょうが、今 ここエルサレムでは たまたま私と同じ名前の - イエスという - ナザレの預言者の話題で もちきりなんですよ 」
 ― いや、私は知っているよ・・・と、ニコラウスは 心の中で思いました。そうか、あの方は ここエルサレムに、われわれの こんなにも近くに いらっしゃったのか・・・。
 しかし イエス・バラバの次の言葉に、老ニコラウスは 心臓を掴(つか)まれました。
「その預言者の裁判が 今朝早くから あそこで 行なわれているんです - 」
鉄格子の窓からは決して見えない、総督が裁判の判決を言い渡す広場の方角を 遠くに眺めながら、バラバは 話し続けます。
「 - 彼を支持する民衆の人気たるや それは凄いものでした。実際に数々の奇跡を行なっていたのは間違いなさそうですが、説教の内容 ― というか、その語り口がおもしろかったらしいんですよ。私は聴いたことないですけどね、でも聖書に約束されている救世主キリストの到来とは、まさに彼のことだ なんて信じる者も大勢いました。でも 彼は、ローマの不当な支配からユダヤ民族を解放してくれる - モーセやダビデのような - 力強い引率型の指導者とは どうやら違ったようで 」
バラバの同志のひとりが声をあげます、
「それは、ユダヤ解放戦線を張っている我々とも 考え方を異にする、ということか 」
それには また別の同志が 返事しました、
「そのようだ、だから ローマからの解放を期待していた層ばかりか、逆に保守的な律法学者、圧政者とのいらぬ摩擦を嫌う神殿の司祭の一部からも、あいつはユダヤの救世主なんかじゃない、偽物じゃないか、という違和感の声が上がり始めていたと聞く 」
その時、再び 裏手から群衆の わーっ という叫び声が上がりました。方角は、確かに裁判の判決が下される 法廷の広場からのようでした。
バラバのニコラウスへの説明が 続きます。
「詳しくは知らないんですけど 顔見知りの看守からの情報によると、そのナザレのイエスっていう預言者は、きょう未明 エルサレム郊外で逮捕されたそうです。何でもインチキが発覚して信用失墜し、従っていた弟子たちにも裏切られて その一人から神殿に突き出されたっていう情けない話ですよ。あの騒ぎは、おそらく彼の裁判が佳境に入ったところじゃないかと思いますね 」
ニコラウスは 心の中で叫んでいました、そんなこと あるはずがない、絶対にあるわけがない、それは何かの間違いだろう - 。
 イヴリーが 息子バラバに尋ねていました。
「ところで、いつもこんなに朝早くから エルサレムでは 裁判をやるのかい? 」
「確かにめずらしいことだ。でも三日後には過越しの祭が始まるから、その前に 面倒なことは済ませてしまいたいんじゃないかと思うな 」

 裁判所から走ってくる足音が 獄舎の石段を駆けあがってきました。伝令のローマ兵が大声を上げるのが聞こえました。
「総督ピラト閣下から直々の命令を伝える。 大至急 “強盗” で“人殺し” のイエス・バラバを 裁判所へ引き出すべし! 」
息子の呼び出しを聞いて、イヴリーは 悲しみで顔をくしゃくしゃにしました。
「イエスよ! こんなに早く別れの時が来ようとは - 」
「さようなら 親父、最期に会えて本当にうれしかった。天の配剤だったと思う 」
バラバ親子は 固く抱き合いました。
「ニコラウスさんも どうかご無事で。皆も 頑張って耐え忍べよ 」
一同は、イヴリーの息子 イエス・バラバが 二人のローマ兵に両側を支えられながら 監獄の門を出てゆくのを、鉄格子の並んだ窓から じっと見つめました。

▶ つづく

- 解説 ―


1.イエス・バラバ - どなたもご存知のとおり、聖書では バラバは 政治犯などではなく 「人殺しの盗人 」として投獄されている囚人で、キリスト・イエスの代わりに恩赦を受け、釈放されることになります。福音書によれば ユダヤの過越し記念祭の度、慣例となっていた罪人恩赦の際、ローマ総督ポンテオ・ピラトが 「許すのは バラバかキリスト・イエスか 」の選択を民衆に迫ったものの、保守的な祭司たちに唆(そそのか )された群集は、バラバの赦免キリスト・イエスの処刑を要求、総督ピラトキリスト処刑の責任とその重大な結果から 自分自身を免責するかのように、集まった民衆の前で手を洗ってみせ、その上で不本意ながら民衆の多数決に従って「盗賊 」バラバのほうを釈放する - というものです。

2.Wikipedia に とても興味深い記述をみつけました。以下の文章(緑字 )は 引用です。
・・・バラバは 新共同訳聖書では「バラバ・イエス」(マタイ伝27章:16~17節 )と呼ばれているので、キリストと同じ「イエス 」という名前であったことになる。バラバという名前はアラム語で「父の子 」を意味する「バル・アッバス 」ではないかとも言われる。
一方 イエス・キリストは 神に対し「アッバ、父よ 」(マルコ伝14章:36節 )と言って祈りを捧げている。 そうすると「バラバ・イエス 」とは、「父の子イエス 」、「神の子イエス 」という意味にも解釈することも出来、実は「バラバは、イエス・キリストと同一人物なのではないか 」との疑問さえ出されている。 この名前の奇妙さはさまざまな議論の種となっている。

出典は ▶ こちら  

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